バウンティハンターA

(穂村君は穂村君で、ボクとも遊作くんとも違う痛みを抱えながら生きてきたんだなあ)

和波はsoulburnerとGO鬼塚のスピードデュエルを見ながら考える。

穂村は帰りを待ってくれる家族もいたし、記憶もちゃんとしていたが、半年間の誘拐の間に必死で情報提供を求めてかけずり回っていた両親が事故死。やっと保護されて祖父母が迎えに来てくれたとき、やっと出られた、家族のところに帰ってこれた、と安堵した先で聞かされたときの絶望感は途方もなかったに違いない。自分のせいだ、と追い詰めるのは想像に難くない。生まれ育った街を離れ祖父母の家で育った穂村は、アナザー事件、ハノイの塔事件をネットで見て、アイをつれている穂村を見て触発されたらしい。playmakerという同じ境遇にいながら立ち向かい、絶望にたたき落としたハノイの騎士、SOLテクノロジー社の当時の重役たちを倒したplaymakerはまさに英雄。リンクヴレインズを守ったGo鬼塚やブルーエンジェルもまた同じ。自分と戦うことに手一杯だった穂村に新しい道を教えてくれたのが他ならぬ彼らだった。あんなふうになりたい、自分もあんなふうになりたい、その衝動が生まれ故郷に帰ってくると言う大きな一歩を踏みだすきっかけとなったのだ。

「夏休みの間にデンシティハイスクールに転入できるまでがんばるなんてすごいなあ」

「ひきこもりがちだったのか、尊君は。それが……ここまで、不霊夢と出会ったのも大きいんだろうが、遊作達の存在はでかかったんだな」

「そうですね。それはきっと草薙さんのおかげでもありますよ」

「やめてくれ、俺たちはそんなつもりでやったわけじゃない」

「でもその実績によって立ち直れた人がいるんです。その事実をどうその人が解釈して草薙さんたちに感謝するかはその人の自由じゃないですか。どう受け取るのかは草薙さんたちの自由だけど」

「まあ、それはそうだけどな。そういう言い方するのはずるいぞ、和波君」

「え、どうしてですか?僕は思ったことを言っただけですよ」

「そういうところがだよ」

照れくさくなってきたのか、草薙は乱暴に和波の頭をなでる。

「ぜんぶ終わるまで、藤木君は草薙さんのところにいるつもりみたいだし、僕もそのつもりですからね。僕の場合はまだまだやることがたくさんありますけど。だから、あんまり思い詰めないでくださいね」

「あのな、和波君」

「藤木君があそこまで草薙さんを信頼してるのは、草薙さんがずっとそういう側面を見せてこなかったからだってのはわかってます。でも僕には筒抜けですからね」

「………」

草薙はようやく気づくのだ。今、アップデートの関係で和波はデュエルディスクを外している。これがないと体育の時間ですら周囲の思考がアトランダムに流れ込み、気分が悪くなって吐きそうな顔をする和波が、ずっと外したままなのだ。そして隣には草薙がいる。つまり外したその瞬間から草薙の思考回路は和波にダダ漏れなのである。

「わざとそうしたな?」

「だって草薙さんも藤木君も、僕が想定する反応全然してくれないんですもん。不安にもなりますよ」

「あのなあ、俺の立場わかってていってるのか?」

「気持ちはわかりますよ、だから誰もいない今こうしてるんじゃないですか」

「尊重したつもりか?ったく、意地が悪い」

「何度もいってるんじゃないですか、草薙さん。僕はめんどくさいやつなんですよ。何度言っても藤木君も草薙さんも忘れちゃうみたいなんで、また言いますけど。不安なんです、僕。マインドスキャンの力が嫌いだけど、まったくわからないのもいやなんです。藤木君は考えてることがまんま顔に出るから安心できるけど、草薙さんはわからないから」

「それが大人なんだよ」

「藤木君があこがれてる大人、ですよね」

「そう、だな」

に、と和波は笑うのだ。

「僕、ぜんぶ知らないと気が済まないんです」

草薙は冷や汗が伝った。

「いい性格してるな、和波君」

「何を今更」

「ほんと、なんで忘れそうになるんだろうな」

ばつ悪そうに草薙は頬をかいた。




(穂村くんのご両親の事故ってもしかすると「事故」じゃない可能性も有り得るのかなあ)

グレイ・コードによる手引きで事故死にみせかけて殺害された財前兄妹の両親を思い出し、和波は薄ら寒い妄想に取り憑かる。考えすぎというにはあまりにも状況がにすぎている。あとで拠点になってから数カ月たつのに未だに全貌がつかめない新しいアジトを調べて過去のグレイ・コードのやらかしたことを調べる必要がありそうだ。

(万が一事故じゃなかったとしたら、穂村くんがいよいよ追い詰められちゃうよな。グレイ・コードと関わりないならそれが一番いいもん、調べよう)

和波はsoulburnerとGO鬼塚のスピードデュエルが佳境に入ったと確信する。そして彼から語られるあこがれの理由に耳を傾けるのだ。

「漁村、かあ。聞いたことあります、その街の名前」

「いや、知らないな」

「田舎だけじゃなくてVRAINS非対応地域とかで絶対にin出来ないってことかな。どうやって現実世界に逃げてきたんだろう、不霊夢。てっきり不霊夢と会ったから藤木くんに会うために転校してきたのかと思ったけど違うんですね」

「そうみたいだな。うーん、不霊夢が尊くんとあったのはいつなんだ?それによってほかのイグニスの逃走経路を調べる方向性が変わってくるんだが。ハノイの脅威から絶対的に安全でモラトリアムを過ごせる安全地帯に逃げ出したのか、デンシティに尊くんが来て出会ったのか。わからないとな」

「ほんとに偶然ならもってますね、穂村くん」

「ああ、全くだ」

「うーん、ただこれでロスト事件被害者で皆が記憶喪失になる訳じゃない事がはっきりしちゃいましたね。藤木くんの記憶はどこいっちゃったんだろう。鴻上くんが必死で励ましたから他よりメンタルのケアは有ったのに」

「……そうだな」

二人の間に沈黙が降りた。

「えっと、鬼塚さんは子どもたちを楽しませたいと思うのも本心だけど、ライバルに勝ちたいと思うのも本心ってことですかね」

「ああ、そうだな。後者に蓋をして前者だけで妥協しようとするのは、自分の本心から逃げてることになるのかもな。人間って多面性を持つ生き物だし、それでいいのかも」

「鬼塚さんはロスト事件に同情して手加減しないとこはいいとこだと思いますよ、僕」

「奇遇だな、俺もだよ。ただGO鬼塚はまだ立ち直ったって感じはしないな。彼はなんていうか、自分がなんのためにデュエルしてるにせよ勝たないと価値ないみたいに思ってる節あるから一番にこだわるし、負けた自分が許せないし、負ける度に迷走するんだと思う。どのみち自分で見つけなきゃいけないものだ、俺たちがどうこうできるもんじゃない」

「でも、今のGO鬼塚さんには結構効いたかもしれませんね、soulburnerとのスピードデュエルは」

「そうだな、そういう意味でもsoulburnerはいいやつなんだろう」

和波は大きく頷いたのだった。
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