2週目歌仙とリセット本丸6

「短刀部隊のみんな、ここまで歴史修正主義者の残党を追い詰めてくれた。ありがとう。おかげで奴らは今屋外まで逃げようとしているとこんのすけから報告は受けてる。屋外に出るってことは、今までの室内とは戦場がまた変わってくるってことだ。よって今回から一度部隊を全て解体し、編成をかえようと思う」

主の発言にいよいよ僕達は歴史修正主義者の残党狩りが佳境を迎えていることを改めて実感するのだ。みんな主の言葉を一字一句聞き逃さないようにじっと見つめている。

「今回は大きな編成の変更になるから聞き漏らさないようによく聞けよ。いよいよ池田屋攻略が最終局面だ。池田屋攻略には短刀部隊が今まで尽力してくれたことはみんな知ってると思う。池田屋の戦況を一番把握してることもあるし、一番隊長は物吉貞宗を任命する」

大広間がざわめいた。この本丸が立ち上がってから、初期刀である僕がずっと一番隊長と近侍を務めていたこともあり、衝撃が広がっている。遠征にいくために誰かが代役をしたことはあってもほんの2、3時間の話だったから、僕が思っている以上に知らない刀剣男士が多かった。だからか、任命された物吉貞宗本人が固まっている。

「ぼ、ぼく?ボクが一番隊長ですか?そんな、えええっ!?」

「なにを驚いているんだい?前手当部屋で話した時が来たってことだよ」

「そ、そんな、一番隊長の話までは聞いてないですよ、歌仙さんッ!ボク、てっきり遠征の時みたいに、歌仙さんが2番隊に来てくださるのかとばかり......」

「そうかい?さっき主もいったように、池田屋について一番詳しいのは他ならぬきみだろう。他に適任はいないと思うけどね。それだけ正念場なんだよ。屋外に完全に出るまでは君たちが主戦力なのは変わらないわけだから。がんばれ」

「は、はいっ!ぼ、ボクがんばりますっ!」

「おめでとう。今日から1番隊長はきみだ。近侍の仕事もがんばるんだよ」

「えっ、あ、そ、そっか、一番隊長ってそういうことですよね。が、がんばります!」

僕が進んで拍手したからか、周りの僕と主になにかあったんじゃないかって雰囲気はとりあえず治まった。

「次に隊員を発表する。次郎太刀と歌仙兼定」

「おう、アタシか!わかったよ、主。でもまだ外に出たってわけじゃないんだろう?大丈夫なのかい?」

「大丈夫、近江屋の屋上から屋外まで逃げようとしているからな。室内でも裏路地でもない」

「まってました〜、そうこなくちゃね!」

「雅が分かる者と組ませてくれよ?」

「前から思ってたが、お前のいう雅ってのは風雅か?風流か?」

「もちろん、そのどちらもさ」

「そっか、じゃあ今度小鳥丸たちと組ませてやるから真面目にやってくれよ」

「了解」

「小夜左文字」

「うん、わかった。そこに、敵(かたき)がいるのなら、僕はいくよ」

「いい返事だ。続いて厚藤四郎。最後は前田藤四郎。以上だ」

「任せとけ!」

「全力を尽くします」

「よろしく頼む」

「了解了解ー!」

「はい!」

「1番隊は以上だ。2番隊長はソハヤノツルキ」

「お、俺?ほんとに俺でいいのか、主?まだ畑仕事から抜け出せてないんだけど」

「それは歌仙も物吉貞宗も同じだから心配するな」

「でも岩融や巴形薙刀は?」

「それは前話したとおり、3番隊長と4番隊長を任命するつもりだから問題ない」

「そっか、やった。やっと守り刀の本領が発揮できる!」

「おめでとう。続いて隊員だが、大典太光世、小烏丸、大倶利伽羅、和泉守兼定、蜻蛉切、以上だ。連携を確認するためにあとから演武に連れていく予定だから、準備しておくように」

主は一呼吸おいて続きを話しはじめた。

「さっか話したが、岩融は3番隊長、巴形薙刀は4番隊長に任命する。太郎太刀は2番隊、石切丸は3番隊にいくように。残りの隊員は既存の部隊から戦力が均衡するよう振り直させてもらった。今からいうから部隊を間違えないようにしてくれ。3番隊からいうぞ......」

主が短刀たちの名前を呼んでいるのを見ていると、こそこそとソハヤノツルキが話しかけてきた。

「なんだい?まだ主の話の途中だろう?」

「これ終わったら、部隊の顔合わせと演武あるから今しかないんだよ。なあ、歌仙、主となんかあったのか?大丈夫か?」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。これはこの本丸を立ち上がるにあたって僕と主で決めた行動計画の中に全部入ってる。時の政府からも許可はもらってるからね、今更変えられるもんじゃない」

「そうか?それならいいんだけどさあ......うーん......」

納得いかないという顔をしてソハヤノツルキはまじまじと僕を見る。

「俺が顕現した時の冗談すら笑いながら本体手にして威嚇してきた部隊長様とは思えないっていうか」

「元部隊長だよ、だいたいいつの話をしているんだ」

「たったの3週間前だよ......太郎太刀にも圧力かけたりしてんだろ、知ってんだからな俺。なにがあったんだよ」

「僕から主にお願いならしたさ。近侍のままだと出来ないことも沢山あるから、そろそろ他の刀剣男士と替えてくれってね」

「?!」

「そんな驚かなくてもいいじゃないか」

「なんだよ、なんだよ、ほんとになにがあったんだよ、歌仙......?天変地異の前触れか?勘弁してくれよな」

「きみも大概失礼なやつだな......。なにもないから安心してくれ」

そうこうしている間に解散となったため、平隊員となった僕はソハヤノツルキを送り出したのだった。





平隊員になったところで畑仕事担当から外される訳では無いのが悲しいところだ。むしろ近侍と隊長の仕事がないからソハヤノツルキが忙しくなったために穴埋めをしたら担当時間が伸びてしまった。

主にいわせれば、嫌ならさっさと偵察じゃなくて生存を上げろになるんだろう。言わせてもらうが好きな数値を上げられるならとっくの昔に免除されていると思うんだがね。

そんな愚痴を零しながら作業をしていたら、さほど畑仕事が嫌ではないらしい小夜からは冷たい返事しか返ってこなくて凹んでしまった。

そして畑仕事から解放された僕は薬研藤四郎と交代したのだった。身支度をととのえ、演武の準備をしているといきなり扉があいた。

「歌仙さん、主様がお呼びですので本殿の大広間にお越しください」

「おや、今日から演武で連携確認してから、池田屋に行くんじゃなかったのかい?」

「それがですね、歌仙さん。どうやら時の政府から別件の依頼があったようです。そちらを優先したいから予定を大幅に変更するとか」

「なるほど、よくある話だ」

「そうなんですか?」

「ああ、歴史修正主義者は時々新たな事件を起こすから、そのたびに別件の依頼という形で伝令を寄越すのさ」

「そうなんですね。だから主様、ちょうどいいって笑ってたんでしょうか」

「笑ってたのか、なら間違いなさそうだね。いつも僕達が任されている池田屋より難易度が低い任務であることが多いから、結成したばかりの僕達に経験を積ませたいのかもしれない」

「そうだったらいいなあ......。そしたらボクももっと上手にみなさんをお手伝いが出来ると思うんです。歌仙さんみたいには絶対に出来ないから、ボクなりに出来ることをやりたいんですけど」

「いい心がけだ。主はそういうところを汲んで隊長に指名したと思うからね、物吉貞宗に自信をつけてもらいたいんだよ。きっと。主はそういう意欲ある刀剣男士には誠意をもって答えようとしてくれるからね」

「そうだったら嬉しいです、えへへ。それじゃあボクは他のみなさん呼んできますね!」

「こんのすけに頼んでもいい気がするけどね。大丈夫かい、僕も行こうか?」

「大丈夫です!ボク、少しでも主様のお手伝いがしたいだけなので!こんのすけは主様となにか難しい話を沢山していたので邪魔できませんでした」

「そうかい、ならしかたないか。じゃあ、僕は先にいっているよ。ありがとう」

「はいっ!」

初々しい一番隊長はそのままいってしまった。前の本丸で初めて一番隊長に任命されたとき、僕もあんな感じだったんだろうかという考えがふと浮かんだ。

しばらく記憶を探ってみたが、物吉貞宗がうらやましくなるくらいには嬉しかったという思い出は見当たらなかった。ただ前の僕の最期を見届けたあとの顕現だったために、誰もが僕を気にかけていて、気を使ってくれるのが酷く息苦しかった。前の僕のようにはならないようにしなければならない。みんなに早く認められなければならない。主にはやく認められたい。そんなことばかり考えていたような気がする。

池田屋を攻略できたことでようやく僕はその呪縛から解き放たれたのだ。そして治療が終わったら、主が帰省したいといいだして、ばたばたしながら準備をして見送った。こんのすけから極について教えてもらい、主が帰ってきたらお願いしようかと考えていた。近侍は誰がいいか考えながら執務にあたっていた矢先、あの緊急伝令がきたのだ。

やはり、僕にとって池田屋は鬼門だ。僕がどうにもうまくいかない場所・事柄。にがて。そういうものになるんだろう。でも、何をするにしても避けなければならない場所では決してないのだ。逃げた瞬間に僕は前の僕を超えられないし、絶対に勝てなくなるし、ほんとうのさいしょの歌仙兼定にはなれなくても、今の初期刀である歌仙兼定にふさわしい刀剣男士ではなくなってしまう。だから主は一番隊に入れてくれたんだと思うし、その激励に報いなくてはならない。

それでも、その前に政府から依頼があったのは、正直ほっとした。あの時より強くはなれたと思うが、1年間かけぬけてきたことを3週間で成し遂げるのはやはり無茶がある。僕はあのときより効率的に強くはなれたが、あの時ほど鬼気迫るものが僕にはないからだ。もう少し、新しい一番隊の経験を積みたいと思っていたからちょうど良かった。

「ああ、だからちょうどいいなのか」

主が笑った意味がわかった気がした。






僕が大広間にいくと大きな机に真っ白な紙のようなものが広げてある。薄暗いのは江戸時代の古地図を投影しであるからだろう。主がペンのようなものを片手に画像になにやら記入している。どうやらこんのすけと情報のすり合わせをしているところだったようだ。

「うちの担当はこのへんでいいんだな?」

赤い枠で古地図が囲われていく。

「そうなりますね」

「夜で市街地か、池田屋と変わらんな。第一部隊を投入して、難しいようなら部隊を再編して短刀と脇差特化にしよう」

「わかりました。時の政府に申請いたします」

「時期はわからねえんだよな?」

「はい、今回はある時代の江戸へ潜入し時間遡行軍を討伐せよとの命令しか承っておりません。この江戸下町は戦闘が夜戦になるため、短刀、脇差、打刀の刀剣男士たちが得意な合戦場になります」

こんのすけはそう言って主の肩に乗った。

「とある時代の江戸下町、人々が心待ちにしていた納涼花火が行えないとの噂が広がっています。原因が時間遡行軍であることを突き止めた時の政府は、各本丸に出陣を命じ、夜の闇に花を取り戻す作戦を決行したとのことです」

「とある時代ってのがよくわからん、特定できなかったのになんで時間転移できるんだか。わざとぼかしてんなこれ。えーっと、江戸って地名自体はは12世紀からか......」

主はそういって手元の端末で調べ物を始めた。

「失礼するよ」

「おう、早かったな、歌仙。物吉貞宗に聞いたと思うけど、時の政府から緊急任務が入った。第一部隊の経験を積ませたいから演武は延期になる」

「だいたいは聞いているよ。物吉貞宗は他の隊員を呼びに行ったからしばらくかかるだろうね。で、今回はずいぶんとふわっとした任務なんだね?」

「そうなんだよ、俺の嫌いなパターンだ」

不機嫌そうに主がいうものだから、こんのすけはしょんぼりしている。

「別にお前のせいではないだろ、こんのすけ。気にすんな」

「ですが......」

よしよししながら主はぼやくのだ。主は基本的に出陣前に現地の情報をあらかた調べてから僕達を派遣したがる。だからこういう現地に行かないとわからない任務は好きでは無いのだ。少しでも時期を特定しようと躍起になっている。

まずは時期。

2205年現存する史料からは「江戸」と呼ばれ始めた正確な年代は不明である。武蔵平氏の一流秩父氏が12世紀前半に江戸地域に進出し、その地名から「江戸氏」を名乗ったと考えられるので、少なくともそれ以前にはすでに「江戸」という地名が存在したと思われる。

そう電子端末には書いてあった。

「12世紀より後か......範囲が広すぎるな。そうだ、こんのすけ、肝心の花火はどんなやつだ?色とかで特定出来るかもしれない」

「それがですね......色は様々なようです」

「おおう、すでに江戸時代の花火じゃねーな、単色ってあるし。大きさは?」

「2号玉がほとんどなのですが、2尺玉、3尺玉、4尺玉も確認されています」

「4尺玉ァッ!?んなもん、いつの時代にあってもダメなやつじゃねーかァッ!俺の時代につくられたギネス記録だ!!ひとつにつき800メートル広がるシロモンだぞ!?そんなん納涼祭に平然と使われてるとか今から行くところ歴史改変の影響受けすぎだろう!それを一本丸につき2万発分回収しろとか納涼祭の規模がデカすぎるな......何百万発じゃきかねーぞ。あーなるほど、そりゃ政府だってわからんことが多くても緊急伝令出すわな。暴発でもされたら洒落にならん」

「花火といえども火薬をつかいますので、この技術を現代以前の人々が所持していることを政府は重く見たのだと思われます」

「あー、了解、わかったぜ。すでに歴史改変の影響をもろに受けまくってる正史じゃない世界線なんだな。そりゃ時代を明言できないわけだ。歴史が修正されたらなくなるパターンだもんな、ふわふわした任務にもなるわけだ。わかった」

こんのすけは嬉しそうに尻尾をふっている。

「こんのすけが説明しなければなりませんのに、主さまに上手く説明することができず申し訳ありません」

「いいよ、いいよ。こんのすけはちゃんと仕事をしてるんだ、こんなふわふわな任務寄越してくる担当者が悪いんだから気にすんな。よし、了解、わかった。今回は歴史修正主義者から花火玉を回収すんのが主な任務だ。ノルマは一本丸につき2万発。ちなみに回収したやつはうちの本丸で打ち上げてもいいらしい。妖精さんたち派遣するってさ」

「花火玉の回収か......気は楽だけど何往復しないといけないんだろうね」

「さあなあ......さすがに俺も花火玉の現物にお目にかかったことはねえし。敵の強さもわからん。様子を見ながら行くか」

「そうだね」

「で、花火玉の数に応じて報酬も出る。これが一覧な」

「......なるほどね」

僕は嫌な予感があたったことを悟るのだ。どうやらうちの本丸で極になれるのは2振りになるかもしれないらしい。


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