SCHOOL LIFE4

「そうなんですか?沢渡先輩が・・・・?」

「あ、信じてないなー?ひっどいんだよ、沢渡の奴。一度、遊矢のカード、奪おうとしたことあるんだから。ま、けっちょんけちょんにやられちゃってたけどね!後で仲直りしたみたいだけど」

「しらなかったです、沢渡先輩が、ですか。ううん、でも、ここのケーキのこと教えてくれたの沢渡先輩のお母さんだし、うーん」

「あー、ご近所さんだし、比嘉が年下でよく知らないからってカッコつけてたな、沢渡の奴!」

ちょっと困った顔をする比嘉だが、スイーツを巡る争いで日々火花を散らす毎日の中、せっかくスイーツ巡りしてくれそうなやつが現れたのに、とられたらたまらない。ただでさえ、遊矢は素良がいくらいっても沢渡と出かけている。予定がかぶることが結構あるのだ、男の子でスイーツ巡りにつき合ってくれる友達は貴重である。よくわからないイレギュラーを監視する意味でも、しばらくは比嘉にくっついていようと思う素良である。初めて現れた、知らない人間である。遊矢たちと関係を築きつつある意味でも、初めての友達に近づく奴はちょっと警戒したいお年頃だった。

「おかえり、素良、比嘉。結構かかったな」

「トリシューラプリン狙ってたのに残念、間に合わなかったよ。仕方ないから、クレープで妥協したんだ。やっぱスイーツ入門には、本物と、それなり、を一緒に食べて味を覚えるとこから始めないといけないからね。ドローパンも買ってきた」

「ドローパンとクレープ買ったのか・・・・おやつの間違いじゃないのか?」

「いーじゃん、べつにさー。比嘉も甘いの好きだって言うし、ね?」

「あ、はい。それに、このパン、なにが入ってるのかわからないって言うのがおもしろそうなので買ってみました」

「意外と運試し好きなんだな、比嘉」

「すっごいよね、いきなりそれ買っちゃうとか」

「え、そんなにいろんなものが入ってるんですか?」

もちろん遊矢も初見である。興味津々でのぞき込む二人に、購買初心者だとわかっている素良はいちいちつっこまない。ただ、にやにやしている。

ドローパン、それはデュエルアカデミアグループの購買でのみ販売されているパンのことだ。文字通り、具は中をあけるまでお楽しみ。舞網校の校章がプリントされた半透明な袋に入っており、中身を判別することはできない。ドローの訓練の一環として取り入れられている、と素良が冗談めかしていったら比嘉が食いついたのだ。一番人気は黄金のタマゴパン。この敷地内にかわれている黄金色の鶏が1日に1個しか生まない貴重なタマゴが使われているのだ。このパンをあけようとみんな毎日躍起になっている。具の種類はおどろきの500種類。どこぞの魔法学校もびっくりな味の種類である。 

「これで比嘉の運命力がどれくらいかわかるね」

「うんめいりょく?」

「デッキから好きなカードをどれだけ引き当てられるかってこと。つまり、運の良さとかそういうのだよ。これって、天性だから、どれだけがんばってもどうにもできないことなんだよね。すごい人だと、結構タマゴパン当てるみたいだよ」

「そうなんですか!?け、けっこうたいへんなパンなんですね!」

「おいおい、比嘉をからかうな」

「ユート先輩?」

「こんなのただのくじ引きみたいなものなんだ。気にしなくてもいい」

「いっつも匂い系ひきあててる人がなんか言ってる」

「素良」

「に、においけい?」

「どんなパンなんだよ、それ」

「聞かないでくれ」

遊矢と比嘉は顔を見合わせた。素良はにやにやしてその事件の顛末を語ろうとするが、ユートに無言の抵抗を受けて断念する。隙あらばよけいなことを吹き込もうとする素良である。ユートは、素良のいうことは話半分に聞いておけ、と比嘉に忠告した。ひどいなあ、と素良は笑う。

記憶がなくなっても、本能的に対立していた、相容れない存在ということは覚えているのだろう。魂の記憶という奴だ。興味深げに素良はユートを見上げた。なんだ、と言われ、なんでもなーい、と返す。ぬるま湯に浸りきった平和で優しい世界である。いつまで続くかはわからないが、つき合おうではないか。今はなにもわからないのだから。

そんな素良とユートのやりとりをみていた遊矢は、頭の奥底が焼けるような痛みを覚える。顔をゆがめる遊矢に、大丈夫ですか、と心配そうに比嘉は見上げる。また違和感だ。なんだろうか、この狂おしいほど懐かしいこの違和感は。こうして素良とともにたわいのない会話をすることも、なにも考えずに楽しい時間を過ごすことも。比嘉と素良が遊びに行く約束をしているほほえましい光景に、遊矢もいたような気がする、この奇妙なデジャブは何だ。

「どーしたのさ、遊矢?難しい顔して?」

「いや、なんかさ、こういうのすごく久し振りな気がして」

ぽつりとこぼしてから、はっとした様子で、遊矢はあわててとりつくろう。比嘉のためにいろんなことを覚え直さなきゃいけなかったり、何度も説明の練習をしたりしたものだから、頭が知恵熱出してパンクしちゃった。ずっと徹夜だったから頭がぼーっとしてる。素良はお?と思った。この前の金曜日の遊矢とは全然違う反応だ。もっというなら素良の知っている遊矢の反応だ。素良にとって一番最初であるスタンダード次元の友達のひとりである榊遊矢、その人しかできない反応である。確信がほしくて素良は鎌を掛けた。

「なにいってんの、遊矢。こないだ、出かけたばっかりじゃん」

「え、あれ、そうだっけ?」

「まだ徹夜の名残が残ってるな、遊矢。あのとき、もう食べたくないと電話してきただろ」

「あ、あ、あー、あのときの話かな?沢渡の言ってた店、偵察に行くとか言う?」

「あははっ、やっと思い出した?あのときはセレナと柚子が一緒だったでしょ?権ちゃんは甘いもの巡りはやだって逃げられちゃったけどさ」

「あ、ああ・・・・・・そうだっけ。そう、だったよな。ああ、思い出した」

遊矢はうそをつくのがへやくそだなあ、と素良はうれしくなった。遊矢は会話しているうちに、素良のようにこちらの次元の自分の記憶がよみがえってきたのか、言葉がだんだんはっきりとしてくる。ど忘れしてたと紡がれる言葉は間違いなく、スイーツ巡りしたときの情報だ。もやもやしている。素良が抱えている感情と同じものを抱いている。この様子だと、遊矢に助け船を出そうとしているユートは、記憶を思い出してはいないが、相談はしていたようだ。おもしろくないの、と嫉妬しながら、素良は先を促す。デコレーションされたカップケーキとハーブティのセットがさめないうちに移動しなければ。

「比嘉も僕の弟子にしていいよ、スイーツのね」

「あ、あはは・・・・」

「楽しかったなー、僕満足したよ。なんにも考えないでいいの久しぶりだしね」

屋上に向かう道中、ユートは遊矢といくつか言葉を交わしている。聞き取れないが、あんまり素良にとって喜ばしいことではないのはたしかだろう。

「そうなんですか?」

今はなにも考えたくないので、比嘉との会話に興じる。

「遊矢も空気読めないなあ、よりによってアイツつれてくるとかー」

「アイツ・・・?素良君、ユート先輩が苦手なんですか?」

「まーね。アイツに直接これと言った理由はないんだけど、強いて言うならエクシーズコースだから?」

「えっと、素良君は融合コースに行きたいんでしたっけ?」

「うん、もちろん。僕の使ってるファーニマルは融合テーマだからね。これしかないって思ってるよ」

「融合コースとエクシーズコースって仲が悪いとか?」

「人によるんじゃない?僕はレベルを揃えるだけっていう簡単すぎる召喚方法が気にくわないだけ。融合召喚は違うんだ。レベルや種族、属性まで違うモンスターを1つにするんだ。高等だと思わない?」

「素良君?どうしたんですか?なんか、怖いです」

「・・・・・・あー、ごめん、違うんだ。忘れて。ユートの知り合いに黒咲って奴がいるんだけど、アイツの卒業デュエルに、僕が挑んだんだけど負けちゃったんだ。つい思い出しちゃうんだよね。『俺はいつでも本気だ、その価値がない相手でも。臆病者が使う戦法一辺倒である以上、俺には勝てない』とかいうんだよ!あーもう、むっかつくー!」

「その、黒咲って人は、今は?」

「えーっと、たしか今はプロしてんじゃないかな?」

「そうなんですか!?」

「そーそー、がんばればプロにもなれるよ。がんばれば」

比嘉の目が輝きを増した。どうやらプロデュエリストを志す少年のようだ。その輝きをともしたのが黒咲というのが気にくわない。素良はため息である。

「あ、勘違いしないでよ、比嘉」

「はい?」

「シンクロやエクシーズにも、学ぶことは多いと思ってるよ。今はね。そこんとこは、遊矢や柚子に感謝かな、あと権ちゃんにもね。融合をより極めるためにはほかの召喚方法も勉強しないといけないって思ったし・・・・・ってあーもうなにいってんだろ、僕。らしくないこといっちゃった。今のなし」

「あ、あはは」

「だから今のなしっていってるでしょ、比嘉ー」

「ご、ごめんなさい、素良君。そうですね、僕はなにも聞いてないです。素良君が意固地になってたのを歩み寄るきっかけをくれたのが柊先輩と榊先輩だってことはもちろん」

「いわなくていいから!」

「あはは」

比嘉が遊矢に向ける視線がますます尊敬に満ちているのがわかる。そうそう、これなら許す。比嘉がユート達の間に入って取りなすなんて余計な気を回す奴じゃないとわかっただけでも充分だ。みんななかよし、なんて性に合わない。冗談じゃない。それとこれとは話が別だ。でもまあ、素良の心境を吐露したら、なんとかしようとするのが素良の友達である。そうしようとする気持ちは分からなくもない。遊矢や柚子が誰と仲良くしてても気にしない。友達だからだ。

「ま、そういうわけだけど、僕は比嘉が誰と仲良くしようと気にしないよ。気を使われる方が迷惑だからね?」

「りょーかいです」

「うんうん、よろしい。一応、僕と比嘉は先輩と後輩でもあるからね、友達だけど、遊矢や柚子とはちょーっと違った感じでいきたいんだ。そこんとこよろしくね」

「はい、よろしくです。センパイ」

「うーん、とっても違和感。変な感じ。やっぱ素良君でいいよ」

「わかりました」
 


司書が在籍している図書館は、デュエルモンスターズに関する資料をみることができる。ほかにもデュエルに関する映像を鑑賞する部屋もある。テスト前になると家で勉強できない生徒はここで下校時刻ぎりぎりまで粘っている。

あとは素良についていった特別教室やグループに分かれて専門的な勉強をするゼミ形式の教室など。パソコンの部屋もあったが、今は使用中のようで入れない。

これでひとしきり回っただろうか。ようやく彼らは屋上に足を踏み入れた。


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