ゼクス

担当しているプログラムの作成が終わり、上司に確認してもらおうと部内をウロウロしていた男は出張と聞いてためいきをついた。そして休憩してくると同僚に一声かけてその場をあとにする。その行先はすぐ隣の部門だ。男が顔を出すと顔なじみの庶務担当者がどうしたのかとよってきた。書類を片手に若手を呼ぶようお願いする。今やっている若手たちをあつめたプロジェクトについてかと早合点した彼は、お目当ての人物を呼んでくれた。彼女はパソコンを閉じると男に応じてデスクをあとにする。要予約な会議室を無断借用し、2人は声を潜める。

「よお、元気でやってるかい、ゼクス」

ゼクスと呼ばれた女の胸元にはSOLテクノロジー社の社員証がある。カードデザイナーのようだ。実はツヴァイと組んで精霊たちを生み出し続ける星杯シリーズの生みの親であり、SOLテクノロジー社にいる工作員の1人、言わば裏切り者だ。

「和波誠也がアンタのカード使ってんだが」

「それはアジトを奪われた貴方たちのせいでしょ?アタシのせいにしないでくれる?失礼しちゃうわ」

「わりいわりい」

「このシリーズは思い入れがあるのよ」

「燻ってた頃のデザインだもんな」

「そうよ。和波誠也が使ってくれるならなおのことね。HALとかいうイグニスもどきが星杯と一体化してるそうじゃない?面白いわね」

「同じデザイナーのデッキ同士でデュエルか、しかもデッキ上書きとウィルス感染のリスクを背負いながら!いいねえ、裏方ってのはこれがあるから最高なんだ」

「精霊を生み出すにはアンタがいないとダメだからね、変なことしたら承知しないわよ」

「はいはいわーってるよ!」

「ところでアインスはなんて?」

「あ?あー、ダメだなありゃ。フィーアもあの男も和波研究員とこに逃げ込みやがった。ハノイの女幹部が潜伏してやがったせいで厳戒態勢引かれちまってる上にネットワークはHALが陣取ってやがる。下手に手を出せねえな」

「そう、なら和波誠也を引っ張り出すしかないわけね」

「そういうこった。なかなかに骨が折れるぜ全く!」

「まあ、それはアインスの仕事でしょ。アンタとさ。ま、がんばれ」

「いい加減だなおい」

「うっさいわね」

「いだだだだ叩くんじゃねえよ」

昼休みを告げるチャイムが鳴り響く。

「それじゃしばしの休憩タイムと行きますかね」





「フィーア」

「だあれ?」

「私?私はね、和波誠也の姉さ」

「誠也お兄ちゃんのお姉ちゃん?」

「うん」

「そうなんだ」

「ああ」

「フィーアどこにいるの?」

「病院だよ」

「病院......」

「大丈夫、私もグレイ・コードに狙われてる身でね。安心していいよ」

「ほんと?」

「ああ」

「俺様がいるからな」

「HAL!」

「だから安心しろよ」

「分かった!」

「で、なにがあったか教えてくれるか?」

「うん」

こくんと頷いたフィーアは話し始めた。

「てことがあったんだよ。どう思う?」

「知らない女の人?」

「おうよ」

「グレイ・コードの人かな」

「ツヴァイみてーに裏方かもしれないぜ」

「誘拐されかけたんだからSOLテクノロジー社の人だよね。ハノイの工作員じゃなさそう」

「フィーアは混乱してたからどこのどいつかは分からねえらしいが」

「そりゃそうだよね。やっと外に出られて、友達できて、普通の人間として生きていける矢先に......やっぱりトラウマになっちゃってるんだね」

「記憶をデータ化して解析した方が早そうだからやってるぜ今」

「ありがとうHAL。なんだかここのところ頼りきりだね。大丈夫?」

「心配すんな、俺様を誰だと思ってんだ。人工知能は疲れねえんだよ」

「あはは、そうだね」

「アースがあんなことになっちまった以上、万全を期して当然だからな。注意に注意を重ねてすぎることなんかねえよ」

「そういえばさ、HAL。グレイ・コード産のデザイナーズデッキ、作者はまだわからない感じ?」

「あー、そっちはお姉ちゃんにも聞いてみたんだけどよ、どうも古くからの社員じゃなさそうだぜ」

「そっかあ......じゃあ最近の社員さんなんだ」

「だからグレイ・コードに使ってもらってるのかもしれねえぜ?現実世界ではボツばっか食らってるとかさ。こないだのデッキウィルスだってツヴァイが端末世界のVRゲームの企画がおじゃんになったからだっていってたろ?」

「ああ、たしかに!」

「クラッカーなんさだいたい若い連中が鬱憤バラシにやらかしてることのが多いし、警戒するに越したこたあねえと思うぜ」

「若い社員か......ならこっちが調べた方が早いかもしれないね。きっとツヴァイとつるんでるはずだもん」

「そうだな、よし、いっちょ調べてみるか。ちょうどまたサイコ能力の実験あるんだろ?」

「うん、いってみようか、HAL」

そして和波はたまたまエレベーターであった財前部長に、道順健吾を知らないかと尋ねられることになる。個人的にグレイ・コードについて調べて回っているようだと告げると、頭が痛いのか眉間にシワをよせ、ここのところ姿を見せないのだという。和波は嫌な予感しかしないのだった。
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