「やっかいなことを・・・・・・」
リボルバーはつぶやく。今、和波の盤面は相互リンク状態である。そもそもリンク状態とは、リンクモンスターの持つリンクマーカーの先にモンスターがいる状態、または2つ以上のリンクマーカーがモンスターに向いている状態を指す。
たとえば《リンクスパイダー》のリンクマーカーは真下しかない。その先に《リンクスレイヤー》がいれば《リンクスパイダー》と《リンクスレイヤー》はリンク状態である。
そして、相互リンクとは、リンクモンスターが2体以上いて、お互いにリンクマーカーが向いている状態を指す。今の和波の盤面はすべてのモンスターがリンクモンスターであり、すべてのモンスターが相互リンク状態である。
実はすべてのモンスターが相互リンク状態で、相手のエクストラゾーンにモンスターがいない場合、本来なら使用できないはずの相手のエクストラゾーンを勝手に使用することができるのだ。それがなにを意味するのか。
エクストラゾーンにリンクモンスターをおくことで、初めて他のエクストラゾーンにいるモンスターを展開することができるのだ。それをはじめから封じてきたのだ
しかも和波の相互リンクでエクストラゾーンに置かれたのは《リンクスパイダー》、マーカーは下。《電影の騎士ガイアセイバー》、マーカーは右左下。
エクストラゾーンからマーカーが出ているためにリボルバーの展開を助ける、といったプレミスがまず望めない盤面である。このまま何もさせずに終わらせる気だとリボルバーは確信した。
「まずは環境を整えるとしよう。私は永続魔法《補給部隊》の効果を発動。1ターンに1度、自分フィールドのモンスターが戦闘や効果で破壊された場合、1ドローすることができる。そして魔法カード《闇の誘惑》の効果を発動。デッキからカードを2枚ドローし、手札の闇属性モンスター1体を除外する。そして《マグナヴァレット・ドラゴン》を攻撃表示で召喚!……うん?《ファイアウォール・ドラゴン》の効果は使わないのか?」
「道連れに墓地に送られちゃうじゃないですか」
「さすがにそんな軽率な真似はしないか」
「playmakerのエースにそんな無様な真似、させられませんからね」
「なら、バトルだ。《マグナヴァレット・ドラゴン》で《リンクスパイダー》に攻撃」
「通します」
「ならダメージを受けてもらおうか」
「ぐっ」
「これで《ファイアウォールドラゴン》のバウンス効果が1つ減らせたな。さて、私は速攻魔法《スクイブ・ドロー》を発動、自分フィールドの《ヴァレット》モンスター1体を対象として効果を発動する。《マグナヴァレット・ドラゴン》を破壊し、デッキからカードを2枚ドロー。さらに《補給部隊》の効果で1ドロー。そして、カードを4枚伏せてターンエンド。エンドフェイズに《マグナヴァレット・ドラゴン》のモンスター効果により、同名カード以外の《ヴァレット》モンスター1体を特殊召喚できる。私は《アネスヴァレット・ドラゴン》を表側守備表示で特殊召喚。ターンエンドだ」
和波は息を吐く。相手ががん伏せしてきたのだ、どうあがいても踏み抜くしかない。
「僕のターン、ドロー!さあ、バトルです、リボルバー!」
「ああ、来い」
リボルバーは冷静だった。《ヴァレット》は効果の対象になった瞬間に破壊される効果がある。1体効果を無効化にされた上に攻撃を封じられてしまう。これで《ファイアウォール・ドラゴン》は1度しかバウンスできなくなってしまう・
「おっと、ここで私は速攻魔法《クイック・リボルブ》の効果を発動、デッキから《スニッフィング・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚する」
壁が邪魔をする。和波は思うように削れないまま、エンドフェイズを宣言した。
「《ここで《スニッフィング・ドラゴン》の効果を発動、戦闘で破壊されたこのモンスターはエンドフェイズに同名以外の《ヴァレット》モンスターを特殊召喚することができる。こい、《マグナヴァレット・ドラゴン》!守備表示で特殊召喚だ!それにチェーンして発動、《スクイブ・ドロー》!効果により《マグナムヴァレット・ドラゴン》を破壊、デッキからカードを2枚ドローする!そして、今、エンドフェイズのため《マグナムヴァレット・ドラゴン》のモンスター効果で、《ゲートウェイ・ドラゴン》を特殊召喚。お前のターンはこれで終了だ」
すさまじい勢いで墓地が肥えていく。
「私のターン、ドロー!《ゲートウェイ・ドラゴン》のモンスター効果を発動、手札からレベル4以下のドラゴン族・闇属性モンスター1体を特殊召喚する。私が呼ぶのはもう1体の《ゲートウェイ・ドラゴン》だ。そして、手札から《スニッフィング・ドラゴン》を攻撃表示で召喚!こいつのモンスター効果により、私はデッキからもう1枚の《スニッフィング・ドラゴン》を手札に加えることができる。そして《闇の誘惑》の効果を発動、デッキからカードを2枚ドローし、闇属性モンスターを1枚除外する。さらに魔法カード《スクイブ・ドロー》を発動、《ゲートウェイ・ドラゴン》を破壊し、2枚ドローする。《補給部隊》でさらに1ドロー」
カードを補充しつつ展開を加速させていくリボルバーは笑った。
「いいカードだ。ここで使わせてもらうぞ、魔法カード《クイック・リボルブ》!私はデッキから《ヴァレット》モンスター1体を特殊召喚する!こい、《マグナヴァレット・ドラゴン》!!」
フィールドにどんどんフィールドが整っていく。和波も《ファイアウォール・ドラゴン》でバウンスを試みるが、打ち抜くことができない。じわじわとライフポイントを削ってはいるものの、ヴァレットは後続を呼ぶことにたけているテーマだ。
バックが厚いリボルバーが盛り返し始めた。そして、《貪欲な壺》で墓地の闇属性カードを調整した《ダーク・アームド・ドラゴン》の出現により、《電影の騎士ガイアセイバー》やバックのカードが剥がされてしまう。
数ターンが経過した頃。動いたのはリボルバーだった。フィールドにはモンスターが4体ならぶ。
「これで準備は整った。現れるがいい、我が道を照らす未来回路!アローヘッド確認、召喚条件は効果モンスター3体以上!私は《ゲートウェイ・ドラゴン》、《ダーク・アームド・ドラゴン》《スニッフィング・ドラゴン》、《マグナヴァレット・ドラゴン》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン、リンク召喚!来い、リンク4!《ヴァレルロード・ドラゴン》!!」
バーチャル世界を震撼させるような衝撃があたりに広がる。顕現するだけでも相当なエネルギー出力を食う、まさにエースと言うにふさわしいカードである。
「《ヴァレルロード・ドラゴン》のモンスター効果を発動だ、フィールド上に表側で存在するモンスター1体の攻撃力・守備力を500ダウンさせる!俺は《ファイアウォール・ドラゴン》を宣言!この効果に対して和波誠也、お前は他の効果を使うことができない」
「くっ」
「バトル!私は《ファイアウォール・ドラゴン》に攻撃する!この瞬間、もう1体の《ファイアウォール・ドラゴン》を《ヴァレルロード・ドラゴン》のリンク先においてコントロールを得ることができる!!」
「《ファイアウォール・ドラゴン》が!」
「さあ、いけ!」
「そうはいきません、効果発動《神風のバリアーエア・フォースー》!!《ファイアウォール・ドラゴン》は返してもらいますよ!」
「くっ……破壊ではなくバウンスか……!」
「そうですね。デュエルはまだまだこれからです」
和波はドローを宣言した。
互いにデッキの枚数よりも墓地の枚数が増え始めていた。だんだんデュエルが楽しくなってきたのか、和波のデッキはよく回る。
エクストラゾーンに《ミセスレディエント》、《デコードトーカー》、《ハニーボット》、《大天使クリスティア》という悪夢がもうすぐ完成と言うときになって、リボルバーのがん伏せしていた罠がぶっささる。気づけば互いに焼け野原になってしまった。
「私のターン、ドロー!……さて、まずは盤面を整えるとしようか」
リボルバーは動いた。
「私は魔法カード《竜の霊廟》の効果を発動。このカードはデッキからドラゴン族モンスター1体を墓地に送る。墓地に送ったモンスターが通常モンスターだった場合、もう1体のドラゴン族モンスターを墓地に送ることができる。私が送るのはこの2枚だ」
リボルバーの頭上に通常モンスターでありながらチューナーである《ラブラドライドラゴン》、そしてペンデュラムモンスターである《覇王眷竜ダークヴルム》の2枚である。
「ペンデュラムモンスター……たしか、オリカじゃ?」
スピードデュエルをフリーゲームにしよう、という流れの中で、アバター職人と呼ばれている一般人が発案した特殊召喚方法だったと和波は記憶している。
あらゆる特殊召喚の下地になる新しい発想だったため、一時期はやっていたような。オリカデッキはフレンド登録した相手が許可すれば仲間内だけではあるが使用することができたはずだ。
「情報がいささか古いようだな。たしかにアイデア自体は一般人が考えたようだが、SOLテクノロジー社がplaymakerを捕獲するためにその男を刺客としたら、その瞬間からやつが使うカードは公式となる。カードプールを確認してみろ。やつは一般販売はせず、データのみ無料で配布すると宣言している。公式で認められた以上、これは使うことが可能だ」
「データだけ……そっか、最近はそういった入手方法もあるんですね。僕、現物主義なので」
「なにをいっているのやら」
「なんのことです?」
和波はしらばっくれる。データ上でしか存在しないリンク召喚主軸の《星杯》デッキを使用しているのは、他ならぬ和波である。
「墓地の《覇王眷竜ダークヴルム》のモンスター効果を発動、このカードが墓地に存在し、私のモンスターゾーンにモンスターが存在しない場合、フィールドに特殊召喚することができる!蘇れ、《覇王眷竜ダークヴルム》!そして、こいつが特殊召喚に成功したこの瞬間、デッキから《覇王門》モンスターをサーチ、手札に加える。私が加えるのは《覇王門零》」
有用ならばなんだって使うのだ。目的を達成するためにくだらない縛りなど設けて達成できなかったら、それこそ無能である。そう言いたげな展開だ。リボルバーが使うデータだけのカードに少々不穏な気配を感じつつ、和波は展開を見守る。
「私は《黒鋼竜》を攻撃表示で召喚。さあ、はじめようか。来い、我が勝利に導く未来回路!アローヘッド確認、召喚条件はトークン以外のレベル4以下のドラゴン族モンスター2体。私は《覇王眷竜ダークヴルム》、《黒鋼竜》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン、リンク召喚!リンク2《ツイン・トライアングル・ドラゴン》!リンク召喚に成功した時、ライフポイントを500支払い、私は墓地からレベル5以下のモンスター1体をリンク先に特殊召喚することができる。蘇れ、《ラブラドライドラゴン》!この効果で特殊召喚すると攻撃できず能力も使えないが問題ない。さらに墓地にある《黒鋼竜》のモンスター効果を発動、デッキから《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》をサーチ!手札に加える」
リボルバーは笑う。
「和波誠也、お前はイグニスのアーカイブを持っている。だからお前とplaymakerだけが共通のカードプールを使える、と勘違いしているようだな。だが、それはお前だけの専売特許ではないことを教えてやる」
「え?」
「忘れたのか?私たちが探しているのは、イグニスのもつサイバースへのアクセスコードだけ。他のイグニスのデータなどすべて掌握している!忘れたのか、playmaker、そしてお前の連れているイグニスは、もともと1つの生命体だったということを!所詮お前が連れているのはアーカイブ、本体の所有するカードプールではない!」
「まさか」
「アローヘッド確認、召喚条件は通常モンスター1体!私は《ラブラドライドラゴン》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン、リンク召喚!リンク1,《星杯竜イムドゥーク》!」
「なっ!?」
「そして、《星杯竜イムドゥーク》を除外し、《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》を攻撃表示で特殊召喚する!手札を1枚捨て、墓地の《黒鋼竜》を攻撃表示で特殊召喚!」
あっというまにリボルバーのフィールドはドラゴンたちで埋め尽くされていった。
「アローヘッド確認、召喚条件は効果モンスター3体以上。私はリンク2《ツイン・トライアングル・ドラゴン》、《レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン》、《黒鋼竜》をリンクマーカーにセット!」
「リンク4……まさか!?」
「サーキットコンバイン、リンク召喚!リンク4、再びフィールドに舞い戻れ、《ヴァレルロード・ドラゴン》!!」
データストームの中心から現れたまがまがしいドラゴンが空高く咆哮する。
「そして、魔法カード《クイック・リボルブ》の効果を発動、デッキから《ヴァレット》モンスターを1体フィールドに特殊召喚することができる。こい、《ゲートウェイ・ドラゴン》!そして、モンスター効果により墓地から《スニッフィング・ドラゴン》を特殊召喚!アローヘッド確認、召喚条件はトークン以外のレベル4以下のドラゴン族モンスター2体!サーキットコンバイン、リンク召喚!リンク2,《ツイン・トライアングル・ドラゴン》!!さらにモンスター効果で墓地からレベル5以上のモンスター1体を特殊召喚する!来い、《亡龍の戦慄ーデストルドー》を特殊召喚!アローヘッド確認、召喚条件は効果モンスター2体以上!私は《ツイン・トライアングル・ドラゴン》と《亡龍の戦慄ーデストルドー》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン、リンク召喚!リンク3!《トポロジック・ボマー・ドラゴン》!!」
さらに吠えるドラゴンの叫び声がリンクヴレインズに木霊した。
「さあ、バトルだ、和波誠也!2体でダイレクトアタック!!」
「僕は負けるわけにはいかないんです!罠発動、《リビングデットの呼び声》!」
「なっ!?」
「墓地のモンスターを特殊召喚します、僕が特殊召喚するのは《聖なるあかり》!!」
「攻撃力守備力0のモンスターを特殊召喚だと!?何を考えているんだ!」
「このモンスターは闇属性モンスターとの戦闘では破壊されず、その戦闘で発生する自分へのダメージは0になります!このカードが存在する限り、闇属性モンスターは攻撃宣言することができません!そして、お互いに闇属性モンスターを攻撃することができないんです」
「……くっ、攻撃表示ということは《オネスト》を握ってるんだろう。私はこのままエンドを宣言する」
悔しげにリボルバーはターンを譲った。見抜かれちゃいましたか、と和波はちょっと残念そうだ。もっともゴーストの一面も知っているリボルバーには、それが本当なのか嘘なのかいまいち判断がつきかねる状況だったりする。
露骨にメタを張るあたり、ゴーストの時に《閃光を吸い込むマジックミラー》がぶっささったのがよっぽど気にくわなかったと見える。
シンクロ召喚、エクシーズ召喚、リンク召喚と別属性のモンスターを出すことが多くなった環境においては本来サイドに投入すべきカードをメインにはじめから積むあたり、明らかにリボルバーをめたっていた。
「playmakerとのデュエルを見て対策を立ててきたか。仕方ない、次こそは」
「回ってくるといいですね、次のターン。僕はもうターンを渡す気はありませんが!」
相互リンク召喚、隙あらばクリスティア、相手を封殺するパーミッション寄りの構築らしい和波の《代行天使》である。毎回牙城を崩され、布陣を突破され、そろそろ和波誠也を演じるには熱くなりすぎている、と自分なりに判断したらしい。そんなおふざけに乗ってやるほどリボルバーは暇じゃないので、全力で防衛にかかるだけである。
「僕のターン、ドロー!」
どんどん大きくなっていった和波の声は、ここまでくると凜とあたりに響き渡る。
「まずは魔法カード《貪欲な壺》の効果を発動します、墓地のモンスター5枚をデッキに戻して、シャッフル。2枚ドロー」
和波の頭上に大きく表示されたモンスター達がデッキに戻っていく。そして裏側のカードが2枚和波の手札に舞い込む演出が加わる。
「僕は速攻魔法《光神化》の効果を発動、手札から天使族モンスター1体を特殊召喚します。この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は半分になり、エンドフェイズに破壊されますが。問題ありません。このターンで決着をつけますから!」
「自信満々だな、やってみろ」
「僕が召喚するのは《アテナ》です」
和波のフィールドに攻撃力が1300となった《アテナ》が攻撃表示で特殊召喚される。
「攻撃力1300……?」
「このモンスターは1ターンに1度、アテナ以外の天使族モンスターを墓地に送り、アテナ以外の天使族モンスターを特殊召喚できます。あと、天使族モンスターが召喚、特殊召喚されたら、600ダメージを与えることができます」
嫌な予感がするのかリボルバーはつぶやく。
「そして、僕は《地獄の暴走召喚》を発動」
「なっ」
「相手フィールドにモンスターが表側表示で存在し、自分フィールドに攻撃力が1500以下のモンスターが1体のみ特殊召喚された場合に発動することができます。同名モンスターを手札、デッキ、墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚!もちろん僕が呼ぶのは《アテナ》!君も同じように呼ぶことができますよ。墓地、デッキから」
「……私のデッキに闇属性ドラゴンしかいないと知っていっていってるのか?」
「えへへ、もちろんです。まずは600ポイントのダメージをうけてください」
「ぐっ」
和波のフィールドに《アテナ》が3体、《聖なるあかり》が1体出現する。
「だがツメが甘いな、和波誠也」
「えっ」
「まず、私は《ヴァレルロード・ドラゴン》のモンスター効果を発動、フィールドのモンスターの攻撃力守備力を500下げる」
「安心してください、バーンで焼き切ってあげますから」
「そう焦るな、対象は《トポロジック・ボマー・ドラゴン》、これで攻撃力は2500となる。チェーンして発動させてもらう、罠発動《バーストブレス》!!」
「!?」
「《トポロジック・ボマー・ドラゴン》をリリースして効果を発動する!自分フィールドのモンスターをリリースし、そのモンスターの攻撃力以下のモンスターをすべて破壊する!!」
「なっ?!」
一瞬の出来事だった。一瞬にして和波のフィールドのモンスターたちは破壊されてしまう。
「まだ、まだです。僕は《貪欲な壺》の効果で墓地からカードを5枚戻し、2枚ドロー!そして、《創世の代行者 ヴィーナス》を攻撃表示でしょうか」
和波が起死回生の展開を始めようとした時だった。
警報が鳴り響く。
そして、侵入者を排除する、という言葉がエラーをはき出しながら、あたりのエリアを赤く染め上げ始めた。
「時間切れのようだな」
「待ってください、まだ勝負はついていません!」
「あいにく私はお前とデュエルをしにきたわけじゃないんだよ、和波誠也。この勝負、預けておく」
「逃げるんですか?」
「逃げる?違うな、だがこれ以上続けられないのはお前もだろう?違うか?」
「うっ……」
これ以上デュエルをしたら、まちがいなく和波はゴーストとしての側面が隠しきれなくなる。言い当てられた和波はとても残念そうだ。
「だが、これでお前の言う条件は満たしただろう」
「え?あ、はい、悔しいですけど……やっぱり君とのデュエルは楽しいですよ、リボルバー。わかりました。なんでしょう、僕に用って?」
「和波、お前に一つ聞きたいことがある」
「なんでしょうか」
「最近、お前の近くに不審な人物はいなかったか」
「それはどういう?」
「リーダーである私に無断で勝手な動きをしている者がいる。今回、私がお前を助けるような真似をしたのは、取引をするためだ」
「取引?」
「ああ。私は今回の件でハノイの騎士に属していながら、グレイ・コードに出入りしている内通者をあぶり出そうと考えている。やつは私の思想に感化されていないがら、サイバースの技術を使い、イグニスと協力関係にあった。断じてその存在を許すことはできない。どんな目的であれ処罰の対象だ」
「待ってください、グレイ・コードに協力してたイグニスがいるってどういうことですか!?」
「・・・・・・そんなことも知らずにイグニスのアーカイブを匿うような真似をしたのか?playmakerともどもあきれた奴らだ。だからつけいる隙を与える。それくらい自分で調べたらどうだ。今の自分の立場をよく考えるがいい」
「僕がどうあるかは僕が決めます。それを決めるのは君じゃない。とにかく、取引ってなんですか?」
「お前の近くに《クローラー》使いが現れたら、今度は私にも知らせろ」
「え?それは連絡先を交換するってことですか?」
「そうとってくれてかまわない」
「……」
「そして、だ。お前たちの周りにはすでに《クローラー》使いが何度も送り込まれているはずだ。そのたびに感染ルートも解析し、それなりの情報が溜まっているはずだろう。その一部には私たちが持っていたはずのデータが無断で使用されているかどうか確かめたい。もちろん、ただとはいわない。それなりの見返りは用意する」
「HALとアイくんの奪還、あきらめてくれませんか?」
「うぬぼれるな、和波誠也。私は取引に来たんだ、見合うだけの見返りがお前は用意できるのか?代案も用意しないでお願いできるような立場か?それとこれとは話が別だ」
「じゃあ、具体的にはなにをしてくれるんですか?」
「グレイ・コードに関しては、私も殲滅に協力すると約束しよう」
「え」
「あの男は危険だ。サイバースを殲滅するにしろ、サイバースへのアクセスコードを入手することは必須になる。あの男の手に渡ったが最後、リンクヴレインズは大変なことになる。それだけはさけなくてはいけないからな」
「ど、どういうことです……?あの男って?」
「お前は会ったことがないのか?3年も誘拐されておきながら?……いや、あの頃はまだ構成員だったのか?まあ、いい。名前だけ教えてやる。和波も覚えているとは思うが、グレイ・コードの連中は武器の名前をコードネームにしたがる。リンクヴレンズでの名前はフランキスカ、聞いたことくらいはあるんじゃないか?」
「……フランキスカ……ああ、はい、名前だけならよく知ってます」
「だろうな」
「はい、何度も何度も忠誠を誓わせる、時代錯誤な”躾”を受けましたから」
「私の言っている意味がわかるな?」
「……そっか。僕を閉じ込めてた人たちはみんな捕まったけど、あの人だけはまだ捕まってなかったんですね」
「そうだな。ひたすら幹部連中が失脚するのを待っていたのか、研究職だから逃げ延びる方法があったのかはわからないが、おそらくお前が知っている人間で今グレイ・コードにいるのはあの男が最古参だ」
「………だから僕や姉さんを今更……!」
「あの男に言わせれば、お前は最高傑作らしいからな」