泣き疲れて眠ってしまったウィンをソファに寝かせてやり、和波は毛布をかけた。
「これからどうするんだい、誠也。フィーアちゃんの構成プログラムが復元できるにはまだ時間がかかりそうだが、児童福祉施設にはこちらが預かってると連絡はいれたわけだけど」
「どれくらいかかる?」
「フィーアちゃん次第だけど、まあ一月もあれば保証はできるかな」
「一カ月かあ……なにがあったのかフィーアちゃんの話を聞かないとどうにもならないもんね。どうしよっかなあ」
「とりあえず明日も学校だから鞄取りにカフェナギに行かなきゃなんねーってこと、忘れんなよクソガキ」
「あっ」
「なにがあっだ、なにが。遊作に任せたのはお前だろーがよ。任せたんだから報告すんのが筋だろうが、あとは穂村たちの話を聞く途中で抜けちまったんだから謝れよ」
「そ、そうだよね、しまった。全部忘れてたよ、あはは」
「んなこったろうと思ったぜ、クソガキが」
HALはためいきだ。
「一応、こっちのネットワークにも俺様の分霊派遣しとくから報復とかあったら連絡くれよ、おねーちゃん。間違って駆除しないように」
「非常に不本意だがそうさせてもらおうかな」
「おうおうそうしとけ、今からネットワークは俺様の統制下に置かれるからな。安心して作業しな」
「ねえ、HAL。児童福祉施設にも派遣した方が良くない?」
「いわれなくてもそうするさ。俺様の可愛い元分霊ちゃんがいるからなあ」
「ありがとう。これでひとまず安心、かな」
「いいってことよ。俺様たちの目を出しぬきやがったんだ。きちんと落とし前はつけてもらわねえとな!さーて俺様は今から対イグニス用ウィルスに向けてセキュリティを強化するぜ」
よっぽど悔しかったらしいHALは和波のデュエルディスクに入ってしまう。おやすみなさい、の言葉を残して和波は病院をあとにした。
「あれ、誰だろう?」
和波の現在地を把握して遊作たちが連絡を入れてくれたんだろうか。にしては同じ番号が何回かがかっている。そのダイヤルをみた和波はあわててアプリを起動した。
「もしもし、鬼塚です」
「もしもし、鬼塚さんですか?僕です、和波です。今気づきました、遅くなってごめんなさい。どうしましたか?」
「やっと出てくれたか、和波!よかった、心配したんだ。みたぞ、さっきのデュエル!フィーアが誘拐されたと施設から連絡があってまさかと思ったんだが大丈夫か!」
「あ、はい、ありがとうございます。僕もフィーアちゃんも大丈夫です。ただフィーアちゃんのこと考えたら大学病院で一カ月ほど入院というか保護した方がいいってことになりました」
「そうか……すまん、ありがとう」
「気にしないでくださいよ、カリスマデュエリストのお仕事忙しいんですよね?」
「……忙しいのは事実だがちょっと事情が変わってな」
「はい?」
「俺よりお前の方が大丈夫なのか、和波。フィーアの件もそうだが、グレイ・コードの仕業ならお前も危ないだろ。それにゴーストなりすましの件もだ」
「あ、ありがとうございます。さいわい、まだ被害はないです」
「そうか、ならいいんだが。なんとかするから安心しろ」
「あ、あはは。僕よりフィーアちゃんたちを守ってあげてくださいよ、鬼塚さん」
「 いや、それは和波に任せたい」
「え?」
ハノイの塔の事件から数週間後、現実世界で鬼塚と連絡を取るようになっていた和波は、出身の児童福祉施設で保護されているフィーアや彼のことを鬼塚に明かしていた。守ってあげてほしいの言葉に任せろといってくれていたはずなのに、いきなり違うことを言われた和波は面食らう。
「実は、今俺はバウンティハンターに志願してplaymakerたちを追っている」
「え゛」
「色々理由はあるが、これだけは話しておきたいかあ
「は、はあ」
「フィーアが電子機器を怖がるようになり始める数日前から、フィーアのサイコ能力の治療にはある男が関わるようになっていたんだ」
「誰ですか?」
「SOLテクノロジー社の技術者でサイコデュエリストについて専門の河島という男だ。なにが聞いたことはないか?」
「河島さん……ああ、はい、僕も最初のころお世話になりました。今は精霊プログラムの実績からプロジェクトの責任者になったとかで、全然あえなくなりましたけど」
「初めは気のせいかと思ったんだが、奴の関わった治療のあと、監視されてるとかフィーアがいいはじめたんだ。俺は精霊とかいった分野はさっぱりだから気のせいかと思ったんだが、今回の件も考えるとどうも気のせいとは思えない」
「どういうことです?」
「今回の遊園地の件は、初めて企画されたものなんだ」
「え、でもたまにあるって」
「それとはまた別の企画なんだ。SOLが支援してる団体の主催だった」
「そ、それほんとですか!?」
「ああ、話を持ってきたのが河島だったからな、さすがにこうも話が続いてくるとおかしい。和波の話も聞いてるとフィーアたちを守ってやるにはもっと深入りしないといけない気がしてきたんだ」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ、鬼塚さん!まさかカリスマデュエリストやめてバウンティハンター始めたのってそのせいとか言わないですよねっ!?なんで今の今まで僕に相談してくれなかったんですか!?まさか一人で決めたとか!?」
「まあまあいいだろ、男には黙ってやらなきゃいけないこともあるんだよ」
「そんな、鬼塚さん……」
「だいたいゴーストのやつの悪ノリは少々目に余ってるとこがあったからな。ハノイの騎士がいなくなってから調子に乗りすぎてるんだ」
「……あ、あはは」
もしかして僕のせいだろうかと和波は冷や汗が浮かんだ。鬼塚はハノイの塔で和波の過去を把握済みのためゴーストがフェッチ事件被害者で和波が成りすましたから報復でやらかしてると気づいている。アプリから聞こえてくる怒りは相当なものだとうかがえた。もともとやりすぎ感はあったがさすがにやりすぎている。一度痛い目にあわないと懲りないだろうと鬼塚はいった。和波は乾いた笑いしか浮かばない。気をつけろよと釘をさされてしまう。
「playmakerファンでもある和波には複雑かもしれんがな、あはは。あんまり軽率な行動はとるなよ、和波。ただでさえゴーストはお前だと勘違いされやすい土壌が出来上がってるんだからな」
「あ、あはは……」
「というわけでさっき財前から連絡がはいった。バウンティハンターとしていってくる」
「うえっ、ちょ、鬼塚さん!?」
通話アプリは切れてしまった。
「えー……」
しばし戸惑い気味だった和波だったが、口元が笑う。
「うまくいくことばかりじゃないってことかな……?鬼塚くんまで巻き込んじゃった。あーもう、心配だけじゃないのが我ながら腹立つ!なんでみんな僕おいてきぼりにして面白いこと始めようとしてるのさもう!これだから大好きなんだよGO鬼塚!相手は誰であろうが強いのは俺だって精神大好き!あははっ!」
こうしちゃいられない、特等席でplaymakerたちのデュエルを見なくちゃと和波はカフェナギに向かい始める。そして道すがら草薙に連絡を入れた。
どうやら遊作たちも動いていたようだ。ゴーストガールからリンクヴレインズの立ち入り禁止エリアが仁の意識を奪った奴らが消えたエリアが一致することを突き止め、今からplaymakerとsoulburnerが向かうとのこと。和波は急いで観覧車前に駐車しているカフェナギのトレーラーに向かい始めたのだった。