コードオブザデュエリスト9-3
「聞いてくれよ、和波!じゃじゃーん」


島は得意げにリンクヴレインズのフレンド一覧からひとりのアバターの詳細情報を表示した。


「あ、かわいい。どうしたんですか、島君」


緑のポニーテールに緑の瞳、茶色のローブ、そして胸元を強調する白い服、ミニスカートにブーツ。ピンク色のウサギのぬいぐるみがぶら下がった鞄と特徴的なデザインの杖。あどけなさの残る少女がピースサインをしている。そこにはどこをどうみても《風霊使いウィン》にしか見えない女の子アバターが表示されている。メッセージはよろしくお願いします、デフォルトのままだ。ランクは島や和波と同じ超初心者である。


「いやー初心者みたいで困ってたから色々教えてあげたらフレンド登録したいって言われちゃってさー!すごくね?すごくね!?もうブレイブマックスの時代きちゃったんじゃね!?こないだはゴーストとフレンド登録したし!連絡先まで教えてもらったんだぜ、俺!あはは、やっべー!きてるぜきてるぜ、この流れ!」


最近始めた初心者なら島直樹だと盛大な垢バレを叫んだ黒歴史をしられることはないと踏んだようで島は上機嫌である。このテンションの上がりぶりからして、なかなかいい感触だったようだ。


「いいなあ、いつです?」

「ほら、お前がバイト行くって先に帰っただろ?あの日だよ」

「ほんとですか!?いいなあ、島くん、どうして僕にメッセージ飛ばしてくれなかったんです!?くれたら僕またログインしたのに!」

「ばーかいえ、大事なところだったんだよ!察しろ!」

「えー」


うらやましがる和波にますます島は上機嫌になる。


「はじめての女の子アバターの子だ!」

「あれ、島君財前さんは?」

「財前?財前はデュエル部共有アカウント登録してるだけで個人を登録はしてねーぜ?」

「え、そうなんですか?」

「あー、和波は自分用だっけ。デュエル部で借りてるやつらはみんなそうだぜ」

「そうだったんですか」

「でもさ、よく一緒に帰ってるけどそんなに話すことあるか?」

「はい、ありますよ?お姉ちゃんにお土産もってくときとか相談してますし」

「あー、お前すんごい甘いの好きだもんな」

「ほんとは島くんたちといきたいんですけどやだっていうじゃないですか」

「あたりまえだろ、野郎同士でケーキバイキングとかなんの罰ゲームだよ!」

「えー」

「とにかくだ、今日もさ、この子に一緒に回らないかって誘われてるんだ。一緒にいってもいいよな?」

「いいですよ、もちろん」

「あ、和波、いっとくけど、くれぐれも余計な真似はするんじゃねーぞ?いいな?」

「あはは、そこまで言われちゃったら、わかったっていうしかないじゃないですか。わかりました、僕は途中で別れたらいいんですね」

「そうそう、そういうことだよ!和波に相談してよかった!俺の春を応援してくれ、俺頑張るから!」

「わかりました。今日ですよね?待ち合わせは何時ぐらいなんですか?島君お気に入りのフレンドさん会うの楽しみだなー」

「あのさ、フレンド登録は……」

「はい、わかってます。島君との仲が進展するまではしないですよ。大丈夫だなって思ったら教えてください。島くんがいうならきっといい子なんでしょうし、友達になりたいので」

「おう!」


なんというか気が早い島は、はやく授業終わらねえかなとホームルームもまだなのに浮かれている。和波は苦笑いした。そして先生が入ってくると同時に近くの椅子を引く。


『で、誠也くんよ、いいのか?明らかに人間じゃないじゃねーか、どうみてもデュエルモンスターズの精霊だぜこれ?ほっといてもいいのか?』


デュエルディスクにメッセージが表示される。和波は周りの視線を気にしつつ返した。いま、この教室に精霊プログラムをダウンロードしている人間がどれだけいるかわからない。HALの声が聞こえるかどうかすらわからない以上、普通のAIとしての仕事をしてもらうことにした和波である。正直凄まじく不便である。


「知ってるよ。でもまだなんともいえないしなあ。《セキュリティ・ドラゴン》みたいに、ただ遊びに来ただけかもしれないし」


よんだ?とでもいいたげに不思議な光がはじけて《セキュリティ・ドラゴン》がやってくる。和波の頭にしがみついた。和波はあわてて《セキュリティ・ドラゴン》を捕まえると机の下に隠した。


『およびじゃねーよ、帰れ』


やだ!とばかりにしがみついて離れない。和波は冷や汗だ。周りを見るが幸い気づいた人はいないらしい。


「あとでまた遊んであげるから、もうちょっと待って?ね?」


ほんとかと目が訴えてくる。


「ほんとだよ」


名残惜しそうにちらちらしながら、《セキュリティ・ドラゴン》は姿を消した。はあ、と和波はためいきである。和波のところに来てから構ってほしがりの精霊はずっとこの調子である。


『しっかしまたかよ、島くん。フィーアといいウィンといい、ああいう手合いに懐かれるのかね』

「島君と相性がいいんですよ、きっと」

『でももう二度も巻き込んでんだ、三度は目に見えてる。注意しろよ』

「うん、わかってるよ、もちろん」

『あのアバター、配布されてるパーツじゃ作れないからな、100パーセント自前だ』


和波はうなずいた。なんのためにゴーストのアカウントでも繋がったと思っているのだ。ウィンによく似たアバター、警戒しないにこしたことはない。


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