番外編3 ハロウィンの怪
アークファイブにおいて。ライディング・デュエルやライディング・コースターの系譜であるオリジナルデュエルといえば、アクション・デュエルがあげられるだろう。デュエリストが実体化したモンスターにのったり、モンスターを利用してフィールドを駆け回るのが特徴であり、フィールドにはアクションカードという特殊なカードが存在し、それを利用することができるショーの側面が強いデュエルだ。


ライディングデュエル・アクセラレーションのようなお馴染みの口上と言えば、城前にとっては、やはりあの長すぎる口上だった。この世界に流れ着く前に、たんなるイベントだと思って参加したアクション・デュエルにおいて、たんなる悪乗りで口走ったアニメでお馴染みの口上は、いつのまにかあのデュエル以降、参加者たちによって広まり、すっかり定着してしまった。トップバッターのデュエリストが口走ったことで、アクション・デュエルをあまり知らない次の人がやらなきゃいけないと勘違いしたらしい。次の人もそういうものだと思ってしまったようで、気付けば第1回大会以降、ワンキル館で行われる大会ではあの口上を言うのがすっかりお約束になってしまった。


別の大会に参加した時は、普通にデュエルで始まった時の衝撃と言ったらなかった。実は、こっちの世界だとそういう文化は無いのだ、と知った時の羞恥心は崩れ落ちるほどであり、取り返しがつかないくらい定着してしまったのをみると、もはやどうにでもなーれ状態である。


ワンキル館に雇われている広告塔として、城前のお仕事は月1の大会で挑戦者とデュエルすることなのだ。そうして、今回も城前は、ワンキル館主催の大会におけるエキシビジョンマッチにおいて、スポットを浴びる中登場する。観客の湧き上がる歓声はまんざらでもない。もともと目立つのが好きでなければ、あんな悪乗りしない。始まってしまえばデュエルに集中するだけでいい。終われば羞恥に打ちのめされるだけで、すべてが終わっている。


「さあ、今回の挑戦者は誰だ!」


城前がそう宣言した時、デュエルディスクにハッキングされたデータが書き換えられているというコード表示が並ぶ。ぎょっとした城前は二度見した。どこかで見たことがある表示である。アクションデュエルが終わるまで出られない。アクションカードをとれなかったらペナルティ。どこかで見たことがある条件である。まさかまさかと予定外の暗転に動揺するスタッフ。単なる演出だと呑気にしている大観衆。スポットライトの中心で、城前はまっすぐ前を見ていた。


スポットライトが当たる。観客の声が聞こえない。スタッフの声も聞こえない。気付けばフィールドは今まで見たことがないフィールドに書き換わっている。ひとりぼっちになってしまった城前の真正面には、今回参加するはずのデュエリストではない誰かがそこにいる。


「あははっ、結構魅せてくれるじゃん。ワンキル館の大会って結構面白いんだな!たまにはこういうのも悪くはないよな。エンタメデュエルの伝道師、榊遊矢ただいま参上!」


ウインクをして現れた白いローブの少年は、城前を見上げてどこか楽しそうに笑う。城前は冷や汗が浮かぶ。どうみてもハッキングされた上に二重で展開されたフィールドに閉じ込められてしまっている。


「なんでここにいるんだよ、遊矢!」

「なんでって、デュエルしに来たんだよ。そういうイベントだろ?」

「帰れ!」

「なんでだよ、いいだろ別に。せっかく城前が面白い格好でデュエルするって聞いたから、観に行ったら我慢できなくなってさ!」

「今すぐ帰れよ、ファントム!」

「えー、いいのかよ。キャラ壊れてるぞ?」

「呼ばれざる客に愛想よくするほどおれは暇じゃないんだよ!」


城前の心はひとつだった。大げさすぎるジェスチャーで促すが、遊矢はやだねとばかりに首を振る。ユートとアクションデュエルをしたくせに、約束をしていた遊矢とのアクションデュエルの仕切り直しを持ち越したのが、よっぽどムカついたらしい。だからって逃げ出せない大事な仕事中に乱入してくるとか、新しすぎる嫌がらせである。館長が中止を宣言すれば無かったことにできるが、ファントムが痕跡を残して撤退するとは思えない。レオ・コーポレーションと犬猿の仲のワンキル館が話題沸騰のファントム乱入なんてメディアが飛び付きそうな出来事を理由に中止するわけがない。この姿を見られてしまった以上、もう後戻りはできない。生かして返さん、必ず仕留める。城前の眼から光が消えた。


「開闢の使者は光と共に!終焉の使者は闇と共に!光と闇が出会う時、世界は混沌に包まれる!長き牢獄より解き放たれし混沌を征す者により、デュエルはふたたびカオスフィールドへ!」


1年間言い続けたお馴染みの前口上は、もう素面で言えるレベルである。


「挑戦者の前に不届き者が紛れ込んだようだな、まあいい。遊んでやるよ、来い、ファントム……いや、榊遊矢。これがデュエルモンスターズだということを教えてやるよ。お前らがやってるお遊戯とは違うんだってことをなあっ!!」


ノーリミット大会なら遠慮なくエラッタ前のカオスで戦えたのに残念だ。城前はガチより構築なカオスデッキをデュエルディスクにセットした。よりによってオペラ座の怪人のコスプレをしてる時に乱入してくるとか、お前はおれを憤死させたいのかと心の底で絶叫しつつ、城前は笑う。


「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが」


初めて城前とデュエルした時、遊矢は城前が言った口上が気に入ったのだ。なのにユートに言ってくれ、とお願いしたのに無視された。そのうえアクションデュエルを先に越された。またハッキングしようにもワンキル館はここの所イベント続きで、騒がしい。城前しかいなくて人がいない時が見つけられない。とうとう我慢できなくなったが故の強行だった。意気揚々と声を重ねる。


「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!」


殺す、絶対に殺す、生かして返さん、と殺意の波動に目覚めている城前に気付いているのかいないのか、いつになくやる気な城前に遊矢は満足そうだ。


「見よ、これぞ、デュエルの最強進化形、アクション」

「「デュエル!!」」










毎月第4金曜日の閉館時間17時を過ぎると、デュエルモンスターズ史料館はあわただしくなる。月に1度の史料館主催の非公認デュエル大会が行われるためである。公認ショップやレオ・コーポレーション傘下の施設は、新しい商品が発売されるたびに開催されるイベントが、商品発売日の週の土日に変更された。もちろんワンキル館もその変更にしたがい、新商品購入のレシートを見せれば参加できる月1イベントは、不定期の開催となった。しかし、あくまでも私営の民間の博物館である。もともと恒例化していた、毎月恒例の定期イベントをなくしてしまうのも惜しむ参加者の声もあり、それ目当てで訪れる来場者によって潤っている部分もあるため、結果的に月に2度大型のイベントが行われることになった。公認ショップは月に2度新商品が発売されれば、そのどちらかにイベントを行うことが告知されるのだが、オーナーの意向によりワンキル館では発売された週の土日も行われる。定期イベントと重なれば、前後の週にずらされることになった。そうして、気付けば毎週土日はワンキル館大会の日、なんていうこともざらな日程が組まれるようになってしまったのだった。


新規に始めたばかりの貸館業務を成立させるには、いかに大型イベントを呼び込み、定期的に使ってもらうかにかかっている。イベントは増えることはあれど減ることはないだろう。大事な宣伝も兼ねるためスタッフは増員されたが、それでも新しいスタッフを募集する張り紙は掲示されたままだ。通常業務のあとに追加される業務の山に半泣きで忙殺されているのを見ていると、さすがに城前も雑用や補助的な仕事にとどまるが、手伝わざるをえない。高校生という身分の都合上、深夜のアルバイトは出来ないことになっているため、案内業務が終わればもっぱら城前が任されるのは便利屋業務だった。


その最盛期が本日金曜日なのである。事前申し込みの最終日だけあって、パソコン入力だけでも未入力が山のようになっている。スタッフさんに差し入れの栄養ドリンクを置き、会場設営の最終調整に勤しむ業者さんに呼ばれて、案内をかって出る。あちこちに奔走する。お礼を言われたら、すぐに立ち去る。ブースはいくつもあるのだ。


初心者向けのデュエリストミーティング。これはデッキを持っていない初心者向けの講座をデュエル塾の講師を招いて開催してもらう出張イベントである。専用ブースが設けられる。事前の申し込みが必須である。講師はどうやって呼んでいるのか知らないが、どうやら館長のツテのようだ。事前の打ち合わせをしたいとやってきた男性に声を掛けられ、館長の居場所を聞かれた城前は何度目になるか分からない内線をかける。さいわいすぐにつかまったので、講師の代理人に居場所を伝えて案内する。館長は近くの小学生向けブースにいた。


小学生向けのイベントがあるのも家族で来てほしいオーナーの意向だという。ワンキル館にくるだけで、カード入りのスリーブが5種類から好きなものが選べてもらえる。友達を連れてくるだけでもう1パック貰える。あとは特殊召喚のデッキを体験するイベントに参加すれば、デッキを組めるオリジナルパックが無料でもらえる。これは海外で販売されている、パックを購入するだけでメインとエキストラがすべてそろうというオリジナルパックをリスペクトしたものなのだが、意外と好評らしい。館長が男性と雑談を始めたので、城前はその場を離れた。アクションデュエルの会場に顔を出したかったからだ。




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