第5話(修正済み)
「俺は《強欲で貪欲な壺》の効果でカードを裏側10枚で除外し、デッキからカードを2枚ドロー!フィールド魔法《サイバネット・ユニバース》の効果を発動!このカードは1ターンに1度、自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを持ち主のデッキに戻す効果がある。俺は和波、お前の墓地にある《星遺物ー「星杯」》を宣言、デッキに戻せ」

「うっ」

「序盤からあれだけ飛ばせばわかる。次の布石にされてはたまらないからな」

「その通りです」

「その割には動揺してないのがきになるが、まあいい。さらに魔法カード《予想GUY》の効果を発動!自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。デッキからレベル4以下の通常モンスターを1体特殊召喚する。俺はデッキからレベル2《ビットロン》を攻撃表示で特殊召喚!そして、フィールド上に《サイバース族》が存在する場合、手札から《バックアップ・セクレタリー》を特殊召喚することができる!俺はこいつを攻撃表示で特殊召喚!」


playmakerのフィールドに白くて丸いフォルムの小さなモンスターが召喚される。正面の黒い画面から青い電子の丸い目を瞬かせ、隣に召喚された仲間を見て嬉しそうに笑顔を作った。


3つに分かれた両翼をもって少女の周りを飛び回る。外はねした紫色の髪をなびかせた少女は、手招きして先をせかす。電子書籍を片手に、スカウターを上にあげた電脳秘書はその紫色の半透明なローブを翻し、主に追従する。


「こい、未来に導くサーキット!アローヘッド確認、召喚条件は《サイバース族》2体!俺は《ビットロン》と《バックアッピ・セクレタリー》2体でリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!リンク2!《ハニーボット》!」


六角形の黄色い電子的な光が曼荼羅のように広がっていき、球体を作り出す。そして、そこから生まれ出でたのは、黒と白のライダースーツ、背中にミツバチモチーフの縞々の尾っぽ、そして丸みを帯びた羽をもつリンクモンスターである。


「さらに俺は《クラインアント》を攻撃表示で召喚だ!そして、モンスター効果を発動!このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分フィールドの《サイバース族》の攻撃力・守備力は500ポイントアップする!さらに《サイバネット・ユニバース》の第2の効果により、俺のフィールドにいるリンクモンスターの攻撃力は300ポイントアップ!よって、《ハニーボット》の攻撃力は2700!」

「相手になります!」

「バトル!《ハニーボット》で《星杯戦士ニンギルス》を攻撃だ!さらに、リンク状態が切れたことで《星杯神楽イヴ》のモンスター効果は発揮できない!だから《クラインアント》で攻撃だ!」

「くうっ」

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド。これにより《クラインアント》のモンスター効果はきれる」


これからの展開を考えるとどうにかして《星杯を戴く巫女》も除去したかったところだが、今のplaymakerの手札だとこれが限界である。守備力2100は低ステータスのモンスターが多い《サイバース族》では突破することができない。上級モンスターでぎりぎり破壊できるかどうか、である。ここからが正念場だ。playmakerは和波の出方をうかがう。


データストームが近いのだろうか、風の流れが不安定になってきたようだ。いつもの癖で探してしまうが、今のplaymakerはお互いにスキルを使うことができないよう特殊なフィールドを設定したうえで和波を誘い込んでいる。


専用スキルデータストームしか使用できないplaymakerは、実質スキルなしのハンデを負っていた。だがそれはマインドスキャンというとんでもない違法プログラムを専用スキルに設定している和波にも同じことが言えるはずだ。データが大きすぎて、ほかのスキルを設定するだけの容量に空きがないのはお互い様である。


「僕のターン、ドロー!」


手札4枚の意味が全くないな、とplaymakerは思う。1ターン目と枚数が同じってどういうことだ。あれだけの盤面を整えたくせに手札が減ってないという意味のわからない状況だが、それだけサーチ効果を搭載したモンスターが多いのだ。連続リンク召喚とは言えて妙である。


「僕は《貪欲な壺》の効果を発動!墓地からカードを5枚デッキに戻し、2枚ドロー!そして、僕は手札を1枚捨てて、《星杯の妖精リース》を墓地から回収します。《創造の代行者ヴィーナス》を攻撃表示で召喚!」


和波のフィールドに紫と青、そして赤の球体が出現し、回り始める。その中央に黄金色の光が満ちていき、全身を金色で覆われた女性が現れた。金色の翼を広げる。


「きたか」


Playmakerの思わずこぼれた言葉に、和波は、ええ!と返した。


「500ポイントのライフを払って、モンスター効果を発動!デッキから《神聖なる球体》を守備表示で特殊召喚します!」


《創造の代行者ヴィーナス》のすぐ横に、レベル2、光属性、攻撃力・守備力共に500のバニラモンスターが出現した。バニラモンスターを多用する《星杯》というリンク召喚メインのテーマと《代行天使》の親和性は驚くほど高いのだ。


デッキを閲覧したplaymakewrですらぱっと見で思いつくような展開など、10年も愛用している和波はとっくにわかっているだろう。予想通り、和波は展開を始める。荒れ始めたリンクヴレインズの風などものともせず、自在に乗りこなす。


こちらと同じAIのサポートがあるとはいえ、初心者とは思えない挙動だ。リンクヴレインズにログインしたとき、初めての時に起動するチュートリアルがあったがずいぶんと手が込んでいると感心する。かくれんぼはこちらのAI並みに得意なのだろう。


「僕は《神聖なる球体》1体をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!リンク1!《リンクスパイダー》!さらに《星杯を戴く巫女》でサーキットコンバイン!《リンクスパイダー》の真下にリンク1《星杯竜イムドューク》をリンク召喚!このカードが存在する限り、僕はもう1度《星杯》モンスターを召喚することができます!そして、《星杯竜イムドューク》をリリース、手札の《星遺物ー「星杯」》をアドバンス召喚!さらに《リンクスパイダー》と《創造の代行者ヴィーナス》でサーキットコンバイン!リンク2!《星杯神楽イヴ》!そして、《聖杯神楽イヴ》と《星遺物ー「星杯」》でリンク召喚!きて、リンク2!《星杯剣士アウラム》!!そして、《星遺物ー「星杯」》の効果でフィールドに《星杯に誘われし者》と《星杯の守護竜》をフィールドに特殊召喚します」


和波のモンスターゾーンには、次なる布石が整っていく。


「《星杯に誘われし者》でリンク召喚!《星杯竜イムドゥーク》!そして、《星杯剣士アウラム》のモンスター効果を発動!《星杯の守護竜》をリリースし、墓地からモンスターを特殊召喚します。僕が呼ぶのは《星杯戦士ニンギルス》!!さらに《星杯の守護竜》のモンスター効果を発動!この子を除外して、墓地から《星杯に誘われし者》を特殊召喚します!そして、《星杯に誘われし者》と《星杯竜イムドゥーク》でリンク召喚!《星杯神楽イヴ》!!そして、《星杯竜イムドゥーク》の効果で手札から《星杯の妖精リース》を特殊召喚!》」


《星杯戦士ニンギルス》の効果で1枚ドローが行われた。そして、《星遺物ー「星杯」》がデッキからサーチされる。


「《星杯戦士ニンギルス》の効果を発動します!1ターンに1度、自分と相手のフィールドのカードを1枚ずつ墓地に送ります!僕は《星杯の妖精リース》、そして《ハニーボット》を宣言!」


playmakerのフィールドは《クラインアント》しか残らない。


「さあ、バトルです、playmaker!僕は《星杯戦士ニンギルス》で《クラインアント》を攻撃!」

「罠発動、《スリーストライク・バリア》!このカードは相手のフィールドが3枚の場合のみ発動できる!俺は3つの効果のうち、戦闘破壊耐性を選択!《クラインアント》に耐性を付与する!」

「なら僕は速攻魔法《禁じられた聖杯》の効果を発動します!対象は《クラインアント》!!」

「なっ」

「さあ、《星杯戦士ニンギルス》で攻撃です!」

「まだだ、このカードが戦闘で破壊される場合、自分の手札のサイバースを身代わりとして破壊できる!」

「わかりました。でも、攻撃は受けてもらいますよ!」


ぎりぎりでライフポイントを残すことができたplaymakerだったが違和感がぬぐえない。なぜ和波はずっと笑っているんだろうか、しかもなんのカードを使っても驚きすらしない。一歩先をいくような、ぎりぎりで調整しているような、そんな気分になる。


あのとき貪欲な壺を使わなければアウラムの攻撃力は鉄壁を削り切ったはずだ。気のせいか?それほどファンである自分とのデュエルがうれしいんだろうか。playmakerは少々混乱しはじめたのだった。


「こいつが戦闘で破壊された瞬間、俺は墓地にある《サルベージェント・ドライバー》 を特殊召喚する!」


まだまだデュエルはこれからだ、とplaymakerは息巻いた。












一進一退の攻防だというのに、ぬぐい切れないこの違和感。どこからくるのかは思考するまでもない。それは今まさにスピードデュエルを行っている和波に対して感じていることだ。


Playmakerが世間に姿を現してからというもの、彼自身自分が研究対象になっていることは理解している。それはもう彼の予想をはるかに超える速度で日々更新されているから、いやというほど思い知っていた。


スピードデュエルをフリーゲームとして構築しようとする動きはもちろん、自身が使用するアバターのパーツまでひとつ残らず特定され、愛用するデュエルディスクの型番まで再現されてしまっているのだ。《サイバース族》という絶滅危惧種のテーマカテゴリは、ハノイの騎士が徹底的に使用者を弾圧したため認知度が低く、使用者が現れることはないだろうが、それ以外はもう藤木遊作であるという以外にアイデンティティが存在しない状況だった。


今だってオリカwikiにはplaymakerなどの有名人が使用するカードテキストや処理の方法を考察、再現、構築しようとする人間たちがいるのだ。下手をしたら自分も思いつかないような組み合わせを考える決闘者たちがいることをplaymakerは知っている。迎合する気も起きないので見る気はないが、おしゃべりなどっかのAIは面白がってよく見せろと騒がしい。


気づけば自宅の電化製品などまでハッキングした形跡がみつかる有様で、ため息をつきながら初期化する毎日である。きっと検索すればオリカを自作して再現デュエル、なんてことをする人間もいるだろう。それはいいのだ、べつに、興味ないから。


問題は、自称上記の人間たちの一人だと言ってはばからない和波が、初めて見るカードも多いだろうに、恐ろしいほど正確にplaymakerの動きを把握していることに他ならない。現在進行形で行われている初対面同士のデュエル、しかもスピードデュエルだというのに、詰めデュエルをしている気分になってくる。


いくら島と同じように熱狂的なplaymakerのファンであり、実際にこうしてデュエルする機会に恵まれ、恥ずかしくないように精一杯デュエルをしたいという彼の言葉を汲んであげるとしても、だ。


やりこんでいるデッキである。しかも相手は動画などでプレイスタイルが露呈している決闘者。こちらもデッキ内容を把握している面はあったとしても、やはり有利なのは和波の方だ。それなのに、こうも熱戦が続くのに、どんどん底冷えしていく気持ちはきっと和波がどんな状況になってもニコニコ笑っているからだろう。どんな状況になっても決闘が楽しくて楽しくてたまらなくて、終わらせたくない、という意思をひしひしと感じるのだ。


無意識のうちに冷や汗が伝う。その悪寒は当たる。デュエルが終わらないのだ。デッキの枚数は20枚だ。マスタールールの半分である。お互いにデッキアウトなんて興ざめな結末にならないよう、調整するギミックを入れているとはいえ、あっという間に終わるからスピードデュエルだというのに、気づけば周回に入っていた。

1度は見た景色の中で、playmakerは何度目になるかわからないドローを宣言する。


正直、とってもやりにくい。


ここまでくるとplaymakerの中で、なんとなく浮かんでいたもしかしてが現実味を帯び始めていた。和波はわざとデュエルを長引かせているのではないか、という疑惑が黒い煙をあげるレベルまで燻ぶり始める。


でもどうやって、と言われたら難しい。和波があの《マインドスキャン》という手札と伏せカードの情報がわかってしまう、というアドバンテージの考え方でいえばぶっこわれにもほどがある専用スキルを使っているならまだわかる。


墓地と除外ゾーンは開示された情報だ。デュエルモンスターズにおいて、今何を持っているのか、がわかってしまうことは、戦術の露呈と先読みからくる展開の潰しが可能となる。


逆に、あえて見逃すということもできるのだ。でも、今の和波は初期化したアバターを使用している、はず。直々にプログラムを組んだ自信作だ、数秒で突破されるとは思えない。変な動きをすればアイが反応するだろう。まさかデッキデータの文字化けのプログラムにあのスキルを仕込んでいたのだろうか、いやスキルはデュエル中1度しかつかえない。それにあれだけの要領を食うスキルプログラム、もうひとつ仕込むのは無理だ。あの設定を初期化するのに何日かかったと思っているのだ。あれだけでもいかにシェイプアップとカスタマイズを繰り返したかわかる。


和波の知り合いには飛び切りの腕前のハッカーがいるらしい。否定の言葉はたくさんでてくるのだが、やはりここまでくると削り切れないライフポイント、防ぎきる猛攻、すべて予定調和にしか思えなくなってくる。


Playmakerはカードを手にする。答えはこのターンに出るかもしれない。


「俺は魔法カード《おろかな埋葬》の効果を発動!デッキからモンスター1体を墓地へ送る!そして、《サイバース・ガジェット》を攻撃表示で召喚!モンスター効果を発動だ。墓地からレベル2以下のモンスターを守備表示で特殊召喚することができる!蘇れ、《スタック・リバイバー》!効果を無効にした状態で召喚!」


playmakerのフィールドに3体の《サイバース族》が並ぶ。注意深く、そして慎重にplaymakerは和波の様子をうかがう。彼の視線はモンスターゾーンにいるモンスターたちでも、前に立ちふさがる何週目かの障害物でもない。エクストラゾーンにあった。そして手札を確認する。もしかしたら、が確信に変わる。


「こい、未来に導くサーキット!アローヘッド確認、召喚条件は効果モンスター2体以上!俺は《サイバース・ガジェット》、《スタック・リバイバー》、そして《サルベージェント・ドライバー》3体をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!リンク3!《デコード・トーカー》!」


エクストラゾーンに勇ましい剣士が降臨する。和波は動かない。


「さらに墓地に行った《サイバース・ガジェット》のモンスター効果を発動!こいつはフィールドから墓地に送られたとき、自分フィールドに《ガジェット・トークン》をレベル2、光属性、攻撃力・守備力0のトークンとして守備表示で特殊召喚!そして、《スタック・リバイバー》のモンスター効果を発動!リンク召喚の素材となったとき、他のリンク消化員の素材となったレベル4以下のサイバース族を1体守備表示で特殊召喚することができる!俺は《サイバース・ガジェット》をふたたびフィールドに特殊召喚!」


和波は構えない。どうやらplaymakerがしたことがわかっているようだ。


「アローヘッド確認!召喚条件はモンスター2体以上!リンク3《デコード・トーカー》と《サイバース・ガジェット》でリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン、リンク召喚!リンク4!《ファイアーウォール・ドラゴン》!!」


playmakerと和波の上空をドラゴンが滑空する。咆哮が轟いた。


「そして、《サイバース・ガジェット》の効果により、フィールドにはふたたび《ガジェット・トークン》が特殊召喚される!《ガジェット・トークン》2体でサーキットコンバイン!リンク召喚!リンク2!《ハニーボット》!!《ファイアーウォール・ドラゴン》のリンク先である真下に特殊召喚だ!」


そして、playmakerは魔法カードを掲げる。オカルトじみている、と初めに和波はいっていたはずだ。隠すことではないけど、信じてくれるのかと。てっきり自由意思があるAIという都市伝説じみた生命体を保護していることを指しているのかと思ったが、きっとそのままの意味なのだ。


それが和波のもつ特殊な力、そう、未来を見る、もしくは心をみる、まさしく《マインドスキャン》なのだとしたらすべてがきれいにつながる。あれは専用スキルではない。スキルはもともと付け外しが可能だ。でもあれは固定されている上に取り外しに数日を費やす特殊なプログラムが使われており、オンオフ機能がついていて実質和波はあれしか使えない状況にあった。それならもう、答えはひとつである。


「さらに魔法カード《死者蘇生》の効果を発動!蘇れ、《デコード・トーカー》!!」


怒濤のリンクモンスターの出現に和波は目を見開く。


「俺は《ファイアーウォール・ドラゴン》のモンスター効果を発動!相互リンクの数だけ自分または相手のフィールド・墓地のモンスターを手札に戻す!和波、お前の《星杯剣士アウラム》をエクストラデッキに戻せ!」

「うわっ」


《ファイアーウィール・ドラゴン》の強烈な羽ばたきにより、《星杯剣士アウラム》が吹き飛ばされてしまう。


「さらに、《デコード・トーカー》のモンスター効果を発動!このカードの攻撃力はカードのリンク先のモンスター×500ポイントアップする!よって、《デコード・トーカー》の攻撃力は2800となる!さあ、バトルだ、和波!いくら心が読めようが、それを防ぎきるだけの布陣を維持できなかったお前の負けだ!」


《デコード・トーカー》と《ファイアーウォール・ドラゴン》の猛攻を前に、リンク先を失った《星杯神楽イヴ》はモンスター効果を封じられ、《星杯戦士ニンギルス》も破壊される。そして、《ハニーボット》の攻撃が炸裂した。


Playmakerの勝利をアイが冗談めかして告げる。デュエルディスクにYOUWINと表示された。リンクヴレインズの風の中で、ゆっくりと互いのDボードが速度を落としていき、降下し始める。


足をつけると波紋のように、幾重もの光の波が真っ黒な世界にさざ波立てて広がっていく。かたい地面、高層ビル、なにかの施設、そういった輪郭だけははっきりとしている黒の世界に縫い目のない光の粒子がはじけてはきえた。


そこに降り立った2人に、役目を終えたDボードは消滅する。


「さすがですね、playmaker。君の言うとおり、僕の専用スキル《マインドスキャン》は改造プログラムですが、枷なんです。僕の力は対人だと問答無用で発動してしまう、だから生身でリンクヴレインズにダイブすることは不可能なんです。旧式のアバターを操作する方法でなら、島君たちと一緒に遊べるから、僕にとってはこっちのほうが楽なんです」

「待て、和波。さっき、人と会うと問答無用で発動する、といったよな。それは現実世界にいても同じなのか」

「ええ、そうですよ、もちろん。だからオンオフ機能をつけてるんです。マスタールールでも、スピードデュエルでも、超能力をプログラムに変換できる技術をSOLテクノロジー社は持ってる。それを知った姉さんは僕にいってくれたんです、来ないかって」

「……じゃあ、あの日、デュエルディスクを忘れたのはそんなリスクを被ってでもやりたいことがあったからか」

「はい」

「……とんだ食わせ者だな、お前」

「君ならきっと気づいてくれると思ってました。試すような真似してごめんなさい、HALがどうしてもって聞かないから」

「HAL?」

「はい。どうでしたか、HAL。僕の言った通りでしょう、Playmakerってすごい人なんですよ、僕がスピードデュエル、またやりたいって思わせてくれる人なんだから」


和波は初期化されたデュエルディスクではなく、デッキに呼びかける。ぎょっとするplaymakerに和波は笑う。


「いったでしょう、オカルトじみてるって。僕はもともと視える体質だったんですが、10年前に家族で遊園地に行った日、ある組織に誘拐されたんです。こいつが見えるかって、カードの精霊を見せられて、うんってうなずいたのがすべての始まりでした。あの時の僕はばれたら虐められるってお姉ちゃんに内緒にするよう言われてて、大人の人に聞いてもらえたのは初めてだったから、つい答えてしまったんです。僕はどこかの施設に閉じ込められて、ひたすらスピードデュエルをやらされたんです。ハノイの騎士を追いかけてるなら知ってるでしょう、playmaker。あの頃は模倣犯や犯行を押し付けようとした組織の暗躍もあって、異様に治安が悪くなった時期があったこと。僕はそのひとつの被害者です。そして、5年前のあの日、僕はお姉ちゃんが優勝した大会の別部門に紛れ込んでいました。そして、大規模なハッキングとモンスターの実体化、闇のデュエル、いろんなことが一気に起こって童実野市が大パニックになったんです。そんなとき、僕はHALと出会いました」

「AIなのか?」

「はい、HALを追いかけてきたハノイの騎士と交戦することになって、スピードデュエルができるのは僕だけで。でも僕はバニラデッキとしての《星杯》しかもってなかった。それを見たHALが自身のプログラムと融合させたんです」

『ってことはー、なにいっ!?自分の意志で別のプログラムになっちゃったの、お前?!しかもデュエルディスクのAIじゃなくて、デッキのデータ?!AIですらないじゃん!』

『ざんねーん、俺様はそんなちゃちな罠にはハマらねえよ、本体様!俺様はこのクソガキとたいとーな契約を交わしたんでね、むしろ俺様のが優位な立場だ。ぎゃははっ、ちょーっといけてないんじゃなーい、本体様ー?ああくそ、なんでこんなやつのバックアップなんだよ、俺様。普通立場逆じゃないですかねー?』

「アイでよかったと心の底から思ったのは初めてだ」

『ちょっと、なんでいきなりデレるんだよ、playmaker様?!ぜんっぜんうれしくないんだけど?』

「そんなことないですよ、playmaker。HALは素直じゃないだけですから。ずっと君のこと探してたんだよ、本体君」

『いきなりありもしない感動話にもってくのやめてくれませんかねえ?鳥肌立つんだけど』


Playmakerは無言で音声を切った。あ、と和波は声を上げる。どうやら同期の設定にしてあるせいで、遠隔操作でこちらの音声も切られてしまったようだ。


「本体、って何の話だ?」

「HALがいうには、君のAIが本体で、こっちはバックアップデータだそうなんです」

「ということは、まさかアイの記憶が復元できるのか!?」

「え?」

「実はこいつ、大半のデータが破損した上にこのデータ以外はハノイの騎士に奪われたらしいんだ。記憶自体は少しずつ戻ってきてはいるんだが、まだまだ肝心なところがわからない」

「そうなんですか!?僕はてっきり、君はアイ、君?と共闘してるものだとばかり。まいったな、HALからデータを受け取るにしても、専用のプログラムがないと復元できないんだそうです。まいったな、まさかハノイの騎士の手にわたってるなんて……!」

「HALからは受け取れないのか?」

「うーん、難しいと思います。HAL、サイバースのプログラム技術にサイコデュエルのエネルギーをプログラムに変換する技術まで組み込んで、かなり複雑になっちゃてるから……。お姉ちゃんに頼んだけど、いまだに解析できてないんです」

「そうか、アイのプログラムを復元させたほうが早そうだな」

「ごめんなさい、力になれなくて。HALは基本的に僕の味方なんですけど、裏切らなきゃ、っていつもいうから誰も信用してないのかもしれないです」


一応見ます?とデータマテリアルを開示する和波だが、playmakerは眉を寄せて首を振った。アイのプログラムの復元でさえ手一杯なのだ、これ以上煩雑なものなのは明白、無理だった。


それよりも現在進行形でこちらの心の声を把握しているのなら、さっさとログアウトさせて能力を制御させないといけない。


「和波、とりあえずログアウトするぞ。ついてこい」

「あ、はい」


立ち入り禁止エリアの侵入者を探知した運営の放った警報が聞こえてくる。Playmakerに言われ、和波はふたたびDボードに乗り込んだ。


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