翌日の放課後、カフェナギで遊作たちと合流した和波は、昨日と同じようなアルゴリズムを見つけたという草薙のナビゲートにより、ふたたびリンクヴレインズに潜入することになった。今回は和波も一緒である。
それは突然の襲撃だった。
身動きできないよう細いピアノ線のような糸が縦横無尽に駆け巡る。
「ワナビー!」
「僕のお目当てはこの先にいるみたいです。先にいっててもらえませんか」
playmakerとsoulburnerは頷いて先を行く。
「やっぱり共同戦線張ってきましたか……2人の邪魔はさせませんよ」
「こちとら数日かかってこのウィルス解析したんだ、2度も同じ手は食わないぜ」
「いくよ、HAL」
「俺様に任せとけ」
デュエルディスクを構えたワナビーは糸をかいくぐりながら先を行く。
「人工AIか?」
「NPCみたいだね」
そこには未実装のアバターが立っていた。
「どう、HAL。この子はキャリア?」
「このアルゴリズムは初めて見るパターンだ、こりゃ解析がいがありそうだな!」
「了解、わかったよ。ごめんね、君になんの恨みもないけど捕まってくれないかな!」
「フィーアたちに手を出されて俺様たちも気がたってんだ。悪く思うなよ!」
アバターはなにも言わないままデュエルを承認する。そして正体不明のアバターとワナビーのデュエルは始まったのだった。
先攻は相手アバターだった。
『《グローアップ・バルブ》を通常召喚』
アバターの前にリンクマーカーが出現する。
『我を導け灰色の法典(グレイ・コード)よ。アローヘッド確認、召喚条件はモンスター1体。私は《グローアップ・バルブ》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン、リンク召喚、リンク1《リンクリボー》』
「playmakerのカード!?君は一体」
『ここで《グローアップ・バルブ》のモンスターバルブ蘇生効果を発動!守備表示でフィールドに特殊召喚』
アバターが高らかに宣言する。
『再び開け、我が灰色の法典(グレイ・コード)!私は《グローアップ・バルブ》とリンク1《リンクリボー》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!リンク召喚!リンク2《水晶機巧ハリファイバー》」
新生ヴレインズに実装されたばかりのリンクモンスターだ。
『このカードがリンク召喚に成功した場合に発動できる。手札・デッキからレベル3以下のチューナー1体を守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン効果を発動できない。私はこの効果で《ジェットシンクロン》をリクルート』
アバターが掲げた先にリンクマーカーが出現した。
『召喚条件はトークン以外の同じ種族のモンスター2体以上。私はリンク2《水晶機巧ハリファイバー》と《ジェットシンクロン》でリンク3《サモンソーサレス》をリンク召喚!《ジェットシンクロン》のモンスター効果で手札を1枚捨ててフィールドに守備表示で特殊召喚。さらに《ジェットシンクロン》を対象に《サモンソーサレス》のモンスター効果を発動!このカードのリンク先の表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターと同じ種族のモンスター1体をデッキから選び、このカードのリンク先となる自分・相手フィールドに守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される』
一瞬アバターが静止した。
『《オルフェゴール・ディヴェル》をフィールドに特殊召喚』
妙に明るく軽妙で楽しく、深刻さや陰鬱な雰囲気は避けた曲調の音楽が鳴り響く。その外装はどこかガーゴイルを思わせるやや不気味なものであり、背中の羽にはハープの意匠があしらわれている不気味なモンスターが出現した。
『三度我を導け、灰色の法典よ!私は《オルフェゴール・ディヴェル》と《ジェットシンクロン》でリンク召喚!リンク2《オルフェゴール・ガラテア》!』
ワナビーはゾッとして二の句がつげない。そこにはあまりにも歪な機械があった。髪型など《星杯を戴く巫女》に関連する意匠が見られ、《星杯を戴く巫女》を模して造られた機械と思われる。たしかに罠魔法のストーリー展開から彼女は死んだようだがまさか。《星杯に誘われし者》が持っているリボンが首に巻かれ、刃が鎌の刃として用いられているのもこれらも《星杯を戴く巫女》及び《夢幻崩界イヴリース》と共通している。しかもこの機械の体の胴体中心部にある『アスタリスク』に似た模様は《明星の機械騎士》の胴体にあるものと一致する。リボンはかつて《星杯を戴く巫女》が髪に巻いていたものである。腹部に当たる円柱部位は、オルゴールのシリンダーを思わせる造形をしている。鎌の刃は《蒼穹の機界騎士》の装備と同じものと思われる。この刃は《機界騎士アヴラム》が2本の剣として使用していたが、1本を《夢幻崩界イヴリース》に奪われ、自害する際に使われていたはずだ。つまりこのモンスターは和波のもつテーマから続く同じ世界観のテーマ。和波は身震いした。
「君は一体……」
『《オルフェゴール・ガラテア》のモンスター効果を発動。除外されている《ジェットシンクロン》をデッキに戻し、《オルフェゴールバベル》をデッキからセットし、発動。《オルフェゴール・ディヴェル》の墓地効果でカードを除外し、デッキから《オルフェゴール・スケルツォン》をフィールドに特殊召喚』
「この構えは」
またリンク召喚がはじまる。《オルフェゴール・スケルツォン》と《オルフェゴール・ガラテア》で《オルフェゴール・ロンギルス》というモンスターがリンク召喚された。
右手には《星遺物−『星槍』》、左手には《星遺物−『星盾』》、身体には《星遺物−『星鎧』》を模したような武具を装備している青年だ。そこには《星杯戦士ニンギルス》の面影がある。元々戦士族であったはずの彼が機械族になったのは、これらの星遺物を模した武具を身に着けているからだろうか。やはりこのデッキを持つということはグレイ・コードの中でも重要な位置にいて、フェッチ事件関係者でもあるということだ。さらにアバターは墓地の《オルフェゴール・スケルツォン》の効果で墓地の《オルフェゴール・ガレテア》を蘇生し、《サモンソーサレス》サモソと《オフェゴール・オーケストリオン》をエクストラモンスターゾーンにリンク召喚した。これでアバターの最終盤面は以下の通りである。
フィールドに《オルフェゴールオーケストリオン》、《オルフェゴールロンギルス》、《オルフェゴールバベル》。
墓地には《グローアップ・バルブ》、《リンクリボー》、《水晶機巧ハリファイバー》、《サモンソーサレス》、《オルフェゴール・ガラテア》。
除外ゾーンには《オルフェゴール・ディヴェル》と《オルフェゴール・スケルツォン》
「《グローアップ・バルブ》と手札1枚でここまでこれるのは相当な手練れだ、気をつけろよワナビー」
HALはいう。除外ゾーンに機械族2体が存在していて《オルフェゴールバベル》によって、相手ターンでも発動できる誘発即時効果付きになっているので、相手がリンク状態のモンスターを出してきたら《オルフェゴール・ロンギルス》の効果を使って、対象を取らない墓地送りをして除去をしていくことができる。さらに《オルフェゴール・ガラテア》を経由することで、デッキからオルフェゴール魔法罠カードをセットできるのもまずい。非常にまずい。
ワナビーは息を飲んだ。
「いきます!僕のターン、ドロー!」