まさか警察にまで怒られることになるとは思わなかった。
どうやらこちらの世界の鐘井は不正に取得した住民票を使い、夜間学校をに通いながら働いていたようだ。学歴はすでに高校卒業程度となっている。そして本来働いてはいけないアンダーグラウンドな世界で金を稼ぎながらサイバース族たちを秘密裏に保護していたようだ。
警察や自治体の処置により中学卒業程度となるよう5年間の学歴はそのままスライドさせてもらえるようになった。
デンシティでは高校まで学費が無償だと知った鐘井はマコトと同じデンシティハイスクールに季節外れの転校をすることになった。一応こちらは大学まで出て新社会人としてスタートした身だ。高校入学の試験は勉強すればなんとかなるのだ。
ただ時期的に中途半端すぎると二学期からの転校となった。
「なあ、マコト。俺、バイト探すわ」
「え、バイト?」
「ずっと世話になるわけにもいかないし」
「いや、ダメだよ」
「え」
「前科あるのに何言ってるのさ」
「は?」
「祐樹は二学期から高校生、今はまだ中卒なんだよ?どうやってアルバイトするのさ。まさかこの戸籍を使うつもり?これだよ、これ。よく潜り込めたね。検索しても出てこないあたりほんとは何してたか怪しいもんだけど」
ばしばしカバンを叩かれて鐘井は頬をかく。
「だから俺は」
「覚えてないんでしょ?」
「うぐ」
「履歴書がいらないバイトってあるのかな」
「さ、探してみるさ」
どんどん小声になっていく鐘井にマコトは呆れ顔だった。
「どうしてもっていうなら先生に手伝ってもらったら?」
「大丈夫だって」
「だからあてはないのになんでそんなに自信満々なんだよ、まさかこの履歴書使うつもり?ダメだって、先生に叱られただろ!」
「そういうなよ」
「ダメだって、豪にいうよ?」
「それだけはやめてくれ」
「もー、豪宥めるの大変だったんだからね?」
「ごめんて」
「ごめんで済んだら警察はいらないんだよ」
「うう」
「アルバイト決まったらどこか教えてね、見に行くからさ」
「お母さんかよ、おまえ!」
「そうでもしないと許可降りないと思うよ」
「未成年の弊害いい」
「言っとくけど今まで大人として働いてた祐樹が悪いんだよ」
「だから違うんだってええ、誤解だ!」
「じゃあどこの会社でどこにあって、どうやって勤め始めたのか教えてよ」
「ぐあっ、んな無茶な」
「じゃあ諦めて」
「し、仕方ねえなあ。わかったよ!」
わあん、と大げさに泣き始めた鐘井を置いてマコトはいってきますと出て行ってしまう。さすがにずっと居候は嫌だ。皿を洗い、洗濯物を干し、履歴書片手にアルバイトを探し始めた。
「よし、これでなんとか」
施設の先生にも相談していけそうなところを吟味する。高校入学見込みならなんとかOKしてくれるところを見つけることができた。マコトが帰ってきたとき、どうだ、と面接で仕事の説明をしたいと電話で合格だと教えてもらえたところを並べた。
「先生が許可だしたら大丈夫じゃない?どこにいきたいの?」
「んー、清掃とかかな」
「SOLテクノロジー社の?すごいじゃない」
「あと一個くらいは欲しいな」
「大事なのは学校だからね、サボっちゃダメだよ」
「わかってるよ」
「アルバイトもいいけどさ、勉強忘れないでよ。特別処置だからって課題たくさん出てるんでしょ、祐樹。ちゃんと高校行けるように頑張ってよ、一緒に学校行きたいんだから」
「わかってるよ」
「わかってるなら今すぐやろう、僕も宿題するから」
「わからなかったらアドバイスよろしく!」
「自分で頑張って」
「えー」
鐘井はがっくりと肩をおとした。