大型アップデートの直後にインストール可能となったプログラムがある。それはデュエルすればするほど愛用するモンスターのAIの性能がよくなり、接続時間といったリンクヴレインズでの環境が劇的に変化し、よくなっていくという画期的なものだった。もともとデンシティではひとつのデッキを大切にするデュエリストが主流だった。たくさんのデッキをもつデュエリストは検証した結果、一時期たくさん使用すればその性能は落ちないとわかったものの、デッキ依存のため別のデッキを組むとなると以前の環境に戻ってしまう。一部の嗜好を真正面から潰すような仕様だったが、その機能自体、デッキにオンオフがついており、その辺りもフォローはされていた。ただデュエリストたちは気づいてしまうのだ。もともと現実世界で使用しているデッキの方が勝率が高いと。なぜかリンクヴレインズだと振るわない勝率も現実世界と同じようになってきたと。公式に発表はされていないが自己学習機能がデッキの使用回数に連動していると誰もが気付き始めた。待っているのは、現実世界で愛用しているデッキを使うか、リンクヴレインズでしか配布されていないデッキを使うかの二択。嬉しい悲鳴である。
「……」
『どうすんの、playmaker さま』
「どうもしない、アップデートするだけだ」
『お、まじで?』
「効率を考えても実質一択だからな」
『おー』
「邪魔ならオフにするだけだ」
『学習型AIかー、お手並み拝見』
ニヤニヤしながらアイはダウンロードされる新規プログラムを眺めていた。
「すんごいなー、俺には劣るけどさー、これだけ違うもんか」
ログアウトしたあと、アイは興奮気味に語る。playmakerとして初めてログインしたわけだが全然違うのだ。モンスターのモーションのひとつひとつのモデリングとかそういった細かなものからデュエルを繰り返すたびにどんどんクオリティがあがっていく。
「そのくせ容量前とそんなかわらないってなんの詐欺だよ」
アイは脱帽しきりである。
「すんごいな、今回のキャンペーン。担当は本気だな!」
「アナザーで利用者が減ってるからな、SOLテクノロジー社もそれなりの手を打ってきたってとこだろう」
「でさー、遊作ちゃんよ」
「なんだ」
「せっかくモンスターがじゃれついてんのに、その反応のうすさはなんとかなんないのか?!《ビットロン》とかすんごい悲しそうな顔してたぞ!」
「所詮はプログラムだろ」
「つめたい!」
「わかってないな、アイ」
「へ?」
「遊作はちゃんと可愛がってるぞ」
「どこがだよ、あんまり変わらなくね?」
「ほらよく見ろ。ちゃんと目を見て話してるだろ」
「わかりにくっ!?」
「モンスターも喜んでるじゃないか」
「健気過ぎない!?俺ちょっと悲しくなってきたんだけど!?ちょっとー遊作ちゃーん、もっと自分のデッキのモンスターに構ってやれよ」
「バカ言え、遊びに行ってるんじゃないんだぞ」
「ちぇっ、つめてーの!俺だけでなくアイツらにまで塩対応かよ!AI差別だ!待遇改善を要求する!」
「なにいってんだおまえ」
「あんまり対応がすぎるとお前の運命力が低下するぞー」
「デュエルに支障がでるならプログラムをオフにするだけだ」
「ええーっ、どこまで冷たいんだよ遊作ちゃん!」
なっとくいかない!と抗議するアイは、精霊プログラムが気になりつつもアイたちに茶化されるのが嫌でいい出せない遊作の心情などしるよしもないのだ。