「佐藤ねえ。何センチよ、お前」
「んー、こないだの身体測定だと204センチだったよ」
「マジでなんでバレーしなかったわけ?てめーの親父はオリンピック代表だったんだろ?」
「よく言われるけど興味ないからしかたない。トスの練習するよりドリブルの練習のが楽しかったし」
「春休みでそれとか低次元にも程があんだろ、バスケ舐めてんのかてめー」
バスケバカを公言するつもりはないがさすがに小中とやってきたスポーツを始めようとしている初心者のあまりにもあんまりな自主練について聞かされるとつっこまざるを得なくなる灰崎である。らしくねえなと舌打ちしつつ、同級生のくせにザキさんザキさんとついて回る佐藤に毒気を抜かれてしまう。
この明らかに貴重なスポーツ推薦枠を潰していると思われる男は小中と野球のキャプテンをつとめていたがその身体能力を見込まれてスカウトされたようだ。バスケ部がない学校ではよくある話である。この高校も全国大会常連とはいえ灰崎のように小学校からのバスケ経験者ばかりとれるわけではないのだ。学校には枠が存在する。
「にしたってなんでこんなにオレに懐いてんだお前?ザキさんってなんだよ、どっかの芸人か」
「灰崎っていいづらい」
「ここに16年間灰崎で生きてきた奴がいるんですけどー?」
不気味でたまらない。せめて女マネージャーだったらよかったものを。ひきつる灰崎を佐藤が気にしたことなど一度もない。それどころか暴力沙汰と戦力外通告から退部となり、ろくに活躍しなかった灰崎にあこがれてるとか抜かすのだ。
「ザキさんに憧れてねえ?キセキの世代もろくに知らねえ時点でバスケに興味ねえのまるわかりじゃねえか。もっとまともな嘘つけよ」
にわかにも程がある。鼻で笑った灰崎に佐藤はしれっとしたものだ。
「あんだけ堂々とサボり宣言は逆にすげーよ」
「つーかくんなよ」
「ザキさんもサボってるじゃん」
「オレはいいんだよ。基礎練すらバテバテなお前とは立場が違うんだからなあ」
「うっ、だからNBAの動画とかみて必死に自主練してるじゃないか」
「黙れど素人。てめーは俺にとやかく言える立場じゃねえんだよ」
「だってまさか寮生活がこんなにキツイとは思わなかったんだよ」
「奇遇だなあ、佐藤くんよ。そればっかりは同感だぜ。で?次の脱走計画は順調かあ?」
「今度こそ抜かりはないよ、ザキさん!僕は健全な高校生だ、土日くらい自由になるべきだ」
「よくいった!さすがは佐藤だぜ、よくわかってるじゃねーか!地元のくせに寮に入るとかホントにバカじゃねーのかお前」
「うるさい、ここ以外に行くとこなかったんだよ!一般入試できるほど学力つけるくらいなら野球するわ!」
「どっからも野球の推薦なかったくせによく言うぜ」
げらげら笑いながら灰崎はバスケコートを見つめる。
「つーかてめーはどうみてもセンター望まれてるじゃねえか、リバウンドあたり練習した方がいいんじゃねえの?」
「え、太れって?」
「それくらいググれよど素人」