ブラッドシェパードの喪失

「ブラッドシェパードが負けた......」

兄さん、と悲痛なゴーストガールの声がする。

無意味な視線で、落着きなく四囲あたりを見廻わしてから、ドアの方へ身体を向けてしまった。ゴーストガールたちは自分の泣き声も聞き取れないほど動揺していた。

ログアウトした後のエマは和波が心配になるくらい支離滅裂だった。引き出しを開けたり閉めたり、トイレのドアを開けてみたり、花びんを倒して床をふいたりをくりかえして部屋中をうろうろ歩きまわり、結局なにも手に持っていないのに気づいた時には、さすがに少し笑って、落ち着かなくちゃ、と目を閉じた。感情はひどくほつれて、容易に解ける様子はなかった。

荒磯に波波が千変万化して追いかぶさって来ては激しく打ちくだけて、まっ白な飛沫を空高く突き上げるように、これといって取り留めのない執着や、憤りや、悲しみや、恨みやが蛛手くもでによれ合って、それが自分の周囲の人たちと結び付いて、わけもなくエマの心をかきむしっていた。エマは感情の動揺をまぎらそうとするように、手をあげて、髪をなおしながらいった。

それを見ると、動揺が感染する。尊や葵、遊作は制している感情が迸ばしるような動揺を感じた。それを和波はたんたんと見つめていたのである。マインドスキャンを使わなくても手をとるようにわかるのだ。

ライトニングvsブラッドシェパードはライトニングの勝利で終わったのだ、無理もない。ブラッドシェパードを仲間に引き入れようと交渉に向かった矢先の出来事である。

「《天装騎兵》のリンクで場を守りつつ下級でリンクに効果を盛っていくリンクテーマらしいコンセプトって好きだな」

動揺するみんなと別れて自宅に帰る帰路、和波は能天気にそういった。

「あははっ、たしかにリンクしたモンスターによって剣や盾を持ち変えたり、文字通りの矢を放ったりと思った以上に個性あるなライトニングのデッキ。俺様の知り得る中で一番リンクマーカーを効果的に使いこなしてる感じだしな」

「もっとデュエルしてくれないかな」

「まさか他のリンクモンスターの効果を使ってきたりある意味裁きの矢を装備して攻撃出来る様なモンスターが居るとは思わなかったぜ。十字軍みたいなライトニングのデッキはあなどれないな。リンクマジックが切り札ではなく踏み台なあたりライトニングの強さがわかる」

「ライトニング、もしかして本気出さなかった?トドメの効果がただの下級効果モンスターっていうのも何だか違和感あるし、他にエースや切り札級がいたりして」

「たしかにな。ライトニングはデッキの動きがわかっただけで真の切り札まだありそうだな。ライトニングって今回エース出してないし、まだ本気見せてないんだろうな……余裕ありな態度保ったままだったし《天装騎兵》はまだリンク4が出てないからエースが楽しみだぜ」

絶対に聞かせることが出来ない大きな独り言だ。和波はロスト事件と関係があったが因縁あった相手は既にない。イグニスと直接因縁があるのはHALだが排除対象に対する奇襲は連日処理している。ゴーストに向けられている悪意はたんたんと和波も排除し続けている。さして驚くようなことはなかった。

むしろブラッドシェパードがいないことでゴーストの正体が和波だと知る人間がいなくなったのは好都合といえた。でも貴重な対グレイ・コードの協力者の喪失でもあるのだ。

「ライトニングとはいずれデュエルしないといけないね」
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -