第8話(修正済み)
「あははっ!好き勝手言ってくれるじゃないか、少年君!いきなり勝負を挑んでくるなんて、ちょーっとばかし挑発がすぎるんじゃないかなあ?ボクと勝負するに足る相手かどうか、見せてもらわないと困っちゃうよ!ボクはね、playmakerやカリスマデュエリスト達みたいな強いデュエリストとのデュエルを望んでるのさ!君が何者であれ、みんなより弱い、なんて興ざめなことしないでほしいな!そのデッキテーマに興味はあるけど、それでボクの《トワイライトロード》の相手になるかどうかは別の話だけどね!」


ゴーストのアバターとなった 和波はウインクをとばす。


「な、なにいってるんですか、僕は勝負を挑んでないですよー!?気づいたらここにいたんです!変なこといわないでくださいよおっ!」

「あっはっは、そんなのあんまり変わらないじゃないか。たしかにボクが君をここに呼んだけど、応じたのは君なわけだから、勝負を挑んだのは君だよね?ほら、誤差の範囲だよ、誤差」

「ぜんっぜん違いますってば!だいたい、どうして僕?!」

「んー?なにいってるのさ、しらばっくれちゃって。playmakerとデュエルしたんだろ?話は聞いてるよ。playmakerがデュエルを挑むくらいなんだ、きっと君もハノイかサイバースと関係あるんだろ?違う?サイバースに関わるやつらはみんな強いデュエリストだからね、もしかしたらと思ったのさ!」

「さっきから言ってることむちゃくちゃですよ!?」

「いーじゃないか、それくらい。細かいなあ。つまりはさ、君は今ここでボクとデュエルすればいいってことだよ!ボクのターン、ドロー!!」


HALがネットの偏りすぎた文化を面白がって取り込んだ性癖だらけのアバターを翻し、 和波はドローを宣言する。ひらひらするかわいい女の子のアバターを恥ずかしがる 和波の思考と ゴーストとしての口調、表情、そして連動して起こるはずの細部の動きはリンクしない。


だてに数年間、いろんな姿のアバターでデュエルをしてきたわけではないのだ。完全に ゴーストとしての自分といつもの自分を切り離せているのだ。そういう意味では、絶対に着るはずがないふりふりの装飾がいっぱいある洋服と長い髪からなびくリボンは、思考の切り離しを促進してくれるのかもしれなかった。直視できないともいう。


「ボクは魔法カード《ソーラー・エクスチェンジ》の効果を発動!手札から《ライトロード》モンスター1体を捨てて、デッキからカードを2枚ドローするよ!そして、その後、デッキの上からカードを2枚墓地に送るね!」


和波の頭上にカード情報が2枚HALに提示され手札に加わる。そして、デッキトップから2枚情報が提示された後、墓地に送られていく。


「さらにボクは《光の援軍》の効果を発動!デッキトップからカードを3枚墓地に送り、デッキからレベル4以下の《ライトロード》モンスターを1体手札にくわえるよ!ボクが加えるのは《ライトロード・サモナー ルミナス》!そして、このまま攻撃表示で召喚!」


白い法衣を身にまとった少年は、その布地を翻し、両手から光をうむ。


「そして、モンスター効果を発動!1ターンに1度、手札を1枚捨て、墓地のレベル4以下の《ライトロード》モンスター1体をフィールドに特殊召喚することができるんだ!ボクは《エクリプス・ワイバーン》を墓地に送り、《トワイライトロード・シャーマン ルミナス》を攻撃表示で特殊召喚!」


和波の頭上に《エクリプス・ワイバーン》が現れる。


「そして、墓地に行った《エクリプス・ワイバーン》のモンスター効果により、デッキからレベル8以上のドラゴン族モンスターを除外するよ!ボクが選択したのは《破壊竜ガンドラ・ギガレイズ》!!そして、魔法カード《おろかな埋葬》の効果を発動!デッキからモンスター1体を墓地に送るよ!そのまま《トワイライトロード・シャーマン ルミナス》のモンスター効果を発動!1ターンに1度、手札か墓地から《ライトロード》モンスターを除外し、同名カード以外の《ライトロード》モンスターカードをフィールドに特殊召喚することができる!さっき墓地に送った2体目の《ライトロード・サモナー ルミナス》を攻撃表示で特殊召喚!さらにカードを1枚捨ててモンスター効果を発動!墓地からもう2体目の《トワイライトロード・シャーマン ルミナス》をフィールドに攻撃表示で特殊召喚!!」


この間にも、自分以外の《ライトロード》の効果で墓地肥やしが行われるたびに、《トワイライトロード・シャーマン ルミナス》の第2の効果により、さらなる墓地肥やしが行われていく。《エクリプス・ワイバーン》がまた墓地に落ち、《ガンドラ》が除外された。どんどん次なる布石が整えられていく。


「アローヘッド確認!召喚条件はモンスター2体以上!ボクは《トワイライトロード・シャーマン ルミナス》と《ライトロード・サモナー ルミナス》2体をサーキットコンバイン!リンク召喚!リンク3!さあ、きて!《電影の騎士ガイアセイバー》!!」


和波のエクストラゾーンに勇ましい騎士が出現した。HALはおどろいた顔をしている。内心はうげっという感じだろうことは、マインドスキャンを解禁しなくったってわかるのだ。


フィールドと墓地に《トワイライトロード・シャーマン ルミナス》、《ライトロード・サモナー ルミナス》この2種類がそろってしまった時点で、コストさえ用意できれば延々と展開は続いていくのである。


ふたたび同じ手順で出現する《電脳の騎士ガイアセイバー》。そして、自分のフィールドのモンスターを対象に《妖精伝姫シラユキ》の効果を発動、墓地から7枚除外されるカードの中にある《エクリプス・ワイバーン》の第2の効果が発動してしまう。


除外されている《ガンドラ》シリーズが手札に舞い込んだ。そして、《妖精伝姫シラユキ》2体で《ライトロード・セイント ミネルバ》がエクシーズ召喚され、さらなる墓地肥やしが加速する。


そして、デッキから落ちた《ライトロード・アーチャー フェリス》がフィールドに特殊召喚され、モンスター効果が発動、《星杯戦士ニンギルス》が狙われるが《星杯神楽イヴ》が代わりに身代わりとなる。これで、リンクが切れた《星杯神楽イヴ》は普通のモンスターとなった。


「ボクはフィールドのモンスター2体をリリース!すべてを無に帰す驚異が新たな姿に生まれ変わる!さあ、きて、ボクのエース!《破壊竜ガンドラ・ギガ・レイズ》!!さらに手札を2枚墓地に送り、もう1体特殊召喚!!」


「さあ、バトルだよ!まずは《電影の騎士ガイアセイバー》でミラーマッチと行こうか!」

「受けて立ちます!」

「まずは1体目!よーし、次はもう1体の《電影の騎士ガイアセイバー》で《星杯戦士ニンギルス》を攻撃だ!」

「これだけは通せません、速攻魔法《禁じられた聖杯》!《星杯戦士ニンギルス》を対象に効果を発動します!ターン終了時まで《星杯戦士ニンギルス》のモンスター効果は無効になりますが、攻撃力が400ポイントアップします!」


《電影の騎士ガイアセイバー》と一騎打ちとなった《星杯戦士ニンギルス》は新たな加護を受けてその槍を振るう。断末魔を刈り取った彼は誇らしげに槍を回した。


「これで返り討ちです!」

「まだまだあっ!今度は《破壊竜ガンドラーギガ・レイズ》で《星杯戦士ニンギルス》を攻撃するよ!」

「なら、今度は《破壊竜ガンドラーギガ・レイズ》に《禁じられた聖杯》を使います!」

「なっ!?2枚も握ってたの!?」


《妖精伝姫シラユキ》の効果で14枚除外されていたことにより、《破壊竜ガンドラーギガ・レイズ》の攻撃力は4200となっていた。だが、この速攻魔法の妨害により、攻撃力は400となってしまう。


破壊竜はただでさえ同名カードにより強化されていた《星杯戦士ニンギルス》の槍の餌食となった。爆発四散した余波により、 和波はさらなるカウンターダメージを食らってしまう。


「でも、まだもう1体いる!みんなの仇をとるんだ、《破壊竜ガンドラーギガ・レイズ》!!」


すさまじい咆哮が轟いた。2度防ぎきった攻撃だが、3度目はないらしい。怒り狂った破壊竜の圧倒的な破壊力に蹂躙された《星杯戦士ニンギルス》のソリッドヴィジョンは砕け散る。すさまじいダメージがHALを襲った。なんとか持ちこたえたHALは笑う。


「《星杯戦士ニンギルス》のモンスター効果を発動!墓地に送られた時、手札から《星杯》モンスター1体を特殊召喚することができます!僕は《星杯の守護竜》を特殊召喚!」

「おっと、困るなあ、次のターンの準備をされちゃ!さっきのバトルで僕の墓地には、《ガンドラ》モンスターが3種類そろったんだ!だから、《破壊竜ガンドラーギガ・レイズ》のモンスター効果を発動させてもらうよ!」

「なっ!?」

「ライフポイントを半分支払い、効果を発動!お互いのフィールドと墓地のカードをすべて除外させてもらうよ!!」


破壊竜の閃光が轟いた。一瞬の出来事だった。フィールドはさらなる除外により攻撃力が6000を突破した破壊竜。HALのフィールドと墓地はがら空き、除外ゾーンからカードを回収する手段はない。


「これでボクのターンは終わりだ。さーて、見たところ《星杯》ってテーマは墓地を結構使うみたいだけど、どうでるつもりかな?」


挑発めいた笑みにHALは負けませんと叫ぶ。


「僕のターン、ドロー!!」


きた、とHALの笑顔がはじけた。


「僕がひいたカードは《BFー朧影のゴウフウ》!僕のフィールドにモンスターが存在しない場合、特殊召喚することができます!攻撃表示で特殊召喚!」


HALのフィールドに攻守が0のチューナーが出現するが、その狙いがシンクロ召喚ではないことを 和波は知っている。


「このカードが特殊召喚に成功したとき、僕はフィールドに鳥獣族、闇属性、レベル1、攻撃力守備力0の《朧影》トークン2体を守備表示で特殊召喚することができます!さあ、おいで!」


たった1枚で3体のモンスターが並んでしまう。


「この《朧影トークン》2体でアローヘッド確認!召喚条件は通常モンスター1体!それぞれのトークンをリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!リンク1!《リンク・スパイダー》2体!!」


エクストラゾーンに特殊召喚されたリンクモンスターが伸ばした糸が下に伸び、同じリンクモンスターを並べていく。


「アローヘッド確認!召喚条件は種族、属性が異なるモンスター2体!僕はモンスターゾーンの《リンク・スパイダー》と《BFー朧影のゴウフウ》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!リンク2!《星杯神楽イヴ》!!」


エクストラゾーンの蜘蛛の糸に捕まりながら、少女がフィールドに降りてくる。


「さらにアローヘッド確認!召喚条件はリンクモンスター2体以上!リンクモンスターはリンクマーカーにセットするとき、そのリンクの数をモンスターの数として扱うことができます!僕はリンク2《星杯神楽イヴ》と《リンク・スパイダー》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚、リンク3!《星杯戦士ニンギルス》!!」


エクストラゾーンに星杯のエースが再び降臨する。


「《星杯神楽イヴ》がフィールドを離れたことでモンスター効果を発動します!手札から《星杯の妖精リース》を攻撃表示で特殊召喚!!特殊召喚に成功したことで、デッキから《星杯》カードを1枚手札に加えることができます!もちろん僕がサーチするのは《星遺物ー「星杯」》!!そのまま《星杯の妖精リース》をリリース、《星遺物ー「星杯」》をアドバンス召喚します!!そして、墓地に行った《星杯の妖精リース》の第2の効果により、手札からカードを1枚墓地に送って、このカードを回収します!」


HALはどんどん展開をしていく。


「そして、アローヘッド確認!召喚条件は星杯モンスター2体!僕は《星遺物ー「星杯」》と《星杯戦士ニンギルス》をリンクマーカーにセットします!サーキットコンバイン!リンク召喚、リンク2!《星杯剣士アウラム》!!エクストラゾーンに特殊召喚です!!


これで勝利の方程式は整った、とHALは勝利宣言する。


「まずはアドバンス召喚した《星遺物ー「星杯」》が墓地に行ったことでモンスター効果を発動!デッキから《星杯》モンスターを2体フィールドに特殊召喚します!おいで、《星杯に誘われし者》!そして《星杯の守護竜》!!次に《星杯戦士ニンギルス》のモンスター効果により、《星杯の妖精リース》を守備表示で特殊召喚!!」


ここから怒濤の連続リンク召喚が続いていく。《星杯に誘われし者》により《星杯竜イムドゥーク》をリンク召喚、《星杯戦士ニンギルス》の効果で《星杯の守護竜》をリリースし、《星杯戦士ニンギルス》を蘇生。墓地の《星杯の守護竜》を除外し、墓地の《星杯に誘われし者》をフィールドに蘇生。さらに《星杯竜イムドゥーク》と《星杯の妖精リース》で2体目の《星杯剣士アウラム》をフィールドにリンク召喚。


「《星杯戦士ニンギルス》のモンスター効果を発動!お互いのカードを1枚墓地に送らなければなりません!僕は《星杯に誘われし者》を墓地に送ります!!」

「っ……!ボクのフィールドには《破壊竜ガンドラーギガ・レイズ》ただ1つだけ……!」

「これがなにを意味するのかわかりますよね!《星杯剣士アウラム》の攻撃力は星遺物の種類×300ポイントアップするので、2300!さあ、バトルです!《星杯剣士アウラム》2体と《星杯戦士ニンギルス》でダイレクトアタック!!」


HALの勝利を告げるブザーが鳴り響いた。


「っくううっ、これは効いたなあ!やっぱりボクの目に狂いはなかったね!なかなかやるじゃん、君!」


和波の声に、全然懲りてない!?という声が聞こえてくる。


「そーいえば君が誰だかボク知らないや、名前聞いてもいい?」

「今更っ!?ぼ、僕をこんなところに連れてきておいて、何言ってるんですか!?も、もしかして、名前も知らないのにデュエル挑んだんですか……?」

「んー、だってさ、その人のことしるにはデュエルするのが一番手っ取り早いじゃない?デュエリストにとってはデュエルが一番のコミュニケーションだよ!」

「………ぼ、僕もうついて行けないです……!」

「そんなことどーでもいいから名前教えてよー!あ、IDアドレスはばっちり把握したから交換はいらないからねー、勝手にフレンド登録させて貰うから!」

「ぼ、僕、アカウント情報は非公開設定なんですけど!?なにしれっとハッキングしてるんですか、君!」

「またデュエルしたくなったら連絡するからさ、名前名前。はやーく」

「……僕、リンクヴレインズに行かないからデフォルトのままなんですけど」

「なんだっていいよ、ボク、中の人にキョーミないからね」

「ハッキングでバレてるなら隠したって無駄ですよね……僕は 和波、 和波 誠也といいます」

「そっか、 和波ね、りょーかい。今この瞬間から、君はplaymakerと同じくらい大事なデュエリストに認定されたよ、よかったね!」

「よくないですよおっ!!」

「あっはっは、そんなにうれしいんだ、光栄だよ。またデュエルしようね、 和波君!」


ウインクひとつ、 和波はいつものようにかつて姉が使用していた、今は停止されているはずのSOLテクノロジー社のアカウントでログアウトする。


これは姉がリンクヴレインズをさまよっている限り絶対に停止することができないアカウントなのだ、この停止は姉の精神と体の繋がりの遮断を意味し、まさしく死を意味する。絶対に途切れることはない。今回の茶番劇のログの改竄はHALに任せるとして、 和波はゆっくりと目を覚ました。


すっかり日が落ちており、カーテンが掛けられている。姉はすでに寝ているようだ。リンクヴレインズのどのあたりで寝ているんだろうか、ちゃんとした家のベッドで寝られているといいのだが。


そんなことを思うものの、姉の記憶をたどってのログインは途方もない労力となる。1日1回が限界だ。ぼんやりとしていた 和波は毛布がかけられていることに気づく。


さて、と。


電子端末を起動すると、 和波のアバターを使っているHALからリアルタイムで行われているやり取りがチャットログの形式で更新されていく。


「やっぱり予想通りだね。藤木君はAIみたいな電脳空間に関係ある存在を感知できるんだ。ほんとに何者なんだろう、人間じゃないみたい」


HALの言うとおりにしてよかった、と 和波は思う。遊作センサー、プレメセンサー、なんてHALは面白がって呼んでいたけれど、アバターの中の人がAIなのか人間なのか判断できるという能力は 和波達にとって脅威以外の何物でもない。


遊作の前に現れるときは必ず 和波が ゴーストをすること、わざわざ 和波のアバターはAIにやらせている、と明かしたのはこのためだ。フルダイブではなくアバターをAIで遠隔操作したり、AIのような挙動をする精神体の状態でアバターを使用したりすると明かしている今、遊作にはきっとHALが 和波のアバターを使用している今と通常の状態と判断するすべはない。


和波のアバターの中にいるのがAIなのはわかっても、その向こう側にいるのが 和波なのか、HALなのか、AIなのかわかるはずがないのだ。極めつけに同時に存在してみせた。しばらくは正体がばれることはないだろう、こっちがへまをしなければの話だが。


「じゃあね、姉さん。僕、いってくるよ」


HALがログアウトしたのだ。SOLテクノロジー社の実験に参加していることになっている 和波は、そのまま草薙達の元に向かうことにする。さて、彼らには自作自演のデュエルはどう見えたのだろうか。HALのデュエルを褒められるわけだから、 和波としてはあんまりうれしくはないんだけども。



今日の営業場所はここだ、と添付されている住所をコピペして電子端末に貼り付け、案内してくれる音声をもとに和波はホットドックの看板を探す。アメリカンテイストな移動販売の車は、遠くからでもすぐわかる。


遠くからでもホットドッグ屋とわかるよう車の上にのぼりを立て、看板も商品をイメージしやすいよう写真を使ってあるのだ、トレードマークの犬のイラストが目印である。つきました、とメールを送り、先を急ぐ。


音声案内はお疲れ様でした、を最後に終わってしまう。今回はここからでもわかるからいいが方向音痴の気がある和波はここから迷うことがよくある。方角を示すアプリはやはり手放せない。HALはデュエルディスクのAIなのだ、電子端末と同期させてクラウド管理するわけにはいかない。


待ってるよ、というコメントがすぐ返ってきた。今は仕込みの時間帯だからだろうか、すぐに電子端末に触ることができるらしい。もしかしたらいつぞやのように強制終了を食らって臨時閉店しているのかもしれなかった。


ただいま準備中のステッカーが看板に貼り付けられている。一番人気のメニューは、期間限定から昇格したサラダドッグだ。特注したこだわりのオリジナルソーセージに、野菜をシーザーサラダのごとくトッピング。ヘルシー志向はデンシティでも広がっているのか老若男女にウケているらしい。初めてきたとき売り上げに貢献してくれと言われたから注文した和波は結構お気に入りだった。


アルバイトは日を改めて、である。まだ姉から許可を得ていないことになっているから。別れ際にもらった鍵をあけるとすでに遊作と草薙が待機していた。


「こんにちは、草薙さん、藤木君」

「おう、待ってたぜ、和波君。こっから距離あるだろうにお疲れ。遊作から聞いたよ、災難だったな?」

「まさかゴーストがお前にデュエルを挑むとは思わなかったな、和波。すぐこれたってことはバレなかったんだな、星杯デッキ」

「あ、はい、その点は大丈夫です。こっちに来てから一度もバレたことはありませんから。HALはほんと優秀なんです」

「さすがはサイバースのアーカイブってとこか。でもボロ出ないだけ和波君もすごいじゃないか」

「だな」


ありがとうございます、と和波は照れたように笑った。


「立ってるのもなんだし座ってくれ」


すっかり定位置になりつつある丸椅子を叩く草薙に促され、鞄を傍らに置いた和波は腰を落ち着ける。なんか飲むか?と言われ、和波はすでに準備してあるのと同じものをお願いした。


「で、だ。どうだった、和波君」

「スキルの発動を宣言してなかったけど、使ったんだろ?」

「あ、わかります?」

「ああ、無理やりあそこに連れてこられて、ゴーストにあれだけ立ち回れたんだ。初めてにしては上出来だった。やばそうなら介入しようかと思ったけど、そんな気が失せるくらいいいデュエルだった」

「ありがとうございます!はい、実はそうなんですよ。藤木君たちのお願い思い出したので、がんばっちゃいました。ゴーストには悪いことしちゃったかな、とは思います。でも、おかげでゴーストに僕まで目をつけられちゃったんですけど、どうしたら……!」

「あっはっは、仕方ないさ。ゴーストはデュエルバカだからね。必要経費ってやつさ。おかげでわかったこともある」

「わかったこと?」

「ああ、ゴーストは思ってた以上にplaymakerがお気に入りだってことだ。よかったな、遊作」

「うれしくない」

「えっと、それってどういう?」

「ゴーストが言ってただろ。playmakerと和波のデュエルを見たって。俺たちがデュエルしたのはリンクヴレインズから隔離されてデバック空間になってたエリアだ。しかも俺と草薙さんが数日かかって用意したところ。SOLテクノロジー社にもハノイの騎士にもばれてないはずなのに割れたんだ。どこかで見てたんだろう、俺たちのこと。あいつはいつもいつも勝手にハッキングしてくるからな。捨て垢のせいで追跡できた試しがない。今回は俺の責任でもある、ごめんな」

「そ、そんなことないですよ」

「いや、俺のせいなのは間違いない。和波がリンクヴレインズに来たのは、あの時が初めてのはずだろう。草薙さんと俺でデュエルログを改ざんしたが、ゴーストにはカモフラージュにもならなかったみたいだな。そうじゃなきゃ、お前の非公開アカウント、しかもSOLテクノロジー社にデュエルログが逐一送られるようなデータをハッキングするなんて不可能だ」

「問題はアイの目をい潜ってどうやってって話なんだよなー」

「いつものことだろ、痕跡ばかりが残ってなにも出てこないのは」

「ほんとに幽霊みたいなやつだ」

「人が数日かかって用意した罠をいとも簡単にパクりやがって」


遊作は不機嫌が顔に書いてある。そりゃそうだ。ゴーストは和波をリンクヴレインズにログインさせ、そのデフォルトで設定されているデュエルディスクのデッキの設定を《代行星杯》に設定して、デュエルするしかない状況に持ち込んだのだ。まさしく数日前の遊作と草薙が和波に対して張ったトラップと同じものである。


しかも、おそらく和波とplaymakerのデュエルログから和波のスキルの全容を把握していながらデュエルを挑んでいるのだ。ことさら質が悪い。サイコデュエリストとしての能力を制限するために設定されているスキルだとはさすがに思わないだろうが、なんらかのトリックを用いてこちらの手札やフィールドのカードを掌握する手段を持っているとしったうえでデュエルをしていたはず。


一挙一動が驚きの連続だったが、遊作からすればなんて白々しい!くらいのイライラは募っているようだ。演技かどうかは遊作の興味の範囲ではないらしい。ゴーストはデュエルをするためだけにこんなことを仕出かすようなやつだと遊作はわかっているらしかった。


「で、だ。和波君のマインドスキャンだとどうだった?知ってる人だったか?」

「そうですね……こっちまで楽しくなってくるほど楽しそうにデュエルする人だったから、悪い人ではないと思います。とりあえず、僕が見た限り、姉さんではないです。確かに姉さん《ライトロード》も《トワイライトロード》も《破壊竜ガンドラーギガ・レイズ》も好きですけど、僕が勝てる程度の決闘者じゃないんですよ。一度は世界で4番目に強い決闘者になった人なんですから。姉さんなら初見のテーマデッキ相手でも、あれだけ《星杯》のギミックを見た後です。弱点くらいわかりますよ、きっと。まして《星杯戦士ニンギルス》の効果は開示情報じゃないですか。わざわざフィールドに1体残して全除外なんてしないはずです。《妖精伝姫シラユキ》で妨害できなくなるし、2体の《破壊竜ガンドラーギガ・レイズ》でエクシーズ狙えたのにしなかった。もう違和感しかないです」

「でも、この街で《ガンドラーギガ・レイズ》や《ライトロード》をあそこまで扱える決闘者が何人もいるとは思えないな」

「うーん、そうですかね?たしかに姉さん、現役から退いて結構経ちますけど。たまにデュエルするんですけど、デュエルタクティクスと天性のセンスは健在ですよ。全盛期ほどではないとは思いますけど」

「ってことはAIの可能性もあるわけか?」

「ありそうですね、僕がいたところ、そういう研究もしてたから……!姉さんの全盛期を再現しようとしてるのかも?ゴーストってAIって噂もあるんですよね?」

「いや、違う。それだけはない。少なくても俺にいつもデュエルを挑んでくるゴーストと、今回和波にデュエルを挑んできたゴーストは同一人物だ。中の人間がいる。AIじゃない。それだけはたしかだ」

「え、そうなんですか?」

「ああ」


断言する遊作に、じゃあ誰なんだろう?と和波は首をかしげた。


「ほかに心当たりがあるやつはいないか?」

「うーん、少なくても僕の知ってる人の中に、ゴーストみたいなプレイングする人はいなかったですね。僕が逃げ出した後に入った、とかなるとお手上げなんですけど」

「そうかー。何事もすぐにうまくいくもんじゃないってことだな」

「そう、ですね。お役に立てなくてごめんなさい」

「とんでもないぜ、和波君。少なくても、ゴーストがSOLテクノロジー社の監視すら潜り抜けて和波君に接触できるようなやつだってことはわかったんだしな。ハノイやSOLテクノロジー社の関係者から絞り切れないのが残念だけど。ま、とりあえずフリーのデュエリスト、そんで和波君が昔いた組織って線は消えたな。情報がいくらなんでも早すぎる」

「そうだな」


遊作の言葉にはとげがある。どうやら相当ご立腹のようだ。和波は苦笑いしか浮かばない。


「そーだ、ゴーストの心の中覗いてみたんだろ?どんな感じだった?」

「あ、はい、なんというかすっごく楽しそうでした。遠足前の小学生みたいな?」

「あはは、想像できるな、遊作」

「ああ、何も聞いてないのにしゃべり始めるからな、奴は。頭の中までうるさいのか…………どうしようもないな」

「えーっと、全体的にテンションがすっごく高い人なんですね、ゴーストって。なんというか、すさまじい勢いで文字が並んでいくタイプでした。展開とかそういったものがものすごい勢いで書かれていって、たんたんたん、って感じで。ほとんど同時進行でした。あんまり考えない人みたいで」

「あー、和波君が一番苦手なタイプか。よく勝てたな、和波君」

「姉さんとデュエルするから、ですかね」

「経験が上回った感じか。よくデュエルするテーマなら動きもわかるよな。見慣れてるなら、姉さんと違って詰めが甘いところも見抜いちゃうってわけだ。なるほど」

「これでお前も俺と同じようにデュエルログを逐一監視される立場になったわけだ。がんばれよ、和波」

「な、なんでそんな目をするんですか、藤木君?!」

「いっただろ、あいつはストーカーどころの話じゃないんだよ」


案の定ボロクソに言われる別垢の自分に、和波は苦笑いしか浮かばないのだった。

(いいデュエルだったって。よかったね、HAL)

(俺様がデュエルしてやったんだ、超一流なのは当然だろ。playmakerもいい目をしてるぜ、なんせバニラの《星杯》をデザイナーズカードに書き換えたのはこの俺様だからなあ!しっかしよお、自分のプレミス解説するってどんな気持ち?どんな気持ち?ギャグ解説されたお笑い状態だぜ、おい)

(ううう、僕だってplaymakerにいいデュエルだったっていわれたいよ!なんでゴーストの時一度もいってくれないのさ!)

(自業自得じゃね?)

(普通にデュエルを挑んでも受けてくれないだろうって、辻斬りスタイル提案したのHALじゃないかあ!!)


「どうした、和波。HALがなにか言ってるのか?」

「あ、はい。サイバースの《星杯》作ったのはHALだから、超一流なのは当たり前だろって」

「おーおー、言うじゃないか、HALは。でも、ま、たしかにバニラテーマの《星杯》をサイバース軸のテーマに書き換えたんだし、事実っていえば事実だな。でも和波君の実力だぞ」

「ああ、ゴーストに初戦で土をつけたんだ。自信もっていいぞ、和波。リンクヴレインズに行ったらどうだ?」

「あはは……でも、僕、リンクヴレインズにはログインできませんし…………」

「ゴーストが許すかあ?」

「無理だな」

「えっ、そ、そんなに危ない人なんですか、ゴーストって!?」



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