「おれのデッキの組み方?そんなの聞いてどうするんだよ」
「ボクもデュエルモンスターズを始めたいんだけど、デッキの作り方が分からないんだ。だから、どうしたらいいのかなって思って」
「おー、そうなのか、おめでとう!今日からお前もデュエリストってわけだ、歓迎するぜ!しっかしなあ、そんなの人によるだろ。おれの真似したって、なあ?うーん、正直おれのデッキの組み方はお手本に出来るようなもんじゃねーし、近所のデュエル塾がやってる初心者講座受けてこいよ。なんなら、おれがよく行くショップに行って、初心者向けのイベントで教えてもらうか?」
「えー、城前兄ちゃんは教えてくれないの?ボクも遊矢兄ちゃんや城前兄ちゃんみたいに強くなりたい!」
「さんきゅー。でもなー、強くなりたいならなおさら、おれは教えてやれねえわ。結構自己流で覚えたし、早く強くなりたいなら、ちゃんとした人に教えてもらった方がいいと思うぜ?」
「城前兄ちゃんには先生はいなかったの?」
「いねえよ、そんなの。だから言ったろ、自己流だって」
「先生いないのに、どうやってデッキをつくったの?」
「そりゃ、あれだよ。ネットに転がってる大会で優勝したデッキのレシピを見て、組んでみるんだ」
「えーっ、それって強いに決まってるじゃん」
「強いデッキを組むのに、理解する必要はねえよ。好きなデュエリストが使ってるデッキとか、すげーって思ったコンボを真似してみるとか、おれの場合は真似するところから始めたんだ。いわゆるなりきりデッキってやつだよ」
「でも、そんなの、城前兄ちゃんのデッキじゃないよね?」
「そう思うか?」
「うん」
「おれはそうは思わねえよ。デッキを組んで、なんども使い込んでいくうちに、絶対におれのプレイングにデッキがよっていくからな。デュエリストの人柄ってやつがデッキから顔を覗かせるんだ。気付いたら最初に組んだデッキと全然違ってた、なんてよくある話だしな。まあ、おれみたいにデッキにこだわりがないやつがデッキを組むときは、そういう方法もあるってことだ。な?正直、人に勧められる方法じゃないんだよ。おれが始めた時と違って、MAIAMI市にはデュエルモンスターズを学べる場所がたくさんあるんだから、利用しない手はないだろ?最初に学んでからデッキを作った方が、早く強くなれると思うぜ」
「そっかあ、うん、わかった。ありがとう、城前兄ちゃん」
「おう、どういたしまして。で、どうすんだ?デュエル塾にでもいってみっか?それとも、ショップの定員さんに教えてもらう?なんなら、初心者向けのイベントやってないか聞いてみようか?」
「いいの?」
「いーぜ、それくらい。大会のついでにやってることも多いからさ、一緒にいこうぜ」
「うん!」
やったー、と喜んでいる少年に、さーて、ついたぞ、と城前は扉を向いた。
「ここ?」
「そうそう、ここがうちのアクションデュエルができる施設なんだ」
「すごーい?!」
「せっかくだから、こいよ、ほら」
「え、いいの?」
「大丈夫大丈夫、館長には許可もらってるからさ。迎え来るの××時なんだろ?まだまだ時間あるしな、ほら」
少年をステージに引き上げた城前は、ジュニア用のデュエルディスクを差し出した。デュエルモンスターズのカードプールの変遷が展示されている館にて、食い入るように見ていたテーマ群から、簡単なギミックだけ入れた初心者向けのデッキである。パネルを操作してバトルフィールドを設定する。
「アクションデュエルはまだ早いから、スタンダードなデュエルからやってみようぜ」
「ありがとう、城前兄ちゃん!」
「よーし、それじゃ、いくか」
「うん!」
そして、お迎えがきた少年は、帰っていった。
「城前君、そろそろ会場を閉めてきてくれるかい?」
「はーい、りょうかいっす」
少年の相手をするため、特別に開いていた5号館の警備員さんに言われた城前は、事務室の館長から鍵を借りる。メインシステムの施錠はスタッフしか行えないことになっているのだ。本来ならアルバイトである城前が扱えない鍵のはずなのだが、今日は水曜日、そもそも閉館日である。スタッフがいるわけがない。そうなると事務室にいるのは城前と館長だけだ。暗黙の了解である。巡回する警備員さんに会釈して、城前は会場に入った。
併設されている設備を点検し、電源を落とす。5号館が消灯されていく。警備システムが作動し、監視カメラ等が起動する。カードキーを入れなければ不法侵入としてただちに警備員に通報されることになっている。防犯システムが正常に働いていることを確認しながら、アクションデュエルのメインステージにやってきた城前は、思わず足を止めた。真っ暗な世界が広がっていたからだ。いつもなら非常灯が光源となっているのに、なにもない。暗幕がさがったメインステージでは、巡回する警備員と施錠するスタッフのために非常灯が点灯する仕組みになっている。故障だろうか。懐中電灯片手に周囲を見渡した城前は、いつもなら光の道になってくれるエリアを辿る。やがてプレイヤーが待機するエリアに辿り着いた。やはりどの系統も完全に機能を停止している。少年とデュエルした時は特に故障は見当たらなかったのに、だ。へんだなあ、と首をかしげている城前は、上空から降ってきた声に思わず顔を上げる。
「バトル・フィールドをセッティング。フィールド魔法、≪闇晦ましの城≫を発動します。≪闇晦ましの城≫には2つの効果があります。ひとつめは、このカードがフィールド上に存在する限り、アクション・カードを使用することができます。アクション・カードは1ターンに1度しか使用することができません。ふたつめは、このカードはこのカード以外の効果を受けません」
アクション・フィールドが展開される。足元に巨大な石造りの魔法陣が出現し、四角い幾重もの柱が内側の曲線の壁から中央に向かって伸び、まるで車輪のような形状となる。回転し始めたはるか後方から上空に向かって円柱の柱がすさまじい轟音と共に伸びる。やがてその円柱を中心に石造りの城が形成された。足場がものすごい勢いで構成されていく。気付けば石造りの城壁が迫るフィールドに城前はいた。振り返ればたちこめる暗雲に似た靄に阻まれ全貌が望めない城がある。どうやらこの靄はあの城から発生しているようで、闇が濃くなっていく。全てのものを覆い隠してしまいそうなフィールドである。城前はデュエルディスクにデッキをセットした。向かいのエリアに人影が見えたからだ。
「うちのフィールド魔法に≪闇晦ましの城≫なんて懐かしいカードあるわけねえだろ。どこのファントムだよ、ハッキングしやがったのは」
「私だといったらどうする?城前」
「えっ、嘘だろ、なんでだよ、遊矢じゃないのか!?てっきりこのあいだのデュエルの仕切り直しと思ってたのによ」
「たしかにさっきから変われとうるさいが、今回城前に用があるのは私も同じだ。まだ、名乗っていなかったな。私はユートだ。あらためてよろしく」
「おう、よろしくな、ユート。おれは城前克己だ、よろしくな。ところで用ってなんだよ?わざわざうちに不法侵入するなんて、よっぽどだろ?」
「ああ、すまない。私達は追われている身だからな、こうでもしないとまた迷惑を掛けてしまう」
「まあ、それはいいけどよ。で、用って何だよ、ユート。不法侵入だけじゃなく、ハッキングしてアクション・フィールド起動させて、わざわざ閉じ込めるような真似して、そんなに大事な話なのか?」
「ああ、たしかにこのアクション・フィールドはあの時の設定を拝借して書き換えさせてもらったものだ。このデュエルが終わらない限り、このアクション・フィールドから出られない。あの時と同じ条件だ。私の用は簡単だ、城前。私とデュエルしろ」
「えっ、いいけど。むしろ大歓迎なんだけど、なんでだよ!?おれ、なんかしたか?」
「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンを真正面から見たいと言ったのはお前だろう?」
「……なんでそれを」
「なぜアイツがモニタ用のカメラを把握できて、私にはできないと思った?」
城前はようやく悟る。どうやらファントムは、ほかの観客の反応をすべて把握していたらしい。
「私が手札事故を起こして、デッキを回せないような未熟なデュエリストかどうか、確認したらどうだ」
「ちょっと待て、なんか勘違いしてないか、ユート。おれはそういうつもりでいったわけじゃ……」
「沢渡はデッキの解説からプレイングまで言及したのに、私の方がおざなりだったのは気のせいだとでもいうのか?」
「ちょっとまて、丸聞こえじゃねーか!まさか沢渡たちにも聞こえてたとか?」
「そのまさかだ。聞こえてないと思ってたのか、城前」
「まじかっ……!ごめん、ユート」
「覚悟してもらおうか、城前。デュエルだ」
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