Xyz Summon 1
遊矢は今まで使っていたデッキを片づけると、塾長のアタックケースから2つのデッキを取り出した。ひとつはデッキゾーンへ、もうひとつはエクストラデッキへおかれる。同じものが比嘉のプレイマットにもおかれた。準備は万端である。


「Ladies and gentleman!さあさあ、長らくお待たせいたしました、特殊召喚の講義を再開いたしましょう」

「待ってました、榊先輩!」

「盛大な拍手をありがとうございます。今回はエクシーズモンスターとその召喚方法について解説していきましょう。Mr.比嘉にはお初のお目見えでございます。この道のパイオニア、榊遊勝の息子、わたくし榊遊矢にしかできないエンタメデュエルをご覧にいれましょう!」

「えっ、ゆうしょうって、えっ?!塾長は柊修造さんじゃないんですか?」

「これはこれは、申し遅れました。この遊勝塾はアクションデュエルの開祖でありわたくしの父、かつて世界を席巻した名高きプロデュエリストの榊遊勝が創立した塾でございます。今はその後輩にあたる修造氏が塾長を務めているのです。どうぞお見知りおきを」

「そ、そうだったんですか……だから、お父さんのお名前がついてる塾なんですね。ちゃんと知らなくてごめんなさい、榊先輩」


申し訳なさそうに比嘉は思い出話をする。比嘉の両親は遊勝や塾長世代のデュエリストの試合に特に目を光らせていた。比嘉の大好きなプロデュエリストがその世代だったから。いつも比嘉が隠れてみるのはその世代だったから。特集記事や特集番組を目ざとく見つけて先回りされる、こっそり見る、のいたちごっこだった。最近のデュエリストは前住んでた街はプロリーグの大会でも1年遅れの平日の午後に録画放送するようなところだったので、とびとびでしか知らなかった。片道三時間のデュエルショップじゃないと雑誌も買えないところだったので、全然情報が入らない。遊矢たちが置かれたらきついどころではない環境である。よくがんばったなあ、と塾長は涙を浮かべて比嘉の肩を叩いている。


「いえいえ、お気になさらず。ご両親の理解も得られなかった当時、デュエルモンスターズに接するのはとても難しかったでしょう。そのような環境であってもデュエリストになりたいと想いつづけたからこそ、今のあなたがあるのですから。今、このときの気持ちを忘れずにいてくださいね」

「はい!」

「さあさあ、ご注目!ただ今よりエクストラデッキの中で出番を待っていた、今回の主役のご登場です。ご紹介しましょう。エクシーズモンスター、ジェムナイト・パールです」


遊矢がエクストラデッキから、モンスターゾーンにおいたのは黒いモンスターカードである。


ジェムナイト・パール(地)
☆☆☆☆
【岩石族・エクシーズ】
レベル4モンスター×2
ATK2600/DEF1900


「エクシーズモンスターは、黒色のモンスターカードです。このカードは融合モンスターやシンクロモンスターと同じようにエクストラデッキに入れて、エクストラデッキゾーンに置かれるのです」

「見てもいいですか?」

「ええ、ゆっくりご覧ください」


さっそく比嘉はパールを手に取った。


「あ、やっぱり星が右側じゃなくて、左側にある。榊先輩、エクシーズモンスターはどうして星が左側じゃないんですか?」

「いいところに気付きましたね、Mr.比嘉。それはエクシーズモンスターの特徴のひとつだからです。エクシーズモンスターは、レベルが存在しないのです。ですから、レベルをあらわす左側の☆の並びとは逆に、右側から☆がならんでいるのですよ。ですから、レベル制限B地区やグラビティ・バインドといったレベルに関する効果は受けません。エクシーズモンスターのみ、この星の数はランクと呼ぶのです」

「ランク……わかりました」

「それではエクシーズ召喚の方法を説明いたしましょう。エクシーズモンスターを召喚するためには、特定のモンスターをフィールド上に表側表示で揃えなければなりません。ジェムナイト・パールの場合は、レベル4のモンスターが2体必要になりますね。これを【エクシーズ素材】、もしくは【オーバーレイ・ユニット】といいます」

「あれ?なんで言い方が二つあるんですか?」

「スタンダードなデュエルだと、【エクシーズ素材】というんです。アクションデュエルはショーの側面があるので、【オーバーレイ・ユニット】という響きを優先させるんですね。Mr.比嘉は今スタンダードデュエルをしているわけですから、【エクシーズ素材】といいましょうか」

「了解です。そっか、言い方ひとつでも違ってくるんですね。うう、難しいなあ。まずはスタンダードデュエルから頑張らなきゃ。そのモンスターはレベル4だったらなんでもいいんですか?」

「ええ、エクシーズ召喚の素材にできない、と書かれていなければなんでも素材にできますよ。バニラでも、効果モンスターでも、融合モンスターでも、シンクロモンスターでも、儀式モンスターでも大丈夫です。スタンディングデュエルでは、必要なモンスターを揃えたら、モンスターゾーンの一つにそれらを重ねます。そして、それらをエクシーズ素材とするエクシーズモンスターをエクストラデッキから取り出し、一番上に重ねるのです」

「重ねるんですか。たくさんエクシーズ素材がいるカードだと、崩れちゃいそうですね」

「ええ。ですからあんまり多重スリーブ(カードを保護するプラスチックのケースを何枚も重ねること)だと、エクシーズ召喚したカードの山が崩れてしまいますから注意してください。デュエル中に崩れてしまうと、状況によっては失格になることもありますからね。デュエルディスクでは、モンスターゾーンの下に挿入口があるので、そちらにエクシーズ素材をいれ、モンスターゾーンにエクシーズモンスターを設置するとエクシーズ召喚成功となります」

「わかりました、気を付けます。……あれ?榊先輩、今までだとアドバンス召喚以外は、リリースするモンスターの他に、特定の魔法カードが必要でしたよね?エクシーズ召喚だといらないんですか?」

「ええ、それが二つ目の特徴でもあります。エクシーズ召喚は特定のカードを必要としません。エクシーズ召喚の条件である縛りも少ないですし、今まで使っていたデッキにエクストラデッキを用意するだけでエクシーズ召喚が可能なため、その手軽さから一気に普及しました。モンスター効果は控えめなものが多いですが、その手軽さから愛用するデュエリストも多いですよ。ちなみにアクションデュエルだとエクシーズ召喚には口上があります。ジェムナイトパールなら、レベル4のモンスターを2つ宣言し、【オーバーレイ】といいます」

「【オーバーレイ】?」

「【同レベルモンスターを素材に使用すること】を【オーバーレイ】っていうんですよ。ちなみに【エクシーズ素材】を【オーバーレイ・ユニット】と呼ぶのはそのためですね」

「【エクシーズ・ユニット】とはいわないんですか?」

「アハハ、面白いこと言いますね、Mr.比嘉。残念ながらエクシーズ・ユニットはすでに装備魔法であるんですよ」

「あ、そうなんですか。それじゃだめですね」

「そうですね。あ、そうそう、一応、エクシーズ召喚にも特定の魔法カードが必要な場合がありますよ。その場合はこのカードを使います」


遊矢がさしだしたのは、RUMと書かれている魔法カードである。


「これはランク・アップ・マジックと読みます。文字通り、エクシーズモンスターを1つ上のランクのモンスターにしたり、形態を変化させたりする魔法カードですね。この魔法カードを使う場合は、そのモンスターをエクシーズ素材にしてエクストラデッキから新しいエクシーズモンスターを上に重ねたり、RUMのカード自体をエクシーズ素材にしたりします」

「へえー、エクシーズモンスターなのにエクシーズ素材になったりするなんて、面白いですね」

「そうですね、興味を持っていただけたようで光栄ですよ、Mr.比嘉。わたくしとしては同士ができるようでうれしい限りです」

「あ、榊先輩はエクシーズ使うんですか?」

「ええ、エクシーズも使いますよ。融合も、シンクロもですけどね」

「えっ、3つもですか!?」

「ふふ、それがペンデュラム使いの特徴でもあるのです。詳しくはあとのお楽しみということで。ここで注意しないといけないのは、トークンはエクシーズ素材にできないことです」

「トークン?」

「トークンというのは、カードの効果により生み出されたモンスターのことです。分身や身代わりといった方がわかりやすいでしょうか。魔法や罠、モンスターの効果が発動すると、フィールド上に特殊召喚されます。ステータスはさまざまですが、フィールド上に出たトークンは通常モンスターとして扱います」

「そのトークンってどうやっておくんですか?」

「トークンカードというものも販売されているのですが、コインやおはじきをモンスターゾーンに置くことで、トークンとする場合がありますよ。デュエルディスクでは、モンスター効果の場合はそのモンスター、罠や魔法の効果の場合は何も書いていないカードを灰色にしたものがモンスターゾーンに出現します。トークンの特徴としては、裏側表示がありません。裏側表示にする効果の対象には選択できないので、注意が必要です。ちなみにバウンスなどでフィールドから離れると、その場で破壊されます」

「ないのに、あるように扱うって、なんだか不思議なカードなんですね」

「そうですね。それではエクシーズモンスターにもどりましょうか。重ねられたエクシーズ素材ですが、このカードたちはエクシーズモンスターの効果の発動コストなどに使われます。コストに使われたり、エクシーズモンスターがフィールド上から離れる場合はそのモンスターのエクシーズ素材は全て墓地に送られます」

「へえー、エクシーズモンスターの効果ってエクシーズ素材分しか使えないんですね」

「そうですよ。ですから、エクシーズ素材がなくなったエクシーズモンスターは、バニラモンスターとなります。ちなみにエクシーズモンスターも破壊されたら墓地にいきますよ」

「ふむふむ、なるほど。わかりました」

「融合召喚の講義で習ったと思いますが、エクシーズ召喚も特殊召喚です。もちろん蘇生制限がありますよ。ですから、エクストラデッキやデッキから直接墓地にいった場合、そのモンスターは、死者蘇生やリビングデットの呼び声といった墓地からの特殊召喚はできません。一番怖いのは、エクシーズ召喚したときに、その特殊召喚を無効にする効果があるカウンター罠で破壊されて墓地に行った場合です。召喚条件を満たせずに墓地に行ったので、蘇生制限にひっかかり特殊召喚できません。エクストラデッキにエクシーズモンスターを戻してから、正規召喚を行なう必要があるんですね」

「うわ・・・もし戻す効果を持ってるカードがなかったら、もうエクシーズ召喚できないってことですよね?エクストラデッキに1枚しかなかったらもうできないんだ」

「そういうことですね。ですから、そういったコンボを狙ってくるデッキもあります。エクシーズ召喚は状況をよく見てやりましょうね」

「わかりました!」


比嘉がノートをまとめ終わるのを待っている間、遊矢はデッキをシャッフルしている。そしてデッキゾーンに置いた。


「それでは、実際にエクシーズ召喚をやってみましょうか」

「はい!」

「今回は、わたくしもMr.比嘉も同じデッキを使っていますので、ミラーマッチと行きましょう。わたくしがお手本を見せますので、よく見ていてくださいね」

「わかりました。よろしくお願いします!」


遊矢と比嘉はデッキを交換して、よくシャッフルする。そして、お互いのデッキを返した。そして、所定の位置に置く。


「それではまず、先行と後攻を決めましょう。コイントスでよろしいですね?星がある方と無い方、どちらにしますか?」

「星がある方でおねがいします」

「かしこまりました。では」


遊矢の手から弾かれたコインが手の甲に落ちる。見える面はつるつるだ。



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