『くっそ、やられた!これはやばいぞ、ひっじょーにまずい。精霊プログラム実装しやがったぞSOLテクノロジー社』
「嬉しいんだけどなー、ボク専用じゃなくなるし。そこらへんにあるデュエルディスクに実装してくれるようになればそれだけ海外展開早くなるし、ボク専用のスキルプログラム作らなくてもよくなるし、家にはやく帰れるし」
『あーそうだな、和波誠也にとっちゃこの上ない幸運だ』
「でもゴーストとしてはほんとヤバくないこれ?明らかにあぶり出しだよね」
『そーだよ、今の俺様はサイコプログラムと精霊プログラムの混合だ。ソースコードバラされたら解析されちまう可能性が高くなる。くっそ、絶好の隠れ場所だったのに!』
「一からプログラム作り直す?」
『お前のねーちゃんに無茶ぶりするにしても最近放置気味だった俺様の強化も視野にいれねーとまずいぞ』
「ほんとどうしよう。ゴーストのアカウントに君の本体あるのにさあ。今まで精霊が見えないこといいことにボクと入れ替わりできてたのにできなくなっちゃうね、HAL」
『あいつらリンクセンス使うからごまかし効かねえしなあ、どうすっかね』
二人はため息をついた。
「ねえ、HAL」
『あ?』
「いっそのこと《星杯》デッキ使おうかな、ボク」
『は?』
「森を隠すなら森の中っていうじゃない?」
『……はーはーはー、なるほど。逆転の発想ってやつか』
「どのみち入れ替わりはしばらく封印した方がよさそうだしね、小細工封印した方がいいかもしれない」
『たしかにそうだな、炙り出すつもりならお前に接触してくるだろうし』
「表向きはなにも変わらないよ、ただ小細工が使えなくなるだけだ」
『ははっ、てめーのボロがでにくくなってちょうどいいじゃねーか』
「よ、余計なお世話だよ、HAL!」
『なにはともあれ、だ。《星杯》の強化は急務だ、せっかくつかわせてくれるんだ。乗ろうぜ』
「そう、だね!よーし、まずは藤木くんに事情を説明しよう。そんで、えーっと島君にはどうしようかな」
『あ?んなの島君の前で《星杯》使わなきゃいいだけの話だろ』
「あ、そっか。それもそうだね」
『焦りすぎだっての、ちったあ落ち着け。しっかし、精霊プログラムはSOLの秘密兵器だろうによ、なんで公開しちまうんだ?それだけユーザー離れが加速してんのか?』
「ボク達の考えている以上にそうねのかもしれないね。旧式のログイン方法が復活してからグレイ・コードとか活動が活発化してるし」
『そりゃ電脳誘拐されるってわかっててする奴はいねーか』
「ポットが売れてるみたいだね、あるいはコントローラ」
『気持ちはわかるぜ。今までと違って体は現実世界に置き去りだしな。不安なんだろみんな』
「自由にいろんな場所にログアウトできなくなるのやだなあ、めんどくさいよ」
『あんま目立つとフェッチ事件の被害者だってバレちまうぞ』
「わかってるよう。とにかく、ボクはとりあえず《星杯》の強化が先決だね。がんばろ」
『ひひ、まずはお引越しだな』
「そうだね!」
和波はリビングにあるデュエルディスクから《星杯》デッキを抜き出し、自分のデュエルディスクにセットする。HALは本体の設定をいじり始めた。しばらく時間がかかると言われた和波は早速デッキ構築を見直すことにしたのである。
「んー、もっとパーミッション寄りの構築にしようかな」
さっそくテーブルに現物のカードたちを並べて和波は考え込む。一番大変な時間でもあり、一番楽しい時間でもある。現物のカードがあるからこそ可能な時間でもあった。和波の前にはリンク召喚の得意な《星杯》と《創造の代行者 ヴィーナス》を軸とした混合デッキである。《創造の代行者 ヴィーナス》はその効果で《神聖なる球体》をリクルートすることでお手軽にリンク4を展開することができ、星杯は《ブリリアント・フュージョン》を絡めることで強力な連続リンク展開が可能だ。星杯のキーカードである《星杯の妖精リース》と《創造の代行者 ヴィーナス》《神聖なる球体》がいずれも光属性・天使族であることからそれとシナジーのあるこれらのカードを採用しているため、《代行星杯》というべきデッキである。
『せっかくスキル使うんならもっとパーミッション寄りのデッキにしたらいいんじゃねえの?《大天使クリスティア》とかぶっささったじゃねえか』
「それはボクも考えてたんだよね、《魔弾》使ってて思ったけどやっぱり相手の展開妨害する方がボク楽しいもん」
『あはは、プレイスタイルに寄せるのが一番だしな!やっぱお前はパーミッションみたいなカウンターの応酬とかで相手の戦術を崩すしたり、デュエルをコントロールしたりする方が性に合ってると思うぜ!そうだな、パーミッション寄りにするならオススメカードはこのあたりか?』
HALがカードバンクからデータを引っ張ってきて表示する。
『《星杯》デッキはリンク召喚連打で回していき、モンスターを多面展開し一気にキル打点を作ることに長けてる。でも妨害要素がほとんどないのが弱みだ。それ以外にいかに相手の動きを止めるカードを採用することも重要になってくる。たとえばこいつら』
並ぶのは相手の妨害をするカードたちだ。
《天空聖騎士エンジェルパラディンアークパーシアス》は、手札・墓地に存在し、自分がカウンター罠カードを発動した場合、または自分がモンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にした場合、自分の手札・フィールド・墓地からこのカード以外の天使族モンスター2体を除外して特殊召喚する上級モンスターである、貫通効果があり、ダメージを与えると《パーシアス》カードやカウンター罠をサーチできる。
このカードを主軸に《朱光の宣告者》や《緑光の宣告者》、《イーバ》などのカードたちが並ぶ。
「《エンジェルパーミッション》みたいな?《大天使クリスティア》今より出しやすそうだね」
『だろお?《宣告者》は緩い条件でサルベージできる《星杯の妖精リース》をコストに使うことで安定してパーミ効果を発動することができるし、手札に来てしまった《神聖なる球体》の処理手段としても使えるぜ。《イーバ》は《宣告者》や《星杯の妖精リース》を最大二枚サーチできるのが優秀だ。《天空聖騎士アークパーシアス》は宣告者やカウンター罠をトリガーに特殊召喚できるし《神の通告》をサーチするとかなりつえーぞ。《大天使クリスティア》は天使族の墓地調整がしやすいこのデッキなら安定して展開することができるし。初手に《創造の代行者 ヴィーナス》を握れば、高確率でそのまま《大天使クリスティア》のドローから特殊召喚が狙えるぜ』
「おー!すごいね!頑張って新しいデッキつくるよ!」