第7話(修正済み)
「和波君、ちょっといいかい?」

「はい?」


呼ばれていることに気づいた和波は、もらったばかりのパックジュースをすべて飲んでしまう。近くのごみ箱に捨てた和波は、いつも付き添いをしてくれる男性が手招きする方に向かった。


使い捨てのスリッパと患者服は長期の入院患者に見えるが、和波が被験体となる場合、前提条件の関係でどうしても金属類や電子機器を身に着けられないため、いつも似たり寄ったりな格好だった。和波は、なんですか?と首をかしげた。


「財前さんが呼んでるよ」

「財前さん?」

「うん、うちのセキュリティ部門のトップなんだ。いこうか」

「あ、はい、着替えてきます」

「ううん、そのままでいいよ。すぐそこまで来られてるみたいだし」

「え、そうなんですか?わ、わかりました」


突然の呼び出しである。和波は不安そうな顔をした。大丈夫だよ、と中学生のころから和波のサイコ能力に付き合ってくれている彼は、安心させようと笑いかける。そして軽く肩をたたき、先を促す。


和波はSOLテクノロジー社の技術部門や医療分野に関する部門に出入りすることが多い。渡されたカードではほかの部門のゲートをくぐることすらできない。だから、そういわれても縁遠い部門の人にはピンとこない。ただお偉いさんだということしかわからない。彼の後をついていく。


「そんな偉い人がどうして僕に?」

「ほら、今朝話してくれたplaymakerのことだと思うよ。財前さん、playmakerを捕まえたいみたいだから」

「あ、そうなんですか」

「うん、うちの部長が和波君の話をあっちに投げたみたいだね」

「なるほど、だからですか」

「うん、和波君から直接話を聞きたいみたいだよ」

「そっか」

「緊張しなくてもいいよ、財前さん、優しい人って話だし。和波君くらいの妹さんがいるって話だし、和波さんと年近いんじゃないかな」

「姉さんと?それなのに、そんなに偉い人なんですね、すごいなあ」

「ほんとだよ。部門違うし、あんまり話したことはないんだけどね。あ、でも、playmakerのことはあんまり褒めないほうがいいかも?」

「あ、そっか。ありがとうございます」

「どういたしまして。それじゃ、話が終わったら、たぶん財前さんがうちに電話くれると思うからそこで待っててね。次はポットに入ってみる実験だから、そのまま案内するよ」

「はい、わかりました」

「さて、ついた。失礼します、和波君をお連れしました」


中に促す声がする。彼はドアを開け、一礼し、和波に入るよう促す。じゃ、またね、とウインクして手をふる彼に見送られ、和波はその部屋に入った。


失礼します、と一歩足を踏み入れると会議室というだけあり、西日が当たらないようブラインドが下ろされ、明かりがついた部屋の真ん中には移動式の長いテーブルが置いてある。そこにはすでにパイプ椅子が用意してある。


やあ、と笑うのは想像していたよりもずっと若い男性だ。さあどうぞ、と真ん前の椅子に促され、頭を下げた和波は椅子に座った。


「はじめまして、私はここのセキュリティ部門の責任者をしている財前というんだ、よろしく」

「は、はじめまして。××高校1年生の和波です、よろしくお願いします」

「急に呼んでしまってごめんね、和波君。君がplaymakerとデュエルをしたと聞いたから、いてもたってもいられなくてね」

「あ、はい、大丈夫です…………!」

「何度も嫌な体験を話すのは苦痛だと思う。でも、よければ付き合ってくれるかな。せっかく君がここにきていると聞いてね、実際に話を聞いてみたいと思ったんだ。君がplaymakerにあった時のこと、そして、デュエルした時のこと、あと、ログアウトしたあとどうなったのか、教えてもらってもいいかな?


あ、いい人だ、と和波は思った。年の離れた妹がいるからだろうか、こっちの心情を把握して、配慮してくれてるのがわかる。和波は素直に応じる。好印象だったからだ。


管理職の姉でさえ、めったにちゃんとした休みが取れない職場なのだ、この人の妹さんはこの人とちゃんと会えているのかちょっと気になった。


そして、話し始める。もうこの話をするのは5回目だ。初期化されてしまったプログラムを抱きしめているところをホットドック屋のお兄さんに助けてもらったとき。電話を貸してもらって、技術部門の直通ダイヤルにかけたとき。


迎えに来てもらって、もう一度プログラムをダウンロードしてもらって、ようやく常時発動するマインドスキャンから解放されたとき。


そして、一応異常がないかデュエルディスクを検査してもらうとともに、身体検査をうけたとき。


おかげで和波にしてはちゃんと要領よく話ことができた気がする。


HALはノーガード戦法だといったが、まさにその通りだった。ちょっと軽率だったかな、とも思う。ただ、それしか方法がないのも事実ではあるのだ。playmakerに興味を持ってもらうには、ハノイの騎士との関連性をにおわせるのが一番てっとりばやかったから。


「ありがとう、和波君。無理させてすまないね」

「え?」

「顔色が悪いみたいだ。無理はしないようにね。今日は実験を切り上げたほうがいいかもしれない、とあちらには伝えておくよ」

「え……あ、だ、大丈夫です!」

「大人の言うことは聞くものだよ、和波君。これで倒れられたら、私が和波さんに怒られてしまう」

「…………はい、ありがとうございます」


和波は苦笑いした。


「ところで、和波君」

「はい?」

「君はどうしてplaymakerは君に接触してきたんだと思う?」

「えっと、playmaker、いってたんです。ゴーストが5年前ハノイの騎士が起こしたなにかの事件?に関係あるんじゃないかって。同じ日に、童実野市のあの大会が行われてて、あの事件があって、僕、巻き込まれたせいでサイコデュエリストになったから。ハノイの騎士とデュエルしたから。なにか知らないかって。見てないかって。playmaker、ゴーストとよくデュエルするみたいでした。姉さんと同じ型番の《ガンドラ》シリーズを使ってきたから、姉さんがゴーストじゃないかって疑ってるみたいで」

「なるほど、そうなのか。でもたしか、あのカードはデータが盗まれたんじゃなかったかい?」

「はい、警察にも連絡したんですけど、いまだに進展なくて」

「それはショックだっただろうね。playmakerもひどい誤解をする。よりによって和波さんがゴーストなどと」

「姉さんがゴーストだったら、すぐ帰ってきてって言いたいですよ、今すぐ」

「つらいことを聞いてすまないね。私は何も聞かなかったことにするから、泣いていいんだよ」

「………………だいじょうぶです」

「そうかい?思いつめることだけはしちゃいけないよ」

「はい」

「そういえば、playmakerはあの組織の関係者がゴーストじゃないかとも言ってたそうだな。その様子だとまた君の近くに現れるかもしれないね。私はリンクヴレインズの平和のために、一刻も早くplaymakerを捕まえたいと考えているんだ。もしあちらから接触してきたら、ここに連絡をしてほしい。どうだろう、和波君?」

「あ、はい、わかりました」

「そういってもらえて安心したよ。君が協力してくれるなら、こちらとしても頼もしい限りだ」


受け取った名刺をしまう。


「あの、僕、ほんとに今日早く帰ってもいいんですか?」

「ああ、いいよ。私があちらに話を通しておこう。まだ和波さんのところに行けてないんだろう?こんなにいい天気なんだ、ずっと病室にこもってちゃ、気分が滅入っていけないしね」

「…………!」

「うちの部署からあの病棟はちょうど中庭を挟んだ向かい側にあってね、いい天気の日は日向ぼっこしてる和波さんと君がよく見えるんだ。今日は見ないなと思っていたから、見つけられてよかったよ」

「あ、ありがとうございます!」

「和波君が協力的なのはうれしいんだが、和波さんのことが気になるなら、今日はいけないとはっきりと言ってくれて構わないからね。部長も心配しているようだったよ、だから気を使わないでほしいな。ほら、早くいってあげるといい。和波さんが待ってるんじゃないかい?」

「はい!ありがとうございます、財前さん!」

「片付けは私がしておくから、君は先に行きなさい」

「わ、わかりました。失礼します!」


嬉しそうに去っていった和波を見届けて、財前は息を吐く。体を置いてきぼりにした状態で、彼の姉は今このSOLテクノロジー社のネットワークのどこをさまよい歩いているのだろうか。


マインドスキャンをつかえる和波ですら、姉が今漂流しているネットのイメージしか読み取ることができないというのだ。サルベージはまだまだ時間がかかりそうである










SOLテクノロジー社の本社にほど近い病院を訪れた和波は、いくつかある入口のうち、目的地に一番近いゲートをくぐる。警備員の男性に誰に会いに来たのか告げると、事務的な手続きののち、先を許可された。広い敷地内で迷子にならないよう、様々な色のテープが床に貼られている。緑色のテープを辿っていくと、その突きあたりにエレベータが現れた。


いつものように入院病棟がある最上階のボタンを押して、こちらに降りてくるのを待つ。しばらくするとライトが点灯した。さいわい空っぽだったので、すぐに閉じるボタンをおして、隅のほうによる。


見舞いの帰りなのか、通院の帰りなのか、様々な人々が乗ってきては降りていく。ようやくお目当ての階層にたどり着いた和波は、ナースセンターに向かった。


「こんにちは」


本来電子機器の携帯は歓迎されないのだが、和波はその特殊な体質をここの医療施設を借りて検査することもあり、SOLテクノロジー社の関係者が入院していることもあり、事実上黙認されていた。


そのかわり隔離病棟ではある。外部との接触は一切できないところである。和波が挨拶すると、ミーティングを終えたばかりなのか、バインダーに挟んだ書類を見ていた看護士が笑いかけてくる。ここに通うようになって、もう数年だ。もうすっかり顔なじみである。


「こんにちは、誠也君。お姉さんのお見舞いね?」

「はい、あの、姉さんの様子はどうですか?」

「大丈夫、今日は一日落ち着いていたわ。時々笑ってたから、幸せな夢でも見てるんじゃないかしら」

「そうですか」


寂しそうに笑う和波に、看護師の女性は何も言えないようであいまいに笑う。


「そうそう、和波さんのお着替え、テーブルの上に置いておいたからね」

「わかりました、いつもありがとうございます」


和波は彼女と別れ、その先を急ぐ。一番日当たりのいい西日のあたる部屋。この廊下の突きあたりだ。姉の名前がひとつだけ書いてあるネームプレートを確認し、和波はゆっくりと扉を開ける。


「お姉ちゃん、きたよ」


和波が中に入ると、そこには二十代後半の女性がいた。わりと大きな声を出したつもりだが、やはり反応はない。こちらを向く気配すらない。その視線は虚空に投げられ、ここではない何かを見つめている。


瞬きすらしないのはそこに意識がないからだ。生理現象としての瞬きはあっても、そこには感情が抜け落ちた無表情だけが浮かんでいる。


どうやら今の姉は自由に動き回れるような状況ではないらしい。虚脱感に襲われて何もやる気がおきないのか、疲れ切ってしまい体が全然動かないのか、拘束されていて身動きできないままあきらめの境地に至ってしまったのか、それはマインドスキャンをすればわかるだろう。


見るからに苦しんでいないだけまだましだった。もし笑顔を浮かべて、話しかけるようなことがあったとしても、それはきっとリンクヴレインズのどこかで、実際に彼女と会話している誰かに向かって投げられたものだ。和波に向けられることは絶対にない。


彼女は普通に生活をしているつもりなのだ。だからご飯は食べるし、シャワーは浴びるし、眠りにもつく。だが自分が現実世界ではなくリンクヴレインズにいることを自覚できていないせいで、なにもかもが夢遊病のそれだった。


おかげで長期入院にしては健康的な体ではあったが、自分が誰なのか、という意識は欠落しているようで、今のところどうしてここにいるのか不安を誰かに打ち明けている気配はあっても、名前が思い出せないと口走ったりしているという。


看護師の言うとおり、今日は落ち着いているほうだった。


和波の姉がこんな状態になったのは、数年前のことである。マインドスキャンの能力を制御することができず常時発動状態となった和波は、数年間の誘拐された空白の穴埋めも必要で学校ではなく病院で長い間過ごしてきた。毎日欠かさず動画を送ってくれていた姉は、ある時、言ってくれたのだ。こっちに来ないかと。


そして、教えてくれたのだ、SOLテクノロジー社が開発したデュエルディスクを使えば、その能力を制御することができるかもしれないと。


プロの決闘者になる道をあきらめ、研究者の道を選んだ姉が和波のためにこの分野を選んだことは誰の目にも明らかだった。初めて触れたデュエルディスクと、そこに組まれた専用のプログラム。作動させたときの感動を和波は忘れることができない。


人が発する声しか聞こえない、というあたりまえがどんなに幸福なことなのか、和波は知った。うれしくて泣いたのは、家族に再会できたとき以来だった。
そして、姉と共に暮らし始めた和波は、SOLテクノロジー社の開発部門に行くことがとても楽しみだった。あの事件が起こるまでは。


サイバース世界が突然観測できなくなってから、ネットワークの効率は30パーセントも低下した。


その補填をするために毎日毎日激務に追われていた姉に会いにきた和波を待っていたのは、研究用のパソコンと接続したポットが突然ショートし、火災警報器が鳴り響き、スプリンクラーが誤作動するような大惨事だった。


ハッキングされて、悪質なプログラムを仕込まれた、という人がいた。酷使しすぎた電子機器が耐久年数を超えていたせいで招いた人災だという人もいた。ケガ人は重症軽症含めて数十人、そのうちの一人、とりわけ症状がひどいのが姉だった。


当時、精神だけリンクヴレインズにダイブする形式だったシステムで、その低下してしまった効率を取り戻すため、新しいシステムの構築中だった姉たちはその実験の途中だった。管理職ではあったけれど、合同チームで行われていた関係で、姉も研究者としてのほうが活動が多かった。


ポットに入り、リンクヴレインズにダイブし、新しいシステムの試行実験の最中にあの事件が起きた。精神と肉体をつなぐはずのシステムがダウンし、その接続が切れてしまったのだ。


それ以来、姉は現実世界にその身体を置き去りにして、精神だけがリンクヴレインズをさまよい歩いている状態である。


幾度もサルベージしようとするのだがうまくいかず、記憶の断片だけがリンクヴレインズで見つかるばかり。これでもましになったほうなのだ。かつては本当に植物状態だったから。


データとなっているはずの姉の情報を完全に蘇生することができれば元に戻る、そう医師は診断している。人間の精神を電子情報に置き換えてダイブさせるという技術の最前線を研究していた彼女が、異常事態に陥った時何もできないわけがないのだ。実際に緊急システムが作動したはずだから。


パーソナル情報を隔離して、緊急事態になったら使用できる場所に転移するというシステムが作動した痕跡はあったから。問題は、その途中で不具合が起きてしまったため、本来転送されるべき場所にデータがなく、サルベージが非常に困難になっているという点だ。


その転移先の空間が何者かにハッキングされたと思われる損傷を受けていたと聞かされた時、和波は血の気がひいた。かつていた組織の仕業かとおもったし、ハノイの騎士による報復かとも思った。結局、今でも姉のパーソナルデータを持ち去った犯人の行方は不明なままだ。


「お姉ちゃん、いま、どこにいるか教えてよ」


和波はその手を取る。そして、デュエルディスクのスキルをオフにする。意識を集中するため、目を閉じた。姉の虚空に投げられたまなざしは陽だまりを見つめている。手を触られたのに反応すらしない。


「ねえ、HAL、起きてる?」

『やあっと呼び出しかよ、つめてーなあ。先に約束してたのは俺様なんですけどねー?なーに本体様やplaymakerとの約束優先しちゃってんのー?お前の相方は俺様であって、あいつらじゃなくね?』

「ごめん、ごめん。昨日あんなことがあったから、なかなか《星杯》デッキにできなくて」

『しってまーすっと。んで、俺様をご用命ってことはいつものあれ、やるのか?』

「うん、お願い」

『はいよっと、待ってろよ。お前の姉さんが今どこにいるか調べてやっからな』

「うん」


しばらくして、和波はその手を握ったまま、突っ伏すようにしてベッドに体を預ける。半時間もすれば、ぼんやりとしたままの姉の傍らで眠る和波を見て、看護師が毛布を掛けてくれるだろう。


『どーだ?』


(うん、ここで間違いないと思う。姉さんがさっきまで見てた風景だ。どこ行ったんだろ、姉さん)


普通なら、マインドスキャンを試みて、姉の思考回路を読み取り、そこから見える風景めがけてダイブすれば精神体となった姉と会うことができるはずなのだ。でも、いない。いつのまにかいなくなっている。


残っているのはそのパーソナル情報を守っている強固なプログラムの残骸だけ。数年たっていて、一度もアップデートされないセキュリティなどあってないようなものだ。どんどんぼろが出始めている。だから記憶のかけらがみつかる。


いつものように記憶のかけらともいえるデータを拾い上げた和波は、専用のプログラムに変換してデュエルディスクにしまう。HALがすぐに自分のデータに取り込み、外部に流出しないよう計らってくれる。


こうして少しずつ人間らしさは戻ってくるものの、核となる自我が崩壊する前に姉と会わなければならないのに、いつも姉の姿はないのだ。避けられているんだろうか、と不安になる。


もとはといえば、ゴーストの噂は姉が精神体となった時期とほぼ同じころにでた都市伝説だった。ホログラムのようにあわく、いつの間にか消えている白衣の女性。


追い求めているうちに、いつのまにか和波のほうがゴーストと呼ばれるようになってしまった。playmakerを知ってから、デュエルをするようになった。
和波はじっとあたりを見渡す。HALも周囲を観測する。



和波はビルの真上をみた。



声は届かなかった。ねえさん、という声はHALが不適切用語に登録しているため、発声すること自体できない。彼女の姿は蜃気楼のように消えてしまう。リンクヴレインズにサイバースの風が戻ってから、姉の姿を目視できる回数が増えた気がする。


やはりデータ処理の関係もあるのだろうか。関連性はよくわからないけれど。和波はあわててそのビルを駆け上がる。その先には誰もいなかった。残されたのは記憶のかけらたちだけ。それを大事に拾い上げ、データを保存する。はあ、とため息をついた時だった。


『はーい残念、時間切れだ、誠也。今日は招かざる客がすぐご登場するみたいだぜ、どうするよ、誠也』

(え、だれ?)

『お前のだーいすきなplaymakerサマだ。いつもはこっちから逃げるのに使ってるシステムで探知しようとしてやがるぜ。どうする?』

(こないだ言ってたやつだね。うん、僕が相手になるよ。交代してくれる?HAL)

『おうよ、っていいたいとこなんだがな、ちょーっと待て』

(え?)

『俺様とデュエルする約束すーっかり忘れちゃいませんかねえ、このクソガキは!ただでさえ、おめーの姉さんのIDでログインしてはアトランダムにアバターばらまいて、ダミー泳がせて辻斬りみてーなことしてあげてんのにー?そのうちの1つに紛れちまえばわかんねえだろって提案してやったのに?こんなに献身的な俺様のささやかなお願い普通に踏みにじりやがって。なんなの、お前悪魔なの?』

(あっ……ご、ごめん)

『あっていったぞ、こいつ!?俺様は精霊以前にAIなんだぜ、しかもバックアップっつー大事な!てめーは忘れても俺様は忘れねえからな、今ここで約束したときの音声再生してやろうか?』

(お、怒らないでよ、HAL!ずっとほっといてごめん、寂しかったよね)

『だっから違うっつーの、なんでそういう流れになるんだよ!?やめてくれませんかねえ!だーもう、今からデュエルだ!』

(えっ!?)

『てめーのアバター借りるぜ、誠也!ほら、ほら、さっさと俺様のアバターにログインしろ!ほら、出てった、出てった!』


デフォルトで設定されている、パーソナル情報を反映した現実世界と寸分たがわぬ姿をした和波のアバターの後ろから、すらりとした手が伸びてくる。柔らかなふくらみが当たる。


ちょ、と声を上げようとした和波だったが、あててんだよ、という意地の悪い笑みが後ろから聞こえてくる。浮遊する長い髪がさらりと流れていった。


(ま、また女の子のアバター!?なに、HAL気に入ったの!?最近多くない!?)

『お前やplaymakerの反応がおもしれえからな、あっはっは』

(HALすっごい怒ってない?!)

『怒ってませんー、その程度ですねたり怒ったりなんかしねーっての、ばーか』


和波より大人びた色白な手が、和波の手と重なる。光の粒子が全身に伝っていき、輪郭がぼやけていく。


和波の精神を覆っていたアバターがそちらに転送され、代わりに女性がこちらの一部となる。手、足、服装、頭部、と一つずつ光の輪郭がぱっと散っていき、ふたたびアバターがふたつ並んだ。向かい合わせとなる。


最後の仕上げにとHALは和波の頭に手を当てる。リボンが風になびいて揺れた。


(ま、またこんなひらひらなの……!こないだの白衣のほうがましだったよ!)

『白衣にホットパンツとかコアな趣味してんなあ』

(そういういみじゃなああいっ!!)


はあ、と和波はためいきをつく。


『それじゃ、俺様はお前にデュエルを挑まれたっつーことで、全力でいかせてもらうかんな!』


和波の顔をしたHALが笑った。


「行きます、僕のターン!僕は魔法カード《予想GUY》の効果を発動、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚することができます。僕が呼ぶのはレベル4《星杯に誘われし者》!攻撃表示で特殊召喚!」


槍を携えた青年がフィールドに降り立つ。


「さあ、きて!未来に導くサーキット!アローヘッド確認、召喚条件は《星杯》モンスター1体!僕は《星杯に誘われし者》1体をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!リンク1《星杯竜イムドゥーク》!!」


エクストラゾーンに、パステルカラーの優しい表情をしたドラゴンが降り立つ。


「さらに《レスキューラビット》を攻撃表示で召喚、モンスター効果を発動しますね!このカードを除外することで、僕はデッキからレベル4以下の同名の通常モンスターを2体フィールドに特殊召喚することができます!《星杯に誘われし者》2体を守備表示で特殊召喚!」


今度はその槍で防御を固めた青年が二人、フィールドに現れる。


「ここで、魔法カード《強欲で貪欲な壺》の効果を発動!デッキトップからカードを裏側表示で10枚除外して、デッキからカードを2枚ドローします!」


《星杯》デッキはフィールドから離れたとき、手札から《星杯》モンスターを特殊召喚する共通効果がある。手札消費をカバーするにはどうしても、こういったカードが必要になるのだ。


「《星杯竜イムドゥーク》のモンスター効果を発動。このカードがモンスターゾーンに存在する限り、僕は通常召喚に加えて1度だけ、《星杯》モンスターを召喚することができます。僕は守備表示の《星杯に誘われし者》をリリース、手札から《星遺物ー「星杯」》を攻撃表示で召喚!そして、ふたたびアローヘッド確認!召喚条件は《星杯》モンスター2体!僕は《星杯竜イムドゥーク》と《星遺物ー「星杯」》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!来て、リンク2!《星杯剣士アウラム》!!」


青くきらめく鎧と剣、そして楯。結界の民の象徴である長いマフラーが揺らめいた。《星杯》の力を身にまとった少年がエクストラゾーンに降臨する。


「僕は墓地に送られた《星杯竜イムドゥーク》のモンスター効果により、手札から《星杯に選ばれし者》を攻撃表示で召喚しますね!さらに通常召喚した《星遺物ー「星杯」》が墓地に送られたことで、モンスター効果を発動します!デッキから同名以外の2体の《星杯》モンスターをフィールドに特殊召喚します!来て、《星杯の妖精リース》、《星杯の守護竜》!守備表示で特殊召喚!《星杯の妖精リース》は召喚・特殊召喚に成功したとき、デッキから《星杯》モンスターを1体手札に加えることができます。僕が呼ぶのは《星杯に選ばれし者》!!」


あっという間にHALのモンスターゾーンは4体のモンスターで埋め尽くされる。


「僕はアローヘッド確認、召喚条件は《星杯》モンスター1体!僕は《星杯の守護竜》1体をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!もう1度来て、リンク1《星杯竜イムドゥーク》!!さらにアローヘッド確認!召喚条件は種族、属性の異なるモンスター2体!僕は《星杯竜イムドゥーク》と《星杯の妖精リース》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!来て、リンク2!《星杯神楽イヴ》!!《星杯剣士アウラム》のリンク先に特殊召喚!」


杖を携えた少女がフィールドに現れる。《星杯》の力により、周囲を青い光を帯びた電子体が浮遊している。長く伸びた青い髪をなびかせ、彼女は前を見据えた。


「墓地にある《星杯の守護竜》を除外して、墓地にある通常モンスターをフィールドに存在するリンクモンスターのリンク先に守備表示で特殊召喚します!おいで、《星杯に選ばれし者》!そして、アローヘッド確認、召喚条件は《星杯》モンスター1体!僕は《星杯に選ばれし者》1体をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!みたび僕を助けて、リンク1《星杯竜イムドゥーク》!そして、アローヘッド確認、召喚条件はリンクモンスター2体以上!僕は《星杯剣士アウラム》と《星杯竜イムドゥーク》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!きて、リンク3!《星杯戦士ニンギルス》!!」


《星杯神楽イヴ》と《星杯に誘われし者》の間に《星杯剣士ニンギルス》が特殊召喚された。星杯の力により全身を青く輝く武具で固め、その鋭い矛先を突き上げる。モンスター効果が発動した。


「《星杯戦士ニンギルス》はリンク先のカードの枚数分ドローすることができます!だから、カードを2枚ドロー!!」


HALは展開を加速させていく。


「まだまだいきますよ!墓地に送られた《星杯竜イムドゥーク》の効果で、手札から《星杯を戴く巫女》を攻撃表示で召喚します!レベル4《星杯に誘われし者》2体でオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!ランク4《ダイガスタ・エメラル》!!1ターンに1度、このカードからエクシーズユニットを1枚取り除き、以下の効果から1つを選択して発動することができます。墓地の3体のモンスターをデッキに戻す効果、あるいは墓地の通常モンスターを1体特殊召喚する効果。僕は1つ目の効果を選択!3枚のリンクモンスターをエクストラゾーンに戻し、カードを1枚ドロー!!」


いいカードが引けたのか、HALはうれしそうだ。


「魔法カード《星遺物の加護》の効果を発動します!1ターンに1度、僕は墓地のカード名が異なる《星杯》モンスター2体を手札に加えます!僕が加えるのは《星杯に誘われる者》と《星杯の妖精リース》!!そして、アローヘッド確認!召喚条件はモンスター3体以上!《星杯に選ばれし者》と《星杯を戴く巫女》、《ダイガスタ・エメラル》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!きて、リンク3!《電影の騎士ガイアセイバー》!!」


「カードを1枚伏せて、僕のターンは終わりです!」


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