「あはは、勝っちゃうんだ。やっぱりHALはすごいなぁ。僕より僕らしいや。あたりまえかあ、僕の代わりに和波誠也ずっとやってくれてたんだもんなあ」
心に咲かせたネガティブな花を自覚しながらワナビーは小さく呟いた。数えれば切りのない多くの負け目が、皮膚のようにへばりついている。心のひけ目が、水のように胸を冷していく。
「何年だっけ、お姉ちゃんにバレる前だから2年?3年?忘れちゃったや......でもドミノ町での和波誠也はHALなんだもんなあ......僕じゃない。逃げた僕がそもそも悪いんだけどさあ」
鬼塚がゴーストの中の人がいつもと違うことに気づかないのにザワザワしてしまう。
「あはは、なにを言ってるんだろう。なにを今更......今までそんなこと気にしたこともわからないのに」
弱々しい未練いっぱいの訴えが胸の中にふつふつと湧き上がってくる。だめだ、ナーバスになってしまっている。そのうち一日起き上がれないくらいのショックで嘆き悲しむ自分がいるようで笑えない。
捨てられた子供のようにわめき散らして嘆きたい衝動にかられる時期はとうに過ぎている。
もしHALが今ここにいたら、なんて身勝手な野郎だクソガキと腹をかかえて笑うに決まっているのだ。お前の言うことはもっともだが、俺様が嫌いだって、いやになったんだってんなら、オサラバするか?まあ断わるけどな!考えたって同じことだろ!と笑い飛ばしてくれるに違いない。
怒濤のようななげきにおそわれてしまい、ワナビーはHALの名前を何度も呼んでしまう。
「やっぱりだめだ、このままじゃあダメだ。やっぱり僕はどうしようもないレベルまでHALに頼り切ってしまっている。離れられたらまともに生きられないのは僕の方だ。まだまだ時期が早すぎるよ、HAL......もうすぐ時が来るからどっちか選べって言われても僕は......ぼくは、ずるいよHAL......!」
HALに何度も現実世界で生きていくかHALとともに電子体として生きていくかそろそろ選べばと言われていることを思い出してしまう。ついつい先延ばしにしてしまう思考回路はいい加減やめたほうがいいのかもしれないと思い始めている。
「......どうしようかなあ」
誰かに相談したってやめた方がいいと引き止められるに決まっている。イグニスに好意的な尊だって現実世界で生きていく方がいいというのは目に見えている。
「......やっぱり自分で考えなきゃなあ」