「穂村くん、僕から藤木くんに連絡いれましょうか?」
「いや、いいよ、やめてくれ。playmakerからは僕から接触したいんだ」
「わかりました。放課後ですね?」
「うん、ありがとう」
「そろそろチャイムがなります。行きましょうか」
「うん」
二人は立ち上がる。
「僕さ、引きこもりだったんだ」
「?」
「詳しい話はあとでするけど、和波くんのこと僕が一方的に知ってるのは悪いから先に話しとく」
「え、そんな。僕は大丈夫ですよ」
「まあ聞いてくれよ。10年前の事件のあと、僕は引きこもりがちになったんだ。不霊夢が僕のところにきたのはハノイの塔のころ、サイバース世界が襲撃されてなんとか逃げてきたときだった。ネットに繋がってない安全地帯を求めて来た。その時僕は初めてロスト事件の真相を知ったんだ。そして、playmakerたちのことも」
穂村は苦笑いする。
「結局、一歩踏み出すのに葛藤があって今までずれ込んじゃったんだけどさ。不霊夢のためにもサイバース世界を襲撃した犯人探しと仲間のイグニスを探したいんだ。元気付けてくれたのがplaymaker、藤木遊作くんなんだ」
「なるほど、わかりました。それならなおさら君が藤木くんにお話しないといけないですね。気持ちはわかりますよ。僕もplaymakerの大ファンなんです」
ニコニコ笑う和波をみて穂村はゴーストじゃなくて良かったと改めて思うのである。
「何かあったら連絡くださいね」
「うん、そうする。ありがとう」
「はい。それじゃ行きましょうか」
「ああ、そうだ。和波、君に聞きたいことがある」
「はい?」
「二ヶ月間前からゴーストにうちのsoulburnerもつきまとわれてるんだが、ゴーストからの情報でイグニスの複製をplaymakerが匿っていると聞いたんだが本当か?できたら会いたいんだが。サイバース世界が襲撃された今、複製とはいえ安否が心配なんだ」
「ああ、はい、そうですよ。フィーアちゃん……さっきのマテリアルにあったアナザー事件で僕たちが保護したフェッチ事件の被害者の女の子、彼女とおなじ施設に保護されてます」
「そうなのか」
「はい、複製の彼は、すでにサイバース由来の体を獲得し、第3の記憶を植え付けられているのでもはやイグニスとはいいがたい存在です。フィーアちゃんは肉体がすでになく電子霊の状態なのでネットから隔離するためにもサイバースの体を得て現実世界に保護した方がいいと判断しました。元気だとは聞いてますけど、不霊夢くんの気持ちはわかります。藤木くんとお話が終わったら、一緒にいきましょうか」
「ああ、ありがとう。そうしてくれると助かる」
「段取りはしておくので、また声かけてくださいね」
「うん、わかった。ありがとう」
「いえ、気にしないでください。きっとフィーアちゃんも彼も喜ぶと思いますから。気にかけてくれる人がいるってやっぱり違いますもん」
チャイムが鳴り響く。和波たちは慌てて屋上を後にしたのだった。
そして時間は流れ、放課後。選択科目で離れていた和波は、遊作たちを見つけることができた。玄関で待ってるとメッセージがあったのだ。穂村と接触したばかりらしい遊作はまだ警戒心をあらわにしているが和波は気にせず二人に玄関で声をかけた。穂村は落ち着かない様子だったので和波を見つけてホッとしたように笑う。二人のやりとりを見てすでに接触済みだと把握した遊作は眉を寄せたがほんの少しだけ警戒心を緩めた。
「遊園地?」
「はい、今、フィーアちゃんたち遊園地にいるそうです。どうします?彼もスタッフとして同伴してるらしいですが」
遊園地を運営する資産家が年に一度施設の子供たちを招待しているらしい。時間を確認したらしく、今から真っ直ぐに向かえばまだ間に合うという。
「まだこいつらの話を聞いてない、また今度にしないか」
「いやいや話をするなら遊園地でもできるだろう。イグニスの複製と話をするのは早い方がいい」
「どこでするんだよ、不霊夢。遊園地なんて人混みだらけで話をする場所なんて」
「あるじゃないか、あそこだ」
「?」
「観覧車?」
「おいおいまじかよ」
「男3人で観覧車……」
「確かにあそこなら人目にはつきにくいか」
「え、ちょ、遊作ちゃん本気?」
「そちらの要求も満たせて俺も話ができる。なんの問題もない」
「……え、ほんとに?」
「……男3人で観覧車」
和波は顔を引きつらせながら観覧車を見つめていた。
「彼がイグニスの複製……」
「どうみても普通の人間だな」
「ああ、グレイ・コードの幹部が身勝手な理由で死んだ息子の魂をいれる器にしてたんだ。魂に拒否されて今彼の中には無理やり蘇生された苦しみと植え付けられた記憶しかない。お前たちの同族だがもうほとんど人間だ」
「よかった、ゴーストのいってたことは嘘じゃないらしい」
「よかったな、不霊夢」
「ああ」
ひとりの少女が和波たちに気づく。施設の職員が笑顔で手招きする。和波たちはそちらに向かい始めた。待ち切れないのか彼女はそのまま一直線に和波のところにかけよる。そして抱きついてきた。
「誠也お兄ちゃん!」
「久しぶりです、フィーアちゃん。元気だった?」
「うん、元気!誠也お兄ちゃんは?」
「僕も元気だよ」
「えへへー」
頭を撫でられて花のように笑うフィーアと呼ばれた少女は、和波に抱きついたまま顔を上げた。
「あ、遊作お兄ちゃん!」
「ああ」
「草薙お兄ちゃんは?」
「草薙お兄ちゃんはきてないんだ、ごめんね」
「えー」
「でも今日は友達連れてきたんだよ、フィーアちゃん。紹介するね、同級生の穂村尊くん」
「や、こんにちは」
「こんにちは!誠也お兄ちゃんのお友達なら私もお友達になりたい!尊お兄ちゃんて呼んでいい?」
「うん、いいよ。よろしくね」
「うん!ねえ、尊お兄ちゃんもAIのお兄ちゃん連れてるんでしょう?お名前は?」
「えっ……あ、そうか。この子がフェッチ事件の被害者で体をサイバースで作り直したんだっけ」
「はい」
「あーっと」
「はじめまして、フィーア。私は不霊夢。漢字で不屈の魂夢にあらずと書いて不霊夢だ」
「不霊夢くんね、よろしく」
「ね、フィーアちゃん。最近変わったことない?精霊たちが騒いでるとか」
「えっとね、誠也お兄ちゃんたちがリンクヴレインズ平和になってからみんなおとなしかったんだよ。でもね、でもね、最近みんな怖がってるの」
「ほんとに?」
「うん。変なやつがいるって」
「変なやつ?」
「うん。だからフィーア、電気の近くに来ちゃダメだよってみんないうの。テレビ見れない」
フィーアはむくれる。
「お迎えが来ちゃうからダメだよって」
「お迎え!?まさかグレイ・コード?」
「わかんない。アインスお兄ちゃんたちはもう会ってないから。フィーアが知らない子かもしれない」
「そっか……フィーアちゃん。よかったらデュエルディスク貸して?」
「うん、いいよ」
フィーアからデュエルディスクを受け取った和波はHALに全てのデータが転送されるよう設定をいじる。これでなにかあってもすぐ反応できるだろう。
「できた。これでいつでもフィーアちゃんのところにかけつけられるよ」
「ほんとに?ありがとう」
フィーアはうれしそうだ。やはり不安だったようである。そして施設の職員と長らく話し込んでいた遊作はようやく戻ってきた。真剣な眼差しから紡がれる話を要約すると、どうやら彼もフィーアと似たような状況らしい。
仁の意識が奪われて昨日の今日である。遊作は穂村からの話が聞きたいようで足早に観覧車にみんなを急かしたのだった。