「それではMr.比嘉、これからわたくしの口上を輪唱していただけませんか?」
「榊先輩の口上をですか?はい、わかりました」
「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが」
「た、たたかいのでんどーにつどいしデュエリストたちが」
「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールドを駆け巡る!」
「モンスターとともにちをけり、ちゅうをまい、フィールドをかけめぐる」
「みよ!これぞデュエルの最強進化形!」
「みよ、これぞデュエルのさいきょーしんかけい」
「アクショーン」
「あくしょーん」
「デュエル」
「でゅえる……?」
「これが遊勝塾におけるエンタメデュエルの根幹をなすセオリーなのですよ、Mr.比嘉。アクションデュエルを行なうときの前口上となりますので、ぜひ覚えて帰って下さいね。恥ずかしがらずにいえるようになるのがアクションデュエルの第一歩です、がんばりましょう」
「うぐっ……わ、わかりました」
からかい調子で笑った遊矢に、比嘉は少しむくれる。おっとご機嫌斜めになってしまわれては困りますから、そろそろ始めましょうか、と遊矢は5枚のカードをドローし、比嘉にむけてならべた。
「わたくしの手札はこうなっています」
≪召喚僧サモン・プリースト≫
≪貪欲な壺≫
≪スクラップ・エリア≫
≪スクラップ・ゴブリン≫
≪スクラップ・オルトロス≫
「まずは、自分フィールド上に、シンクロ召喚したいシンクロモンスターの素材となるモンスターを揃える準備を行います。具体的には、チェーンモンスター1体と、それ以外のモンスターですね。何体以上必要かはテキストで確認してください。素材となるモンスターは攻撃表示でも、守備表示でも構いませんが、表側表示でなければなりません」
「これはエクシーズ召喚と同じですね」
「そうですね。エクシーズはレベルをそろえるだけでよかったのですが……。シンクロ召喚は指定されたチューナーとそれ以外のモンスターの数に条件があります。しかもシンクロ素材のモンスターのレベルの合計が、召喚したいシンクロモンスターのレベルにならなければいけません。そしてレベルという条件を満たす必要があります。メインデッキには、あらかじめ召喚したいシンクロモンスターが指定するチューナーとモンスターを必要な数だけ入れておきましょうね」
「うん……?えーっと、どういうことでしょうか?」
「そうですね、まずは見ていただきましょうか」
「お願いします」
「わたくしは召喚僧サモンプリーストを攻撃表示で召喚します。このモンスターは召喚された時、守備表示となります。そして、わたくしは手札の魔法カードを1枚墓地に捨て、サモンプリーストの効果を発動。デッキからレベル4以下のモンスターを特殊召喚します。わたくしがデッキから呼び出すのはスクラップ・ビースト、攻撃表示で召喚します。この効果で特殊されたモンスターはこのターン攻撃することはできませんが、シンクロ召喚してしまえば、そのデメリットは打ち消せますね」
「スクラップ・ビーストはチューナーだから、シンクロ召喚できますね!」
「ええ、それでは参りましょう。今回の場合は、サモンプリーストのレベル4とスクラップビーストのレベル4を足すと8になりますね。これがわたくしが召喚できるシンクロモンスターのレベルとなります」
遊矢は、トランプのソリティア遊びをするときのように少しずつずらして並べてあるエクストラデッキから、1枚のカードを手にした。比嘉は忘れないうちにメモしている。
チューナー + それ以外のモンスター = シンクロモンスター
スクラップ・ビースト サモンプリースト ???
(レベル4) (レベル4) (レベル8)
そっか、足し算なんだ、とつぶやいた比嘉にうなずいた遊矢は、笑う。こんどはどんな口上が飛び出すんだろう、という期待の眼差しに遊矢の口元が弧を描く。
「わたくしはレベル4のスクラップ・ビーストに、レベル4のサモンプリーストをチューニング!つどえ、打ち捨てられし鉄屑!今こそ破壊の衝動を再構築し、この世界を白くゆるがせ!シンクロ召喚!具現化せよ、スクラップ・ドラゴン!」
遊矢がモンスターゾーンに特殊召喚したのは、スクラップデッキのエースモンスターである。
スクラップ・ドラゴン(地)
☆☆☆☆☆☆☆☆
【ドラゴン・シンクロ/効果】
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
1ターンに1度、自分フィールドおよび相手フィールド上に存在するカードを1枚ずつ選択して発動することができる。選択したカードを破壊する。このカードが相手によって破壊され墓地に送られた時、シンクロモンスター以外の自分の墓地に存在する「スクラップ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。
ぱちぱち、と拍手する比嘉に一礼した遊矢は、気分は上々のようだ。ルールを勉強すればするほど、相手に説明できるほど身についている遊矢がすごいと思うのだろう。すげーっていう反応が顔に出ているのでやりがいがあるというやつだ。しかも次はペンデュラム召喚である。遊矢のテンションも上がることはあれど下がることはない。
「このようにですね、必要なモンスターが揃ったら、自分のメインフェイズに「シンクロ召喚」を行うと宣言してください。そして、素材として使用したモンスターはすべて墓地に送ります。最後にエクストラデッキからシンクロモンスターをモンスターゾーンに特殊召喚します。これでシンクロ召喚は完了ですね。エクシーズと同じくも手側表示なら攻撃表示でも守備表示でもかまいませんよ」
「はい、わかりました。ありがとうございます!」
「チェーンを発動するタイミングは、エクシーズと同じで3回ありますね。まずは特殊召喚するシンクロモンスターを相手に見せる時です。王宮の弾圧やライオウといった特殊召喚を無効にするカードの発動タイミング。つぎはフィールドに出した時。これはフィールド全体に及ぶ効果の対象になります。チェーンの処理が終わったあと、奈落の落とし穴や激流葬といったスペルスピード1のカードを発動する時のタイミングが訪れますね」
「ってことは、エクシーズ召喚と同じでチェーンを積めない特殊召喚だったりします?」
「ええ、もちろん。エクシーズもシンクロも、融合や儀式と比べたら素材となるモンスターの縛りはとてもゆるいですからね。もしチェーンを積める特殊召喚だったら、大変なことになりますよ。相手ターンでも出来てしまいますからね。まあ、テーマによってはそのような動きをするものもありますが、必ず大きなデメリットを備えています」
「あはは、そうですよね」
「違いを上げるとすれば、エクシーズ召喚の場合は、エクシーズ素材は効果のコストという役目がありましたね。シンクロ召喚の場合は、シンクロ素材となったモンスターは墓地に送られます。シンクロモンスターのみがモンスターゾーンに置かれますから、どちらかというと用意するシンクロ素材が大変なほど、強力な効果を持つシンクロモンスターであることが多いですね」
「そっか、なるほど。そういえば、シンクロ召喚はレベルの足し算なんですよね?ってことはエクシーズモンスターはダメってことですか?」
「ええ、エクシーズモンスターはランクですからね。それ以外なら、シンクロ召喚の素材にできないと書いてなければ、バニラでも、効果でも、融合でも、儀式でも、シンクロでも大丈夫ですよ。ちなみにシンクロ素材にするモンスターはすべて表側表示じゃないとダメですから注意しましょう」
「わかりました。チューナーっていくついるんですか?」
「基本的には1体ですね。チューナーがいない場合はもちろん、基本的にチューナーだけの組み合わせでもシンクロ召喚は出来ないので気を付けてください」
「わかりました。そっか、エクシーズ召喚はエクストラデッキと呼びたいエクシーズモンスターに合わせたレベルのモンスターさえあれば、どんなデッキでも入りますよね。でもシンクロ召喚はチューナーをいれて、呼びたいシンクロモンスターに合わせて他のモンスターのレベルも調整しないといけないからちょっと難しいんですね」
「そうですね。でも、その難易度に見合った効果とステータスを持っているのがシンクロモンスターです。エクシーズモンスターに比べてステータスが高く、効果に制限がありません。1度でもシンクロ召喚できれば、墓地や除外ゾーンから特殊召喚すればふたたび効果がつかえます。エクシーズモンスターはエクシーズ素材がないとバニラモンスターになってしまいますからね。でも、それは相手にとっても同じことが言えます。奪われてしまうときついのはこちらですから、お互い一長一短ですね。それにシンクロ召喚もエクシーズ召喚もメインデッキを圧迫せずに強力なモンスターを呼ぶことができますから、どちらも一気に普及しました。開いた枠に魔法や罠が入れられるようになりましたからね」
「なるほどー」
「注意点としては、エクシーズ召喚と同じく蘇生制限があるということですね」
「シンクロ召喚って難しそうなのに、失敗しちゃったら大変そうですね。バウンスされたらエクストラデッキに戻っちゃうんでしたっけ?」
「ええ、それはエクシーズモンスターも同じですね。もちろん破壊されたら墓地に行きますよ。でも、ひとくちにチューナーといってもいろんな効果を持つモンスターがいますから、うまく組み合わせれば何度もできます。そしてなによりも、その性能からデッキのエースや切り札として使われる時が多いです。ここぞというときに使いたいですね」
「わかりました!」
「それでは説明はこのくらいにして、実際にシンクロ召喚を体験できるデッキを回してみましょうか。今回はエクシーズモンスターもシンクロモンスターもデッキに入っていますので、状況に合わせて使い分けてみてください。今のエクストラデッキだと、たった15枚の中にシンクロとエクシーズをいれないといけないので、デュエリストはみんな頭を悩ませています。ぜひMr.比嘉もお財布と相談しながらエクストラデッキを集めてみてくださいね。どんなデッキでも使えるエクシーズ、シンクロのモンスターは高いですから、財布と相談するのが一番です」
ペンデュラム召喚と出会うまで、そもそもエクストラデッキを持っていなかったこの世界の遊矢たちが一番苦労したのは、汎用性のあるシンクロ、エクシーズの確保だったのは別の話である。遊矢はデッキを比嘉に渡した。
「このデッキだとシンクロもエクシーズもできるんですか?いくつも特殊召喚組み込むって凄いですね。僕もいつかひとりで考えてみたいなあ」
よし、がんばるぞ、と比嘉は気合を入れた。