「おかえりなさい、2人とも」
「おつかれ」
遊作と穂村を待っていたのは、和波と草薙だった。それぞれの好みのミルクと砂糖を入れたコーヒーかコーラを並べて作戦会議である。
情報共有を行なった彼らはため息だ。一度にいろんなことが動きすぎている。一度情報を精査しなくてはならない。口を開いたのは和波だった。
「グレイ・コードに関することは僕に任せてください。ツヴァイがSOLに在籍するグレイ・コードの工作員である以上、バウンティハンターたちの後方支援としてウィルスに感染したNPCをぶつけてきたり、キャリアユーザーによる妨害工作をしてきたりする可能性があります。ツヴァイはハノイの塔みたいなサイバーテロを再現したいと口にしてましたから、少しでも情報を集めないと」
「ああ、わかった。和波君には奴らに関する対応をお願いするよ」
「……リンクヴレインズにログインしない訳にはいかなくなったな」
「そうですね、あはは」
「和波」
咎める視線に和波は肩をすくめた。
「でも大丈夫かい、和波くん。ゴーストのやつ、君の生体情報使ってアバター作ってるんだろ?ゴーストはバウンティハンターの捕獲対象で指名手配されてる。君がログインしたら間違われない?」
「あ、それは問題ないです。お姉ちゃんから財前部長になりすましの件は話を通してありますから。だから賞金が跳ね上がってるみたいですけど」
「そっか……じゃあ、あとは君が和波誠也として僕たちに協力してることがバレなきゃいいんだね」
「はい、そうなんですよ、それが一番困ってて」
あはは、と和波は苦笑いである。
「ここからログインすればとりあえず逆探知や特定は防げると思うけど、アバターばっかりは新しく用意しなきゃいけないな」
「うーん、どうしよう。バレないようにできないかなあ」
「んな難しいこと考えなくても、誠也は誠也としてログインしたらいいんじゃねえの?」
「へ?」
HALの提案に誰もが目を丸くする。そんなことしたら和波誠也がplaymakerたちに協力していることがモロバレではないかと。だがHALは得意げだ。それでいいんだよ、とばかりにふんぞり返っている。
「和波誠也がplaymakerの大ファンなのは周知の事実だぜ、きっとsoulburnerのファンにもなる。グレイ・コード壊滅のための行動はお姉ちゃんや財前の野郎も知るところだ。利害が一致したから、助けてくれたから、力を貸して何が悪いんだ?」
「なるほど、逆転の発想か。一般人なら普通有名ハッカーに会えたら協力したくなる。しかも大ファンのハッカーにしてデュエリストからのお願い、和波くんがいつもみたいに語ればそちらの方が自然かもしれないな」
「だろー?」
「えーっとつまり、僕はいつもみたいにログインしたらいいってこと?」
「そ、島くんたちと遊ぶ時みたいに一般ユーザーとしてログインすりゃいい。へんに身元かくして別垢作るより楽だしボロもでねーって寸法よ」
「ねえ、HAL。それって僕が毎回怒られること前提にしてない?」
「いいじゃねえか、堂々と侵入できる口実ができるんだからよ」
けけけ、と笑うHALを見て、不霊夢は本当に君のバックアップデータから生まれたイグニスなのか、とアイを見た。アイは縮こまる。そんなの言われてもこっちが困るというものだ。文句は自分を損傷させたハノイのリーダーに言って欲しいものである。イグニスにほかのAIに自我を持たせる性質があるのは事実だが、どんな自我になるかまでは掌握すること自体不可能に近いのだからと。イグニスたちのやりとりを見て草薙は苦笑いした。
「さて、次は遊作たちだな」
2人は息を吐いて説明し始めた。
「ボーマンたちが次現れるまで様子を見てみるしかなさそうだな」
草薙は腕を組み、思案する。遊作は見るからに落ち込んでおり、穂村と和波を心配させた。草薙がそれに気づいて元気付けたものの、仁の意識データの奪還に二回も失敗したという事実はカフェナギに重苦しい空気をもたらした。
「草薙、次を考えるなら渡さなきゃいけねえもんがあるだろ」
見かねたHALが発破をかける。草薙は笑みを浮かべた。
「そうだったな、2人ともこのプログラムをダウンロードしてくれ。HALが例のウィルスワクチンを作ってくれた。妨害工作には対策しなきゃいけないからな、気をつけてくれ」
ふたつのデュエルディスクが並び、コードが繋がれる。アバター、そしてデッキに防衛プログラムが追加された。これで少なくても2人が感染して和波と敵対する悪夢は事前に回避されることになる。
「リンクヴレインズに蔓延し始めてやがるからな、早いとこキャリアみつけねーとな」
「うん、お姉ちゃんから財前部長に話は行ってると思うけどただちに実装は無理だと思う、ツヴァイがいるし。だから、気をつけましょう、藤木くん、穂村くん」
「ああ、そうだな」
「ありがとう、和波くん。助かるよ」
「最大の功労者に対する礼はなしかー?」
「はいはい、ありがとうHAL」
自己顕示欲丸出しのイグニスに笑いが漏れたのだった。