SOLテクノロジー社のデータバンクと精霊世界をつなげることでデュエルエネルギーを確保するかわりに精霊たちが自由にリンクヴレインズを闊歩できる。鐘井がもたらした新たなるプログラムはSOLテクノロジー社に革新をもたらしたが、それと引き換えにどんな精霊がこちら側にくるのか保証できないという不安要素を生み出した。精霊たちの協力なくしては成り立たないこのプログラム、それだけ彼らの存在を認めさせたかったのか、と誰もが思う。それだけ大切に思っているのだと。
「せっかくネトゲがあるんだぞ、精霊たちとイチャイチャしたくてなにがわるいんだ」
思われていることなど知らないまま、わりと不純な動機でここまでてっぱしってしまった鐘井は今日も頑張って仕事を終えた。
「だいたい精霊がいないと俺の運命力ガタ落ちなんだよ、勘弁してくれ」
遊戯王vrainsのネットゲームをしていざログアウトしたら知らない体とうb級ホラーな展開を味わってから早10年。未だに帰りたい気持ちに嘘はないがこのまま骨を埋める覚悟ちらつく程度には年をとった。
独り言が多いのは独身ゆえである。
扉をあけると部屋中に広がる電子機器。おかえりなさいと群がる精霊たち。ほんとはイチャイチャするために女の子モンスターがよかったのだが、端末世界と交渉する過程でお前が我々を使うんだよぉ!な流れとなり今に至る。《セフィラ》、部屋の中は白い羽を生やしたモンスターだらけである。
邪じゃを払う白き翼、といったところだ。彼らは「神星樹」に滞積された邪なる力によって目覚めた「インフェルノイド」に対抗するため
「神星樹」の聖なる加護を受けて立ち上がった戦士たちだ!属するモンスターは、ザ・デュエリスト・アドベント以降に登場した端末世界関連カテゴリにも属しているのが特徴だ。「複数の部族が協力して共通の敵と相対する」という設定はDUEL TERMINALで展開されたストーリーでも見られた内容だが、これまでとは異なり共通のカテゴリを冠している。また、属するモンスターのほとんどはこれまでに登場したモンスターのデザインが変化したものだが、中には新規と思われるモンスターもいる。
「セフィラ(Sefira)」とはヘブライ語で「数」を意味し、セフィロトの樹(生命の樹)を構成する球体を指す。ついでに王冠の意味もあり、ドイツ語はかっこいいという単純な理由からクローネと読み替えている。
「さあて、いきますか!」
金をつぎ込んで快適な空間を作り上げた自室にて、鐘井は気合いをいれる。おー!と無邪気な精霊たちがうなずいた。
『メッセージを受信しました』
「お?」
『ゴーストガールからです』
「読み上げてくれ」
『わかりました』
デュエルディスクのAIが読み上げてくれる。
「おー、やっとか。うし、それじゃまずはデートだな」
なお見込みはない模様である。
ログインしたクローネは辺りを見渡す。
「はあい、すぐに来てくれて嬉しいわ、クローネ」
「そりゃ、駆けつけないわけにはいかないだろ、ゴーストガールからのお願いとあっちゃなあ」
「ありがと」
ウインクを飛ばすゴーストガールにクローネは笑う。うん可愛い。
「どこかの誰かさんもこれくらいお世辞いってくれたらいいのに」
「やめてくれよ、アイツが笑顔でんなことしたら腹筋が死ぬ」
「あらひどい」
「どっかの誰かさんからは絶賛問い詰められ中なんだよ、俺」
「ああ、とうとうバレたの?むしろなんでバレなかったのかしら」
「無駄な足掻きとはわかってるけどさあ、やっぱまともな人生歩んで欲しいじゃん?」
「その気遣いの結果は?」
「今度の休みに上司からの呼び出しで家に行かなきゃいけないんだよ、ひええ」
「自業自得じゃない」
「やめてくれよ。なんで野郎の家に行かなきゃいけないんだ」
「ふふ、ほんとは嬉しいくせに」
「いや別に嬉しくねえけど」
「あらそうなの?にやけてるけど」
「アンタのせいだけど」
「誤魔化さなくてもいいのよ、そんなことしなくても」
「いやだから……もういいや。それでデータはもらえるんだよな?」
「ええ、貴方は大事なお得意様だもの。じゃ、振込はいつものところにお願いね」
「了解。ゴーストガール、今度の休み暇?みたいっていってた映画見に行かねえか?」
「ごめんなさいね、好きな映画は一人でみたいの」
「そっか、あんまり好きじゃないのは?」
「見ないわ」
「そりゃ残念」
「ほかの依頼主とのデートの先約があるのよ、ごめんなさいね」
「あー、そりゃ仕方ねえか。くそ、俺も現実で約束しときゃよかった」
「ふふ、次からはそうして?」
「おう、前向きに検討させてもらうぜ」
クローネはデータマテリアルを受け取る。
「これがSOLテクノロジー社のデータバンクか、なにが出てくるか楽しみだなー」
ゴーストガールは笑う。
「結局私よりデータの方が大事なんじゃない。つれないのはどっちなのよ」
「おいおい、俺をアイツと一緒にすんなよ。女の子は大切にするぜ?」
「一人じゃないけどね」
「人のこと言えるのかよ」
「あら、ひどいわね。これでも一途なのよ?」
「あー、はいはい、惚気はまた今度じっくり聞かせてもらうよ」
「〜〜っ、貴方って人はもう!なんで晃ばかり出すのよ!」
「え、事実だろ?怒る論点ずれてないか?」
「〜〜っばかにして!」
「??」
顔を赤らめたゴーストガールから投げつけられたカードを止めて、クローネはデータを展開する。
「もう、その話からは一旦離れましょう。ひとつ、いいかしら?」
「うん?」
「データバンクで見つけたんだけど、精霊システムが実装化されるのはいつ頃かしら?」
「大々的には数カ月ってとこだな」
「あいかわらずオカルト紛いな理論だけど事実なんだものね、私も適応できるようにしなくちゃ」
「アンタなら大丈夫さ。デッキに好かれてるからな。精霊の絆がやっと一方的じゃなくなるだけだ、胸が熱くなるな」
「そういうものかしら。なんだか不思議な感じがするわ」
「いずれわかるさ、いずれな」
意味深に笑うクローネにゴーストガールは苦笑いした。