「それではわたくしは先行をいただきますね。Mr.比嘉は後攻となります。それでは改めて、お願いいたします、Mr.比嘉。どうかわたくしめとデュエルを!」
「はい、よろしくお願います、榊先輩」
お互いに5枚のカードをひく。
「先行はわたくしですね。1ターン目なのでドローはできませんので、メインフェイズに入ります。さあ、みなさま、拍手でお出迎え下さい。まず最初の出し物は、伝説の決闘者も扱ったこともある由緒ある古参テーマ。かつては除外メタビートで環境を一色に染め上げ、新しい特殊召喚が出るたびに環境に顔を出してきたまさに温故知新。わたくしはレッド・ガジェットを攻撃表示で召喚します。チェーンしますか?」
「いえ、しません」
「それではわたくしはレッド・ガジェットの効果を発動いたします。チェーンしますか?」
「いえ、続けてください」
「はい。わたくしはレッド・ガジェットの効果でデッキからイエロー・ガジェットを手札に加えます。そして、手札から世にも不思議なマジックをお目にかけましょう。通常召喚は1ターンに1度と決められていますが、このカードを使えばあら不思議!わたくしは通常魔法の二重召喚(デュアル・サモン)を発動します。このターン、わたくしは通常召喚を2回まで行うことができるのです!さあ、わたくしの展開を止める手段はありますか?Mr.比嘉?」
「うぐぐ、なにもないです。榊先輩のお手並み拝見です!」
「かしこまりました。それでは、その御期待に見事答えて見せましょう。もしも成功したら拍手喝采でお願いいたしますね。わたくしは手札からイエロー・ガジェットをふたたび通常召喚します。いかがですか?」
「どうぞ。榊先輩の手札がどんどんふえていく……」
「そして、イエロー・ガジェットの効果でデッキからグリーン・ガジェットを手札に加えますが?」
「わかりました、続けてください。これで、レベル4のモンスターが2体ですね」
「ええ、それではさっそく始めましょう。わたくしはレベル4のグリーン・ガジェットとレッド・ガジェットの2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!廻れ、廻れ、歯車の巨人よ!黒き希望は機械の原点に収束せん!エクシーズ召喚!始動せよ、ギガギガントX(クロス)!わたくしはエクストラデッキからギガギガントX(クロス)をエクシーズ召喚します。さあ、Mr.比嘉、この進撃を止められるでしょうか?」
「まだまだ勝負はこれからです、先輩」
「あはは、心強いお言葉をありがとうございます。その威勢もどこまで続くやら。それではわたくしはエクシーズ・ユニットをひとつとりのぞき、ギガギガントX(クロス)の効果を発動します。ギガギガントX(クロス)の効果により、わたくしは、デッキか墓地からレベル4以下の機械族モンスターを1体手札に加えることができます。さあさあ、どうなさいます?」
「チェーンしませんので、続けてください。僕は先輩のモンスターを超えて見せます!」
「ははっ、その意気やよし。それではそれにふさわしい逆境を整えさせていただきましょう。わたくしは永続魔法、機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)を発動いたします。これでこのモンスターが破壊されても、わたくしはギガギガントXより攻撃力のひくい機械族モンスターを特殊召喚できます。そしてわたくしはデッキからカードを一枚サーチさせていただきますね。カードを1枚伏せて、メインフェイズを終わります。1ターン目ではバトルフェイズとメインフェイズ2はできません。さあ、楽しんでいただけましたでしょうか?第一幕はこれにて終了。ターンエンドでございます!」
「すごい、目の前でやってもらえるとやっぱり違いますね!ギガギガントXの口上かっこよかったです!」
「ありがとうございます。もちろん、スタンディングデュエルでは、エクシーズ召喚を行なうと宣言するだけで構いませんよ。ただMr.比嘉は初心者ですからね、こうして自分が今何をしているのか説明できるよう練習するのも上達のひとつかと思いまして、アクションデュエルの要領でやらせていただきました」
「ありがとうございます」
「今回はどちらも攻撃表示のモンスターがエクシーズ素材になりましたが、表側表示であれば守備表示でも攻撃表示でも構いませんよ。このようにエクシーズ素材が揃ったら、自分のメインフェイズ中にエクシーズ召喚をすると宣言してください。重ねるエクシーズ素材とエクシーズモンスターは、このように枚数が分かるようにずらして置いてみるのも手ですね。エクシーズモンスターは守備表示でも攻撃表示でも構いませんが、表側でなければなりません」
「なるほど、やっぱり実際やってみた方が覚えられますね。榊先輩にやってもらったから、なんとなくですけど、このデッキの回し方がわかりました。あの、榊先輩。エクシーズ召喚したあとに、チェーンを確認してましたよね?エクシーズ召喚はチェーンしてできたりしませんか?融合みたいに」
「残念ながらエクシーズ召喚はチェーンを積まない特殊召喚なのですよ。なので、相手がモンスターを召喚した直後や他のカードにチェーンしてエクシーズ召喚をすることはできないんです。それと、特殊召喚自体を無効にされると、すべて墓地に行ってしまいますし、墓地のエクシーズモンスターは正規召喚ができなかったので蘇生制限に引っかかり、墓地から特殊召喚できなくなります。でも、正規召喚を1度でもしたなら、いくらでも墓地から特殊召喚できますよ」
「えっと、何回チェーンを積むタイミングがあるんですか?」
「そうですね、まずはエクシーズ素材でエクシーズ・ユニットを構築し、エクストラデッキから特殊召喚したいエクシーズモンスターを相手にみせるとき。これはライオウや神の宣告など、特殊召喚を無効にする効果の発動するタイミングです。つぎは攻撃表示か守備表示かを選んで、エクシーズ素材の上に置くとき。最後に、エクシーズ召喚が成功した直後でしょうか。これは奈落の落とし穴や地砕きなどがあげられますね。」
「3回ですか、わかりました。榊先輩、もうひとつ質問なんですけど、同時に複数のカードが発動する条件を満たしたんですけど、どっちもチェーン1でしか発動できない時ってどうしたらいいんですか?」
「おや、よほどいい手札だったのですね、うらやましい。そうですね、どちらもチェーン1でしか発動できない場合は、特別に同じチェーンの中で発動できますよ。両方とも任意で発動できるカードの場合は、フィールドや墓地で発動する効果のあとで手札の効果をチェーンしてみてください。」
「わかりました、ありがとうございます」
「わたくしもずっと会話をしていたい気分ですが、今はデュエル中!さあ、そろそろMr.比嘉のターンですね」
「はい!榊先輩にがっかりされないように、精いっぱいがんばりたいと思います!ドロー!スタンバイフェイズに入りますが、僕はなにもありません。榊先輩、なにかありますか?」
「いえ、続けてください」
「はい。僕はスタンバイフェイズを終了します。そして、メインフェイズに入ります。僕が通常召喚するこのモンスターは、異常な数の行方不明者を出す深き森にて、とある動植物学者が調査に赴いた際、発見したと言われています。彼女たちは擬似餌である可憐な姿で人間を誘い込み、深淵に待つ大きな大きな穴の底で真の姿を現しました。命からがら逃げ延びた彼は彼女たちをこう名付けました。蟲惑魔と。僕はそんな謂れのあるトリオンの蟲惑魔を通常召喚します。榊先輩、チェーンしますか?」
「いえ、しませんので続けてください。あははっ、それより、それってほんとうですか?たしかに蟲惑の落とし穴のイラストって、まさにそんな感じですけど、よく知ってましたね」
「はい、雑誌に載ってました。僕、そういう話を見るのも好きなんです。それでですね、大落とし穴に落っこちてるやつと、蟲惑の落とし穴に落ちてる奴は同じだそうですよ」
「ああ、可憐な花にはトゲがあるというやつですね。怖い怖い」
「ほんとですよね。よーし、いきますよ。レベル4モンスターが召喚されたこの瞬間、僕はそれにチェーンして手札からカゲトカゲを自身の誘発効果で特殊召喚します。チェーンしますか?」
「いえ、つづけてください」
「はい。僕はトリオンの効果を発動、デッキからカードを一枚サーチします。なにかありますか?」
「大丈夫ですよ、どうぞ」
「それでは、僕はレベル4のトリオンとカゲトカゲでオーバーレイ・ネットワークを構築します。かつて発明の知恵を授けてくれた友は、感謝と敬意を忘れた人間から姿を消しました。大切な約束を破りし者に、異形の怪物が目を覚まします。エクシーズ召喚!僕はエクストラデッキからキングレムリンをエクシーズ召喚します。チェーンしますか?」
「ないですよ。それにしても、なんだかそれっぽい口上ですね。それも雑誌に載ってたんですか?」
「いえ、違うんです。ちっちゃい時に、グレムリンっていう怖い映画をテレビで見たことがあったんですけど、トラウマになるくらい怖かったんです。だからそれを入れてみました。それでは、僕はエクシーズ・ユニットを一枚とりのぞき、キングレムリンの効果を発動します。デッキから爬虫類族モンスターを1枚手札に加えます。なにかありますか?」
「ありませんので、どうぞ」
「はい。僕は手札から死者蘇生を発動します。墓地からトリオンを特殊召喚しますが、チェーンありますか?」
「ありません」
「それではトリオンを特殊召喚します。トリオンが特殊召喚に成功したので、第二の効果を発動します。榊先輩のフィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊します。僕が破壊するのはもちろん機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)ですけど、どうします?」
「おっと、そんな効果もあったのですか。たしか穴シリーズの罠カードをサーチする効果もあったはずですし、これは次のターンがきつそうですね。わたくしは見ての通り魔法罠ゾーンががら空きなので、何もできません。やれやれ困ったな。続けて、どうぞ」
「わかりました。僕はもう一度デッキからカードを1枚サーチします。メインフェイズを終了します。そして、バトルフェイズに入ります。僕はキングレムリンでギガギガントXを攻撃します。どうしますか?」
「ここはライフで受けましょう。さあ、きなさい、キングレムリン」
「はい、いきますよ榊先輩!キングレムリンでギガギガントXを攻撃します。どちらも攻撃力が同じなので相打ちですね。どちらも墓地に送られます。なにか発動しますか?」
「いえ、なにも」
「それでは、トリオンで榊先輩にダイレクトアタックを行ないます」
「はい、通します。わたくしのライフポイントは4000−1600=2400ですね」
「これでバトルフェイズは終了します。僕はメインフェイズ2でカードを1枚伏せます。メインフェイズを終わり、そのままエンドフェイズにいきます。ターンエンドです」
ふう、と息を吐いた比嘉は遊矢をみる。手札をプレイマットに置いた遊矢は拍手した。ほっとした様子で比嘉は笑った。
「よかったぁ」
「ベリーグッドですよ、Mr.比嘉!よくできました」
「榊先輩がお手本をみせてくれたおかげです。それに、わかりやすいカードばっかりでしたから、なんとか」
「ええ、ガジェットは初心者向けのデッキとして有名ですからね。手札のモンスターを途切れさせない特性に加えて、分かりやすい効果ですから、アドバンテージを覚えるのに一番なデッキです。枠も自由が効きますから、他のモンスターが面白いことになってますね」
「カゲトカゲと蟲惑魔とブリキンギョ……統一性ないですね」
「これがエクシーズを主軸にしたデッキの特徴なんですよ。どれだけスムーズにエクシーズ召喚につなげるかが重要なので、モンスターのステータスよりもレベルと展開するための効果が重視されるのです。ガジェットは昔からのテーマですが、このデッキはレベル4のモンスターが並べやすいところに着目して、ランク4特化のエクシーズデッキとなっていますね。このように、なにがやりたいのかを決めて、そのコンセプトにあったデッキをつくってみるのもおもしろいですよ」
「そっか。そういうのも楽しそうですね」
「ええ、デッキを調整するのも楽しい時間のひとつです。あっというまに時間がなくなってしまいますからね。さあ、次はシンクロ召喚と行きましょう」
「はい!」