「精霊プログラムの正常化はこれで完了したわけだから......えーっと、あとはボクの偽物のデータを......っと」
完全に破壊されたこのアジトのネットワーク。繋がれていた回線をたどっていくと、別の部屋にデータの貯蔵庫というべきスーパーコンピュータがあった。
「さあて、いきますか!」
別の非常電源が起動され、バックアップを生成しているらしいスーパーコンピュータ。突然エラーを起こしてシャットダウンしたサーバーに原因を教えてくれとAIが繰り返しメッセージを送っているのが見えた。
「これくらいならボクにだって出来るからね」
データチップを挿入し、さっき別の部屋でツヴァイから回収したカードキーを入れ、そのままパスワードを素通りしてデータを回収し始める。
「うわあ、容量ギリギリじゃないか。どれだけゴーストとワナビーのデッキデータ収集してたのさ、きもちわるいなあ。悪いけどボクのバックアップデータとして有効活用させてもらうからね」
表示されたダウンロード時間は15分程だろうか。結構長いなあ、とため息をついたワナビーは他に閲覧すべきものはないか、中にダイブすることを考え始める。
「それは現実世界に君というアバターを使って、イグニスに代行してもらうためかしら?」
ワナビーはびくっと体が飛び跳ねた。先送りしている問題についていきなり知らない女の声で問いかけられたのだから無理もない。ワナビーとHALしか知らないはずの約束を知っているとすれば、それはグレイ・コードだけだ。
「誰?」
振り向いた先には白衣を着て、体を預けている女性がいた。一瞬姉を空目するが、彼女はHALとワナビーが入れ替わってもわからない。明らかにここにいるのがワナビーだと断定できるとすれば、それは工作員出身のかつての仲間しかいないのだ。
「はじめまして、になるわね、私はゼクスと呼ばれているわ。《星杯》デッキとその派生カードたちを活躍させてくれてどうもありがとう」
「ゼクス......ゼクスってまさか、このデッキをつくったカードデザイナーの!?」
「さすがね、そこまでわかっているなら話が早いわ。どう?使い心地は」
「......グレイ・コードですよね?しかも僕達の敵の潜伏工作員だなんて。ずいぶんと余裕なんですね」
「ええ、そうよ。でも私がデザインしたテーマカテゴリを新人だからというその理由だけで改悪して、ただのノーマルカード、しかもバニラテーマにするから悪いのよ。本来の姿に戻してあげるために、活躍の場を与えてあげるために、舞台を用意してあげるのは作り出した者の義務であり悲願じゃないかしら?」
「......燻ってるから、寝返ったパターンですか」
「そうともいうわね」
「......SOLテクノロジー社にたくさんいる人だ」
「そうね」
「ボクはあなたみたいな人が1番嫌いです」
「私は別にあなたに興味はないわ。ただ《星杯》デッキの使い心地がどうか聞きたいだけよ」
「......」
「どうせ15分もあるんだもの、少し話さない?」
ゼクスは余裕たっぷりの笑みを浮かべて、ワナビーを見つめたのだった。