彼女は探していた。風が教えてくれたのだ、これは懐かしい故郷の気配がすると。彼女が村を出たのは、後継者という決められた将来と窮屈な生活に嫌気がさしたからだ。世界をとびだし、OCG次元という別のデュエルモンスターズの精霊世界に迷い込んだ彼女は、似たような性質をもつ少年少女たちと出会う。切磋琢磨し、そして大人になった。そんな中、彼女の故郷がデュエルモンスターズのカードとなることがわかり、断片的ではあるが残してきた妹や父、故郷の人たちがどうなったのか知ることになったのである。
昔、戦争があった。彼女の幼き頃にも伝承としては存在していたが、はるか宇宙から飛来した侵略者たちは彼女の世界の住人に感染し、全く違う姿につくりかえてしまうおぞましいものだった。彼女の一族もそのあらそいにまきこまれ、全滅、あるいは行方不明になってしまった。争っていた所属は互いに手を取り合い、なんとか撃破して世界に平和が訪れた。だが、その悪意は潰えておらず、共倒れした戦士の体を糧に繁殖、今度は死体を傀儡する新しい種族が誕生してしまう。あらゆるものを取り込み、肥大化し、神すら取り込んだ。そこに生き残りの種族たちは力を合わせ、なんとか撃破することに成功する。世界は神なき時代を迎えたといわれている。ただ彼女は気がかりだった。1度目の戦争で命を落としたはずの妹が2度目の戦争で傀儡となり、平和になった時代に復活しているのだ。すでに彼女の一族はない。混血が進み、末裔しかいないほど時間が経過しているにもかかわらず、妹は別れたときと同じような姿をしている。もし生きているのなら会いたい、そう思ったのだ。
彼女がこの世界に来るのは初めてだった。すべてが電子化された世界。虚構の世界。彼女がよく知っている故郷とよく似ている。世界のすべてが小さなパソコンの中のゲームとして存在している世界。デュエルターミナルというゲームの世界から脱出して、デュエルモンスターズの世界にまでダイナミックな家出をした少女は、懐かしい気配に無性になきたくなってしまう。デュエルターミナル世界は時間の流れがデュエルモンスターズの世界よりもはやいようで、彼女の知っている人間はすでに人間ではなくなっているであろう妹しかいないとしても。一目みたい、会いたい、遠くでいいから確認したい。ささやかな願いを叶えてくれると知ったとき、彼女は元々デュエルターミナルの出身である自身の来歴を悪用し、アカウントをねつ造して、ログインを果たしたのである。だれもが精霊プログラムをダウンロードしている今、彼女のようにアバターのふりをしている精霊となりきり決闘者の違いを見抜くことができる者などどこにもいないのだ。
「イントゥーザブレインズ!」
可憐な声が響く。ログインポットの中には誰もいないが使用中というランプは点灯したままだ。
「さて、どうしましょうか。プチリュウ、ガスタの気配はどこから?」
「きゅい!」
ぱたぱた羽を羽ばたかせ、竜は鳴く。彼女は遙か上空からゆっくりと地面に降り立った。
「《霊獣》……《ガスタ》の子孫たちですよね、たしか。今、コードオブザデュエリストで新しいリンクモンスターが出たはずだから、あの子たちのデッキを使ってるスタッフさんがいるはずですよね。そっか、なら、会えるかもしれない!」
「きゅきゅい!」
「はい、がんばります!」
スタッフなら精霊プログラムをダウンロードしているはずだ。なにかしら相手は感じ取ってくれるんじゃないだろうか、マスターさんたちはきっと彼女のことをよくできたなりきりアバターだと思うだろうけれど。
「よーし、まずはスピードデュエルの練習ですね。勝てるように頑張らなくちゃ。ふふ、みんなびっくりするでしょうね!マスターが私なんて」
精霊が精霊の宿ったデュエルモンスターズをする、なんてややこしすぎる展開だが、気づくならよしきづかないならそれでもよし。気合い十分、彼女はさっそくリンクヴレインズで経験値を積むべくフリー相手を探し始めたのだった。
「すいません」
「ん?」
「あの、すいません。私、ウィンと申します。いま、フリーの対戦相手を探しているのですが、スピードデュエルのお相手をしていただけませんか?」
「いいぜ」
可憐な少女モンスターのアバターである。中の人が男だろうが音声まで女性という念の入れようなら優しくしたくなるのが悲しいかな男のサガである。適当に声をかけた青年は気安く応じてくれた。
「よかった、初めてなのでお手柔らかにお願いします」
「おうよ、胸を借りるつもりでやってみな」
「はい!」
花咲くような笑顔に青年はデレデレだ。ぺこりとお辞儀をした彼女はデュエルディスクを構えた。そして二人にDボードが召喚される。二人はDボードに乗り込み、ここのところ荒れ狂うサイバースの風にのる。
「「スピードデュエル!」」
互いの目前にスピードデュエル専用のフィールドがホログラムで出現する。デュエルディスクのモニターが彼女の先攻を知らせている。
「私のターンですね!いきますよ!」
「ああ、かかってこい!」
(はじめてのリンクヴレインズの対戦相手がやさしそうな人でよかった)
ウィンは笑顔をかくしもしないでデュエルに集中する。
(あんなかわいいアバター使う子
とデュエルできるなんて、リンクヴレインズやっててよかったー!後で絶対フレンド交換しよう!)
ブレイブマックスは決意を固めたのだった、