さよならのかわりにH

「ところできみさ、いつスピードデュエル習ったの?」

「なんでそんなこと聞くんだ」

「だってロスト事件ではマスタールールって話じゃない?」

「そんなことアンタには関係ないだろ」

「ま、いーけどね。ちょっと気になっただけだから」

「……知りたいのは俺の方だ」

「ありゃ、ごめん」


軽口をたたきながらゴーストはサイバースの風にのる。


スピードデュエルは《機界騎士》といい《魔弾》といい、難敵ばかりの連戦が続く。


3つしかないフィールドは大量展開を得意とする《サイバース》よりも、パーミッションの動きをするデッキが輝くのかもしれない。マスタールールなら5つあるフィールドから慎重にモンスターや魔法罠を展開する位置を考えなければならないが、たった3つだ。その気になれば一瞬で埋めることができてしまう。嫌な相手だ。ほんとうに。playmakerは先攻を取られてしまったことをちょっとだけ残念に思う。もう嫌な予感しかしないのだ。




ゴーストの新しいデッキは、レベル3,4の光属性悪魔族の《魔弾》モンスターと《魔弾》魔法罠カードを駆使して戦うパーミッションデッキである。《魔弾》モンスターはフィールドに存在する場合、手札から《魔弾》魔法罠カードを手札から発動できる効果をもっているため、相手ターンに手札から速攻魔法や永続罠カードを発動すれば、スペルスピードの関係で相手に奇襲を仕掛け、翻弄することが可能となる。今まで使っていた《ライトロード》は、やはり本来のプレイングとはかけ離れたものだったのかもしれない。



《魔弾》デッキは実にシンプルだ。難しい回し方やソリティアがあるわけではない。展開ルートが複数あるわけでもない。《魔弾》デッキの回し方は、《魔弾の射手 カスパール》と《魔弾の射手 スター》の2枚でひたすらアドバンテージを稼ぎ、妨害札や戦闘補助カードをデッキからサーチし、弾丸のように相手の展開を阻害するように魔法罠カードを繰り出すというものだ。


《魔弾の射手 ザ・キッド》や《魔弾の射手 ドクトル》のような手札交換や墓地回収効果でアドバンテージを稼ぐこともできるが、発動に制約がある以上序盤より中盤から後半にかけて威力を発揮する。


相手へ干渉していく効果をもっているカードが多い。裏を返せば自身のアドバンテージを取るためには《魔弾》モンスターの効果に依存している上に特殊召喚の手段も限られてる。しかも専用のフィールド魔法もないため、自身の展開補助に関しては《魔弾》デッキ自体かなり手薄になる。《魔弾の射手 カスパール》や《魔弾の射手 スター》をサーチする手段がないため、ドローソースに依存しており、初手に引けるかどうかが勝敗に強く影響する。安定感が低い。ここをつけば勝機はある、とplaymakerは踏んでいたようだが、どうやらそう簡単にはいかないようだ。



playmakerが目撃したゴーストのデュエルは《魔弾》デッキの弱点・課題とも言うべき展開補助のカードがないという点を補いながら、相手の妨害に特化して動きを封じつつ、ランク3・4エクシーズで盤面を展開していた。《魔弾》デッキは序盤の展開が最重要なテーマなようで、展開の遅さをカバーするために相当気をつかっていた。そこを的確に打ち抜けばいい。playmakerは慎重に思考を巡らせる。


「ボクの先攻だね!ボクは《魔弾の射手 スター》を攻撃表示で召喚!」


ゴーストのフィールドに美しくも妖艶な女性ガンマンが現れた。自慢の銃口をplaymakerに向ける。


「そして、魔法カード《トゥーンのもくじ》の効果を発動!もちろん発動する場所は《魔弾の射手 スター》と同じ列、つまり真後ろ!デッキから《トゥーン》カードをサーチするよ!」


彼女は軽やかなステップでターンすると発砲する。命中させた緑色のカードが墓地に消え、代わりに全く同じ絵柄のカードがゴーストのデッキからとんでくる。そして手札に加わった。


「ここで《魔弾の射手 スター》のモンスター効果を発動!このモンスターと同じ縦列で魔法・罠カードが発動したとき、デッキから同名以外のレベル4以下の《魔弾》モンスター1体を守備表示で特殊召喚することができるんだ!ボクが特殊召喚するのは《魔弾の射手 カスパール》!」


《魔弾》の要ともいうべきモンスターが召喚された。モチーフとなった物語でも最重要なカードである。


「さらにボクは2枚目の《トゥーンのもくじ》を《魔弾の射手 カスパール》と同じ縦列で発動!デッキからさらに《トゥーンのもくじ》をサーチ、手札にくわえるね。そして《魔弾の射手 カスパール》のモンスター効果を発動!このカートと同じ縦列で魔法・罠カードが発動したとき、そのカードと異なる《魔弾》カードをデッキから手札に加える!」

「《トゥーンのもくじ》は《魔弾》じゃない。なんでもサーチできるってことか」

「そういうこと!さーて、とりあえず準備はととのったかな?カードを1枚伏せて、ボクはターンエンドだよ!」


いやらしい布陣である。4枚しかなかったはずの手札はモンスター効果による充填により増えていた。豊富に握られた罠魔法である。手札から発動なんてインチキにもほどがあるが、それが《魔弾》の特性なのだ。ほんとうに奇襲が得意なカードである。2体いるモンスターたち、唯一の空白にはカードが1枚伏せられている。ついさっき味わった理不尽なコンボを思い出す。いっそのこと全部吹き飛ばしてしまいたいが、パーミッションはちょっとやそっとの妨害札では防ぎきれない。すべて手札誘発にさいているくらい極端でなければ妨害がとまらないのだ。さてどうしたらいいだろうか。playmakerは投げ渡されたターンに、ドローを宣言した。


このターンはさいわい、《魔弾》たちはモンスター効果をすでに発動し終わっている。警戒すべきは妨害札である。


playmakerは様子見も兼ねてモンスターを召喚したが通った。あえて、リンク召喚を狙わずロービートを刻む。一応墓地の《魔弾の射手 カスパール》たちは除外した。《魔弾》モンスターたちほ幸いステータスが低いのだ。なんとか一掃できた。playmakerはなにも伏せずエンドした。


「いつになく慎重だね、playmaker。ボクのターン、ドロー!ボクは《魔弾の射手 カラミティ》を召喚!」


露出度の高い赤毛の女は自分よりはるかに大きな銃を構えて現れる。


「そして発動、魔法カード《おろかな埋葬》!デッキからモンスターを1体墓地に送るよ!もちろんボクが送るのは《魔弾の射手 カスパール》!」


どでかい一撃が魔法カードを粉砕する。


「ここで《魔弾の射手 カラミティ》のモンスター効果を発動!このカードと同じ縦列で魔法罠カードを発動した場合、ボクは墓地にある《魔弾》モンスターを守備表示で特殊召喚することができるよ!!」

「アンタの墓地には《魔弾》モンスター、1体しかいないじゃないか」

「そう、今まさに墓地に送った《魔弾の射手 カスパール》がね!おいで、《魔弾の射手 カスパール》!守備表示で特殊召喚!」


モンスターの置かれるのはいつだってplaymakerの伏せカードの縦列。たった3つしかないのだ。2体もいれば対応可能となってしまう。ぐうの音も出ない。そして発動される魔法カード。発動する《魔弾の射手 カスパール》のモンスター効果。補充される魔法罠カード。手札が命のテーマでもある。どうすればいいのか一番よくわかっているのはきっとゴーストだ。


「ここでボクは《二重召喚》を発動!このターン、もう1度だけ通常召喚することができるんだ。ボクは《魔弾の射手 カラミティ》をリリース!」

「なに?モンスターゾーンを埋めないのか?」

「それもいいんだけどね、せっかくだからボクのとっておき見せてあげるよ!きて、《《魔弾の射手》たちに力を与えし悪魔!《魔弾の悪魔 ザミエル》!!」

「なっ!?レベル8のアドバンス召喚はモンスター2体を要求するはず!」

「ざーんねん、実は《魔弾の射手 ザミエル》は《魔弾》モンスターをリリースする場合は1体でできちゃうんだ!さあ、バトル!《魔弾の射手 ザミエル》で《RAMクラウダー》を攻撃!ここで発動させてもらうよ、《オネスト》のモンスター効果!《魔弾の射手 ザミエル》の攻撃力は倍になる!よって攻撃力は5000!!」


《RAMクラウダー》が1800、ダメージは驚異の3200。一気にライフポイントは800となる。

「ぐああああっ」


すさまじい衝撃に弾け飛ばされたplaymakerが宙に舞う。Dボードが吹き飛んでいく。反動で急速に落下し始めた体。playmakerはデュエルディスクからワイヤーを発射した。そしてなんとか捕まえる。


「これでボクのターンは終わりだよ、playmaker!そろそろ君のスキル間近で見たくなっちゃったんだ、ボク。次のターンで、逆転の一手を見せてよ!」

「言ってくれる……!」

「ちなみにキミのターンのエンドフェイズ、《魔弾の射手 ザミエル》のモンスター効果を発動!このカードが表側の時に発動した《魔弾》罠魔法の数だけデッキからカードをドローすることができるんだ。それがどういう意味かはわかるよね?このターンでボクを仕留めきれなければキミは負けるんだ」

「なっ!?」

「ふっふっふ、簡単に負けてなんかあげないからね!」


不適に笑うゴーストにplaymakerは笑う。


「それはこっちの台詞だ、ゴースト」

「いってくれるじゃない。デッキが変わった途端に負けちゃったなんて恥ずかしすぎるからね、絶対に負けないよ!」

「あのときの雪辱はかならず晴らす」

「そう簡単に物事はうまくいかないってこと、教えてあげるよ!」







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bkm






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