アインスはニヤリと笑った。
「残念だったね、ワナビー。これで君の活躍は終わりだよ。君は昏睡状態になり、ワナビーとゴーストのアカウント、そしてHALのデータはグレイ・コードのものになるんだ。悪く思わないでくれよ、負けた君が悪いんだからね」
そして倒れているはずのワナビーのデータを吸収してしまおうとデュエルディスクを構えた。
「やだなあ、勝手に負けなんて決めつけないでよ。デュエルはまだまだこれからじゃないか」
アインスは目を見開いた。
「たしかに面白い効果だね」
ライフポイントが0になったかと思われたワナビーだったが、そこには無傷とはいかないが平然と立っている。ライフポイントは500残っていた。
「そのわりに随分とボロボロだけど?」
「うるさいなあ、そんなこと言われなくたってわかってるさ。僕が言いたいのはね。相手のソリティアじみた盤面であっても、問答無用であらゆる場所からモンスターをデッキバウンスしてしまうんだ。実際に使えるとかなり面白いカードかもしれない。場に出れば驚異のモンスターリセットでお互いの墓地アド・除外アドが吹っ飛んでいくんだ。しかも3500打点のダイレクトも通せる上で相手は墓地にモンスターが居ない状況からこのカードを超えていかなければならないんだし」
次の追撃があるかもしれないのにワナビーは平然としていた。アインスは舌打ちをする。マインドスキャンが発動した形跡はないはずなのにこの余裕ぶりはなんだ。
「最も手札はリセットできず効果発動のチェーン阻止しか耐性がないから、相手の手札次第ではあっさり落ちてしまうのが難点だね。手札はもちろん、魔法・罠にも干渉することが出来ないんだから」
ワナビーは笑みを深くする。
「しかもこのカードを特殊召喚するターンには、他のモンスターを特殊召喚出来ないオマケ付き。ハイリターンのロマンカードだね」
そう、これ以上アインスはワナビーに攻撃することが出来ないのだ。アインスは面白くなさそうに舌打ちした。なにか罠魔法が飛んでくれば無効のチェーンでトドメのバーンをするつもりだったようだ。あえてライフで受けたワナビーはこの判断が正しかったのだと悟った。
「......ターンは終了だよ」
「よおし、面白くなってきたね!ぼくのターン、ドロー!ふふっ、エクストラデッキを回復させてしまった代償は大きいよ、アインスさん!なんたってボクのデッキは、エクストラリンクが大の得意なんだから!」
ワナビーの闘争心に火がついていた。
「ボクのターン、ドロー!」
そしてワナビーの怒涛の展開が始まったのである。
グローアップバルブを通常召喚、リンクリボーを特殊召喚。バルブ効果で特殊召喚し、リンクリボー、バルブでハリファイバーを特殊召喚。レベル1ドラゴン族チューナーを特殊召喚。ドラゴン族チューナーでエルピィ特殊召喚。星遺物の守護竜でドラゴン族チューナーを特殊召喚。星遺物の守護竜の効果でエルピィを移動。エルピィ効果で黒鋼竜を特殊召喚。黒鋼竜でピスティを特殊召喚。黒鋼竜効果でレダメサーチ。
エルピィを除外、レダメ黒鋼竜を特殊召喚。レダメ、黒鋼竜でロムルスを特殊召喚。効果で竜の渓谷、sin真紅眼をサーチ。針ロムルスでスリーバーストショットを特殊召喚。ピスティ効果でレダメ特殊召喚。黒鋼竜を特殊召喚。レダメ、スリーバーストショットでアガーペイン特殊召喚。
アガーペイン効果でキングドラグーン特殊召喚。黒鋼竜、アガーペイン、ピスティでダークネスメタルを反対側のエクストラゾーンに特殊召喚。黒鋼竜効果でインサイトサーチ。インサイト発動、黒炎竜をコストに真紅眼牙サーチ。渓谷を発動、手札コストを切ってテンペストを落とす。
真紅眼を除外し、sin真紅眼を特殊召喚。ダークネスメタルの効果で除外された真紅眼帰還。真紅眼とsin真紅眼で鋼炎を特殊召喚。効果で黒炎竜を特殊召喚。ドラゴン2枚を除外しテンペストを特殊召喚。
テンペストと黒炎竜で鋼炎を特殊召喚。効果で黒炎竜を特殊召喚。黒炎竜とチューナーでサベージ、特殊召喚。効果でスリーバーストを装備。
その結果、鋼炎が2体。キングドラグーン、ダークネスメタル、真紅眼牙がフィールドに出現した。
「さあ、バトルだよ、アインスさん!」
まさに圧巻である。ワナビーの闘志にもにた雄叫びを上げながらドラゴンたちがアインスと神の名を模したモンスターに襲いかかる。
「ぐああああッ!!」
「ヨシッ!」
ワナビーはガッツポーズした。
「ヘヘッ、やったァ!!ボク、アインスさんに勝っちゃった!やったね!」
ワナビーは暗かった心の中に一点の明かりが点じられる。気持ちが晴れる。明るい気持ちになる。行き詰まりだと思っていた眼前に、ほっと灯りがともったようにだ。幻滅と絶望の果てに、最後に縋り付いたただ一筋の光をうしなわずに済んだのである。
闇が薄紙を剥ぐようにわずかずつ白み始めた世界は、暗黒な前途を照らす光明のように一気に明るくなった。目の前の厚い壁が急に取り払われて、空が明るくなったような気すらする。
「返してもらうからね、HALを」
「わかったよ、約束だからね」
アインスは肩を竦めた。手のひらの光がワナビーの元に返ってくる。
頭の中を幾度と無くカードが交差する。その無限の交差の中、編み込まれて行くある思考。そしてその思考によって解きほぐされていく心理という名の結び目。 重く錆び付きとても開そうになかった勝ちへの扉が今きしみつつ動き出した。扉は開かれたのだ、そしてそこから一条の光、その光はワナビーをこれからも導く細い綱、天が垂らした救いの糸、光明、勝ちへのタイトロープだ。
ワナビーはこの時、暗い夜の向こうに、人間の目のとどかない、遠くの空に、さびしく、冷ややかに明けてゆく、不滅な、黎明を見たのである。
デュエルディスクが点灯する。
「おかえり、HAL!!」
しばらくの沈黙のあと、見慣れた不定形の生物が目を覚ます。アイとよく似ているが瞳の色が異なり、生意気そうに双眸が歪められた。
「オレは......オレサマは......まだ生きてんのか?」
「生きてるよ、HAL!ボク頑張ったんだからね!少しは感謝してよ?」
「......ワナビーか」
「そうだよ!」
HALは挑発めいた笑いを零した。
「泣くんじゃねーよ、クソガキ。俺様が泣かしたみてーじゃねーか」
「うるさいなあ!ありがとうくらい言えないの、君?」
「これから言おうと思ってたんだよ、うるせえな。ありがとうな、ワナビー。正直もうダメかと思ったぜ、助かった」
「うん......うん!」
「さあて、じゃあそこにいるのが負け犬のアインスはてめーかよ?」
HALはニヤリと笑うとアインスに牙を向いたのである。