(なんだろう、このいたたまれなさ!)
ワナビーはなんだか恥ずかしくてたまらない。なんで姉がゴーストのアバターなんか使ってスピードデュエルに興じているのだろうか。そりゃたしかについ最近まで姉のデッキでデュエルしていたのだ。ゴースト=ライトロード =和波の姉のデッキである。そこにアバターまで一緒にしたら成り切りどころの話じゃなくなる。ハノイの騎士の幹部クラスやplaymakerい側はゴーストの中の人が男だと特定しているのだ、和波の姉ではないとわかるだろう。だが一般ユーザーはそうではないのだ。
「え、ゴーストってワナビーのお姉さんだったのか?!」
案の定飛んでくる勘違いにワナビーは震え上がる。勘弁してくれ、これなんて罰ゲーム!?
「違います、断じて違いますよおっ!あれはお姉ちゃんの悪ノリです!あーもう!どこからログインしてるんだよ、お姉ちゃん!デュエルディスク取り上げたのに!!」
ワナビーは思わず叫ぶ。病院のサーバを使ってリハビリの一環としてネットワークにアクセスすることは一向に構わない。推奨されているリハビリ方法だし、普通より短期間で済むらしいから大賛成だ。だが違うのだ。ワナビーの姉は今まさにSOLテクノロジー社のキャンペーンスタッフとして堂々と表に出ているのだ。しかもライトロードでガンドラ三種をガン積みしたデッキの使い手ときたら特定されたもの同然である。
「え、ワナビーのお姉さん、リンクヴレインズしちゃだめなのか?」
「しちゃだめなことはないですよ?技術部門の管理職だし、そりゃ仕事ですることもあるかもしれませんけど、危ないじゃないですか!」
はっきりと告げたワナビーに、えー、とブレイブマックスはちょっとひいたようだった。友人の態度にワナビーはちょっとショックをうける。
「藤木みたいなこというのな、ワナビー。たしかにハノイの騎士の活動は活発だし、グレイ・コードも活動再開したって噂流れてるけどさ。アナザーの頃と比べたらだいぶ落ち着いてきたんじゃね?ワナビーのお姉さんSOLテクノロジー社の人間なんだろ?ワナビーが心配されるならわかるけど、ワナビーが心配するってどんだけシスコンだよお前」
「えー、僕そんなに変です?それとこれとは話が別ですよ、たった1人のお姉ちゃんですもん。こないだ、やっと目が覚めたばっかりでリハビリ中なんですよ、また目が覚めなくなったらほんとにいやなんです、僕」
「え、まさかアナザーだったのか!?」
えー、っと、と思わず言葉につまる。言葉を探しながらもワナビーはあいまいに笑う。ブレイブマックスは深入りして欲しくないんだなと受け取った。
「実はそうなんですよ、ごめんなさい、話すの遅れて」
「なんだよーなんだよワナビー、お前も大変だったのに俺を助けてくれたのか!ほんとにお前いいやつだなあ!」
「え、ブレイブマックス、アナザーになっちゃったことあるんですか!?大丈夫ですか?」
「おう、俺は大丈夫だぜ。ワナビーたちがな、助けに来てくれたんだ」
ばしばし叩かれてワナビーはきょとんとしたまま、目を丸くする。だがブレイブマックスとウィンが褒めてくれるのでにへらと笑った。
「えへへ、当たり前じゃないですか、ブレイブマックスは大事な友達なんだから」
「そうだな、俺は一番最初の友達だもんな」
「はい」
「仲良いんですね、おふたりとも。もしよかったら、どういうお友達なのか聞いてもいいですか?私、気になります」
興味津々なウィンに、ブレイブマックスはきたー!と心の中でガッツポーズしている。ここで男を見せれば好感度アップだと。マインドスキャンなんてしなくてもわかってしまうくらい、ブレイブマックスは顔に出ていた。しかし、脚色しまくった2人の出会い、ブレイブマックスのデビューとplaymakerとの出会い、ついでにフィーアというウィルスプログラムの悲しい最後、そしてアナザーになったブレイブマックスを助けに来てくれたワナビーの救出劇など目まぐるしく変わる展開に一生懸命なウィンはまるで気づかないようだった。大げさに誇張されたところが散見するがワナビーは訂正する気は無かった。ブレイブマックスがフィーアを最後まで気にかけていたのは事実だし、すさまじい数のデュエルをこなしたことでデュエルの腕が上がってからはほとんど虚偽といえるものはなくなっているのだ。スピードデュエルやマスタールールで初勝利したのも事実、なによりもウィンに話すブレイブマックスの生き生きとした表情を見ているのが楽しかった。
「で、だ。どうする、ワナビー」
「はい?」
急に振られたワナビーはなんのことだと首を傾げた。ブレイブマックスはにやにやしている。
「お姉ちゃんに挑むのか?」
「…………はいっ!?」
一瞬反応が遅れてしまったワナビーは目を丸くする。
「え、え、なに言ってるんですか、ブレイブマックス!?」
「あ、いいですね、キョウダイ対決!」
「ウィンさんまでっ!?ちょ、やめてくださいよ!僕お姉ちゃんに勝ったこと一度もないし、それに今日はウィンさんのスピードデュエルが先だったじゃないですか。いいんですか、ふたりとも」
必死の説得をこころみるワナビーにうーんと2人は顔を見合わせた。どちらも捨てがたい、どちらもおいしい。そーだ、とブレイブマックスは笑った。いやなよかんがする!
「そーだ、ワナビー!ここで一旦別れようぜ!そんでここにまた集合でどうだ?この混み具合からして、たぶん同じくらいに終わると思うぜ」
「えええっ!?」
「それでさ、互いにデュエルを動画にして見せ合うんだよ。こうすりゃどっちも見れるぜ」
ブレイブマックスから言外の圧力を感じたワナビーは渋っていたものの、応援するといった手前反故することもできず結局うなずいたのだった。