閃刀姫オレ
そのテーマは、《植物族リンク》という猛威を振るったテーマを新制限で壊滅においやったことで築かれた群雄割拠な良環境を崩壊しかねない脅威だった。


一人の少女が様々なマシンを乗りこなし、敵と戦う往年の弾幕ゲームを彷彿とさせる世界観の元構築されたテーマだった。メインモンスターはそのパイロットの少女のみ、魔法により武装しリンク召喚先のマシンに乗って必殺技を繰り出していくのだ。いわばテーマだけでは成り立たず、出張してほかのテーマと混ぜることが大前提のテーマでもある。今の遊戯王において、それがどれだけ強いのかは優勝数を数えれば自ずと見えてくる。なによりかわいい。メインモンスターのカードがかわいい。これはとても大事なことだった。イラストアドバンテージと呼ばれるくらい大事なものだった。


その名は《閃刀姫》。アニメには登場しない、遊戯王オリジナルのテーマカテゴリとなっている。その最大の特徴はカードの種類の内訳。 なんとメインデッキに投入可能なモンスターが一種類しか存在せず、あとは全部リンクモンスターと魔法というブッ飛んだ構成になっている。


魔法カードの多くは「墓地に魔法カードが3枚以上存在する」という条件付きで追加効果が発生する非常に強力なカードが揃っているのだが、同時に「自分のメインモンスターゾーンにモンスターがいると発動できない」という凄まじいデメリットを背負っている。 迂闊にモンスターを召喚するとデッキの回転が止まってしまうため、戦線維持はもっぱらリンクモンスターの役目。 そんな訳なのでリンクモンスター達の効果は「魔法カードの回収」と「戦闘補助」に特化している。


これらの特徴から、 「とにかく魔法カードを駆使してデッキの回転と除去、妨害を行い、あとはひたすらリンクモンスター単騎で殴る」 という魔法への依存度が半端ではない戦略が持ち味である。


最近増えてきた薄い本向きの可愛い系イラストのカテゴリであり、「最新兵器で武装した女の子」というアニヲタ的に心くすぐられるテーマも相まって、可愛さの中にカッコ良さを同居させたデザインに仕上がっている。


魔法の名称は、どれも実在する戦闘機にちなんだもの。 一部のカードはイラストに英数字が描かれているが、これはモデルとなった戦闘機に由来している。



カードは以下の通りである。

モンスターカード

前述の通り、メインデッキに入れられるモンスターは《閃刀姫−レイ》のみである。過労死待ったなし。


閃刀姫−レイ
効果モンスター 星4/闇属性/戦士族/攻1500/守1500
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードをリリースして発動できる。 EXデッキから「閃刀姫」モンスター1体をEXモンスターゾーンに特殊召喚する。 この効果は相手ターンでも発動できる。
(2):このカードが墓地に存在する状態で、 自分フィールドの表側表示の《閃刀姫》リンクモンスターが相手の効果でフィールドから離れた場合、 または戦闘で破壊された場合に発動できる。 このカードを特殊召喚する。

ちなみにイラストでは制服みたいな感じの服を着ているが、これは「通常モード」と呼称される状態であり、簡単に言えば非戦闘モードである。 他のカードのイラストでは戦闘状態に突入しているため、この服装の姿は一切登場しない。可愛いのにもったいない。まああんなスカート姿で飛んだり跳ねたり戦ったりしたらパンツ見えちゃいそうだから仕方ない。

リンクモンスター

いずれもレイが兵装を身に纏った「決戦モード」。 共通の召喚条件を持つ。 1ターンに1度しか特殊召喚できない制約は、リンク召喚以外でも適用される事に注意が必要。 武装したせいなのか種族が機械族に変化しているが、そのわりに素の攻撃力は変わってない。


《閃刀姫−カガリ》
リンク・効果モンスター 
リンク1/炎属性/機械族/攻1500
【リンクマーカー:左上】
炎属性以外の「閃刀姫」モンスター1体
自分は「閃刀姫−カガリ」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
(1):このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地の「閃刀」魔法カード1枚を対象として発動できる。 そのカードを手札に加える。
(2):このカードの攻撃力は自分の墓地の魔法カードの数×100アップする。

レイの変身フォームその1。敵陣殲滅に特化した「閃滅モード」。 「篝火」が名の由来だからか、全体的に炎をイメージした赤の意匠が多め。
さらに空戦強襲型らしく、クジャクの尾羽のような背面スラスターの自己主張も激しい。 装甲には「X-003」という番号が振られている。 効果は魔法のサルベージと自己強化。

《閃刀姫−シズク》
リンク・効果モンスター 
リンク1/水属性/機械族/攻1500
【リンクマーカー:右上】
水属性以外の「閃刀姫」モンスター1体
自分は「閃刀姫−シズク」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
(1):相手フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は、自分の墓地の魔法カードの数×100ダウンする。
(2):このカードを特殊召喚したターンのエンドフェイズに発動できる。
デッキから、同名カードが自分の墓地に存在しない「閃刀」魔法カード1枚を手札に加える。

レイの変身フォームその2。拠点防衛に特化した「刀衛モード」。 カガリとは対照的な青い重装甲が目を引く。装甲には「X-002」の番号が記載されている。 こちらは全体弱体効果と魔法のサーチ効果を持つ。

《閃刀姫−ハヤテ》
リンク・効果モンスター 
リンク1/風属性/機械族/攻1500
【リンクマーカー:左下】
風属性以外の「閃刀姫」モンスター1体
自分は「閃刀姫−ハヤテ」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
(1):このカードは直接攻撃できる。
(2):このカードが戦闘を行ったダメージ計算後に発動できる。 デッキから「閃刀」カード1枚を墓地へ送る。

レイの変身フォームその3。何モードかは不明だが、見た目は長距離狙撃に向いてそう。 緑を基調とした装甲を身に纏う。番号は「X-004」。 直接攻撃と墓地肥やしの効果を持つ。

魔法カード

通常魔法と速攻魔法、装備魔法はメインモンスターゾーンにモンスターがいると発動できない。 また墓地を参照して、魔法カードが3枚以上あれば効果が追加、強化される。 条件を満たす必要はあるが、その効果はどれもかなり優秀というか一部明らかに狂った性能の奴が紛れ込んでいる。


《閃刀起動−エンゲージ 》
通常魔法
(1):自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。 デッキから「閃刀起動−エンゲージ」以外の「閃刀」カード1枚を手札に加える。 その後、自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、 自分はデッキから1枚ドローできる。

イラストはレイが凛とした表情で「閃刀」を構えている所。 「閃刀」を起動する事で戦闘形態「閃刀モード」となり、通常モードより動きやすそうな服に身を包んでいる。

《閃刀術式−アフターバーナー》
通常魔法
(1):自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、 フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。 そのモンスターを破壊する。 その後、自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、 フィールドの魔法・罠カード1枚を選んで破壊できる。

カガリがゴッドバードっぽい技を繰り出している。 公式によればカガリの必殺技という設定とのこと。

《閃刀術式−ジャミングウェーブ 》
通常魔法
(1):自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、 フィールドにセットされた魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。 その後、自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、 フィールドのモンスター1体を選んで破壊できる。

シズクがバリア的な何かを張っている。 こっちはシズクの必殺技。

《閃刀機−ホーネットビット》
速攻魔法
(1):自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合に発動できる。 自分フィールドに「閃刀姫トークン」(戦士族・闇・星1・攻/守0) 1体を守備表示で特殊召喚する。 このトークンはリリースできない。 自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、 そのトークンの攻撃力・守備力は1500になる。

イラストにはファンネル的な兵器を展開しているレイの姿が。「S-018」という番号が見られるが、これは元ネタの戦闘攻撃機『F/A-18』(愛称:ホーネット)に由来するものだろう。

《閃刀機−ウィドウアンカー》
速攻魔法
(1):自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、
フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。 そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。 その後、自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、 そのモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る事ができる。

レイがアンカーを射出している。効果から察するに捕縛用の道具なのだろうか。 ちなみに「ウィドウ」は未亡人という意味だが、クモの脚っぽいアンカーの見た目的にクロゴケグモの英名『ブラックウィドウ』をイメージしているのだろう。 イラストに見られる番号「S-061」から、元ネタはアメリカの夜間戦闘機『P-61』(愛称:ブラックウィドウ)と思われる。

《閃刀機−イーグルブースター》
速攻魔法
(1):自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、 フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。 このターン、その表側表示モンスターは自身以外のカードの効果を受けない。 自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、 さらにこのターン、そのモンスターは戦闘では破壊されない。

飛行用のジェットパック的な機械。
翼に記されている番号「S-015」。『イーグル』の愛称で知られる制空戦闘機『F-15』が元ネタか。

《閃刀機−シャークキャノン》
速攻魔法
(1):自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、 相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。 そのモンスターを除外する。 自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在する場合、 除外せずにそのモンスターを自分フィールドに特殊召喚できる。 この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できない。

巨大なキャノン砲の様だが、直接的な破壊効果を持っているわけではない。あと彼も関係ない。 番号は「S-020」。『タイガーシャーク』の愛称で有名な戦闘機『F-20』が元ネタだろう。

《閃刀機構−ハーキュリーベース》
装備魔法
自分のメインモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合にこのカードを発動できる。
(1):装備モンスターは直接攻撃できず、1度のバトルフェイズ中にモンスターに2回攻撃できる。
(2):自分の墓地に魔法カードが3枚以上存在し、装備モンスターが攻撃でモンスターを破壊した場合に発動する。 自分はデッキから1枚ドローする。
(3):このカードが効果でフィールドから墓地へ送られた場合、 「閃刀機構−ハーキュリーベース」以外の自分の墓地の「閃刀」カードを3枚まで対象として発動できる。 そのカードをデッキに戻す。

戦闘機がモデルとか言ってたら本当に戦闘機らしきものが出てきた。装備っていうレベルじゃねぇぞ! 番号は「S-130」。元ネタはおそらく輸送機の『C-130 ハーキュリーズ』。
ちなみにハーキュリーズはヘラクレスの英語読みらしい。

《閃刀機関−マルチロール》
永続魔法
(1):1ターンに1度、このカード以外の自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる。 このターン、自分の魔法カードの発動に対して相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。 さらに、対象のカードは墓地へ送られる。
(2):自分・相手のエンドフェイズに発動できる。 このターン、このカードが表側表示で存在する間に自分が発動した 「閃刀」魔法カードの数まで自分の墓地の「閃刀」魔法カードを選び、 自分フィールドにセットする(同名カードは1枚まで)。 この効果でセットしたカードはフィールドから離れた場合に除外される。

ワープゲート的な所からレイがダイブ。 名前の由来は、装備を交換する事で攻撃や偵察など多様な任務に対応する戦闘機の総称、『マルチロール機』だろう。

《閃刀空域−エリアゼロ》
フィールド魔法
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカード以外の自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる。 自分のデッキの上からカードを3枚めくる。 その中から「閃刀」カード1枚を選んで手札に加える事ができる。 残りのカードはデッキに戻す。 「閃刀」カードがめくられた場合、さらに対象のカードを墓地へ送る。
(2):このカードが効果でフィールドゾーンから墓地へ送られた場合に発動できる。 デッキから「閃刀姫」モンスター1体を特殊召喚する。

敵陣営の目を掻い潜って「エリアゼロ」と呼ばれる領域に突入するレイ…の移動経路を示した戦略画面的な何か。 イラストに書いてある番号から察するに、「ハーキュリーベースに乗って途中でカガリに変身しろ!」って事?


弱点は以下の通りだ。まずはボードアドバンテージに対する干渉力の弱さがあげられる。

高速でアドバンテージを稼ぐ事に長けてこそいるが、閃刀姫カードだけでは直接的に相手のボードアドバンテージに干渉する手段に乏しい。 閃刀姫の攻撃力では正面切って相手モンスターと殴り合うのは土台無理なので基本的には除去カードで場を空けつつ殴る事になるのだが、該当する除去カードはジャミングウェーブとアフターバーナー(と状況次第ではヴィドウアンカー)のみ。 ジャミングウェーブはセットカードしか対象に出来ないので表側表示で存在している魔法・罠カードの突破に利用できない。 アフターバーナーの追加効果なら破壊できるが、こちらはモンスターの破壊に失敗すると追加の魔法・罠カード破壊効果も適用されない弱点がある。 何より両方とも通常魔法故に相手ターンの妨害に利用できない点が痛い。 そのため相手ターンは防戦一方になりがちであり、その間にフィールドを完全制圧されてしまうと非常に厳しい展開になる。

次に致命的な永続メタカードの存在がある。出されるだけで詰みかねない致命的な永続カードが多数存在している。 前述の通り閃刀カードには表側表示で存在している魔法・罠カードを破壊できる手段が無く、通常のデッキ以上に突破の方法が限られる。 たとえば、マクロコスモス・王家の眠る谷−ネクロバレー(墓地封殺)。マクロコスモスは墓地に送られる閃刀カードを片っ端から除外してくる。当然墓地にカードが溜まらないので追加効果は狙えず、再利用も不可能になる。レイの自己再生も出来ないためいずれ閃刀姫モンスターが出せなくなってじり貧に陥る。ネクロバレーはマクロコスモスほど拘束力は強くないが、テラ・フォーミングなどでサーチ出来る上、メタバースでいきなり発動される可能性があるため油断ならない。他にも魔法族の里・魔封じの芳香・王宮の勅命(魔法封殺)肝心要の閃刀魔法カードが紙屑になる。サイクロンや羽根帚による突破も困難であり最も危険なタイプ。あとは虚無空間・群雄割拠・御前試合(特殊召喚封殺)といった特殊召喚を封印されると戦力を用意できないので当然詰む。群雄割拠や御前試合は自分フィールド上に存在するモンスターが各種素材としてフィールドを離れる場合でも異なる属性もしくは種族のモンスターは出せない裁定なので、レイや閃刀姫トークンを素材としてリンク召喚が出来なくなってしまう。他には壊獣だろうか。耐性を無視してモンスターを除去された挙げ句無理やりメインモンスターゾーンに壊獣を押し付けられてしまう。 押し付けられた壊獣を撤去しないと閃刀カードが発動出来ず、従ってそのターンはヴィドウアンカーやシャークキャノンによる妨害は不可能になる。 送り付けた壊獣を場に釘付けにしたままロックを仕掛けてくるデッキは非常に厄介。 おまけに効果による除去でないのでレイの自己再生条件を満たせず、閃刀姫リンクモンスターの再展開にも支障をきたす。

この《閃刀姫》の名称の由来はカテゴリ名は「戦闘機」と「一騎当千」から取ったものと思われる。 モンスター名は「閃刀姫−○○」という形で統一されているが、「−(ハイフン)」を「一(いち)」と変換して逆から読むと…「閃刀姫−」→「閃刀姫一」→「一姫刀閃」→「一騎当千」となる。


Vジャンプで組まれた《閃刀姫》特集では、閃刀姫の簡単な設定が掲載されている。

『強大な敵国に対抗するため、高度な軍事技術により開発された新型兵器「閃刀機」。 その兵器の起動端末となる刀"閃刀"を託された少女「レイ」は、自国の民を守るため、敵戦力の只中を単騎で駆け抜ける!』 とのこと。 総戦力「女の子1名」で列強国相手にケンカ売るとか正気の沙汰じゃない。 実際のOCGでの活躍も相まって列強殲滅系狂犬国防ガールではない…はず

たった一人で強大な敵に立ち向かうその姿はまさに主人公。レイちゃんはぼっち 「閃刀機を操る少女」だから「閃刀姫」らしい。 今のところ閃刀姫として前線に立っているのはレイただ一人だが、今後彼女の隣で共に戦ってくれる第二の閃刀姫が現れることはあるのだろうか? コンセプト的に無理そうとか言わない。

「メカメカしい武装を纏い戦う美少女」というデザインと、閃刀「姫」というネーミングから コナミつながりで武装神姫を連想したデュエリストも居たかもしれない。 と言うかイーグルブースターのイラストが完全にアーンヴァルのそれである また、謎の敵の大群に換装を駆使して単騎で戦うという点では往年のシューティングゲームを彷彿とさせる。

初めて閃刀姫が登場した「ダーク・セイヴァーズ」には、同じく新規カテゴリとして「空牙団」が収録されている。 レイが一人で頑張る閃刀姫に対して、空牙団の特徴は数の暴力大量展開。 共通効果を使って仲間を呼びまくる事を得意としている。「メインモンスターゾーンを使わないカテゴリ」と「メインモンスターゾーンを埋め尽くすカテゴリ」という非常に対照的な2テーマとなっており、公式でも比較されてたりする。
あなたはどちらが好みだろうか?
ワンプッシュ人気投票では閃刀姫が圧勝してたけど。




よって、デュエルモンスターズを続けて長い彼もまた、そのテーマをくんでいた。大学時代は仲のいい友達とデュエルをすることもあったが、社会人になるとなかなかそうもいってられない。これが最後のデッキになるかもしれないなあと思いつつ、仕事に追われていた彼はようやく繁盛期の修羅場をくぐり抜け、休みを獲得することに成功する。お金はあっても時間がない、悲しき社会人の洗礼を受けながらも彼は久しぶりに就職先のカードショップを回っていた。

「大会でるかなあ」

最近のカードをショップを巡って集めつつ、ぼんやり考える。大学を卒業してからまだ数ヶ月しかたってないのに昔のようだ。遊戯王をやめる気はないがかつてのようにデュエルしまくることは難しいんだろうなとぼんやり考える。

「いらないカード売るか?」

生活が苦しくなったらそういうこともあるだろうか。いや遊戯王は株だ、価値がある家に売った方がいい。すっかりいっぱいになってしまったカードケースを見つめつつ、彼はデッキを見つめた。一枚一枚見ていくとあんがい愛着がわいてしまって結局売らなくなるのはわかっていても、なんとなく見てしまう。

「あれ、こんなカードあったっけ?」

まわりにカードゲームをしている人はいない。自分と違うスリーブのカードが混ざっていることに気づいた彼は頭をかいた。《閃刀姫》にこのカードはいいカードだが、買った覚えがない。まさか友達のが混じったか?いつもつるんでいた友達にラインをしながら、彼はためいきをついた。既読がつかない。平日だからな仕方ない。いつもは夜に返信がくるはずだ。そろそろ昼飯にでもしようかなと片付け始めたころ、彼はようやく気づくのだ。

「どこだ、ここ」

カードショップがさっきと内装が違う。絶句する彼に追い打ちをかけるようにラインに既読が着く。文字化けとしか思えない言葉が並ぶ。彼は硬直した。

「刀術式、展開!!閃滅せよ!!」

「……えーっと」

なんで読めるんだろう。タップした彼はある音声を聞いた。

IN TO THE VRAINS!

「へ?」

彼の視界は白に染まった。


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