新生ゴーストB

「よお、誠也!やってるか?」

「あ、直樹くん」

「俺もいるぜー」

「鈴木くんも!いらっしゃい!」

「しっかし今日は閑古鳥が鳴いてるな、誠也」

「あはは、仕方ないですよ。今日から新生ヴレインズの本格稼働の日なんですから。みんな行きたいに決まってますって」

「ほんとは誠也も行きたいんじゃねーの?」

「店長休みなら店閉めちゃっても良かったんじゃね?」

「うーん、いつもならそうなんですけど、今日は一人じゃないから頑張りますよ」

ちら、と和波が後ろを見ると黙々とソーセージを焼いている遊作の姿があった。アルバイトをやりたいといい始めてから一カ月、草薙がつきっきりで仕込みからなにから手ほどきしていたから、ぎこちなさは残るが商品として売れるレベルの腕にはなってきた。

今日は草薙が弟の見舞いに行くとのことで一日いない。新生ヴレインズ稼働の日だから人があまり来ないだろうと見越しての判断である。

「あー、和波がいってた新しいバイトって藤木なんだ」

「なんだよなんだよ、なんでもっと早く言わなかったんだ、誠也!二人がバイトしてんなら通ったのによ」

「和波に声かけてくつもりでよったけどよかったな」

「だな」

「あ、なににします?」

「俺、ホットドッグマスタード抜き1つとコーラ、持ち帰りで」

「俺も同じやつでいいや」

「わかりました、ありがとうございます!待っててくださいね」

和波が遊作のところに向かうと葵とすれ違った。

「今日はやたらデュエル部の連中がくるけど、まさか和波余計なこといってないだろうな?」

「いってないですよ、藤木くん嫌だっていったじゃないですか。そこまで無神経じゃないですよ」

「ならいい。注文は?」

「マスタード抜きホットドッグ2つとコーラ2つお願いします」

「わかった」

遊作は焼きたてをつつみはじめた。

「なんだよ、藤木。よくここの店にいると思ってたら、常連じゃ物足りなくなってバイト始めたのかよ。いってくれたら売り上げに貢献してやったのに」

「いや、別に俺は」

「わかってる、みなまで言わなくてもわかってるよ、藤木」

「……」

遊作は肩をすくめた。どっかの誰かのせいでリンクヴレインズで遊べない、現物カードにも苦心する訳ありの一人暮らしの苦学生だという勘違いは継続中だった。

「ひどいですよ、直樹くん!僕のときは来てくれないのに!」

「イベントの時はきてるだろ!いつもバイトしてるから毎回きてたら俺がリンクヴレインズにいく時間がなくなっちゃうだろ!」

「それはそうですけど」

「まあまあ、今日は来てやったんだからいいだろ、和波。俺たち楽しんでくるな」

「はい、いってらっしゃい。あとで感想教えてくださいね、約束ですよ」

「おう!」

遊作から商品を受け取った二人は帰っていった。

「あーあ、直樹くんたちに誘われてたのに」

「誰?」

「え、島くんですけど」

「ああ、あいつ、直樹っていうのか。にしても名前でよぶのか、和波」

「はい、呼んでいいって。夏休み終わるまで直樹くんたちに会う機会がなかったですもんね、藤木くん」

「……」

遊作はふと作業を止めて考える。復讐ひと段落したしグレイ・コード音沙汰ないし和波と友達らしいことしてもいいのでは?と思い始めた。

「なあ、和波」

「はい?」

「名前なんだっけ」

「はい?」

和波は目が点になる。

「誠也ですよ?」

「なら誠也……いや、和波でいいか」

「は、はあ」

「聞きたいことが3つある」

「はい?」

「1つ、手を握るのは友達か?」

「え?いや、直樹くんみたいに肩叩いたり、こう挨拶したりはしますけど、手を握るのは恋人では?」

「2つ、泊まるのは友達か?」

「僕よく泊めてますからそうですね」

「3つ、一緒に帰るのは友達か?」

「はい、友達だと思いますよ」

「つまり、俺とアンタは友達ってことか?」

「そうですね、僕たちは友達だと思われてるし、僕もそうだと思ってますよ」

「なんだ、そうか。大したことないな」

「あはは、いきなりなんですか、藤木くん。びっくりしたじゃないですか」

「いや、なんとなく。ダメか?」

「僕はどっちでもいいですよ、和波でも、誠也でも」

「俺も別にどっちでもいいが、今更な気がする」

「あー、わかります。急に呼び方変えちゃうと違和感感じちゃうというか」

「じゃあ和波でいいか、友達なのは変わりないんだから」

「そうですね」

完全に客足が途絶え、和波はライブビューイングの新生ヴレインズをみはじめる。遊作も視線を投げた。

「まだログインしちゃダメですか」

「まだだめだ、草薙さんもいってただろ。今の和波は素顔晒してなりすましが悪事働いたせいで指名手配と同じなんだ。俺はいい、アバターだからな。でもゴーストはよりによって素顔だ、知ってるやつならすぐわかる。SOLがBANしまくってるがゴーストに効果ないのは変わりないからな」

「バウンティハンターの脅威が確認できるまでダメなんて……」

「我慢しろ、さすがにやばいのはわかるだろ。その間はバックアップ頼む」

「うう、わかりましたよっ」

あからさまに落ち込む和波に遊作が軽く笑ったところで、草薙からの着信がはいる。鬼気迫る声色に二人は顔を見合わせた。


草薙仁の病状は回復傾向にある。奇しくも昨日、見舞いにいくという話のついでに草薙から聞かされたばかりだった。ハノイの騎士が壊滅し、ロスト事件関係者は行方不明だが首謀者がすでに死んでいて、リボルバーがイグニスの抹殺に熱心な以上、二度とロスト事件は起こらない。草薙が見届けた全てを伝えたていたことは聞いていた。それが仁の精神的な回復に貢献したのはまず間違いなかった。この調子でいけばアルバイトが一人増えるかもしれない、嬉しそうに笑う草薙に、遊作と一緒に喜んだばかりなのに。

突然出現した正体不明の黄色い精神体が仁の精神を奪い、リンクヴレインズに逃げたというのだ。今、仁は昏睡状態なのだという。ほかに頼りにやる奴がいない、助けてくれと草薙が連絡してきたとき、遊作たちの行動は早かった。今までになく己の無力に打ちひしがれ、絶望感に苛まれている草薙の声は行動に起こすには十分だったのである。

遊作はリンクヴレインズにログイン、和波は閉店手続きを済ませて、いつもの草薙のポジションに落ち着く。使い方はわかっているし、いざとなったらデュエルディスクをつないであるからHALにお願いすればいい。

和波はplaymakerの動向をおいはじめた。モニタのあらゆる方向からplaymakerの捕捉を完了する。よしいける。これならなんとかサポートできそうだ。草薙が遊作に提供した最新のDボードはどうやらこのモニタと連動しているらしい。さすがである。調べてみたら和波のものも紐付けされているようだ、たすかる。

和波はキーボードを叩きながらplaymakerの後方を支援する。

「データストームは強制ログアウトできるんだっけ?playmakerにはいい仕様だね」

自由にデータストームが起こせるアイがいればと考えていたら、HALが反応した。

「お、本体様のご帰還だぜ」

「え、どこどこ?」

「サイバースのやつと一緒だ、デュエルディスクみてみろよ」

和波のデュエルディスクがアップデートを開始した。アイがサイバース世界から帰還したのである。

「わざわざ帰ってくるってことは藤木くんの力が必要になったんだね」

「たぶんな」

キッチンカーで一人和波はつぶやく。


「世界の終わりってのはこのことか、笑えねー」

モニタに広がるアイの記憶にHALはショックを受けているようだ、もとはアイと同一の個体である。当然だ。

「ひどい……一体誰が?」

「5年前になんかあったか、それともアイがデータマテリアルを始めて解放したあのときか」

「playmakerが初めてストームアクセスを使ったとき?」

「ただしくはスピードデュエルをするためにサイバースの風を呼び込んだ時だ。その気になりゃあの細い穴を抜けて襲撃もありえるぜ」

「……みんなどこいったんだろう?」

「さあなあ。アイみたいにロスト事件被害者に逢いにいったとかか?」

「スピードデュエルが解禁されたときにイグニスが逃げ出したとしたらハノイの塔やアナザーに巻き込まれて共闘したってこともある?」

「俺様やアイみたいにうまくいきゃーな。サクスん時みたいにうまく行かなかったら悲惨だぜ」

「仁くん攫ったのはもしかして」

「イグニスだろうな」

「にしちゃなかなかの暴走具合だから、対応してるイグニスにしちゃおかしい。仲間とは思えねーな。あいつみたいに図体でけえやつはいたが性格が違う。干渉受けてプログラム改造なりされてりゃ話は別だがね」

「ほんとにイグニスじゃないの?」

「どっちともいえるから困る」


「それより俺様が気になるのは、さっきから覗き見してるクソガキだ」

「え、どこ?」

「ここだ、ここ」

「あ、ほんとだ」

「あの男の仲間か知り合い、いや指示出してんのはあっちか?こりゃ中身は人間であの男がイグニス?いや、あの姿自体誰かのアバターから生成してんならイグニスの可能性もあるな」

ロスト事件の被害者とイグニスの想定されうる関係は多岐にわたる。社会復帰できているならまだましだが仁のような状態の場合、会わない方がましだったという場合もあるだろう。どのみちなぜイグニスがロスト事件被害者に接触し始めたのかおいかけなくてはならない。

そしてplaymakerと仁の魂、あるいは意識を奪った男のデュエルが終わりを告げた。

「……記憶がない、かあ。どっかで聞いたことある話だね」

「ほんとにこいつ人間なんですかねえ」

「イグニスとか?」

「AIって線もあるぜ、新手は人工知能だ」

「……ねえ、さっき兄さんって」

「記憶ねえのに兄弟ってわかるのか。訳ありかよ、そのわりにイグニス対策にウィルス仕込むとか徹底してやがるぜ」

そして勝利したのに逃げられ、playmakerは追撃を続ける。新たな妨害者が現れ、playmakerは苛立ち叫ぶ。そのとき雷鳴が轟き炎が舞った。

「あれは……」

「噂をすればなんとやらだなあ」

「あーもーボクも行きたいー!」

「今日は我慢しやがれアホ」

playmakerとsoulburner、ここのところゴーストにつきまとわれている被害者たちが揃ってしまった。あそこにいないことが和波は残念でならない。忘れようがない通い続けたロスト事件被害者たちの独房。顔と名前は覚えている。対応するイグニスはひとつだけだ。あの色はきっと穂村尊。

「楽しみだなあ、ボクには接触してくるのかしらん?」
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