SCHOOL LIFE2


「おはよう、みんな!」

「おはよー!いつも席とってもらってごめんね」

「私たちはここに一番近いからな!まあ、当然だ」

「よう、相変わらず死にそうな顔してるな、遊矢。テストはどうだった?」

「テストは出来たけど、授業が全然わからない…!」

「な、なんだってー!?あの遊矢がテストできただってっ!?今日、なんも持ってきてないぞ、傘!」

「うるさいなあ、沢渡!余計なお世話だよ!」

遊矢はユートのすぐ横に座った。こそりとユートが遊矢の様子をうかがう。

「みんなのことは覚えてるみたいだな」

「……どうやって知り合ったかはわかんないけど」

「それ以外はわかるんだろう?それなら、今は十分だ。なにか気になることはないか?」

「えっと……ユートとセレナって融合とエクシーズだよな?なんでここに?」

「ああ、それなら。セレナは柚子の影響でスタンダードコースに興味がわいたらしい。融合を極めるためにも一辺倒は良くないと思ったそうだ。それで選択でこの授業を取ってるんだ。それについては俺も同意見だな。遊矢とタッグデュエルするなら、他の召喚方法について少しでも分かってないと足を引っ張ると思ってな」

「そっか、あはは、なんか嬉しいな。ありがとう」

「いや、俺がそう思っただけだ。気にしないでくれ。あとは?」

「全然場所がわからない」

「まあ、そうだろうな……。どうする?昼にでもあちこち回ってみるか?」

「えっ、いいのか、ユート」

「ああ、それくらいなら力になろう」


あーよかった、と遊矢が胸をなでおろした時、何してんだお二人さん、と後ろから衝撃が走る。弾かれたように顔を上げた遊矢とユートに、隠し事は無しだぜ、とウインクする沢渡がいる。困ったように遊矢をみるユート。遊矢はとっさに嘘をつく。


「なんだよ、なんだよ、さっきからこそこそと!気になるだろ、教えろよ」

「え?えーっとそのな、きょ、教室を案内してやろうかって思ったんだ、比嘉に!」

「比嘉?ああ、さっきから柚子とセレナが盛り上がってる遊勝塾の新入りの話か?」

「そう、そう、そうなんだよ!だって比嘉、普通の学校からここに転校してくるらしくてさ、絶対迷子になると思って!」

「ああ、そういうことなんだ、沢渡。納得してくれたか?いい考えだと思ったんだが」

「たしかにいい考えだと思うぜ。いつも迷子になってる奴がいうと説得力が違うな!」

「う、うるさいなあ!さっきから一言多いぞ、沢渡!」

「あっはっは、悔しかったら一度も迷わずに次の講義の場所に行ってみたらどうだ!」

「うぐっ……!」

「ほらみろ、方向音痴!ま、これ以上方向音痴を増やさないためにも、早いうちから教えてやるのはいいと思うぜ。どうせなら一緒に昼飯でも誘えばいーんじゃね?あ、俺、すっげーいいこと言ったな!」

「さっきからうるさいよ、沢渡!なんだよ、俺に一回も勝ったことないくせに!」

「それだけは言っちゃいけないお約束だろ!?」

やめろーっと大げさに頭を抱える沢渡にユートと遊矢は笑った。

「ところで、その比嘉ってのは、もしかして比嘉昴っつー名前だったりするのか、遊矢。黄緑のショートに、緑目の、結構身長低い感じの?」

「そうだけど?……あれ、なんで沢渡が知ってるんだ?」

「あー、やっぱりそうか。だと思った。知ってるも何も、俺が住んでるマンションあるだろ、あそこの」


沢渡が指差すのは、舞網市で一番高い建物である。ユートが自慢してたな、引っ越したんだったか、と助け船を出してくれた。あとは沢渡が自慢するから遊矢は聞かなくてよくなる。今年の1月にオープンしたばかりの高級マンションは、映画館や水族館、レストラン、フィットネスクラブ、高級マーケットなど外に一切出ないで生活できる裕福層をターゲットとした高層ビルらしい。そこにあるケーキ屋がおいしいというくだりから、遊矢は昨日食べたケーキの店の名前を思い出す。もしかして、という顔をした遊矢に、そう、と沢渡はいった。ほんとうは最上階がよかったそうだが、あまりに人気が集中して抽選になり、沢渡家は惜しくも外れてしまったらしい。その代りにすぐ下のフロアを確保することができたので満足しているそうだが、その抽選で当たった幸福な家族の苗字がめずらしかったから沢渡はよく覚えているようだ。裕福層ばかりとなれば後援会も結構力を持つ団体となる。挨拶にやってきた比嘉夫妻に連れられてきたのが比嘉昴という少年であり、近いうちに同じ学校に通うから仲良くしてやってくれと言われていると沢渡は教えてくれた。


最近、デュエル塾に通い始めたようだ。お礼にどこのケーキがいいか比嘉夫妻が沢渡の母親に電話をしていた。一昨日のことを話した沢渡は世間は狭いと笑う。まさか、うちと同じグレードに住む比嘉家の御子息がまさかあの遊勝塾にいるとは。からかい調子の沢渡にユートはたしなめるが、遊矢はさすがに比嘉の家がもしかしなくてもとんでもないお金持ちだと気付いて驚きを隠せない。カチンときたのか、後ろから絶対零度のほほえみで沢渡を見ているのは、他ならぬ柚子だった。


「ちょっと沢渡、それどういう意味?」

「え?いや、いやいやいや、なんでもないです!」


冷や汗だらだらで否定した沢渡のSOSに、もちろんユートも遊矢も無視を決め込む。ハリセンの豪快なフルスイングがさく裂する。


「それなら、私が比嘉君に連絡とってあげよっか?」

「え、柚子、連絡先しってるのか?比嘉って携帯持ってるの?」

「ええ、持ってるわよ。朝、連絡先交換したの。後から教えるわね」

「なんだ、まだ比嘉の連絡先知らなかったのか?」

「いやだって2日ほど一緒にいたけど、全然携帯使ってなかったじゃん。てっきり持ってないのかと思ったよ」

「デュエルを教えてもらえるのがよっぽどうれしかったみたいでね、忘れてたみたいよ。あとで送るわね。ほかのみんなはお昼に比嘉君紹介するからその時に聞いてあげて」

「朝交換したっていつだよ?」

「遊矢は一足先にいっちゃったでしょ?私、たまたまあったのよ」

「えっそうなのか?」


思わず遊矢は柚子に聞く。柚子はええと笑った。






1時間ほど前にさかのぼる。






いつもの通学路を通り、柚子は再開発が進む新規の住宅地を抜ける。ここを過ぎれば舞網第二中学校は目前だ。遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた気がして振り返ると、先輩、先輩、と走ってくる比嘉がいるではないか。


「おはようございます、柊先輩!」

「比嘉くんじゃない、おはよ。もしかしてこのあたりなの?」

「はい、そうです。僕、あのマンションに越してきたんです」


指差す先には、新年に入居が始まったばかりの高層マンションが建っている。


「それならもっとゆっくり来ても間に合うんじゃない?」

「だって今日が転校初日なんですよ、柊先輩」

「でも、通学路はわかってるんでしょ?どれくらいでつくかわかってたんじゃない?」

「でも、やっぱり不安なんです、僕。遅刻したらどうしよう、道を間違えたらどうしよう、って気持ちばかりが焦ってしまって、気付いたらもう準備が終わっていたんです」

「ふふ、やっぱり比嘉君て真面目なんだ」

「そうでしょうか?」

「うん、いいことだと思うよ」

「ありがとうございます」


比嘉はうれしそうに笑った。


「そういえば榊先輩は?」

「遊矢?遊矢ならもう学校に行っちゃったわ」

「そうなんですか?!早いですね」

「あはは、たまたまよ、たまたま。今日の小テストで赤点だったら補修になっちゃうからね。比嘉くんのデュエルディスク買いに行く約束破っちゃうでしょ?それは嫌なんですって」

「えっ、そんな、僕のためにわざわざ!?そんな、恐縮です」

「いいの、いいの。だって遊矢があそこまで勉強一生懸命になるなんてこんな機会、滅多にないんだから。そもそもちゃんと勉強してれば補修なんてならないのに、遊矢が悪いのよ」

「あ、あはは……でも、デュエルディスクとか、デュエルに必要なもの、いろいろ見繕ってくださるみたいで……!うれしいです!」

「いいのいいの気にしないで。比嘉くんみたいに、初心者だから、どんなデッキを組めばいいかわからない。教えてほしいって素直にお願いされることなんて、ほんとに貴重なんだから。比嘉くんは自分の希少価値を自覚すべきだと思うわ」

「は、はあ」

「そういえば、どうして私と遊矢が一緒に登校してるってわかったの?」

「柊先輩と榊先輩は幼馴染なんですよね?幼馴染って赤ちゃんの頃から付き合いがないと言わない関係だそうです。それに、お二人は仲がいいので、一緒に登下校してる仲ではないかと思いまして」


柚子の顔が一気に赤くなる。


「ち、ちがうからね、比嘉くん。たしかに私と遊矢は幼馴染だし、小っちゃい頃から一緒だけど、そうじゃないからね!?」

「え、あ、申し訳ありません。もしかして、お二人はそういう関係ではないんですか?」

「ど、どの関係!?」

「その、つき」

「いわなくていいからね!?」

「え、あ、はい。すいません」

「いい?比嘉くん。私と遊矢は幼馴染。幼馴染なの。ね?」

「わかりました。柊先輩と榊先輩は幼馴染、ですね。わかりました」

「うん、それでいいの。うん、それでよろしくね」

「はい」


こくりとうなずいて笑った比嘉に、柚子はほっといきをはいた。


「そういえば、比嘉くんに柊って呼ばれると、小学校の時のこと思い出すわ」

「え、どうしてですか?」

「ほら、小学校の時って、男子と女子が一緒にいるだけでからかってくる奴がいるでしょ?あんまりうるさいから、遊矢に苗字で呼んでってお願いしたことがあったの」

「柊先輩がですか?」

「遊矢は全然そういうこと気にしてなかったから、微妙な感じだったけど、私は嫌だったの。なんとなく。わりとそういうこと気にするタイプだからかな」


小学生に上がる前から毎日遊勝塾に通っていた遊矢と柚子は、学校も放課後もずっと一緒だった。噂されない日はなかった。二人が話すたびに、遠巻きに見ている女の子や男の子にひそひそ、こそこそ笑われて、嫌だった。だから、いつものように話しかけてきた遊矢を連れて、廊下に出て、名前じゃなくて苗字で呼ぶようお願いしたのだ。男の子と女の子が名前で呼び合うのはおかしいと理由を付けて。あんまり近付かないでとも言った気がする。なんだよそれって遊矢は怒っていた。あたりまえすぎて、周りの反応なんて全然意識してなかったから、はずかしい、を覚えたばかりの柚子はなおさら離れたくなった。意地悪いうなよ、といわれて、別に意地悪してるつもりはないけど、といってたら、偵察しに来た子たちに夫婦喧嘩とからかわれて、一気に爆発したのだ。


売り言葉に買い言葉をしていたら、口走った言葉に遊矢がかちんときたらしく、途中から遊矢と柚子のケンカになってしまった。しばらく遊矢と柚子はケンカ状態になって、お互いに口を利かなくなった。隣のクラスの権現坂が話を聞きつけ、からかっていた子たちを集めて怒ってくれたため、二人をからかう嫌な空気はなくなった。仲直りしたらどうだ、と権現坂に言われたが、柚子も遊矢も首を振った。さすがに数週間冷戦状態が続くと、居心地が悪い周りの子たちが白旗を上げ始め、仲直りしてくれとお願いされたが断った。実はどうやって喧嘩を始めたか思い出せなくなっていて、もはや意地の張り合いだけだった、とは主な仲裁をした権現坂の談である。


どうやって仲直りしたか、だけは覚えている。忘れもしない、雨の日の夜。父さんが帰ってこない、と今にも泣きそうな遊矢の電話がかかってきたからだ。そこまで話す気にはなれなくて、適当に当時の思い出話をちりばめつつ、話を終わらせる。


「比嘉くんならどう思う?気にする?」

「うーん、僕には幼馴染はいないので、よくわかりません。ここに落ち着くまでは父さんの仕事の関係で、転校してばかりでしたから」

「そっか」

「柊先輩や榊先輩の関係は、とてもすてきだと思いますよ。とてもうらやましいです」

「そんな顔しないでよ、比嘉くん。私達、友達でしょ?」


ぱっと比嘉の顔が明るくなる。


「はい、ありがとうございます!」


そして、笑った。


「お昼案内してあげてよ、遊矢。ついでにみんなでお昼ご飯食べましょ」

「いいけど。なんでそんなことまで喋っちゃうかな、柚子」

「えーっと、その、だめだった?」

「いや、いいけどさ」

「なんとなく比嘉君見てたら昔の遊矢思い出しちゃってね、つい。あはは」

「昔の俺ねえ。まあいっか。みんなはそこで待っててもらうとして、比嘉ってどこのクラスだっけ?」



授業開始を告げるチャイムが鳴り響いたのは、同時刻だった。


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