スケール2−3 ファントムVS沢渡

「先行と後攻ってどっちがいいの?」

「普通は先行だけど、デッキによるぜ。後攻のが有利なやつもあるしな」


アニメの沢渡の帝デッキは後攻安定だったが、モニタ越しに選択したのは先行である。この時点で城前が知るデッキではない。もちろん帝デッキではない可能性もあるが、冥帝従騎エイドスが召喚された時点で、先行をとるのは必然となった。


「やっぱ帝か」

「帝ってどんなデッキなの?」

「強力な効果を持ってるモンスターをアドバンス召喚して、フィールドを制圧するデッキだよ。モンスターをどかして殴るのは、デュエルの基本だろ?シンプルだからな、単純に強いんだ。でも手札事故が起こりやすいから、その戦いでもある。デュエルモンスターズ最初のテーマデッキだからな、歴史はなげえよ」

「そうなんだ」

「でも、家臣軸だしなあ」

「家臣軸?」

「高いレベルのモンスターを召喚するには、別のモンスターを墓地に送らないといけないんだ。リリースっていうんだけどな、家臣軸は帝専用のリリースモンスターが入ってるんだ。どいつも帝をサポートする効果をもってるから、どかそうとしても守られちまう。そのかわり、準備ができるまでの最初の動きが遅いんだ。それまでに先手を打てればいいけど、先行取られちまったし、どうするか」

「大丈夫かな、ファントムのお兄ちゃん」

「あいつのデッキ次第だけど、多分エレボス、アイテール入ってんだろ、これ。地の利はあっちだし、普通に考えたらかなり不利だよな」

「え、ま、負けちゃうの?捕まっちゃうの、ファントムのお兄ちゃん」

「まだまだデュエルは始まったばっかだろ、こんなとこで終わるようなやつじゃねえはずだ。見守ってようぜ」

「う、うん」


沢渡のターンが進行する。アクション・デュエルにおいては、モンスターで相手の進行を妨害するのが有効な手段である。そういったセオリーを織り交ぜつつ、説明する。なんとなく、今までアクション・デュエルをみていたらしい小学生は、実況解説付きのテレビ中継を見ている気分のようで、だいぶんリラックスしてきたようだ。大型モンスターが登場したことで、小学生のテンションがあがる。



見たことのない帝カードを召喚した沢渡に、城前は思わず見いる。帝はいつから北斗の拳から指輪物語にシフトしたんだろうか。それとも、帝デッキなのは勘違いで、この次元オリジナルの指輪物語ネタのデッキを使うんだろうか。解らないことだらけだが、胸が高鳴るのは事実である。遊矢のペンデュラム召喚対策なら、初動が遅い帝の弱点を補うために、自分が得意なフィールドを用意して、あたりのアクション・カードを把握したうえで、コンボをするのは戦略的に見たら効果的だが、はたから見たらずるいにも程がある。何度もファントムに逃げられてるから躍起になってる気がしてならない城前である。もしかして、遊矢が騒動を起こすたびにデュエルして、ユートにチェンジして逃亡してたんだろうか。それなら、アクションデュエル担当は遊矢な気がするんだが、大丈夫か、ユート。



アクション・カードの効果で2000ものバーンが決まると、小学生の悲鳴が上がった。やっぱりユートびいきである。帝のモンスターはかっこいいが、遊矢とユートびいきの小学生は、ずるーい、と怒っている。がんばれ、ファントムのお兄ちゃん、という声援はよく響く。黒咲はデュエルを静観する方向のようで、特に反応はしめさない。任務には忠実な方らしい。やがてユートのターンになる。


「幻影騎士団、カッコいいね!」

「だなあ!おれの知ってるやつは、皮とか布のアクセサリーがモチーフだから、シーフって感じなんだけどさ、今のところ、金属製のアクセサリーがモチーフっぽいし、ほんとにナイトって感じでかっけえ!」

「そうなの?!」

「そうだよ!」

「ファントムのお兄ちゃんって、どんなデッキなのかな?」

「うーん、まだなんともいえねえなー。罠モンスターが固まってたのか?」


伏せられるカードが多い。罠モンスター多めなのはアニメと同じコンセプトデッキかもしれないが、それ故に先行をとられた影響が響いているように見える。腕の中で小学生がファントムに声援を送る。ユートは2枚の罠モンスターを特殊召喚した。やはり魔法モンスターは許されなかった。アニメの魔法モンスターが罠モンスターに書き換えられたからか、ユートの召喚するモンスターはいずれも罠モンスターである。



罠特化のビートなのか、手札事故なのか、まだなんともいえなかった。アニメのユートは手札事故疑惑があるからなあ、こっちのユートはどうだろう。城前は食い入るようにモニタを見る。罠モンスター多めのエクシーズデッキにしろ、罠ビートにしろ、ペンデュラム主体の遊矢のデッキとのシナジー要素が皆無である。二人はデッキを共通しているわけではなく、完全な別デッキを使用しているようだ。これは入れ替わったらデッキの扱いはどうなるんだろう。デュエルディスクにも干渉できるなら、遊矢はいよいよソリッドビジョンに自由に干渉できる疑惑が浮上するんだが。頭の中でぐるぐるしていた思考が、小学生の歓声で浮上する。


「すごい、かっこいい!だ、ダーク・りべ、えーっと」

「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンな」

「そう、それ!かっこいいドラゴンだね!」

「だよなあ!あーくっそ、おれも真ん前でダリべみてえ!いいなあ、沢渡!羨ましいぞ、おれと代われ!」


アニメとだいぶんユートのおかれている境遇がちがったから、ダリべの口上が違うんじゃないか、という淡い期待は破られた。どうせなら違う口上でもよかったのに、ジャックと遊星でスタダの口上が違うみたいに。でも、アニメとおなじように、本家本元のデュエリストがエースモンスターを召喚するのは、テンションが上がるものである。おなじみの口上、おなじみのモンスター。そしてそれにさっそうと飛び乗るユート。かっけえ、と言わざるを得ない。反逆なんとかーと叫んでいる小学生に思わず笑ってしまう。ちがうだろー、と身内デュエルをするたびに召喚口上を言い合った手前、そらでもいえる口上を披露すると、小学生は目を輝かせた。あとで教えてとせがまれる。おうもちろん。レベル4エクシーズ枠に入り続ける汎用エクシーズ、使用率はけた違いだったのだ、こちらの世界のユートのエースは城前もなじみ深いOCG版なのである。盛り上がりは最高潮だった。



「ずるいよ、城前兄ちゃん!ボクもダリべ近くで見たい!」

「あははっ、お前は無理だろ、まだデッキ持ってないんだから!」

「むー、そうだけど!城前兄ちゃんの意地悪!」

「あっはっは、悔しかったら、デュエルモンスターズ始めようぜ、少年よ!今日から君も楽しくデュエル!なんちゃって。やっぱエクシーズ軸か。罠ビートじゃねーな、これ。レベル4の闇戦士で固めてんのかわかんねえけど、キーがまだ引けてねえな」

「そうなの?」

「たぶんな」

「でも、もう200しかないよ、ファントムのお兄ちゃん」

「大丈夫、大丈夫。一流の決闘者なら、ここから逆転すんのがお約束だ。見てろよ、少年。これがデュエルモンスターズだ」


沢渡にはエレボスと伏せ1枚。ユートはフィールドがら空き。ユートのターンが回ってくる。結構ボロボロな格好だが、ユートは立ち上がった。いや、あれは。ヘリの中に動揺が広がる。白いマントが翻る。


「あ、遊矢兄ちゃんだ!」


小学生の歓声が響いた。


『お待たせしましたね!』


ぱちん、とウインクを決めた遊矢がカメラ目線で笑う。こいつ、アクション・フィールドに設置されてるモニタがどこにあるか把握してやがる、と城前は直感した。出てきたのも沢渡相手ならエンタメデュエルが出来そうな気配を嗅ぎつけたからに違いない。いや、はじめからデュエルしようとして、ユートに止められてただけなのか。ユートが疲労困憊になったから、出てきただけなのか。それはわからないが、遊矢はモニタ越しに見ているであろう多くの観客相手に送れて登場するヒーローのごとく、おいしい所を掻っ攫っていった。


『おーい、城前、少年、みてるかー?お楽しみは、これからだ!』

「遊矢兄ちゃん、がんばれー!」


無邪気にはしゃぐ小学生につられて、思わず城前も破顔した。


(こいつ、おれが捕まってるのわかってやがる!しかもユートにおれ達がつかまるかもしれないこと、黙ってやがったっ!!絶対、観客増やすためだろ、てめえっ!!)


言いたいことは山ほどあるが、さっきからみなぎる殺気が突き刺さるんですが、どうしたらいいですか。いろいろ考えた結果、デュエルの観戦に集中することにしたのだった。


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