転校生、穂村尊

soulburnerは新手を退けることに成功したが、playmakerは仁の意識を奪った相手を逃してしまった。落胆したplaymakerは帰還し、和波とともに草薙の帰りを待った。概要を聞いた草薙はよくやってくれたと二人をねぎらってくれた。だが和波は見逃さなかった。和波を家の近くまで送ってくれた草薙がトレーラーをぶったたく音がしたのだ。マインドスキャンを使えば嗚咽の理由もわかったが和波は見ないふりをした。











「まず近くべきはゴーストだ」

「驚いたな、まさかこんな近くで活動してるなんて」

「全くだ。闇のイグニスは一体しかいない。その複製を持っているフェッチ事件の被害者は彼、和波誠也しかいないからな」

パソコンが苦手は穂村は不霊夢が調べ上げた結果を聞かされる立場だが、和波誠也をみたとき穂村はゴーストだと直感した。

「でもたしかにゴーストのまんまだな、面影がある。つかあのまま大きくなった感じだぜ?」

「なるほど、君みたいにリンクヴレインズだとキャラが変わるタイプか」

「こっちのほうがいいなあ、付き合いやすそう」

「今まで引きこもっていた君が人間関係の良し悪しを語るのか?」

「さっきから僕ディスるのやめろ」

「ほら、大事な1日目だぞ。挨拶はしっかりな」

「わかってるよ」

伊達眼鏡に笑顔、何度も練習したからいけるはずだ。先生に呼ばれて扉をあけると好奇心に満ちた中に和波の姿もある。寝てるのは藤木遊作だろうか。

「はじめまして、××から転校してきました、穂村尊です」

漢字を書きながら読み仮名をふる。ソンくん、と間違われないためだ。そしてホームルームは終わり、昼休みとなった。和波誠也は面倒見がいいようで早速声をかけてくれた。ロスト事件の被害者でsoulburnerだと知っているのだ、仲良くするに決まっているがやっぱり嬉しい穂村だった。

「穂村くん、道覚えるの得意ですか?僕覚えるのに半月かかっちゃって」

「あはは、和波くんは方向音痴なんだね。さすがにそこまで酷くはないかなあ」

「すごいや、たまに道間違えちゃうんで最近はこれ使ってます」

和波はマッピング機能を見せてくれた。たしかに迷うことはないだろう。初めから覚えること、改善することを放棄している和波に不霊夢は呆れ顔だ。パソコン関係を全て丸投げするどっかの誰かさんそっくりだと。

「売店と食堂がありますけど、どうします?」

「今日は売店の気分かなあ。みんなどこで食べてる?中庭とか?」

「あ、屋上いけますよ」

きた、と穂村は思った。わざわざ誘導してくれているのだ、乗らない手はない。


秋晴れだったはずの昼休みは、ぽつぽつの雨が降り始めてしまった。校舎の屋根の下に入り、雨と風を避けると、空に浮いた飛行船の影に包まれているような感じがする。最上階の踊り場から屋上に続く、ビルの壁に埋め込まれた垂直のハシゴに手をかけた和波は登っていく。穂村が辿り着くと、塔屋エレベーター関連のマシンルーム、空調機器を備えたもののように思われる機械が並ぶ。塔屋の上には、かなり多き目の貯水槽が備えられていた。

「雨、降ってきちゃいましたねえ」

「せっかくきたのにな。まあ人がいないのはいいけど」

「たしかにわりと人いるんですよ、ここ」

「へえ、そうなんだ」

「はい。だから隠れスポットでもあります、こことか」

どこから入手したのか南京錠の鍵を手にした和波は、あっさり鎖を外してさらに上のハシゴを登る。どうやら一番てっぺんらしい。たしかに見晴らしがいいが強い風が吹きすさぶ。なにかが始まりそうな予感がする。屋根はあるから問題ないが、高所恐怖症の人間には拷問だろうなと他人事のように思った。

「そーだ、穂村くん。部活は入ります?僕デュエル部なんですけど、デュエル好きなら入りませんか?」

「和波くんも部員?」

「はい、僕たちのクラス部員多いんですよね。財前さんと、直樹くんと、藤木くんと、僕。あと二組に鈴木くん。これで全部です」

「へえ、そうなんだ。興味あるなあ」

ブルーエンジェルにブレイブマックスにplaymakerにゴーストか、たしかに多い。多すぎるなんだこの濃さ。

「ほんとですか!?そういえば穂村くんてリンクヴレインズやってます?よかったらフレンド交換しませんか?デュエル部に入れば共有のサーバつかえますよ!」

「へえ、そうなのか。すごいなあ」

「はい、廃部寸前のところを財前さんがご家族に相談して最新機器を導入してくれたそうです。だから先輩たちより僕たち一年の方が多いんですよ」

「なるほど……あ、そうそうリンクヴレインズなら僕もやってるよ」

「ほんとですか!なら是非登録させてください!それとデュエルしましょう!デュエル部に入れば僕がコレクションしてるカードバンクに自由にアクセスできるようになりますよ」

「あはは、大盤振る舞いだな」

「新しい部員になってくれるなら是非!」

穂村にとっても渡りに船だ。フレンド交換をしたのち、デッキデータなどが穂村にも開示される。《星杯》を中心とした混合デッキをいくつかもっているようだ。どれもゴーストが使用しているのを見たことがある。最近、ようやく勝ちを稼げるようになってきた穂村はちょっとだけ嫌な顔をした。もちろん穂村はダミーデッキである。

「そろそろ食べましょうか」

和波はがさごそしはじめた。アンパンといちご牛乳がみえた。それはお昼ご飯というよりおやつなのではと思いつつ、その隙を狙い不霊夢は小声をとばす。

「尊、和波はイグニスを持っている」

「あたりみたいだな」

穂村も焼きそばパンの封を開けながら和波の話を待つ。あんぱんをいちご牛乳で流し込みながら和波が笑った。

「よかったら直樹くんに案内お願いしますよ?今日は特別授業でいつもの部室が使えなくて視聴覚室らしいので」

「あれ、和波くんは?」

「ごめんなさい、僕バイトしてるんです。ホットドッグ屋さんなんですけど、あ、藤木くんもやってるのでよかったら食べに来てくださいね」

「へえ、そうなんだ」

「はい、カフェナギっていうんですけど」

和波はそういいながら端末を差し出した。そこにはカフェナギの公式ホームページとSNSがある。ゴーストとplaymakerがやっているアルバイト、当然興味がわく。不霊夢が調べ上げた結果、店主の草薙翔一はロスト事件被害者草薙仁の兄だと判明した。昨日playmakerが追っていた敵が持ち去った意思データの本来の持ち主だ。おそらくplaymakerたちの活動拠点なのだろう。

「へー、放課後いくの?」

「はい!あ、もし今日行く気なかったら来てくださいよ。売り上げに貢献してくださいね」

ニコニコしながら笑う和波にそうさせてもらおうかなと穂村はうなずいた。ほんとですか!と和波は嬉しそうだ。

(ほんとにゴーストはあれがマジな性格だったのか疑問になってきたぞこれ。やっぱこっちがほんとの性格じゃ?)

ゴーストに散々振り回された二ヶ月間を思い出し、穂村はむしろそうあってくれと思うのだ。

和波誠也はほんとにいいやつだ。自己紹介したあと真っ先に声をかけてくれたし、引きこもりの手前勉強が万全とはいいがたい穂村に授業内容を教えてくれた。しかも今は学校案内を兼ねて昼飯まで。放課後の世話までやこうとしている。どうやってゴーストやplaymakerに近づこうか考えていた穂村にはありがたい流れだった。

ここまでゴーストとしてのセリフが出てこない時点でそうとしか思えない。だが不霊夢は疑問視していた。

(今の尊をみて笑ってるかもしれないぞ)

(まじでやめてくれ、僕落ち込むどころじゃ済まない)

和波は不霊夢と穂村に気づくことはなく、世間話がそこそこ盛り上がった結果雨が止みはじめた。

(ラチがあかない。もしかしたら待っているのかもしれないぞ)

(やっぱり?そんな気がしてきた)

今だに始まらない話にやきもきしはじめたころ、和波はふと真面目は顔になる。

「あの、穂村くん」

「なに?」

「僕、ゴーストじゃないですよ」

穂村は一瞬笑顔が固まってしまった。わなわな震えだした和波は真っ赤になる。

「やっぱり、やっぱり、僕のことゴーストだって思ってますよね?違いますからね、僕じゃないです。あれはなりすましなんですよおっ!」

「……へ?」

なりすまし、という想定外にも程がある言葉に穂村はぽかんとなる。

「HAL助けて」

「ぎゃはは、やっぱりそうなるんじゃねーか!ったくはじめっから俺様に任しときゃいいものを。自分で誤解とくんだって意気込んでたクソガキはどこの誰なんですかねえ」

闇のイグニスと構成プログラムは同じながら細部が異なる人工知能が顔を出す。不霊夢は反応した。

「君は誰だ」

「おーおー、出てきやがったな本体様のお仲間さんがよ。自己紹介は長くていけねーから省かせてもらうぜ。詳しくはこのプログラムでも見るんだな。ほらよ」

「……これは」

「おいおい不霊夢、受け取って大丈夫なのか?昨日のplaymakerの相棒みたいにならない?」

「ならないな、これはやつのバックアップ機能だ。……ありえるのか、単なるバックアップ機能が意思を持つだと」

「は、電子機器に自我を持たせるのがイグニスの特性だろうが。忘れたのかよ」

「なるほど、信じがたいがどうやらそうらしい。精霊プログラムの影響もあるなら可能か。見せてもらうぞ」

「ああどーぞお好きに。頑張ってダイジェストにまとめたからな」

「えーっと不霊夢?」

「とりあえずこれを見ろ、尊」

「わ、わかった」

それは15分程度の動画だった。和波誠也の過去、playmakerと協力体制を築くまで、そしてゴーストが和波の生体情報を使ってアバターを使う理由。一部始終をダイジェスト気味にわかりやすくまとめたものだ。食い入るように見ること15分、穂村はとりあえず和波に謝ることにした。

「ごめん、和波くん。僕、勘違いしてたみたいだ」

「勘違いするのも無理ないですよ。気にしないでください」

「うん、わかった。君もゴーストの被害者だってことがよくわかった。君とは仲良くなれそうだ、よろしく和波くん」

「はい、よろしくお願いしますね穂村くん」

「ところでなんで僕がsoulburnerだってわかったんだ?」

「あ、僕のデュエルディスク、藤木くんと同期してるんですよ。HALがアイくんのバックアップ機能なので。アイくん宛に不霊夢くんだっけ、メッセージ送ったでしょう?僕のデュエルディスクにも反映されるんですよ」

「なるほど、それは迂闊だったな。同じイグニス由来の人工知能なら読み取りが可能というわけか」

「悪く思わないでくれよ、不霊夢さんよ。こちとらグレイ・コードはまだ活動中なんだ。あらゆる可能性は考慮されてしかるべきだろ」

「いや構わないさ。イグニスの複製をグレイ・コードや和波が持っているとわかっていたのに解析される可能性を除外していた私の完全なる落ち度だ」

「待て、待て待て待て今なんつった不霊夢!playmakerにメッセージ送った?なに勝手に!」

不霊夢は笑う。

「パソコン音痴の君に言ってもムダだと思っただけだ」

「お前なあ」

頭を抱える穂村に和波は苦笑いした。
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