vsリンクシャドール

遊園地についてから和波はどこかそわそわしていて落ち着きがなかった。高校生3人の男子生徒が遊園地に来ていることに一部がテンション下がっていたから和波もその類なのだろうと思っていた。

ずっとデュエルディスクを手放さない和波、フィーアと手を繋ぐ和波、観覧車でもデュエルディスクを膝に乗せたままだった。片時もデュエルディスクを手放さない、誰かのそばにいて一人になろうとせず手を繋ぐ。どこか子供っぽいからテンション上がりそうな和波がいつになく落ち着いていた理由に、直前まで遊作は気づく事が出来なかった。

観覧車のはるか下で元気いっぱい手をふるフィーアが突然いなくなっだ瞬間、和波は立ち上がりフィーアちゃんと叫んだのだ。いよいよ顔が色をなくした和波は、初めからわかっていたかのように迅速だった。カバンを遊作に預け、端末を広げたかと思うといきなりログインしたのだ。

ああそうか、ここは和波にとって誘拐された現場と全く同じ状況なのかと気づいたのは、和波がフルダイブした後だった。観覧車には呆然としている穂村とアイ、そして遊作、HALがいるだけだ。穂村は突然いなくなった和波とHALをみて絶句している。

「気づかなかったのか、尊。和波は私達と同じサイバースのデータで構築されている。フルダイブは可能だ」

「は?なんだよそれ、まるでそれじゃが和波くんが《サイバース族》みたいに聞こえるんだけど!」

「事実だ」

「こんなときにふざけてる場合かよ!」

「落ち着け穂村、不霊夢のいってることはあたってる」

「ええっ!?」

「今説明するから黙ってろ」

「あ、うん、ごめん」

どういうことだと穂村は遊作を見る。和波から託された端末を片手に遊作はためいきをついた。話は長くなりそうだ。観覧車はまだ登り始めたばかりだというのに。


「うわ、なにこれ趣味悪いなあ」

張り巡らされたきらめく糸。フィーアのデータをがんじがらめにして連れて行く糸。追いかけて行った先で和波が見つけたのはお人形さんだった。真っ黒に塗りつぶされたお人形。

「……ねえさん」

「悪いけどフィーアちゃんは君のお姉さんじゃないと思うな」

「……ねえさん?」

「僕も違うよ」

デュエルの最中に衝撃が飛ぶ。ダメージを受けたプロテクトが外れて、人影は緑のあどけない少女を映し出す。和波は愕然とした。

「ウィンさん?」

「たしかにあいつも精霊だが様子がおかしいぞ。だいたいアイツはお姉ちゃんとこだろーが」

「あ」


紫色の服を身に纏う緑髪の少女は、デュエルの成立の宣言と同時に先攻を奪取する。

「私は《マスマティシャン》を攻撃表示で通常召喚。このカードが召喚に成功した時に発動できる。デッキからレベル4以下のモンスター1体を墓地へ送る。私が墓地に送るのは《ダンディライオン》。このカードが墓地へ送られた場合に発動する。
自分フィールドに《綿毛トークン》2体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンは特殊召喚されたターン、アドバンス召喚のためにはリリースできない」

少女の前にリンクマーカーが出現した。

「我を導け灰色の法典(グレイ・コード)!召喚条件は植物族モンスター2体。私は《綿毛トークン》2体をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!リンク2《アロマセラフィー・ジャスミン》!」

少女のフィールドにリンクモンスターが降臨する。

「《アロマセラフィー・ジャスミン》のモンスター効果で《マスマティシャン》をリリースし《ダンディライオン》を特殊召喚!」

少女はふたたびリンク召喚の構えだ。

「私は《ダンディライオン》とリンク2《アロマセラフィー・ジャスミン》でリンク召喚!リンク3《サモンソーサレス》!さらに《綿毛トークン》2体を特殊召喚!《綿毛トークン》を対象に《サモンソーサレス》のモンスター効果を発動、《グローアップバルブ》を特殊召喚。《グローアップバルブ》と《綿毛トークン》でリンク召喚!リンク2《水晶機巧クリストロン−ハリファイバー》をリンク召喚。さらに《シャドールファルコン》を特殊召喚!」

少女の展開は止まらない。

「導け、我が灰色の法典!私はリンク2《水晶機巧クリストロン−ハリファイバー》と《綿毛トークン》でリンク召喚!リンク3《暴走召喚師アレイスター》!そして《グローアップバルブ》を自己蘇生し、リンクマーカーにセット!リンク召喚!リンク1《リンクリボー》」

少女は緑のカードをかかげた。

「魔法カード《融合》を発動!《シャドールファルコン》と《リンクリボー》で融合召喚!《エルシャドール・ミドラーシュ》!ここで《暴走召喚師アレイスター》のモンスター効果を発動!手札を1枚切って召喚魔術をサーチ!発動、魔法カード《召喚魔術》!《暴走召喚師アレイスター》と墓地の《アロマセラフィー・ジャスミン》を除外し《召喚獣メルカバー》を融合召喚!」

少女の最終盤面は《サモンソーサレス》《エルシャドール・ミドラーシュ》《召喚獣メルカバー》となる。










サイバースの荒れ狂う風にすら揺らめきもしない糸の束をくぐり抜けながら和波は先をいそぐ。そんな中少女の先攻で展開されたフィールドをみて、眉を寄せた。

「playmakerのカードだね」

それが意味するのは、《サイバース族》を掌握するイグニスか、かつて搾取する立場にいたSOLテクノロジー社、グレイ・コード、そしてサイバース世界を襲撃した新たな勢力のいずれかが背後にいて彼女を支援しているということだ。

「任せろ、データ解析してやるよ」

HALはさっそく少女のフィールドを解析する。デュエルディスクにデータが表示された。

《サモンソーサレス》
リンク3/闇属性/魔法使い族/攻2400
【リンクマーカー:上/左下/右下】
トークン以外の同じ種族のモンスター2体以上
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。手札からモンスター1体を、このカードのリンク先となる相手フィールドに守備表示で特殊召喚する。
(2):このカードのリンク先の表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターと同じ種族のモンスター1体をデッキから選び、このカードのリンク先となる自分・相手フィールドに守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

「いいですよ、君がそのつもりなら。そのかわり悪く思わないでくださいね。今僕はひどく気が立ってるんだ」

「お、いくのか?」

「うん、やるよ」

「了解」

「発動条件はライフポイントが3000以上。僕はスキル《マインドスキャン》の使用を宣言」

和波の前に三段階の効果が表示される。

1伏せカード
2伏せカードと手札
3伏せカードと手札と思考

「僕は第3の効果を選択」

スキルに落とし込むことで呪縛から解放されていたマインドスキャンを解禁する。これでもライフが3000以下になれば使えなくなるのだ、制限がかかっているのは事実である。HALが制限を解除するプログラムを展開してくれた。

「お、飛ばしてくねえ」

「フィーアちゃんを攫った奴の情報が少しでも欲しいんだよ。まずはモンスター効果を見せてもらおうかな!」

和波はフィールドのカードを確認する。本来なら効果を使用しなければ相手に開示されないはずの情報が明らかとなる。

《暴走召喚師アレイスター》
融合・効果モンスター(制限カード)
星9/光属性/機械族/攻2500/守2100
「召喚師アレイスター」+光属性モンスター
(1):1ターンに1度、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、そのカードと同じ種類(モンスター・魔法・罠)の手札を1枚墓地へ送って発動できる。その発動を無効にし除外する。

《エルシャドール・ミドラーシュ》
融合・効果モンスター(制限カード)
星5/闇属性/魔法使い族/攻2200/守 800
「シャドール」モンスター+闇属性モンスター
このカードは融合召喚でのみEXデッキから特殊召喚できる。
(1):このカードは相手の効果では破壊されない。
(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、その間はお互いに1ターンに1度しかモンスターを特殊召喚できない。
(3):このカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

「なるほど、特殊召喚制限と手札をコストにした1度限りのあらゆる効果無効ですか。厄介だ。次は手札のカードデータの開示を要求します」

容赦のないチートスキルの猛威が少女を襲う。これで《暴走召喚師アレイスター》でなにを無効にできるのか和波はわかってしまった。

「準備できたぜ、誠也」

「わかった」

和波は意識を集中させる。映像なのかテキストなのか人により思考回路の姿は様々だが、それならそれに対応した処理をするだけだ。どうやら少女は映像で物を考えるたちだった。

「これはまたすごいね」

和波は眉を寄せた。

「精霊世界かな」

「……みてえだな」

「サイバース世界みたいに襲撃をうけたってとこ?笑えないね」

それは命尽きた戦士の亡骸が放置された場所だった。黒々と濁った光が核となるコアから這い出してきたとき、亡骸は真っ黒な鎧を身に纏う亡霊となり、歩き始めた。

さまざまなモンスターが正体不明の黒い生命体に飲み込まれていく。そして黒い光を放つ不気味なモンスターと化し、数を増やしていく。

争いがあってから随分と時間がたっているのだろう、荒れ果てた荒野。その先に緑豊かな自然がありウィンによく似た少女がいた。

「……この子は」

その場所が墓地でなければよかったのに。無数の糸が張り巡らされた紫のモンスターの中で唯一糸がない彼女は、どこかに向かうところだった。

「あの子だね」

「まさかこっちの世界に迷い込んできたとか言わねえよなっ!?」

「そこまでは読み取れなかったからわかんないよ。とりあえずフィーアちゃんを取り戻さなきゃ!」

和波は真っ直ぐに少女を見据えた。

「《エルシャドール・ミドラーシュ》、僕の友達、返してもらうよ!」

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