一般家庭にあるまじきセキュリティの強固さである。SOLテクノロジー社の本社のメインコンピュータほどではないが、大手企業並みなプログラムが展開されている。さいわい見たことがあるものばかりだ。見覚えのあるモーション、見覚えのあるプログラム、そしてシステム。脆弱性まで類似しているとなると、SOLテクノロジー社のものを拝借しているか、参考にしているかといったところだろうか。どのみち一度攻略したことがあるセキュリティプログラムなどplaymakerの敵ではない。アイの支援も手伝ってplaymakerの侵入は順調に進んだ。
『だいぶ潜ったけどどの辺なんだろうな、今』
「一般の回線ならそろそろパソコンに繋がるはずだ」
『お、いよいよ本命のお出ましか?』
「そうだな」
『いってるそばからそれっぽい奴出てきたぜ!ボス級の!』
その女の背後にはこの回線の終着地点と思しきログアウトエリアがある。つまりこの女を倒さないと先に行けないということだ。
『わかりやすくていいな!どっかのリアリストなAIよりは物事ってもんがわかってるぜ!』
サイバースの風はあの四角い画面まで吹き抜けている。女はDボードを取り出した。playmakerはデュエルディスクを構える。
「ここから先は私を倒してから行きなさい」
やけに流暢なAIである。イグニスほどではないが自我はかなり念密に組まれているようだ。
「言われなくてもわかっている」
play makerはスピードデュエルの開始を宣言した。
『じゃあデュエルは受けるんだな、playmakerサマよ!』
「ああ、和波のデュエルディスクと俺のデュエルディスクは連携したままだ。もう寝てるかもしれないが、明日このデュエルログを見せればなにかわかるかもしれないからな」
『なんも収穫なしじゃさすがにまずいもんな、サンセー!』
「いくぞ」
『おうよ!風を掴め、playmaker!』
先攻はplaymakerである。なかなかの手札だ。次の布石のためにモンスターをセットし、カードを2枚伏せる。そしてターンを渡した。
「私のターン、ドロー!私はカードを2枚伏せて、フィールド魔法《星遺物が刻む傷跡》の効果を発動!このカードが存在する限り、フィールドの《機界騎士》モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする!」
『《機界騎士》だあ?さっそくお出ましかよ、ゴーストがいってたやつ!』
「《機界騎士》……どうやらそのようだな」
『気を引き締めていけよ、playmakerサマ』
「いわれなくてもわかってる」
サイバースの風を突き抜けながら、playmakerは先陣をきる。背後からは女がぶん回しの体制に入った。
《星杯を戴く巫女》のフレーバー・テキストにあった《機界騎士》。森の民を支配しようとしているらしい、謎に包まれた集団である。グレイ・コードから支給された和波の《星杯》デッキと共通の世界観であることが伺える。カードデザイナーに注目したことはなかったが、グレイ・コードの使用するテーマは同じカードデザイナーが手がけたストーリーラインに沿って作られたテーマばかりだ。《機界騎士》の詳細がわかったら、《星杯》、《クローラー》、《機界騎士》併せてもっと深く調べてみる必要があるかもしれない。遊作がロスト事件の時に支給された《サイバース》のように、なにか関係あるかもしれないからだ。たしかバニラの《星杯》デッキは一般に流通してたはずである。SOLテクノロジー社にカードデザイナーがいるのなら、間違いなくグレイ・コードの関係者だ。
さらに《星遺物が刻む傷跡》の第2の効果!1ターンに1度、手札から《機界騎士》モンスター、あるいは《星遺物》カードを1枚を捨てて、デッキからカードを1枚ドローできる。私は《燈影の機界騎士》を手札から捨て、ドローするわ。ここで私の愛する《機界騎士》の共通効果!フィールドの同じ縦列にカードが2枚存在する場合、その縦列の自分フィールドに特殊召喚することができるわ!私は《黄華の機界騎士》を攻撃表示で召喚!!」
レベル7 光属性 サイキック族 攻撃力2200 守備力2800
《星遺物に刻む傷跡》の効果で攻撃力は2500,守備力は3100に上昇している。どうみても機械だが超能力者集団の一角のようだ。サイコデュエリストの幹部だけはあるということだろうか。
「ここで《黄華の機界騎士》の効果!自分の墓地から《機界騎士》モンスター1体を除外し、このカードと同じ縦列の魔法・罠カード1枚を対象として発動するわ。そのカードを破壊する!ここでセットカード、オープン!正続魔法《星遺物に至る鍵》!!このカードの発動時に、除外されている自分のカードの中から《機界騎士》モンスター1体、または、《星遺物》カード1枚を回収することができる。もちろん私が手札に加えるのは《黄華の機界騎士》よ。さあ、いくわよ。playmaker!私は《黄華の機界騎士》でそのセットモンスターを攻撃!!」
「このカードは《ドットスケーパー》、墓地に送られたこの瞬間効果を発動する!自身を表側守備表示で特殊召喚!」
「なるほど、まあいいわ。貴方の実力見せて頂戴」
フィールドには《黄華の機界騎士》1体、フィールド魔法《星遺物に刻む傷》、永続魔法《星遺物に至る鍵》、伏せカード1枚。
「これで私のターンはおしまいよ」
playmakerのターン開始と同時にドローを宣言し、メインフェイズに入る。
「俺は《ドラコネット》を召喚、モンスター効果を発動だ。このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札・デッキからレベル2以下の通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。俺が召喚するのは《デジトロン》。さあいくぞ、来い!未来に導くサーキット!アローヘッド確認!召喚条件はモンスター2体!俺は《ドラコネット》と《デジトロン》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン、リンク召喚!リンク2《プロキシー・ドラゴン》」
小さな守護龍がplaymakerの周りを浮遊する。
「ここで俺は墓地の《ドラコネット》を除外し、《輝白竜 ワイバースター》を攻撃表示で召喚!さあ、いくぞ!ふたたび現れろ!アローヘッド確認!召喚条件は効果モンスター2体以上!俺は《輝白竜 ワイバースター》とリンク2《プロキシー・ドラゴン》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!リンク3《デコードトーカー》!!」
playmakerのフィールドにリンクモンスターがおりたつ。
「ここで墓地に送られた《輝白竜 ワイバースター》の効果!デッキから《暗黒竜 コラプサーペント》を手札に加える!そして《輝白竜 ワイバースター》を除外し、《デコード・トーカー》のリンク先に特殊召喚!これで《デコード・トーカー》の攻撃力は500ポイントアップの2800となる!バトルだ!《デコード・トーカー》で《黄華の機界騎士》を攻撃!デコードエンド!!」
一瞬にして機界騎士は爆発四散する。
「さらに《暗黒竜 コラプサーペント》でダイレクトアタック!!」
女の悲鳴が聞こえた。playmakerは気にせずデータの風に乗る。これでエンドだ。
「私のターン、ドロー!ここで罠発動、《星遺物の囁き》!このカードの発動時に、フィールド上のレベル5以上のモンスターの攻撃力はターン終了時まで攻撃力・守備力が1000アップする!そして発動、魔法カード《死者蘇生》!墓地から蘇れ、《黄華の機界騎士》!攻撃表示で特殊召喚!さらに《星遺物に刻む傷跡》の効果で《燈影の機界騎士》を墓地に捨て、カードを1枚ドロー!そして、《黄華の機界騎士》の効果!自分の墓地から《機界騎士》モンスター1体を除外し、このカードと同じ縦列の魔法・罠カード1枚を対象として発動するわ。そのカードを破壊する!そして、《星遺物に至る鍵》の効果!除外した《燈影の機界騎士》を回収、縦列が2枚となったことで召喚条件を満たした《紺碧の機界騎士》を攻撃表示で特殊召喚するわ!」
レベル7 光属性 サイキック族 攻撃力2300 守備力2600
《星遺物に刻む傷跡》の効果で攻撃力が2600、守備力が2900に上昇している。
「さらに永続魔法発動、《ポジションチェンジ》!自分フィールド上のモンスター1体の位置を使用していないモンスターゾーンに移動させることができるわ。私は《紺碧の機界騎士》の位置を左側に移動!もともといたゾーンに《紫宵の機界騎士》を攻撃表示で特殊召喚!!」
今度はレベル8 光属性 サイキック族 攻撃力2500 守備力2000
《星遺物に刻む傷跡》の効果で攻撃力は2800、守備力が2300に上昇している。
「さあ、バトル!」
「相打ち狙いか」
「そのとおり!バトルは続行よ!《紺碧の機界騎士》と《黄華の機界騎士》で残りのモンスターたちに攻撃!」
フィールドはガラ空きとなるが、なんとかライフポイントは残った。playmakerのターンである。同じ状況にしようと発動した《ブラックホール》。だが女は笑う。
「甘いわね、チェーンして発動、永続罠《星遺物の囁き》の第2の効果!!フィールド上に《機界騎士》モンスターが存在する限り、そのモンスターと同じ縦列で発動した相手の魔法カードの効果は無効化される!」
「お前のフィールドにある《紺碧の機界騎士》も《黄華の機界騎士》も●を発動したフィールドの縦列には存在しない。よって効果は無効だ」
「それはどうかしら」
「なんだと?」
「ここで《星遺物の囁き》にチェーンして《紺碧の機界騎士》の第2のモンスター効果を発動するわ!1ターンに1度、この効果は相手ターンでも自分フィールド上に存在する《機界騎士》モンスターを対象として発動できるのよ。対象のモンスターの位置を他の自分のメインモンスターゾーンに移動させる!」
「なっ!?」
「よって私は《紺碧の機界騎士》自身を《ブラックホール》を発動した縦列に移動!《星遺物の囁き》の効果の適用が可能となるわ!これで《ブラックホール》の効果は無効となる!」
「くっ」
「さあ、さっきまでの威勢はどうしたの?playmakerともあろう人間がその程度?」
「まだデュエルは終わっていない」
「さあどうかしら。あがいて見せて頂戴」
女は笑う。playmakerは闘志に満ちた目を向ける。相手に不足はない、全力でいかなければ負ける。それだけである。