2週目歌仙とリセット歌仙5

うちの本丸の部隊は基本的に週単位でスケジュールが組まれている。週の終わりに部隊の中で話をまとめて、週の初めに部隊長会議があり、そこで情報共有や主からなにかしら話があればみんなが集められて話をすることになる。

短刀部隊に池田屋の攻略が任されているあいだ、僕達は演武か短刀部隊撤退後に主に余裕があればさらなる強さを求めて共に時代を飛ぶことになるため、初めよりは余裕ができたが変動的なスケジュールとなっていた。最終局面では、おそらく大太刀の誰かと僕が短刀部隊の誰かと入れ替わりで合流することになるだろう、と初めから告知がされていたし、前の本丸でもそうだった。

部隊編成の変更という一大イベントがまだ起きていないことからして、主は軽傷撤退を繰り返し命じながら歴史修正主義者の槍部隊が出てこないタイミングを狙っているのかもしれない。

今日の僕といえば、演武のあとは新入り2振りの打刀育成がまだ終わっていないために、他部隊の遠征に投入されてようやく帰ってきたところだった。僕と次郎太刀が呼ばれていたから、もしかしたら池田屋の最終局面には2振りがそのまま呼ばれるかもしれないと思っている。

2時間半とはいえ、そのあいだ近衛の役目を解かれて、代わりの刀剣男士が任命されることになるんだから、あんまり気持ちのいい時間じゃないのはたしかだ。いつもの面々とは違う部隊を動かすことになるのはいい経験になるとはいえだ。はやいとこ和泉守兼定と大倶利伽羅には強くなってもらわなくては困っていけない。

「おや?」

主の部屋に声をかけたが返事がない。襖がないから開けようがないが、今日の近衛の太郎太刀の返事もないとなると主が別の用事で席を外していると考えてよさそうだ。まだ日は高いから、また遠征を命じられるのか、近衛にまた任命し直されて畑仕事にいかされるのか聞きたかったんだが参ったな。

前の本丸なら主の霊力が低すぎて本丸内で居場所がどこかすぐわかるくらいだったが、今は時の政府の手厚い支援があるせいで霊力だけで主の場所を特定するのは不可能に近い。

ただでさえ、48振りを迎えるにあたって、手当部屋や鍛刀部屋、それぞれに与えらるであろう部屋の増築が急ピッチで進められているために、本丸全体の広さが前の本丸の倍になっている。これはこんのすけを見つけた方が早いかもしれない。

僕は元来た道をひきかえし、手当部屋に入った。


どうやら短刀部隊の治療がまだ残っているようで、妖精たちが忙しく飛び回っている。主への戦況報告をしなければならないはずの物吉貞宗が一番中傷を負っているようで、こんのすけが代わりに聞き取りを行い主に報告するつもりのようだ。

「物吉貞宗、少しこんのすけを借りたいんだがいいかい?」

「わわっ、歌仙さん!?ごめんなさい、僕は大丈夫ですっ!」

「急に動くと傷に触るよ、大丈夫だから落ち着いたらどうだい「 」

「あ、あはははは......ほんとに大丈夫......あいたたた......」

「ほら言わんこっちゃない。君は部隊を任されているんだから、しっかり治療を終えた方がいい。それが今の君の仕事だろう」

「歌仙さん、ありがとうございます。えへへ、戦に出られないと、みなさんのお手伝い出来ませんもんね!」

「その意気だ。最終局面になったら、僕と大太刀の誰かが助太刀に入ることになるけど、おそらく隊長は君になるだろうからしっかりね」

「えっ、あ、ええっ!?そんな、僕、今回の任務が初めての部隊長なのに、そんなことありえるんですか!?」

「池田屋攻略において、一番戦況を熟知しているのは君だろうからね」

「そうなんですか......が、頑張らなきゃ!」

「極のお守りをわざと破壊して蘇生だけは考えちゃいけないよ。お守りの加護で復活できるとはいえ、1度は本当に破壊されるわけだからね」

「そ、そうなんですか!?お守りってそんな効果が」

「おっと、余計なことをいってしまったかな。主は基本軽傷撤退だ、池田屋は槍部隊のせいで傷がつかないで攻略は事実上不可能なのにすぐ撤退を命じる。イライラするだろうけど、運が良ければ遭遇せずに奥までいけるからね、焦らないことだ」

「歌仙さんも池田屋攻略したことあるんですか?」

「前に少しね、極のお守りをわざと発動させた咎でひとりで畑仕事をやる羽目になったけれど」

「歌仙さんがですか!?」

「急いては事を仕損じるっていうだろう?まあ僕は今でも巧遅は拙速に如かずの方が好きなんだけどね。それだって仕事を疎かにしていい理由ってわけじゃない」

「なるほど......急がば回れってことですね」

「そうだね、それもある」

「ありがとうございます。僕がんばります」

僕は笑ってうなずいた。僕達の会話を前に様子をうかがっていたこんのすけが僕を見上げてくる。

「歌仙さま、どうなされましたか?主さまに遠征の報告にいかれたのでは?」

「それがだね、肝心の主と近衛の太郎太刀の姿が執務室にないんだよ。どこにいったかしらないかい?」

「おや、そうでしたか。こんのすけが手当部屋にみなさんをご案内する前は執務室にいらしたのですが......どこかに移動されたようですね。行きましょう」

こんのすけはそういって手当部屋を出ていく。僕もうなずいて手当部屋をあとにした。てとてと歩いていくこんのすけはまだ着任したばかりのころの体型を維持しているようだ。前の本丸だと最初こそ体型を気にしていたが、主が気にせず油揚げを給料がわりにあげまくるものだから、そのうち丸々としたこんのすけになっていたことを思い出す。主が行方不明になってからはだんだん痩せていったが、解体後は別の本丸にうつったんだろうか。このこんのすけはあまりがっつかないし、グルメじゃないようだから、こんのすけにも個体差があるのかもしれない。

「ええと、こちらですね」

「さすがはこんのすけ、主の居場所がもうわかったのかい」

「はい、私のお役目は主さまのサポートをすることでございますから」

「ところで、きみはこの本丸が初めて?」

「はい!こんのすけはこちらの本丸が初めてございます!主さまは審神者家業と本丸運営が2度目ということもあり、こんのすけも時の政府への報告がスムーズで助かっております。むしろやることがなさすぎて寂しいです」

しっぽがしょんぼりしてしまった。主が仕事を的確にこなすために手間がはぶけてありがたいが、なにかしていないと落ち着かないあたり新入りの刀剣男士みたいなことをいうこんのすけだ。

「まあ、そのうち48振りも迎えることになるんだ。今の本丸は主が運営したことがある24振り以下だからこうだが、64振りになったらこうもいかない。きっときみの仕事も今より増えるよ、心配しなくても」

しっぽが揺れ始めた。わかりやすいな、このこんのすけは。

「そうですね!そうでございますね!今の本丸の運営は、そもそも62振りの刀剣男士のみなさまをお迎えするための準備でございましたね!こんのすけとしたことが忘れておりました。歌仙さま、ありがとうございます」

「あまりにも忙しくなったら、ほかの本丸みたいにこんのすけを新しく派遣してもらうのもありじゃないかな」

「それはそうでございますが......今はこんのすけだけで大丈夫でございます。管狐は増えすぎると75まで増えて本丸を食いつぶしてしまいますからね」

このこんのすけは管狐の自覚があるから基本体型を維持しているのかもしれないとふと思う。そもそも今の体型でも管に入れるかといえば怪しいものだが。

「どうなされましたか?」

笑う僕に不思議そうにこんのすけは首を傾げたのだった。







それは増築中の刀剣男士の部屋に続く階段がある廊下と厨房が併設された食堂くらいある居間のちょうど突き当たりにある居間のような空間にあった。

「こちらにいらっしゃるようですね」

こんのすけが座り込む。

「おや、いつのまに」

「こちらは主さまがおうちから持ち込まれた古書を所蔵する場所であると聞いております。お爺様が亡くなられたときにご親戚の方が相続したはいいのですが、さきの災害で保管場所を確保できないとかで。生活をたてなおすにしても避難所生活が基盤の間は難しいのでしょう」

「ああ、なるほど。丸ごと引き取ったんだね。相続した遺品はすでに骨董関係なら名品がすでに本丸の至る所においてあるから知っていたが、そうか、古書まで」

「そうですね。多趣味な方だったのでしょう。貴重なものは寄付されたそうですから、こちらにあるものはどなたでも読んでいいそうですよ」

「なるほどね、わかったよ。ありがとう。だいぶ出来ているから整理をしているのかもしれないな」

「太郎太刀さまでしたら、高いところまで手がとどきますし」

「代わりによく頭をぶつけているがね。ありがとう、こんのすけ。仕事中に声をかけてしまって」

「いえ、かまいません。それでは失礼いたします」

こんのすけを見送り、僕は真新しい木の扉を開いた。太陽の日がささないように本棚が配置されているあたり、設計者は本が好きな人間なのだろうと思う。

こちらからの四角い木漏れ日が揺れるたび本棚や掛け時計の一部がチラッと光って消えた。かわいげのある大人のへや、という感じだった。濃い色のじゅうたん。本棚にぎっしり詰まった洋書やら古書やら。古い揺りいす、皮張りのテーブル、放置された梱包を解いたばかりの本の山。

それなりにスペースはあるはずだが所蔵する本が多すぎるようで、狭い部屋を機能的に使おうとする工夫があちこちで見られる。あるべきところに収まるといった格好で、備え付けの家具のように見事に配置されている。

本棚だけは、さすがに人物が感じられた。山積みの古い洋書、絵本、写真集……ディケンズ、ヘンリー・ミラー……カミュ、三島由紀夫……古い文庫本、ファッション誌、漫画雑誌。 モザイクみたいに積んであった。

やはりここだ。霊力がここだけ特に満ち満ちている。僕が中に入ると明かりがつく仕様だったようで、本棚の陰、揺れるカーテン、テーブルの脚のところ。そういうささやかな 暗闇が、現実から少しずつずれていた。

「主、太郎太刀、いるかい?」

入ってみるまでもなく2人の気配はあった。

「よお、歌仙。おかえり」

「ただいま、主」

「遠征どうだった?」

「はは、楽しい旅だったよ」

本をしまい終えた主が脚立から降りるところだった。

「今回の戦果品はどうする?」

「あー、そこのテーブルにおいといてくれ。あとで執務室に持って帰る」

「おや、もうそんな時間でしたか」

「戦果報告は......まあ後にしようか。それどころじゃなさそうだからね。主も太郎太刀も執務室にいないから驚いたよ。これから本丸は広くなるんだから、どこかしらに行先書いてもらわないと困る」

「ああ、ごめんごめん。気をつける。そうか、もう2時間半たっちまったんだな?それまでに終える予定だったんだけど」

「すごい本だね」

「爺さんの遺品なんだけどさ、まさかここまであるとは思わなかった。いや聞いてた数より増えてんだよ。だからたぶん親戚のやつも混じってやがる。まあ、新しい家建てたら引取りに来てくれるだろうけどな」

「手伝おうか?」

「そりゃ有難いが、どうする?今から準備すれば15時からの演武に間に合うが」

「あれはいつでも出来るじゃないか、そこまで焦る必要はないよ。それよりこれをそのままにする方が雅じゃないね」

「あー、たしかに」

「みんな呼んでこようか?治療してる隊長待って暇してる子もいるよ」

「そうだな、このままじゃ夕飯前に終わらないかもしれない。悪いけど呼んできてくれるか?」

「わかった」

僕はいちど書庫を後にしたのだった。






本丸内を組まなくまわり、しばらくしたらみんな来ると主に伝えるため書庫前に戻ってきた。どうやら太郎太刀は今日の演武で極の自分と戦い、なにやら思うことがあったようで相談していた。

「真柄直隆か......たぶん太郎太刀の本霊は草薙の剣を祀っている名古屋市にある熱田神宮にある太郎太刀なんだろうな。太郎太刀って全国に同じ名前の刀があるからどこの刀だろうと思ってたら。そうか、真柄か」

「主、知っているのですか?」

「そりゃもちろん。俺の故郷越前を治めてた朝倉家に仕えてた武将の愛用していた刀だからな」

「ほう......しかし、主の故郷は名古屋ではなかったのでは?」

「死んだ時に戦利品として持ち帰られちまったからな、よくあるパターンだよ。しかものちの徳川家康だぜ」

「なるほど。私は真柄直隆という名前しかしらないのですが」

「まあ、家臣団に取り込まれるまでは朝倉家と距離をとってたあくまでも剣客だったって話だし、それより前の話はわからないらしいな。弟の方かもしれないし、そもそも弟もいないかもしれない。でも、俺は真柄直隆は実在したって思ってるよ」

たしかこの辺に、と主は本をさしだした。

彼自身は、徳川家の匂坂三兄弟らとの激戦の末に力尽き「今はこれまでなり、我が首を取って男子の本懐とせよ」と言って太郎太刀を投げ捨て自ら首をとられたと言う。そして太郎太刀は戦利品として徳川に回収され現在は愛知県の熱田神宮に所蔵されていると主は話した。

「話によって討ち取った武将だったり太郎太刀の長さが違ったりするがそれも歴史ってやつだと俺は思ってる。太郎太刀が嫌じゃなけりゃ読んでみるといい。いつかお前も極の旅に出るんだろうしな、越前の国を楽しんでこいよ」

「なるほど、主の故郷は越前の国だったのですね。ならば出陣できるエリアにあるのですから、話してくださればよかったのに」

「越前て言われてるが主な舞台は謙信がいる越後の方だしな。ついでに一向一揆が主戦場じゃねーか。越前は通り過ぎるだけだ」

「ああ、言われてみればそうでしたね。あなたの御先祖は毘沙門天を信仰していたといいますから、謙信となにか関係があるのかとばかり」

「うちにそういう話はつたわってねえからなあ。ただ坂上田村麻呂は毘沙門天の化身だって謙信の時代にはいわれてたみたいだからさ。毘沙門天の生まれ変わりって信じてた謙信からすれば、なにかしら思うことはあったかもしれないな。熱心な信者だったみたいだし」

「なるほど......うちの本丸にはまだ謙信縁の刀剣男士はいませんから、話を聞いたらどう思うから楽しみですね」

「そうだな。たしか極になるには、今度の池田屋......」

僕はたまらず扉をあけた。

「もうすぐみんなが来るから指示を頼むよ、主」

「お、おう、わかった。ありがとう、歌仙」

「歌仙、いつからいたのです?入ってきたらよかったでしょうに」

「君が主に相談なんて珍しいから待っててあげただけさ」

「それならもう少し待てたのでは?」

「そこのバカが余計なこといおうとしたからついね」

「え、なんで俺貶されてんの?」

「僕は遠征から帰ってきたんだから、もう近衛は交代のはずだ。お疲れ様」

「そうですね、ありがとうございます」

「歌仙?」

「きみのそういうところはあんまり好きじゃないよ、僕は」



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