2週目極歌仙とリセット本丸

「さて、そろそろ休憩にしようか。どうする、まだ行けそうかい?帰城するか?」

「あたしは大丈夫さ、まだまだ暴れ足りないねえ」

「主から持たされた甘味もお弁当もあるはずですよね、歌仙。いただけるならば問題ない」

「じゃあ見張りしててやるよ。疲れてるやつは休みな」

「すまないね、じゃあお言葉に甘えて」

「大典太は大丈夫かい?」

「......疲れただけだ。休めば治る」

「そうか、ならしばらく休んでから開放されたエリアにいくとしよう」

僕は兵士たちに甘味を持ってくるよう伝えた。隊員たちの状況を主に報告しておく。しばらくすると了解の文字があった。主曰く軽傷の時点で周回に支障をきたすから絶対に帰ってこいとのことだが、さいわいまだ誰も怪我らしい怪我はしていなかった。

「ああ、そうだ。石切丸」

「なんだい?」

みんなに甘味を配ってから僕は忘れていたと布に包まれた菓子を石切丸に渡した。

「これは?」

「すまない、忘れていたよ。主からこれを食べるように」

「金平糖かな?いや、霊力が籠っているね」

「石切丸はこの部隊の中では練度が低いからこれで足しにしてくれとのことだ。出発前に渡すべきだったね、すまない」

「おお、これはいいね。団子と一緒にいただくよ」

昔懐かしいお菓子「金平糖」。誰もが一度は口にしたことがある金平糖は、その手間と手作りの暖かさ、鮮やかな彩りが好まれ、結婚式の引出物として出されるなど、高級和菓子としての一面もある。

金平糖の故郷は実はとても遠い、ポルトガル。1569年にポルトガルの宣教師が織田信長に献上したのが始まりだと言われている。語源は、ポルトガルでお菓子を意味する「コンフェイトス」(お菓子の総称)。

つまり、僕にとっても馴染みがある和菓子だ。

その金平糖を今なお手作りで、なおかつ霊力を込めて職人がつくると、練度を高める効果がある便利なお菓子、根兵糖(こんぺいとう)ができあがる。

見た目は砂糖と下味のついた水分を原料に、表面に凹凸状の突起(角状)をもつ小球形の和菓子、金平糖そのものだ。

この小さく奇妙な形の菓子は、様々な色に着色可能であることからその大きさにかかわらず極めて目を引きやすい。加えて保存性が良く、湿気にさえ気を付ければ20-30年経っても味が変わらないとさえいわれている。

なお、飴玉は夏場などを経て高い室温に晒されたり吸湿すると表面が柔らかくなり、味も損なわれるが、金平糖では砂糖が結晶化しているため、簡単にしけることはない。

根兵糖もその特徴は受け継がれている。

石切丸は気に入ってくれたようで食べ始めた。僕も隣に腰掛けて団子をほうばる。

電子端末に今までの演習の舞台となっている隔離された世界について報告をまとめる事にした。

「いいもん食べてるじゃないか、石切丸」

「よってきてもあげるんじゃないよ、石切丸。それは主がきみにあげたものだ」

「そういうわけだから悪いね、次郎太刀」

「えー、いいじゃないかひとつくらい」

「よくない。もし石切丸が疲労を回復しきれずに怪我を負ったらきみは責任がとれるのか?」

「えー」

「主からは軽傷したら即時撤退を厳命されているんだよ。まだまだ暴れたりないなら怪我は大敵だ。この調査が終わればしばらく僕達のお役目は回ってこないだろうしね」

「それは困るなー、仕方ない。帰ったら主になんか貰おう。そうしよう」

「はは、なんだか今日の次郎太刀はいつになく元気だねえ。なにかいいことあったのかい?「」

「いやあ、兄貴と出撃するのもそうなんだけど、よく考えたらこのメンバーで部隊組むのもなんだか久しぶりな気がしてねえ!なんか嬉しくなっちまうのさ」

「まだ2ヶ月もたってないがね」

「えっ、そんなに?」

「まあ、みんな部屋バラバラになってるしなあ」

「俺はソハヤと組むことが多いが、お前たちは本当にバラバラだからな。久しぶりだったのに、今回も歌仙に助けられてばかりだ」

「大典太は疲労がたまっているんだ、動きも鈍るさ。僕は隊長だからね、庇うくらいなんでもない。気にしないでくれ」

「次頑張ればいいだろ、兄弟。空回りはよくないぜ」

「......ああ」

「歌仙、ちょいと貸しておくれよ」

「あ、おい、次郎太刀」

「送信っと。隊員のいうことはどんなささいなことでも報告が義務だろ」

「雑談を報告書に載せるバカが何処にいるんだい。返さないか」

「はいはい」

「ん?」

「やけにはやいね」

「そりゃそうだ。却下に決まっ......ん?......ものはいってみるものだね、次郎太刀。めずらしくおやつがあるそうだ」

「おやつ!?」

「それはまた珍しいですね」

「主の実家から本葛の贈り物があったそうだ。今、主と燭台切と小豆長光が厨房に立っているようだね」

「へえー、なんだろうね......って、主も?」

「ちょっとまて、主も!?妖精たちにいっつも丸投げしてる主もか!?」

「彼はたまに厨房に立つよ。みんな知らなかったのかい?歓迎会のときも厨房にいたよ」

「僕も驚いているよ。深手を負って手伝い札がない時、いつも葛湯を作ってくれているんだが」

「ああ、そうか。最近は手伝い札のストックがたくさんあるから、お目にかかった男士が少ないのかもしれないね」

「まあ、主も気まぐれだからな。休暇のペナルティを食らったんだ、僕たちが食べられる回数も増えるかもしれないね。主は料理をするのは好きななはずだ」

「そうだったのか......全然知らなかった。まあ、主いっつも執務室にいるしな」

「あるいは治療棟ですね」

「仕事ばっかだったもんねえ。そういやあたしら休みの日の主がなにしてるのか全然知らないのか」

「主の好きな食べ物くらいしか知らなくね?」

「あー、でもさ、あたしらのこと調べるのは好きみたいだね」

「あの書庫な」

「いえてる、いえてる」

「よーし、帰ったらおやつだね。お土産持って帰ろうじゃないか」

僕たちは笑ったのだった。






混じり気のない葛粉100%のものを本葛(ほんくず)と呼び、なめらかで口当たりが良いが、多少の苦味を伴う。本葛はその過程が大変な労力を要するために農閑期の冬の仕事とされていた。さらに労力に見合わず生産量が少なく高価であるため、葛粉と称して一般に売られているものはジャガイモ、サツマイモ(甘藷澱粉)、コーンスターチ(トウモロコシの澱粉)などのデンプンを混入したものが多い。

とはいえ、主の実家は西日本、しかも近畿の日本三大葛のひとつに数えられる産地だ。本葛粉が比較的手に入りやすい。

日本三大葛のひとつに数えられる若狭の熊川くず。熊川くずは、天保元(1830)年、江戸時代の儒学者頼山陽が病気の母への見舞品としてこれを送り、その手紙の中で「熊川は吉野よりほど上品にて、調理の功これあり候」と評したことでも知られている。

熊川くずの原料となるのは、若狭湾へ注ぐ北川上流に自生する葛根である。この一帯は葛根の育成に適した土壌で、澱粉の純度が高い良質な葛根がとれる。

掘り起こされた葛根は、何日も放置したり、雨や雪に当たると歩留りが落ちるため、洗わずに土が着いたまま線状になるまでたたき、谷を流れる水にひたす。その後、熊川の清流に晒す「寒晒し(かんざらし)」と呼ばれる作業が行われ、さらに不純物が取り除かれる。

この作業を11月〜3月の寒い時期に手作業で行い、清流に繰り返し晒すことで純白無垢な葛となる。手間暇かけてつくられる熊川くずは、まろやかな口当たりで上品な味わいだ。その葛を使った「くずまんじゅう」は、夏の風物詩となっている。

また葛には疲労回復や風邪に効能があり、その昔熊川には葛が「常備薬」としてどの家にも備えられていたそうだ。

熊川は、古い港町小浜から琵琶湖畔の近江今津へ通じる若狭街道(別名 鯖街道)の宿場町だった。北陸や山陰の物資輸送経路としての役割だけでなく、京と若狭、さらには北陸地方の文化交流の接点ともいうべき重要拠点だ。街道を歩くと街並みのいたる所に当時の宿場町の面影を見ることができる。

民家の軒下を流れる「前川」には昔と変わらない澄んだきれいな水が流れています。それは、住んでいる人達が一丸となって街並みや文化の保全に取り組んできたからだ。町のいたる所にある伝統的な建造物を眺めながらぶらりと散策したり、地元の語り部の方の話に耳を傾けたりと、ゆったりじっくり楽しみたくなるそんな町だと主は嬉しそうに話してくれた。

「なるほど......未曾有の災禍に見舞われて4年になるというじゃないか。ようやくここまでの量を生産できるようになったんだね」

「まあな。保存会の努力もあるし、未曾有の災禍から避難してきたはいいが仕事がなくて、農学舎に入った若いやつが多いからってのもある。消滅を待つばかりの名産品が復活するってのも皮肉なもんだが」

「おかげで僕たちは主の故郷の味を知ることができるんだ。ありがたく受け取ろうよ。地産地消っていうんだろう?地元のものを使った方が復興が早まるならいいことだ」

「まあ、そうだな」

「主の実家もこんなに高級なものをたくさん送ってくれるなんて、だいぶ生活が軌道に乗ってきたんだね」

「まだそういう訳じゃないんだが」

「あれ、そうなのか?じゃあまさか仕送りしてくれる主を不安にさせないようにわざと?」

「うちの親戚に代々住職をやってる家があるんだがな、今の時期になると檀家さんから消費しきれないお供え物をもらうんだ。お配りしてもしきれない分はおこぼれに預かれる」

「お盆でも彼岸でもないこの時期に?」

「うちの地元が未曾有の災禍に見舞われたのは、今くらいの時期なんだよ」

「ああ......なるほどね。法要があるのか。主、そんなに大切な時期なら実家に帰省しなくてもよかったのかい?」

「そりゃ聞いたさ。でも実家を引き継いで墓守してる2番目の弟がいうんだ。審神者がなんたるかはわかってないとは思うが、あいつは俺と違って霊的なものが視える性質がある。なんとなく把握はしているようだ。法要は末っ子と2人でやるから心配するなっていうんだから、長男としてはわかったっていうしかないだろう?」

「なるほど。家族の理解があるってのは心強いね」

「まあな」

「そうか、主はお兄ちゃんなんだ。だから面倒みがいいわけだ」

「あいつら、お兄ちゃんとは絶対思ってないさ。親父が死ぬのが早かったから高卒で働き始めたし、あいつらが結婚するまではって思ってたからな。口を聞いたら反抗ばっかするぞ」

「本当に思ってる訳では無いと思うよ」

「だといいんだがな」

主は笑った。

「審神者じゃなかったら、今頃墓守をしながら弟たちが引き継いでくれるまで仕事するしかない人生だったしな。ほんとにわからんもんだ」

食堂の厨房で主がしみじみつぶやく。鍋に葛粉と水を入れて練り合わせる作業の真っ最中だ。砂糖などを加えず、熊川葛を合わせた葛粉と、近くから湧き出る雲城水のみが原料。シンプルだけど、とても贅沢だ。

地下から引いてきた、冷たく澄んだ水をふんだんに使っている。この水が、葛まんじゅうのおいしさの決め手なんだそうだ。熱を加えながら練っていくと、次第に透明感が出てくる。

しゃもじですくうと、とろーりとしている。もう、すでにおいしそうだ。鍋から下した熱々の生地は、すぐに器に盛られる。ここは二人がかりのスピード勝負だ。短刀たちを呼びにいってくれた小豆長光仕込みのこし餡の玉を入れて、すばやく葛で包む。

型入れが済むと、すぐに水場で冷やされる。こちらも井戸水がふんだんに使われていて、見るからに涼やかだ。

20分ほど冷やすと、出来上がり。

葛まんじゅうは、透明感がおいしさの合図。白く濁ってしまう前に、出来立てを食べるのがおすすめだと主はいう。

「味見してくれ、味見。こんなに作ったの久しぶりだからわからん」

「そうかい?ならお先に」

ぷるぷるの食感と、みずみずしい喉越し。さらりとしたこし餡の後味も美味しい。

「うん、上出来だ。きっとみんな喜ぶよ」


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