真夜中である。まだかなまだかなとスマホを弄っていた和波だったが充電の表示がでたため延長コードをのばす。いざ準備完了となった瞬間に通話アプリが起動したものだから驚いてスマホが変なところにとんでいってしまう。和波は手探りでスマホを手にした。
「もしもし」
「ああ、夜遅くにすまない、俺だ。藤木遊作」
「こんばんは、藤木くん。どうしたんですか?こんな時間に」
「実はついさっきゴーストにあった」
「ゴーストにですか?よかったですね、いつも藤木くん楽しそうだし。いいデュエルできましたか?」
「ああ、まあ。それより、ゴーストがお前のアバターをつかってた」
「はい?」
「和波のアバターだった」
「え、ゴーストがですか?ワナビー使われちゃったとか?」
「いや、違う。リアルの方だ。6歳くらいの和波だ。……ユーレイさんと俺が呼んでた頃の和波だ」
「………………えええっ、ちょ、待ってください藤木くん!言ってることむちゃくちゃですよ!?」
「俺もわけがわからない。なんで今ユーレイさんをする必要がある?和波に迷惑がかかるのわかってるのになんのために?さっぱりなんだ。和波、明日リンクヴレインズに行くのは少し待ってもらってもいいか?」
「えー、島くんと約束してるのに」
「事態が事態だ、先走るなよ」
「……わかりました」
「じゃあ明日学校で」
「はい、おやすみなさい」
アプリを終わらせた和波はこみ上げる笑いのままベッドに倒れこんだ。
「楽しかったなあ」
遊作の驚く顔が見れたし、案外やっていけるかもしれないという単純極まりない思考回路のまま、和波の眠れない夜はすぎていく。
それは数時間前に遡る。新しいデッキお披露目でテンション上がり気味なゴーストによるお誘いに、playmakerは食いついたのだ。
広がるデンシティの夕暮れにplaymakerはギョッとしていたが、目の前に少年がいたからそっちに意識が向いてしまう。
「やあやあ、playmaker!二ヶ月ぶりだね、元気してたかい?」
その声に思わずユーレイさんなんてplaymakerのキャラに合わないやたら可愛らしい単語がこぼれた。
「よしよし、君がしっかり反応してくれるってことは、あの時ボクが閉じ込められてたアバターはこれであってるみたいだね」
「ゴーストか」
「そーだよ、ユーレイさんことゴーストだよ。せっかくリンクヴレインズが新しくなるし、ボクもアバター新調しようと思ってね。由来となるアバターつくってみました。どう?」
遊作の目の前には、ロスト事件の半年間遊作のところに廃人寸前になるとは放り込まれた電脳体の和波誠也がいる。ただしくはその生体情報を元に作られたアバターだ、和波は遊作のところに来た記録はなかったのだから。もっともそれはHALの捏造ありきの使用履歴だがplaymakerたちがしるはずもないので、ゴースト
自ら用意した筋書き通りに笑うのだ。
「そっくりそのままだからコメントしにくい。なんて反応すればいいんだ」
「反応うっすいなあ」
「驚きを通り越して呆れてるんだ。なに考えてるんだ、アンタ。何の用だ」
「いやあ、だってさあ。今ボクはすごくデュエルしたい気分なんだ!広いでしょ、ここ。グレイ・コードのかつての本拠地のひとつだよ。今は使わせてもらってるけどね。それにしてもさあ、あと一月が待ち遠しいね。ログインするだけでみんなデュエルしてくれるって素敵だと思わない?」
「追われてるみたいだがなにやらかしたんだ」
「えーっとね、イグニスの複製手に入れたら目をつけられちゃったみたーい、あはは」
「SOLテクノロジー社が?」
「そ。なんかね、サイバース世界がネットワークに再出現してもサーバ能力戻らなかったらしいよ。大変だね。だからさ、君も指名手配だよ、やったねplaymaker!お揃いだ!」
「……は?」
playmakerの目が点になる。
「みてよこれ、よく撮れてるよね。ロスト事件の機材で使われてたフォント使うとかほんとおちょくりすぎ」
playmakerは表示された自らの指名手配データを見る。
「SOLテクノロジー社手動でロスト事件起こしたこと隠す気もないとか」
「……なるほど、だからここに呼んだのか」
「そ!本格的にリンクヴレインズが始まったらゆっくりデュエルできそうにないからね!主にボクがイベントに出る意味で!」
夕暮れのデンシティが広がっている。誰もいない広場にて、playmakerはゴーストに対峙する。
「……で、なんの真似だ?」
「なにが?」
「ユーレイさんの姿をしてる意味を聞いてるんだ。それは和波誠也のパーソナル情報だろ、なりすましにしては悪質すぎる」
「えー、ボクのアバター勝手に真似してなりすまししたのは和波くんが先だよ?面白そうなデュエル独占しちゃってさ、許すまじだよこれは」
「でてこなかったから許したのかと思ってたが」
「ボクはリボルバーから抜かれたデータの抹殺に忙しかったの!そしたらハノイの塔とか面白そうなこと全部終わった後だったんだよー!!そこから個人情報漏れちゃったらアナザーにしちゃったみんなに申し訳ないからね」
「驚いた、まだ倫理観のかけらは残ってるんだな」
「しっつれーしちゃうなあ、もう。さーて雑談はこれくらいにして、そろそろ始めようか!ほんとは《星杯》まで再現したかったんだけど、さすがにイグニスお手製までは真似るの無理だからさ、ここで見つけた同じデザイナーズデッキを使ってみたくてうずうずしてたんだ、ボク」
「《魔弾》じゃないのか?」
「初めはそのつもりだったんだけどね、今はこっちの気分。さあ、始めようか」
デュエル成立のアナウンスがはいり、先攻はゴーストだと教えてくれた。
「先攻はいただくよ!ボクのターン!」
「ボクは《百獣のパラディオン》 を攻撃表示で召喚!」
ゴーストの指示に従い、光が走る。フィールドには煌めく装甲をみにまとう猛獣が出現し、高らかに咆哮した。
「……《パラディオン》?」
playmakerの疑問にウインクひとつ、ゴーストはリンクマーカーを出現させた。これからわかるといいたいらしい。
「来て、未来に導くサーキット!アローヘッド確認!召喚条件は同名以外の《パラディオン》モンスター1体!ボクは《百獣のパラディオン》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!リンク1リンク・効果モンスター
リンク1《マギアス・パラディオン》!」
赤い鎧を見にまとう魔法使いが現れた。
「ここで手札の《天穹のパラディオン》 のモンスター効果を発動!このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。
このカードはリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに手札から守備表示で特殊召喚できる。ボクは《マギアス・パラディオン》のリンク先であるエクストラゾーン真下のモンスターゾーンに守備表示で特殊召喚するよ!」
《星杯に選ばれし者》によく似ている青年が出現した。成長した姿だろうか。
「ここで《マギアス・パラディオン》の第2の効果を発動!このカードのリンク先に効果モンスターが特殊召喚された場合に発動できる。デッキから「パラディオン」モンスター1体を手札に加える!ボクが加えるのは《神樹のパラディオン》 !」
やさしげな女性が使い魔とともにフィールドに降りたつ。
「アローヘッド確認!召喚条件は《パラディオン》モンスターを含む効果モンスター2体!ボクはリンク1《マギアス・パラディオン》と《天穹のパラディオン》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!リンク2《レグレクス・パラディオン!》」
《百獣のパラディオン》が成長したと思われるリンクモンスターが出現した。
「ここで手札の《神樹のパラディオン》のモンスター効果を発動!《レグレクス・パラディオン》のリンク先に守備表示で特殊召喚!さらに《レグレクス・パラディオン》のモンスター効果により、リンクに効果モンスターが特殊召喚された場合、罠魔法をサーチできるんだ!ボクは《オーバード・パラディオン》をサーチ、手札に加える」
ゴーストが手にしたのは緑のカード、魔法カードである。発動しないと効果がわからないが、わざわざサーチするくらいだ。覚えておいた方がいいだろう。
そして、ゴーストはリンク2《レグレクス・パラディオン》と《神樹のパラディオン》でリンク3《アークロード・パラディオン》をリンク召喚し、チューナーモンスターを特殊召喚、そして《星辰のパラディオン》を特殊召喚した。
「このカードの攻撃力は、このカードのリンク先のモンスターの元々の攻撃力分アップする。だから攻撃力は600アップだよ。そして《星辰のパラディオン》のモンスター効果を発動!このカードがリンクモンスターのリンク先への召喚・特殊召喚に成功した場合、《星辰のパラディオン》以外の自分の墓地の《パラディオン》カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える」
「次の準備も万端というわけか」
「まだまだ研究中なんだ。改良の余地あると思うしね、デッキ調整に付き合ってよ」
「いってくれる」
「あはは、それじゃあボクのターンはこれでおしまい!次は君のターンだよ、playmaker!」
《パラディオン》、聞きなれないテーマである。どうやらグレイ・コード御用達のカードデザイナーが手がけたようで、《星杯》たちと世界観が共通しているようだ。
第1の効果による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。このカードはリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに手札から守備表示で特殊召喚できる。
この一文が共通効果のようだ。なるほど条件は異なるが手札から特殊召喚は《星杯》と共通点があるといえる。第2の効果はそれぞれモンスターにより異なっている。
他にもこのカテゴリに属するリンクモンスターは以下の効果を共通効果として、いくつかある。まずはこのカードの攻撃力は、このカードのリンク先のモンスターの元々の攻撃力分アップする効果。そしてこのカードのリンク先のモンスターは攻撃できない効果。第3の効果は固有のもののようだ。
パラディオン は、ローマ神話やギリシャ神話に登場する像の名称である。特に、トロイにあったものを指す。ただ、属するモンスターのデザインは普通の人間の戦士や獣など、像の要素のないものも多いようだ。
《神樹のパラディオン》と《魔境のパラディオン》のイラストには、パラディオンモンスターだけでなく、そのモンスターと同族と思われるモンスターの姿も描かれている。
イラストから推測するに、星遺物の世界観に存在するいくつかの部族の代表者がパラディオンの名を冠しているものと思われる。カテゴリ名の「パラディオン」は称号に近いのだろう。
「言われなくてもわかってる。いくぞ」
playmakerはドローを宣言した。