灰崎は朝からテンションが低かった。佐藤が付いて回るせいでサボっても石田部長にすぐばれてしまうのだ。初心者とペアを組まされるだけでもテンションがだだ下がりだというのに周りは勝手にセット扱いしてくるのである。
「だーかーらー!てめーはまず体づくりからなってねえんだよ!部活だけでレギュラー取れると思ってんのか!」
今日も灰崎の檄が飛ぶ。
「204センチもあんだからてめーはセンター目指せ、センター!ゴール下で点を取ることと、リバウンドの練習しろ。オフェンスリバウンド取って、点を決めたら会場も沸くだろうし、チームにも勢いがつくからな」
「どんな練習すればいいですか、せんせー!」
「逆サイドの動きとか、スクリーンのかけ方とかちゃんとできるようにしろ。練習動画を撮って先輩やオレの動き見て勉強しろ。一年からレギュラーなんてオレくらいしかできねーんだからな、勘違いすんなよ」
「わかってるよそれくらい」
「ほんとかあ?にしては口の利き方がなってねえぞ、佐藤」
「いだだだだ」
「だからリバウンドってのは仲間や相手がリングに向かってシュートしたときに外れたボールを取る事を言うんだよ。ただ手を伸ばしてジャンプをしても簡単に取れるもんじゃねえ」
ゴール下のフリースローレーンがある長方形はアウトだから『相手を長方形の外へ追い出す』ことが大切だと灰崎はいう。
「シュートが放たれたら素早くターンをし相手を背中部分に密着させ動きを封じる。素早くボールを視野に入れる。ボールに対して身体の前面を向けている。リバウンドを取りやすい好位置を取る。これを「相手を台形の外へ追い出す」ことと同時にしなきゃいけねえんだよ」
「ザキさんわかりません」
「わかんなくていい、できなきゃ意味ねえからやれ」
「はい」
「他にもボックスアウトと同じようにシュートが放たれたら素早く相手に密着させリバウンドを取ろうとする動きを封じる事も大事だ。素早く相手に密着させ動きを封じることで、自分がリバウンドを取るための好位置をキープする事が重要になる」
「コツは?」
「しっかり1歩相手に近づいてからターン。腕で相手を押さえつけない。上半身を前傾させない。背部に密着させる。強引に押し出さない。ボールに対しておヘソを正面に向ける。1歩相手に踏み寄らないと「隙間」が出来てできなくなるぞ」
「なるほど」
「わかってねえだろ、やるんだよ」
「は、はい」
「今日も熱心だな灰崎」
「あ、部長」
「ちっ」
佐藤はニコニコしながらリバウンドの練習を始めた。
「入ったー!入ったよザキさん!」
「なんだよその手」
「えっ、ハイタッチ」
「誰がするか」