アナザーリンク3
「そうだ、マコト。お前、友達にお礼いっとけよ」

「え?」

「たしか、藤木、藤木遊作だったかな。お前と同じ学校の制服をきてたから学校の友達だろ?お前がアナザーになったとき、救急車呼んでくれたのはそいつらしい」

「藤木遊作?」


マコトは不思議そうに首を傾げた。誰だっけ?


「ん、違うのか?」

「マコトって大会優勝したりしてんだろ?マコトは知らなくても藤木くんだっけ?そいつが知ってるとか?」

「あー、なるほど」

「僕部屋で寝てたのになあ」

「俺が来たときには空いてたぞ」

「うわ、僕鍵開けっ放しだったのかな」

「アナザーになると勝手にログインするんだろ?マコトどっかに出かけるつもりだったんじゃね?お腹すいてよくコンビニいくじゃねーか」

「あ、なるほど」

「どのみち鍵開けっ放しで出かけてたことになるな、気をつけろよ」

「うん、ごめん、気をつけるよ。今はただでさえ祐樹がいるのに」

「おいそれどういう意味だ」


鬼塚とマコトは笑った。そして、翌日、鐘井はホワイトボードにデカデカと漢字を書く。


「鐘井祐樹です。アナザーに感染したせいで転校が遅れました、よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げるとまばらな拍手がとぶ。まだまだアナザーから回復して間もないクラスメイトが多いのか、教室はガラガラである。


「それじゃあ鐘井は適当に席についてくれ。まずは連絡事項から始めるぞ」


ホームルームがはじまる。鐘井はとりあえず真正面の席に座って先生の話を聴き始めたのだった。

チャイムが鳴る。


「よお、転校生!俺は島直樹っていうんだ、よろしくな!」

「よろしく、島くん」

「あー、いいっていいって島で。君付けはなんだかむず痒いからな!」

「じゃあ俺も鐘井でいいぜ、よろしく」

「おうよ!」


鐘井が旧式デュエルディスクをしていることに気づいた島がにやにや笑う。早速話を振ってみると案の定乗ってくれた。


「よくぞ聞いてくれました!実はなー、こないだ発売されたばかりの最新式デュエルディスクなんぜ!リンクヴレインズにも優先的にログインできるし、いいぜ!もし欲しかったらデュエル部来いよ、今は休止中だけど再開したら部長にかけあってやるからさ」

「マジで?すげーなデュエル部」

「実はここだけの話、SOLテクノロジー社の財前ってやついただろ?こないだ失脚したやつ。うちのデュエル部に妹がいてさ、そのコネでもらえたんだ」

「そうなのか、へー」

「鐘井もリンクヴレインズやってる?」

「おう、やってるぜ」

「おー、まじか!ならフレンド申請していいか?デュエルしようぜ」

「おーけー、今から送るわ。アカウントID教えてくれよ」


鐘井が島から教えてもらった番号で検索をかける。


「……え、あ、え?」


思わず二度見する鐘井に島は嬉しそうだ。鐘井が反応したのはブレイブマックスのコメントがよろしくお願いしますというデフォルトのままであり隠す気が微塵もなかったからだ。ファントムに誘拐されたとき島直樹だとネットで個人情報を叫んでいたのにすごいメンタルである。


「ちょっと待て、島、なんだよこのアカウント。まさかほんとに?え?」

「ふっふー、気づいちゃったか!」

「あたりまえだろ、気づかないわけあるかよ!ブレイブマックスってあれだろ、ハノイに勝ったやつ!」

「そう、俺こそがplaymakerの意思を受け継ぐ予定の男、ブレイブマックスだぜ」


鐘井がファントムに誘拐されたときのことまでは知らないと踏んだ島はどこかほっとしている。嫌いになれないやつだなあと思いつつ、鐘井は話をつづける。


「おー、まじか!これは登録させてもらうぜ!なー、《サイバースウィザード》見せてくれよ」

「残念ながらそれはできないぜ。俺はまだplaymakerから認めてもらうために修行すべきだと考えてplaymakerに返したからな」

「え、あ、そうなのか。それなら仕方ねえな、でもすごいな島、playmakerと会ったことあるんだろ?いーなー」

「いいだろー!」

「よかったら教えてくれよ、色々!」

「いいぜ、なんでも聞けよ」


ウインクを飛ばす島に鐘井は頷いた。


「へー、《クローネ》ってのが鐘井のアカウントか?どういう意味?」

「《クローネ》は外国の通貨なんだけどさ、もとは王冠って意味があるんだよ。なんかかっこよくね?」

「なるほど、そういわれるとかっこいいな!」

「だろー?ブレイブマックスもなかなかだと思うぜ」

「さんきゅー鐘井!お前いいやつだな!それじゃついでに学校案内してやるよ。いこうぜ」

「まじで?助かるわー、ありがとうな島!」


島の手招きに従い鐘井は後に続いた。購買でご飯を調達し、道案内のあとは次の教室にきてご飯である。


「お、藤木じゃん。おーい藤木、隣いいか?」


ちら、とこちらが声をかける前にはすでに反応していた遊作である。さすがはリンクセンス、どうやら《星杯》デッキの《サイバース族》に反応しているようだ。すげーと思いつつ鐘井はこんにちは、と軽く笑った。


「島と転校生か。あいてるよ」

「藤木?」

「おう、うちのデュエル部の幽霊部員の藤木遊作だ」

「へー、そうなのか」

「俺は入るとは一言もいってないだろ」

「まーたそういうこといっちゃって。こいつ愛想ないけどいいやつなんだぜ?ほら、さっき話してた助けに来てくれた藤木ってこいつなんだよ」

「あー、あの!」

「なんの話をしてるんだ、あんたら」

「なにってこないだのアナザーのことだよ」


鐘井は呆れ顔の遊作をみた。


「藤木……遊作……なあ、もしかしてマコト……君島マコトがアナザーになったとき救急車呼んでくれた藤木ってもしかしてアンタか?」


ぴく、と遊作の眉が動いた。


「なんでそれを?」

「俺さ、マコトと豪と同じ施設で育った幼馴染なんだよ。俺が先にアナザーに感染しちゃってさ、マコトんとこに引っ越す予定が数ヶ月もずれちゃったんだ。昨日も夜中まで片付けしてたら手伝いに来てくれてた豪が教えてくれたんだ。マコトは知らないっていうしお礼いいたいのに困ってたんだよ。もしかしてと思ってさ」


鬼塚から外見情報とデンシティハイスクールの一年だという話まで聞いていたと言及すると遊作はあーと声をだす。ごまかしがきかないと思ったようだ。そこまで特定されて同姓同名の別人だとしらばっくれる理由はないはずだとでも考えたようだ。


「……なるほど」


遊作は一瞬迷ったのち、うなずいた。


「ああ、俺だよ」

「ほんとか!よかった、マコトほんとに感謝してるんだ、もちろん俺もだけど!ありがとう!」

「いや、俺は当然のことをしただけだ」

「気にするに決まってんだろ!マコトのやつ部屋の鍵もかけないでアナザーに感染しちまったみたいでさ、ほんとに藤木が気づいてくれなきゃ別の事件に巻き込まれてたかもしれないんだ。ほんとに命の恩人だろ!」


まくし立てる鐘井に遊作はどこかホッとしたようなら顔をする。ポーカーフェイスだがよく見ると考えていることがわりと顔にでるタイプのようである。そりゃそうだ、マコトの家を監視してアナザーになるまで見守り、あわてて無理やりぶち破ったのだ。ドアや鍵あたりには跡が残っているのだ。警察に入られたら指紋あたりからアウトである。鐘井がフォローしたおかげでマコトたちは警察にアナザー以外に被害届を出す気はないのだ。


「マコト、デュエル大会に優勝したりしてるし、多分そこから知ったんだよな?マコトは藤木のこと知らないみたいだし」

「ああ、そんなところだ」

「やっぱり!マコトすごいよなー、そうだとは思ってたんだ。名が知られててよかった。なあ、藤木。よかったらマコトにあってもらえないか?あいつ、すげーお礼いいたがってんだよ」

「別にいいけど」

「じゃあいつ空いてる?」

「俺はいつでも」

「それじゃあ今日の放課後とかは?」

「いいよ」

「じゃあなんか奢らせてくれよ、食べたいものとかないか?」

「……じゃあ、いい店知ってるからあとで連絡する」

「おーけー、連絡先はこれな」

「わかった」

「いやー幸先いいな。友達できるしマコトの恩人あっさり見つかるしよかったぜ」

「なんだよなんだよ、二人で話し込んじゃって」

「聞いてくれよ、島!俺の幼馴染に君島マコトって隣のクラスの奴がいるんだけどさ」


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bkm
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