「喜べ、兄弟!さっき歌仙に聞いたんだが、掲示板にあがってる演習な。最初に出陣する部隊に俺たちが選ばれたみたいだ!」
「......ほんとうか」
「おう!隊長が歌仙、ほかのやつは大太刀三振りだってよ。太郎太刀、次郎太刀、石切丸だ」
「それは、あれか。1番練度が高い連中か。それなら薙刀や脇差も必要な気がするが」
「必要かどうか見てくるのが俺たちの仕事なんだってよ。今の俺たちなら夜戦に出ても大丈夫なんだそうだ」
「そうなのか......まだ顕現してからひと月半なのにな、早いものだ」
「そうだなあ。今やすっかり大所帯だから遠い昔な気がしちまうが、たったひと月半だ。いやあ、この編成で出陣するのもそんくらい久しぶりになるんだな!俺たちが顕現したばかりの時の最初の部隊編成だ!」
「ああ、そうか。そうだったな。......あの時の俺たちとは違うんだ。あいつらに見守られながら戦わなくてよくなったところを見せなくてはならないな」
「ほんとだぜ。成長してるとこみせないとな」
「......ああ。俺たちはすでに主を一度失望させてしまっているからな」
「わざわざいうなよ、兄弟。凹むだろ」
「忘れてはいけないことだろう?」
「そうだけどさ」
ソハヤノツルキはそういって肩を竦めた。
「なあ、歌仙のことどう思う」
「......極になってからか?」
「おう、もちろん」
「......俺の見立てでは......実体が強化されたことで......霊格が顕著までに成長して帰ってきた印象だ......」
「だよなあ、気の所為じゃないよな。初期刀があんだけ強化されたんだ。じゃあなんで主の霊力はあがらないんだ?出会ったときからなんも成長してないじゃないか。いくら時の政府から霊力供給があるとはいえ、ここまで本丸を大きくしたんだ、ここも神域により近づいてる。なのに主はかわらない。さすがにおかしいぞ、なんだあれ」
「......主に言わせれば前の本丸からだそうだが」
「ンなわけあるか。未曾有の災禍に巻き込まれて生き残れたんだぞ?普通少しは成長してるはずだろう」
「......そうだな」
「そのはずなんだよなー......やっぱあれかな、分霊の俺たちじゃ感知すら許されんような高位な存在の干渉か?」
「......ふむ。だが、悪霊の類ではないだろう。......物吉の話だとあいかわらず遷都された京の都以外は......魍魎が跋扈しているそうだ。......主が4年も生き残れたのは......明らかに......あの低すぎる霊力によるものだ......おまえも、主の刀剣男士でなければ......知覚できる自信は......ないだろう?」
「たしかに。毘沙門天あたりか?」
「今は......そうか。京の都を守護しているそうだ。......ありえない話ではないな」
「それは本霊からの情報?」
「......ああ」
「主の故郷は京の都から十八里しか離れてないらしいからな......でも俺たちが感知すら許されんということは本霊か?そんなことありうるか?」
「忘れたのか。主は歴史が改変される日々を観測できる稀有な才覚をもつ男だぞ。ただの人間のわけがない」
「忘れてたわ、普通に」
「おい」
「仕方ねえだろ、主全然そんな素振り見せないから」
「神格ある神だから知覚できる事象を正確に観測できるにもかかわらず平然と自分を保っていられる。つまり、俺たちがこの国の霊的な守護を守りきれなかったことを把握しているんだぞ。未曾有の災禍を引き起こしたのは、俺たちの霊力がなかったからだと」
「いやあ、さすがにそこまでは知らないと思うぜ?歌仙も主も災害だとしか思ってないって」
「主の書庫にある俺たちの資料をみてもそんなことがよくいえるな」
「そこつっこまれると弱いんだけどさ......もし知ったとしても主は失望なんかしないって。このひと月半でわかっただろ?もうそろそろ、そこまで自分を追い込まなくてもいいじゃねえか、兄弟。俺たちが主んとこに顕現できたのもなにかの縁だ。あの時とはちがう形で守ることができるだろ?」
「それでも......それでもだ。俺たちは主のような悲劇に見舞われた人間がたくさんいたことを忘れるべきではない」
「まあ、そうなんだけどさ。あんま煮詰めすぎんなよ、兄弟」