soulburnerがGO鬼塚とのスピードデュエルに勝利し、先に行かせたplaymakerを追いかけはじめる。目配せしてきた草薙に答えるより先に、アプリの着信音がした。カバンを漁ると通話アプリが起動している。そこにある名前を見た和波は思わず声を上げた。
「どうした、和波君」
soulburnerにplaymakerの進路を誘導しながら草薙は疑問をなげた。
「財前さんから……明日学校休むからノートよろしくってメールが」
「財前葵から?」
「はい。あの財前さんが学校を休むなんて……まさか財前部長に頼まれてゴーストガールと一緒に?」
「……あの子ならありそうだな。playmakerたちを隠れ蓑にして、いつぞやみたいに自分たちは悠々と侵入か。はは、いい度胸だ。お互い様だけどな」
ウインクする草薙に和波は苦笑いした。
「soulburnerたちに和波君が来たこと伝えていいか?」
「あ、いえ、まだいいです。あとはブラッドシェパードだけですけど、いつまたトラップが発動するかわからないし。戻ってきてからでいいですよ」
「ま、たしかにそうか。今は集中させてやらないとな」
「はい」
soulburnerがplaymakerを追いかけ始めたのを確認しながら和波は端末に目を落とす。
明日から学校休むからノートよろしくと葵から連絡があったのだ。あの葵が休むなんて、ブルーエンジェルとしてplaymakerに挑んだりハノイの騎士にたちむかったりしたことを咎められて、家に軟禁されて以来の出来事である。しかも文面から察するに今回は自分の意思で。自ら。危険に身を投じているのだ。今までの流れの中で財前部長と葵の間に変化が生じているのは事実である。和波たちとグレイ・コードを追いかけていた経験もある。ゴーストガールより未熟なのは否めないが、財前部長が考えを改めるいい機会になったのかもしれない。この件は姉に詳細を聞いた方が早いかもしれない。
(どうしようかなあ)
ノートよろしくとは言われたものの和波とて悠長に学校にいく時間はなさそうだ。新たなる敵の出現である。HALに代行をお願いする気満々だった。バウンティハンターに狙われている以上、HALは現実世界において来た方がいい。通信を逆探知されても面倒だ。うーん、うーん、と考えているとまたアプリの着信音がひびく。
「今度はどうし……和波君?」
ガタッと立ち上がった和波は草薙をみた。
「これをみてください」
送りつけられつきた添付動画。転送していると姉から連絡が入った。ウィンの姿がないらしい。
「今、お姉ちゃんが行方を捜してるみたいです。すいません、ここのモニタ使ってもいいですか?」
「あ、ああ、一体何が……」
「まさかフィーアちゃんの誘拐に失敗したから……?」
焦る和波たちの目の前には、リアルタイムで更新されていく動画が表示された。
「ウィンさん!」
「ここは……」
目を見開いたまま、ちら、と別画面をみた草薙は顔を引きつらせた。
「おいおい、今日はいろんなことが起こりすぎだろう!今度は精霊たちの襲撃か!?」
草薙が驚くのも無理はない。ウィンが対峙する少女がいるのは、playmakerたちが先ほどまでステルス機能で突破した一番警備が厳重なエリアなのだ。これだけ派手に暴れたらSOLテクノロジー社に気付かれること請け合いである。なんだってこんなところで言い合っているのだ。playmakerたちが脱出する時のことを考えたら頭が痛くなってくる。勘弁してくれ、と草薙はため息だ。
和波は画面を食い入るようにみている。
「どうしよう、僕のせい?僕がウィンさんにウィンダちゃんのデュエルや記憶を見せちゃったから、ウィンさん追い詰められて……?」
動揺を隠しきれない和波に草薙は椅子に座るよういった。
「それはまだわからない。聞いてみよう」
「は、はい……」
おずおずと和波は腰をおちつけた。
草薙は動画の設定を変更し、音声がちゃんと聞き取れるようにする。動画の陰影や色を調整すると、エリア全体が蜘蛛の巣のごとく糸が張り巡らされているのがわかる。表示されている時間はplaymakerたちがバウンティハンターたちに追われ始めたころだ。まるで退路を塞ぐような出現の仕方である。
「厄介だな、この糸はアバターを内側から書き変えるんだろう?そして別のものに上書きさせるウィルスか……フランキスカみたいな性質だな
」
「playmakerたちが脱出するときには注意が必要ですね」
「ああ、伝えておく」
草薙たちの目の前で動画は開始された。
「ウィンダの体を操ってなにをするつもりなの、返して。大切な妹なのよ」
「姉さん」
「そうよ、ウィンダ。おっきくなったね、昔はあんなにちっちゃかったのに」
「姉さん」
近づこうとしても糸がその先を邪魔する。進路方向や視界を邪魔する糸は、意思を持ってウィンに襲いかかる。ぎりぎりまで引きつけた糸を交わして、次の瞬間ウィンの使い魔が火を吐いた。
ウィンは跳躍する。
「ずっと会いたかったわ、ウィンダ。ずっと一人にしてごめんね、寂しかったでしょ?」
『本当に?』
おぞましい声がする。ぞわっとしたウィンはウィンダをみた。妹の体の中になにかいる。
「なんだこの声」
「……草薙さん、もう一回お願いします」
「うん?あ、もしかして聞いたことあるのか、和波君!?」
「どこかで聞いたことがあるんです」
「わかった」
草薙は動画を巻き戻す。
「やっぱり、やっぱりこの声あれですよ。この時代遅れな変声機のダミ声!僕が指示されてたとき、いつも聞いてた声です!隠しきれてないイントネーションが似てる!……どっち、どっちだろう。アインスさん?それとも研究者の……」
「どっちにしろグレイ・コードってことか」
「まだわかりません。出現したタイミング的にバウンティハンターとは別の方法でplaymakerたちを捕獲したいのかもしれない」
「たしかにそうだな」
二人の会話をよそにウィンたちの会話は続いていく。
「姉さん」
『本当にすまなかったと思っているのか?』
「あ……」
『家業の重圧に負け、逃げ出したお前はわかっていたはずだ。幼い妹にその重責がいくことを。お前より劣る妹が……いや、そう思い込んでいた妹が。実際はガスタの巫女として父亡き後一族をまとめ上げるまでの才覚を見せた。本当はわかっていたのだろう?お前は怖かったのだ。妹の方が優れている事実が。後継者に値する才能に恵まれている妹が』
「まるで知ってるような口ぶりね」
『知っているとも。私はずっとみてきた。体験してきた。私の人生だ、当然だろう?ほら、みろ』
「……ウィンダっ」
『お前の何百年もの身勝手が今も彼女を苦しめているぞ』
糸を張り巡らせている少女から涙がこぼれ落ちていることに気づいたウィンは動けなくなってしまう。
「姉さん」
『チェックメイトだ』
「ウィンさん!」
思わず和波は叫ぶ。ウィンはDボードが糸に捕まってしまう。
「私のターン、ドロー!」
無表情なウィンダという少女は展開を始めた。
《ボルト・ヘッジホッグ》と《幻獣機オライオン》で《影依融合》して《エルシャドール・ウェンディゴ》を特殊召喚し、《シャドール・ファルコン》をサーチ、そしてトークン生成する。そしてそのまま通常召喚し、《シャドール・ファルコン》とトークンでモンスターを特殊召喚。そのモンスターの効果でモンスターを墓地に送り、フィールドのモンスター1体のレベルを6に変更。そして《エルシャドール・ウェンディゴと》とそのモンスターで《アルティマヤ・ツィオルキン》 をシンクロ召喚した。モンスター効果により《影依融合》を回収し、《サブテラーの決戦》をセット。し《アルティマヤ・ツィオルキン》 の効果を発動してさらなるモンスターを特殊召喚、気づけば《サブテラー》と《エルシャドール・ネフェリム》、《アルティマヤ・ツィオルキン》が並んでいた。
「僕、行ってきます」
「今からか!?」
「さっき取り逃がしちゃったけど、またでてきてくれたならチャンスですよ。彼女を倒さないと糸が妨害しちゃいます。playmakerたちだけじゃなくてバウンティハンターたちまで被害にあっちゃう!」
「そうか、そうだな。だが大丈夫か?疲れてないか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
笑った和波は、ステルス機能を起動してそのままリンクヴレインズにダイブした。