今日は待ちに待った大型キャンペーンの幕開けである。デュエル部に向かった和波と島は互いにログインした。ログインすると出現するのは、コードオブザデュエリストの告知である。その画面に触れると詳細が表示された。
「うおー!マジで始まってる!」
大型アップデートとメンテナンス、セキュリティの関係でユーザーたちが締め出しを食らって長いことたつ。久しぶりのリンクヴレインズにテンション上がりっぱなしのブレイブマックスは、暇つぶしにコツコツと貯めたお小遣いを全部ねじ込んで作成したオニューのアバターの出来栄えに自画自賛である。無課金のアバターを見るたびに自分は特別だと思える。デュエリストランキングはまだまだ名前が載るほど勝利数を稼げていないのだ、是非ともこのキャンペーンで《バブーン》デッキを強化するリンクモンスターに会いたいものである。
「さーあて、ワナビーはどこかなーっと」
キョロキョロ周りを見渡すが見当たらない。
「混雑してるけどアイツも最新のデュエルディスク持ってるから、優先的に入れるんじゃ……?あ、今日からフルダイブできないんだっけ。精神だけこっちにくるんだっけか、忘れてたー!あちゃー、もしかして俺倒れたのをなんとかしてくれてたりすんのかな。でも入れ違いになったらやだしなー、うーんどうするか」
自分の声が外に出てるとも知らず、ぶつぶつ呟き始めたブレイブマックスはふと顔を上げた。
「みつけたー!」
瞬き数回、辺りを見渡す。
「やあやあ、初めまして、少年君!」
そこにいたのは、白衣を着た女の子アバターだった。
「うえっ!?誰だよ、アンタ!」
「ボク?ボクはゴーストだよ、ブレイブマックス!」
ゴースト、の言葉に一瞬ブレイブマックスは固まる。彼女は笑ってアバター情報を開示した。ログインしているはずなのにコード番号が空白のまま、つまりは不法アクセスをしている悪質なクラッカーである。アバターにはゴーストとだけ書かれていた。
「ゴーストってあのデュエルしろ妖怪の?」
「デュエルしろ妖怪の」
「デュエルしたらリストに載せられてアナザーにされるっていう?」
「正しくはリボルバーにリスト盗まれて利用されちゃってさ、迷惑してるんだよボク」
「あ、そうなんだ」
「うん、そう。君もブルーエンジェルのファンなら見てくれたんじゃないのかい、ボクの活躍」
「……あ、あ、あー!あの!」
「そうだよ、ハノイの騎士がアナザー起こしてるのにちゃっかりボクのせいにしてくれちゃったせいで、君みたいな将来有望なデュエリストにみんな振られて寂しい思いしてるんだよ、ボク」
「そ、そうだったのか……なんなごめんなさい」
「うーうん、いいよ、許してあげる。だからさ、よろしくね、島直樹くん」
まさかの本名呼びにブレイブマックスは変な声が出てしまう。
「なあっ!?なんで、あの、ゴーストが、俺の?」
「やだなあ、そんなの決まってるじゃないか、島直樹くん!ボクはplaymakerの《サイバース・ウィザード》で華麗にデビュー戦を飾った君はとっくの昔にチェック済みだよ!しかもスピードデュエルを途中でplaymakerとチーム戦するなんてさすがじゃないか!」
「……(やっべー、やっぱ目をつけられてたー!嬉しいけど違うんだよー!)あはは!さすがだな!俺の名前はブレイブマックス!いつかはplaymakerの意思を継ぐため今は目下修行中の男だ!」
「おおー、さすがだね!じゃあ、お近づきの印に!」
ゴーストの姿がきえた。
「あれって、うわああっ!?」
「君の生体情報はいただくよ、ブレイブマックス!光栄に思ってほしいな、これからボクがデュエルしたいと思ったとき、一方的にデュエルのお誘いするからね!」
「え、あ、マジで!?連絡先は?」
「ありゃ、交換したいのかい?」
「したい!!」
「いーよ、いーよ!ノリがいい子は大好きだから教えてあげる!君から誘ってくれてもいいよ!ハノイの騎士にさー、お気に入りリスト取られちゃったから今作り直してるところなんだよねー。君がなんと初めてのリストNo.1だよ、ブレイブマックス!」
「マジで!?playmakerより前なのか!?」
「そーなんだよ。お近づきになりたくてボクもログインしたんだけど、先にplaymakerが助け出しちゃったじゃない、君のこと?あれ以来音沙汰ないんだよね、playmaker。君も知らない?」
「まじか、まじでか、ゴーストまで俺のこと助けてくれようと……まじかー!」
「喜んでくれてうれしいなあ!さ、ボクが君の前に現れた理由はひとつだよ、ブレイブマックス!」
「デュエルだな!受けてたつぜー!どっちだ、マスタールール?それともスピードデュエル?お前の好きな方を選ばせてやるぜ」
「ほんとに?あははっ、じゃあマスタールールにしようか、ブレイブマックス!思ってたより楽しい子だね、君!俄然やる気が出てきたぞー」
実況解説と共に大画面で見ていた人とデュエルができる感動である。実際に目撃した時の喜びに味をしめてしまった島の頭の中はハイテンションに跳ね上がっていく。
「ゴーストといえば《ライトロード》!ハノイの幹部と戦ってたよな、見てたぜ!」
「……うん?」
「ブルーエンジェルと背中預けあってかっこよかったよなー!」
「…………あはは、ありがとう。これからも応援よろしくね」
「おう!」
「ついでにブレイブマックス、君にビッグニュースがあるんだ」
「え、なになに?」
「実はボク、《ライトロード》のほかに新しいデッキがお目見え予定なんだ!」
「えええっ!?それほんとですか!?」
「あはは、びっくりしすぎて敬語になってるよ、ブレイブマックス!ほら、今キャンペーンでコードオブザデュエリストやってるじゃない?あそこで《ライトロード》が強化されたらきっと使用者が増えるはずなんだ。ほら、最近ハノイの騎士がplaymakerやゴースト狙う基準として《ライトロード》や《サイバース》を標的にしてるじゃない?そのせいで使用者が増えないのはいやだなーと思ってさ。ボクだけのデッキ、使うことにしたんだ。そしたらハノイの騎士も標的にしなくて済むし、《ライトロード》使いを標的にするやつはハノイの騎士の指示を無視してることになるからお仕置対象になるでしょ?下手なことできなくなるはずなんだ」
「おー、なるほど。一時的に?」
「んー、使用感によるかな。今のところ気に入ってるんだけどね」
「そのテーマって?」
「ボクが新しく使うデッキの名前はね、《魔弾》だよ」
「《魔弾》?」
「ついでにコードオブザデュエリストで新しい特殊召喚が実装されることが決まったじゃない?せっかくだから取り入れようと思ってさ、《ペンデュラム召喚》のテーマである《魔導獣》と組み合わせてみたよ」
「うおお、なんかすげー!え、まさかそのデッキと俺、今から戦えちゃったり?」
「もし君がよかったらね」
「マジでそのまさかだったー!?やる!やります!《ペンデュラム召喚》てのも見てみたい!」
「おーけい、いい返事だ!それじゃ、デュエルといこうか!」
「おう!」
デュエルディスクはゴーストの先制を告げる。
「いっくよぉ!ボクのターン!」
ゴーストは笑う。
「ボクは《魔弾の射手 スター》を一番左側のモンスターゾーンに攻撃表示で召喚!」
「うおー!かっけえ、なんだあのカード!銃使いだ!」
「大歓声ありがとう!さらに《魔導獣 マスター・ケルベロス》を、《魔弾の射手 スター》の下のペンデュラムゾーンにセット!ペンデュラム効果を発動だ!」
「モンスターを魔法みたいにセット?!それにペンデュラム効果って?」
「そうだね、特別に教えてあげるよ。左右両端の魔法&罠ゾーンはペンデュラムモンスターを魔法カードとして置いて使用する事で《ペンデュラムゾーン》としても扱われ、ペンデュラムモンスターの効果を使用したり、ペンデュラム召喚を行う事ができるようになるんだ。ペンデュラムモンスターっていうのはね、モンスターとして呼び出すだけでなく、ペンデュラムゾーンに魔法カードとして発動することで《ペンデュラム効果》っていう魔法カードみたいな効果が行えるようになるカードなんだ。ほら、オレンジから緑のグラデーションでしょ?つまり、効果モンスターでもあり、魔法かでもあるってことなんだ。しかもテキストが長い」
「ほんとだ、なげえ!」
「というわけでペンデュラム効果を発動するよ!もう片方の自分のペンデュラムゾーンにカードが存在しない場合、このカードを破壊し、デッキからレベル7以下の《魔導獣》効果モンスター1体を手札に加える!」
「あれ、墓地じゃなくてエクストラデッキに」
「そう、これがペンデュラムモンスターの特徴のひとつなんだ。ボクがサーチするのは《魔導獣 キング・ジャッカル》!さらに《魔弾の射手 スター》のモンスター効果を発動!同じ縦列の魔法・罠カードが発動したため、デッキから《魔弾の射手スター》以外のレベル4以下の「魔弾」モンスター1体を守備表示で特殊召喚するよ!おいで、《魔弾の射手 カスパール》!」
「今度は男のガンマンきたー!」
「ふふっ、反対のペンデュラムゾーンの上に守備表示で特殊召喚!まだまだいくよ!《魔弾の射手 カスパール》と同列のペンデュラムゾーンに《魔導獣キング・ジャッカル》をセット!ペンデュラム効果を発動だ!もう片方の自分のペンデュラムゾーンにカードが存在しない場合このカードを破壊し、自分のエクストラデッキから《魔導獣キングジャッカル》以外の表側表示の「魔導獣」ペンデュラムモンスター1体を特殊召喚できるんだ。ボクはエクストラデッキから《魔弾獣キング・ジャッカル》を攻撃表示で特殊召喚!
さらに《魔弾の射手 カスパール》と同じ縦列で魔法罠を発動したから《魔弾》魔法、罠をデッキから1枚サーチするよ!」
「すげー!」
「さあ、始めようか!」