増殖する悪意A

行ってきますの笑顔と同時に和波はそのまま画面に向かう。

「待て待て、和波くん!まさかフルダイブする気か?」

草薙が慌てて止める。

「HALは連れて行かないのか?」

「対イグニスのプログラムへのワクチンがまだできてない以上、HALは連れていけないですよ」

「でもなあ」

「それにplaymakerとsoulburnerがログインしてるエリアからログインするのは危ないと思います。満席でしょう、ここ」

「あー、ああ、まあな。仕方ないか、気をつけてくれよ」

「はい、草薙さんはplaymakerたちのバックアップをお願いします。お姉ちゃんにこっちは頼みますから」

「そうしてくれると助かる。ごめんな」

「気にしないでください。じゃあ、行ってきます」

「ああ、気をつけて」

「はい!」

草薙の前で和波を光がつつむ。そしてそれが粒子となって消える。全てはモニターの向こうに消えて行った。

和波は0と1に再構築されていく中でカフェナギからつながる違法ネットワークを経由してログイン画面に入る。お姉ちゃんに怒られたから今度はフルダイブだとわからないようにアバターを着る。普通のログインと同じような状況になるよう構築しなおして、エリアに飛んだ。

スピードデュエルは佳境を迎えていた。初めからウィンとスピードデュエルを最後までする気は微塵もなかったらしい相手は、絡め取ろうと幾重もの糸の雨を降らせていた。ウィンは《ガスタ》が得意とする自爆特攻によるカウンターをかせぐためにコストを払い、さらに《シャドール》との地力の差によるダメージが蓄積し、残りライフはかなり厳しいものとなっている。満身創痍な中のスピードデュエルは冷静さをかき、集中力を奪っていったようだ。網目を縫うように糸を避けながらターンをこなしていたウィンだったが、とうとうDボードが糸に捕まってしまう。

「ウィンさん!」

ウィンの絹を裂くような悲鳴が聞こえた。

張り巡らされた糸に絡みとられたウィンは、スピードデュエルの続行が不可能となっていた。

「このデュエル、僕がひきうけます!」

「ワナビーさん!?」

「安心してください、ウィンさん。かならず助けますから!」

糸の矛先が和波に向く。ウィンに向かうはずだった糸の雨が降り注ぐが和波はあっさりとのして少女の前まで向かう。ウィンを絡め取る糸は増える気配がない。よかった間に合った、と息をはいた和波は、少女と向き合う。

「僕がこのデュエルを引き継ぎます。いいですよね?ウィンさんの妨害があまりにも悪質ですもん、これくらいハンデがあってもいいでしょう?」

和波の問いかけに少女は応じた。こくんとうなずくと、和波のデュエルディスクに承認のメッセージが送られてくる。どうやら数時間前の雪辱戦と行きたいようである。和波はDボードに乗り込むと迫り来る糸をかいくぐり、サイバースの風に乗る。

ライフポイント、フィールド、墓地、除外ゾーンは共通だがエクストラデッキ、手札は別のルールのようだ。なかなかのハンデだ。すでにアバターに負荷がかかり、体が動かしにくい。これは早急に決着をつけなくてはならないだろう。和波は息を吐いた。

「僕のターン、ドロー!」

和波は舌打ちしたい衝動にかられる。ライフポイントが半分を切っているため発動条件の3000以上を満たせず《マインドスキャン》が使えない。仕方ない、今度は捕まえて情報を吐かせるしか方法はなさそうだった。

「僕は《夢幻崩界イヴリース》を攻撃表示で通常召喚!そして第1のモンスター効果を発動です!このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のリンクモンスター1体を対象として発動できます。そのモンスターの攻撃力を0にし、効果を無効にしてこのカードとリンク状態となるように自分フィールドに特殊召喚します。僕はリンク2《グレートフライ》を蘇生!」

ウィンの墓地に眠っていた風属性のリンクモンスターをモンスターゾーンに蘇生させる。これで準備は整った。和波の前にリンクマーカーが出現する。

「開け、未来に導くサーキット!アローヘッド確認!召喚条件は《トロイメア・マーメイド》以外の《トロイメア》モンスター1体!僕は《夢幻崩界イヴリース》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!リンク1《トロイメア・マーメイド》!」

エクストラゾーンにリンクモンスターが出現した。

「《トロイメア ・マーメイド》のモンスター効果を発動します!このカードがリンク召喚に成功した場合、手札を1枚捨てて発動できます。デッキから《トロイメア》モンスター1体を特殊召喚します。僕は二枚目の《夢幻崩界イヴリース》をリクルート!」

そして再びリンクマーカーが和波の前に現れる。

「アローヘッド確認!召喚条件は効果モンスター2体以上!僕は《夢幻崩界イヴリース》、リンク1《トロイメア ・マーメイド》、リンク2《グレートフライ》の3体をリンクマーカーにセット!このとき、リンク2の《グレートフライ》は2体分の効果モンスターとして扱うことができます!サーキットコンバイン!見せてあげますよ、《サイバース》
の新たなる息吹を!リンク召喚!リンク4《トポロジック・ボマー・ドラゴン》!!」

リボルバーの使用モンスターが和波のフィールドに出現した。イグニスのカードバンクであるHALがいるからこそできる芸当である。

「ここで《夢幻崩界イヴリース》第2のモンスター効果でを発動です。《トポロジック・ボマー・ドラゴン》のリンク先の相手フィールドに自身を特殊召喚!この瞬間、《トポロジック・ボマー・ドラゴン》の第1のモンスター効果を発動! このカードがモンスターゾーンに存在し、
フィールドのリンクモンスターのリンク先にこのカード以外のモンスターが特殊召喚された場合に発動します。お互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊し、このターン、このカード以外の自分のモンスターは攻撃できません。さあ、フィールドを破壊してもらいましょうか!」

少女のフィールドが半壊状態となる。かろうじて耐性を持っているモンスターは生きながらえていた。だが和波の攻勢は止まらない。

「耐性を持っているモンスターが残っても無駄です。バトルと行きましょう!僕はここで《トポロジック・ボマー・ドラゴン》第2のモンスター効果を発動します!このカードが相手モンスターを攻撃したダメージ計算後に発動します。その相手モンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える効果です!戦闘を介しますが、戦闘破壊する必要がないため、戦闘破壊に耐性のあるモンスターにも有効です。これで耐性を持っているモンスターは第1のモンスター効果で除去できなくても、この効果が活きるというわけです。さあ、バトルです!」

少女のフィールドに残っていたモンスターが破壊され、戦闘ダメージが彼女を襲う。さらに破壊されたのが大型の融合モンスターだったこともあり、彼女のライフポイントは一気に焼き尽くされたのだった。

《トポロジック・ボマー・ドラゴン》の咆哮が響き渡る。空間を埋め尽くしていた糸はすべて焼き尽くされ、散り散りになり、光の粒子となって消えていった。ウィンが解放されたことを確認した和波はため息をついた。

どうやらこのエリア一帯を覆い尽くしていた糸はすべて薙ぎ払われたようである。

「また、僕の勝ちですね。今度は、そうだな。君を操ってる誰かさんについての情報を開示してください。それが僕の戦利品です」
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -