スケール3-2 ペンデュラム召喚
「城前兄ちゃんもすごいじゃん!初めて見たのに、わかったんでしょ、遊矢兄ちゃんのペンデュラム召喚!すっごいデュエルだったよ!」


「お、サンキュー!まーな、これでもデュエル歴は長いんだ」


「どれくらい?」


「聞いて驚け、20周年!」


「えーっ、嘘だー!城前兄ちゃん、そんなおっきくないでしょ!?」


「嘘は言ってないぜ、嘘はな!」


デュエルした時はEM魔術師だと踏んでいた城前にとっては、初動がすべてだった。手札が悪ければ即サレンダーが安定と言われるライトロードである。第9期の環境にいるEM魔術師と違って中堅レベルの地力しかないライトロードに、事故率が高いライトレイとカオスモンスターを積んだお遊びデッキで挑むにはそれだけのプレイングが要求されるということだ。遊矢のデッキから繰り出されるオッドアイズ達に思わず変な声が出てしまったが、驚いてる暇などない。墓地にネクロガードナーを落とす、手札にトラゴーズを握る、ペンデュラムゾーンを割る、一気に勝負を決める。いずれかを同時進行でしなければ即死する。まさに背水の陣だったのである。ペンデュラム召喚の事前の知識がなければ、初動でここまで動けるわけがないだろう。


でも、城前は尊敬のまなざしを向ける少年に、バカ正直に真相を告げるほど純粋な心は持っていないので、いい顔をする。悪い大人に騙された少年は、必要のない憧れを胸に抱きつつ、モニタを注視する。


オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン
レベル5
ペンデュラムスケール1
ATK1200 DEF2400


オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン
レベル3
ペンデュラムスケール8
ATK1200 DEF600


遊矢の手にはキラキラ光るペンデュラムモンスターがあった。


「すっげえ、カードまで見えるんだな」


「何度見てもかっこいー!あれがペンデュラムモンスターなんだね!かっこいいドラゴンばっかでいいなあ!」


「いーや、まだ分かんねえぞ、魔術師とか動物たちがいるかもしれねーし」


「そうなの?」


「デュエルの途中までしか出来なかったからなー、遊矢のデッキがオッドアイズなのか、混合デッキなのかわかんねえんだよな。くっそー」


ミラージュ・ドラゴンとペルソナ・ドラゴンのステータスとスケールは、それぞれ時読みと星読みと同じである。捨てきれない関連性に城前の口元はにやけている。遊矢というキャラクターはもともと多くの謎を内包している主人公だった。方向性は違うとはいえ、それを見せつけられて期待しない方が難しい。


「なんでダーク・リベリオンとイラスト似てんだよ、気になるなあ、おい」


「え?あ、ほんとだ!やっぱりあのお兄ちゃんと遊矢にいちゃんは、仲良しなんだね!」


「あはは、そーだな、仲良しさんだ」


この世界のデュエルディスクはカードのテキストを忠実に再現する仕様だ。だから一定の基準を満たしたカードのテキストならば、勝手にフィールドに新たにカードゾーンを出現させてしまうことだってできてしまう。高性能を逆手に取られた形である。遊矢がレオ・コーポレーションのソリッドビジョンとデュエルディスクを愛用するのはそれが理由だろう、ペンデュラムゾーンなるものを創造できるのはこれだけだから。城前のデュエルディスクもワンキル館がレオ・コーポレーションと共同開発するなかで生まれたプロトタイプを第1回大会で使ってから愛用しているので、最低限ながらその機能は備わっている。だからこそ城前は1年前にやらかしたのだ。


「ボクもペンデュラム召喚やってみたい!」


「だめだって、あれは遊矢だけのデッキだろ」


「でもでも、ボクも一気にモンスター出してみたいよ!」


「なんでも出せる訳じゃないだろ」


「分かってるよ!あのスケールの間のレベルのモンスターじゃないとダメなんだよね!あ、そういえば、城前兄ちゃんのあのドラゴンは出せるの?!」


「あー、混沌帝龍のことか?」


「そうそれ!」


城前が最期に相応しい、と大量展開した遊矢のフィールドと手札を一瞬で吹き飛ばした豪快な効果が印象に残っているのだろう。墓地に行ったことで効果を発揮するモンスターを蘇生させ、シンクロにつないだ辺りからデュエルは一気に白熱したから。城前からすればこうでもしなければ大量展開に対応できないのだ、勘弁してくれという話である。たった4000しかないのに1000のライフを支払うのは痛すぎるし、少しでもダメージを通すと対抗手段がなくなる。遊矢が専用の蘇生魔法を使った時には知ってた、と言わざるを得なかったが、一時しのぎにはまった。城前は残念でしたと笑った。


「混沌帝龍は墓地の光闇を除外しないと特殊召喚できねえから、無理なんだ。まあ、ゴーズは出せるんだけど」


「そうなの!?あの、カッコいいモンスター?」


「そう、おれを救ってくれた恩人な。トークンだせねえけど。おっと、そろそろ来るぞ、少年」


城前は少年に人差し指をあてた。少年はうなずいてモニタを見る。


「Don`t miss our duel! It`s SHOW TIME!! Here we go!!」


流暢な英語がフィールドを席巻する。デュエルフィールドを書き換えたのか、アクションフィールド全体に3つの閃光が走る。PENDULUMという言葉が遊矢のデュエルディスクに点灯した。


ペルソナ・ドラゴンとミラージュ・ドラゴンのホログラムが現れ、左右の光の柱に出現する。その間から不思議なデザインの振り子のホログラムが現れた。ぴしいとひびが入る。


「揺れろ運命の振り子!迫りくる時を刻み未来と過去を行きかえ!ペンデュラム召喚、現れろ、オッドアイズ・ファントム・ドラゴン!」


知らない口上。オリジナルのペンデュラムモンスター。この世界の遊矢のエースがふたたび城前たちの前に現れた。あまりに意味深な言葉の羅列。そして、遊矢がペンデュラム召喚をするたびに運命の振り子と呼ばれるホログラムが現れる。砕け散った先からモンスターが召喚される演出はあまりにも意味深だ。これをみるたびになんだか嫌な予感がしてしまうのは、なぜだろう。


「今回はファントム・ドラゴンだけか。複数のモンスターを手札とエクストラから並べるのがおもしれえのに。まあ、エクストラはしかたねえけど」


「なんで1回しかできないの?」


「何度も出来たらぶっ壊れどころじゃねーだろ、いい加減にしろ!条件整ったら何度も使えるんだから当たり前だろ!何度も大量展開されたらおれが死ぬわ!」


「えー、うそだー。城前兄ちゃん、ぜんぶ防いでたじゃん!大丈夫だよ、きっと!」


「嬉しいこといってくれるな、このやろー」


少年をくすぐる城前は半分冷や汗である。裁きの龍や混沌帝龍で吹き飛ばすたびに削れていくライフポイントの恐怖と戦いながらの勝負だったのだ。


アクションカードで攻撃力を上昇させたファントム・ドラゴンがエレボスを粉砕する。そして、ペンデュラムゾーンのモンスターの攻撃力分のダメージを与えるというバーン効果が勝負を決めた。遊戯王の初戦はアドバンス召喚と決まっているが、もしかして今回がそれなのか、とふと思う。いやいや、遊矢がペンデュラムを使いこなしているから、だいぶん話は進んでいるだろう、と考え直した。初戦早々ワンショットキルとはワンキル館の人間としてはなかなか見どころがあるプレイングのデュエリストである。エンタメデュエルはやはりアニメでもこの次元でもワンキル、物理で殴る、それが証明された瞬間である。


城前はアークミカエルの効果がなければ死んでいたことを思い出す。鉄壁のお時間に身震いである。まだミラージュ・ドラゴンとペルソナ・ドラゴンのペンデュラム効果を把握してないのだ。今度再戦する時までには対策を考えなければ。


やったー!遊矢兄ちゃんのかちー!と歓声が上がる。タッチ、タッチ、とハイタッチを要求してくる少年に応じて城前はぱちんと軽快な音を立てた。いえーい、と笑っていると、つかつかと歩み寄る靴の音。顔をあげると黒咲がいた。


「そろそろ席に戻れ。これからお前たちをレオ・コーポレーションに輸送する。シートベルトを閉めろ」


「えっ、お前は遊矢たち捕まえなくていいのか?」


「……馬鹿にしているのか?お前たちを連れていく方が優先だ」


「はあ?いや、別に馬鹿にしてなんかねえけど?ファントムを捕まえるための特殊部隊なんだろ?ただの一般人捕まえといてそりゃねーよ」


「ふん、一般人だと?お前のような一般人がいてたまるか。お前の所属がどこか思い出してから言うんだな」


「あー、なるほど、そういうことか。だってよ、少年。そろそろ席に戻ろうぜ」


「うん、わかった」


ピンマイクに手を当てる黒咲が運転席に向かって引き返す。


赤馬からペンデュラムを説明されてないのに、城前と少年が知っていた。しかも実況解説とは名ばかりの盛り上がりをみせていた。はたから見ればなんでこんなやつらが知ってるんだ、と苛立ってもおかしくないし、バツが悪いのだろう。もともとレオ・コーポレーションとワンキル館は犬猿なのだ。黒咲からの扱いが悪くてもなんとなく察することができるというものだ。遠ざかるモニタからは素良と沢渡がファントムを無理やりつかまえようとしているのが見えた。突然煙のように消えてしまうのが見える。あの煙に乗じて変装して逃げる気だな、常套手段だ、と城前は思った。


ヘリは大きく旋回してどんどん遠ざかる。大きな紙飛行機が見えて、いよいよもって高校生怪盗にしか見えなくなった城前は苦笑いした。


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