Missing the Timing
「タイミングを逃す。これも初心者デュエリストがつまづきやすいものですね。これについては、このカードを使いながら覚えていきましょうか。Mr.比嘉テキストを読んでもらえませんか」


遊矢が比嘉に差し出したのは、ゴブリンドバーグである。


「わかりました。えっと、ゴブリンドバーグ。@このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札からレベル4モンスター1体を特殊召喚する。この効果を発動した場合、このカードは守備表示になる、ですね」

「ありがとうございます。ゴブリンドバーグは、レベル4モンスターを特殊召喚するという効果。そして、その効果を使用した時、自分自身の効果で守備表示になるという効果があります。この2つの効果がカギとなります。ところで、Mr.比嘉。さきほど説明した誘発効果には、なにがあるか覚えていますか?」

「はい、覚えてますよ、榊先輩!【できる】と【する】ですよね。【できる】は任意効果で、【する】は強制効果です」

「よくできました。実はですね、【できる】には2つ種類があるんですよ」

「そうなんですか?テキスト見たらわかります?」

「ええ、もちろん。「〜した時に〜できる」と「〜場合に〜できる」と書かれていますから、テキストをよく読めばわかりますよ。わたくしがこれからお話するタイミングを逃すというものは、強制効果と「〜場合に〜できる」の効果ではおこりません。「〜時に〜できる」の効果のときだけ起こります」


ノートをめくって文字を並べる比嘉を待っている間に、遊矢はデッキゾーンに一枚カードをおいた。そして比嘉にカードを差し出す。


「さっそくですが、Mr.比嘉。ゴブリンドバーグで終末の騎士を特殊召喚してみてもらえませんか?」

「ええっ、そんな、いきなり言われても……榊先輩、ヒントはありませんか?」

「何事も挑戦です、がんばってください」

「そんなあ。うう、わかりました。終末の騎士……えっと、このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る効果なんですね。それとデッキにあるのはバニラモンスターかあ。うーん、守備表示と特殊召喚、どっちが先だろう?」


しばらく考え込んだ比嘉は意を決したようにゴブリンドバーグを手にやりますと宣言した。


「僕はゴブリンドバーグを手札から通常召喚します。ゴブリンドバーグは召喚に成功した時、レベル4のモンスターを特殊召喚できます。僕は手札より終末の騎士を特殊召喚。終末の騎士は特殊召喚に成功した時、デッキから闇属性のモンスターを墓地に送る効果があります。僕はこのカードをデッキから墓地に送ります。そして、ゴブリンドバーグは終末の騎士を特殊召喚した時、守備表示となります。……どうでしょうか、榊先輩」

「うーん、残念。不正解です、Mr.比嘉。今までは、全部のカードを使い切るのがお約束になっていたので、ちょっと意地悪だったでしょうか。実はですね、ゴブリンドバーグの自身を守備表示にする効果は、終末の騎士を特殊召喚したときに処理しなければなりません」

「あ、やっぱりそっちが先だったんですか」

「そうなのですよ。そして、ここからタイミングを逃すという処理が発生するのです。たしかにゴブリンドバーグの効果で終末の騎士を特殊召喚すると、終末の騎士の「〜時〜できる」の効果の発動条件を満たしていますね。しかし、ゴブリンドバーグには効果を発動した時、守備表示になるという効果があり、この効果は終末の騎士の効果よりも先にしなければなりません。ですから、処理の順番で言うとこうなります」


1.ゴブリンドバーグの効果でレベル4モンスターを呼び出す。
2.終末の騎士を特殊召喚
3.ゴブリンドバーグが守備表示になる


「Mr.比嘉は2の時だけデッキから闇属性モンスターを墓地に送れますが、すでに効果処理は3まで進んでいます。なので、終末の騎士の効果を発動しようとしても、タイミングを逃していて、発動ができないというわけです。わかりましたか?」

「わかったような、わからないような?」

「あはは、初心者のデュエリストはみんなそうですよ。それでは別の例を見てみましょう。Mr.比嘉、カードを返して下さい」

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます。それでは、これをお渡ししますね」


遊矢は比嘉の魔法罠ゾーンにカードを1枚伏せ、墓地に灼熱ゾンビをおいた。そして、サイクロンを比嘉に渡す。デッキゾーンにはカードが置かれた。


「それでは、前の講義で教えたチェーンを考えながら、やってみてください」

「わかりました、やってみます」


比嘉はチェーン表を書いたページを広げて、灼熱ゾンビの効果をみる。


「えっと、まずは速攻魔法サイクロンを発動します。破壊するのはこの伏せカード。この伏せカードはリビングデットの呼び声、通常罠です。サイクロンのスペルスピードは2、リビングデットの呼び声もスペルスピードは2なのでチェーンしてリビングデットの呼び声を発動します。対象は灼熱ゾンビ。そのまま特殊召喚します。このカードは墓地から特殊召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドロー【する】強制効果があるので、僕はデッキからカードを一枚ドローします。……たぶん、これで終わりです」

「すばらしい!よくできました、Mr.比嘉!強制効果ではタイミングを逃す処理はおこりませんから、それでいいんですよ」

「ほんとですか?!やったあ。よかったぁ、ちょっと安心しました」

「ふふ、それでは灼熱ゾンビをこのカードと交換してやってみてください」

「レッド・ガジェットですか、わかりました。よーし、今度は間違えないでやってみます」


所定の位置に戻したカード。レッド・ガジェットのテキストを確認して、比嘉はいきますと宣言した。


「僕はサイクロンを発動します。対象はリビングデットの呼び声。チェーンして発動します。対象はレッド・ガジェット。これでチェーンが終わりました。えーっと、チェーンは後ろからだから、リビングデットの呼び声でレッド・ガジェットが特殊召喚されます。つぎにサイクロンでリビングデットの呼び声が破壊されます。レッド・ガジェットが特殊召喚に成功した時、ガジェットをデッキから手札に加えることができますが、この効果が発動するタイミングでリビングデットの呼び声が破壊される処理が行われているので、タイミングを逃してしまい、効果は発動できません」

「よくできました。細かい所はちょっと違うんですが、効果を発動するタイミングで別の処理が行われていると、効果が発動できない。これがタイミングを逃すだと覚えておくといいと思いますよ」

「えっ、ちょっと間違ってましたか?」

「そうですね。一応説明しますと、「〜時〜できる」の効果は、チェーン2よりあとで発動条件を満たしても、効果が発動できないんです。この場合だと、こうなりますね」


遊矢はホワイトボードに書きこんだ。


チェーン1:サイクロン発動
チェーン2:リビングデットの呼び声を発動、対象はレッド・ガジェット
【チェーン処理】
1・リビングデットの呼び声発動、レッド・ガジェットを特殊召喚
  レッド・ガジェットの効果を発動するタイミングだけど、
  チェーン処理中だから、発動できない。
2.サイクロン発動
  【特殊召喚した時】から【カードを破壊した時】に、タイミングが移動する
【チェーン処理終了】
3.チェーン処理が終わったので、レッド・ガジェットの効果を発動できる
  でも、レッド・ガジェットの効果は「〜時〜できる」
  条件を満たした直後じゃないと効果を発動できないので、失敗する


「こんな感じになりますね」

「なるほど、そういうことなんですね!実際に書いてもらえると、とってもわかりやすいです!」

「他にも、コストやアドバンス召喚のリリース、シンクロ召喚の素材になって墓地に行く、もタイミングを逃してしまいます。これは最初に説明したゴブリンドバーグのように、他の誘発効果の途中で条件を満たした場合、タイミングを逃すパターンとほとんど同じですね」

「へえ、そうなんですか。あ、そうだ、榊先輩。効果モンスターって魔法や罠の効果をもってるモンスターのことだって言ってましたけど、これって魔法や罠でもあるんですか?タイミングを逃すって」

「もちろん、ありますよ。ですから初心者のデュエリストにとっては、一番最初につまづきやすいところなのです」

「あ、やっぱりそうなんですね」

「ええ。ここまでは効果モンスターの誘発効果を例にあげながら説明してきましたが、魔法や罠もこのルールで処理します。ですから、「〜時〜できる」「〜場合〜できる」「〜時〜する」のテキストがつかわれているんですよ。たとえば、激流葬はなんだと思います?」

「モンスターが召喚・特殊召喚・反転召喚した時発動できるだから、タイミングを逃すが起こるカードなんですね」

「ええ、そうです。ですから、ゴブリンドバーグのように2つの効果を持ちその効果を続けて行わなければならないカードの効果の途中やチェーン2よりも後で発動条件を満たしても効果を発動できません」

「そっか、デュエルディスクに頼ってばっかりだとわからないことばかりですね。勘違いして罠とか魔法を使っちゃったらもったいないし、気を付けなきゃ。あの榊先輩、いくつもの効果が発動した時とか、このタイミングを逃すとかって、どういう順番で処理をすればいいんですか?」

「いい質問ですね。初心者のデュエリストは、この順番が分からなくなって困ってしまうことがよくあるんですよ。時と場合によるのですが、だいたいはこんな感じでしょうか」


遊矢はホワイトボードに向かう。


1.チェーン処理やアドバンス召喚の手順を終わらせる
2.処理中に条件を満たした効果がタイミングを逃したかどうか、確認する
  ここでタイミングを逃していると、発動しないことになる。
3.2のとき、発動できる効果がいくつもあった場合、スペルスピードのルールに従って
チェーンを組み直し、処理する順番を決める


「【〜時〜できる】効果をもつモンスターは、その効果を発動するタイミングで他の効果の処理が発生している時は、発動できない。そう覚えておくのが一番ですよ」


遊矢は今まで使っていたカードを片づける。


「初心者デュエリストがつまづきやすいタイミングとして、サイクロンの使い方もありますね。それでは、ここで久しぶりにクイズをしてみましょうか」

「サイクロンでですか?はい、わかりました」


何度も使っているカードである。なにをいまさら?と不思議そうな顔をする比嘉に遊矢はニコニコしながらカードを渡した。サイクロンはフィールド上に存在する魔法・罠カードを対象として発動できる速攻魔法である。そのカードを破壊できる効果がある。


「まずは第1問。Mr.比嘉のモンスターが攻撃宣言をしたとき、わたくしが聖なるバリア・ミラーフォースを発動したとしましょう。このとき、Mr.比嘉がサイクロンを発動して、破壊したとします。ミラーフォースを発動させることなく、破壊できるでしょうか」

「え?ちょっと待ってください。えーっと、サイクロンは破壊するだけですよね?ギャクタンとか封魔の呪印とかみたいに【無効にして】って書いてないから、破壊は出来ても効果を無効にはできないですよね?」

「ええ、もちろん正解です。サイクロンは発動してしまった魔法や罠は破壊できますが、無効にはできません」

「よかった、あってた」

「それじゃあ今度は、あえてセットしてみるとどうでしょう?相手がもしサイクロンを使って、こちらのサイクロンを破壊したとします。チェーンして、相手のセットしている魔法罠を破壊できたら、たった1枚のカードで相手のカードを2枚も消費させられる。これだけでアドバンテージが稼げますね」

「ふむふむ」

「セットしたサイクロンの使い方としては、エンドサイクというものもありますよ。速攻魔法や罠カードは、セットしたターンは発動することができません。しかし、相手のターンのエンドフェイズにサイクロンを使った場合、チェーンを警戒せずに安全に破壊ができるのです。これは基本中の基本ですが、とても大切なテクニックですよ。それでは、このサイクロンを使って、タイミングを逃す、の応用をしてみましょう」


遊矢は先ほどまで並んでいたカードを片づける。2枚のカードを遊矢側の魔法罠ゾーンにおく。そして1枚のカードを比嘉の魔法罠ゾーンにおき、1枚墓地に、のこりの1枚のカードを渡してきた。


「わたくしのフィールドには激流葬が2枚あります。Mr.比嘉の場にはリビングデットの呼び声、墓地にはオッドアイズ・ドラゴン、手札はサイクロンのみ。もちろん、このまま召喚すれば、オッドアイズ・ドラゴンは破壊されてしまいますね。今まで学んできたことを使って、オッドアイズ・ドラゴンを召喚してみてください」

「え、そんなことできるんですか?!」

「実はできるんですよ!タイミングを逃すのルールを使えば、それが可能となります!さあ、今まで学んできたことをおさらいしてみてください。きっと答えがあるはずですよ」

「わ、わかりました。探してみます!」

「はい、がんばってください」


ぱらぱら、ノートをめくりながら、うんうんうなり始めた比嘉を見守っている遊矢は、後ろで見ている柚子と目があった。ちょっとー、という顔をしている。どうかしましたか?とにっこり笑うと、不満げな顔をしている。その視線の先には、遊矢が定期購読しているデュエル雑誌がある。実は遊矢、この雑誌の人気コーナー、詰めデュエルの一般投書コーナーの受賞問題をもろパクリしたのである。遊矢はどこ吹く風である。こちとら比嘉のために、専門ではないシンクロ召喚まで勉強してきたのだ、これくらいは許してもらわないと割に合わない。もちろん、それが分かっている柚子は直接指摘はしないけど、難しい問題をあっさり出せる榊先輩は凄いなーと比嘉が考えているのはもろわかりなので、ちょっと悔しいのだ。横では苦笑いしている塾長がいる。


十五分後、ようやく比嘉が手を上げた。


「はい!僕はサイクロンを発動します。対象は僕から見て右側の伏せカードです。榊先輩、チェーンしますか?」

「いえ、しませんね」

「それでは、僕はサイクロンにチェーンして、リビングデットの呼び声を発動します。対象は墓地のオッドアイズ・ドラゴンです。榊先輩、チェーンしますか?」

「いえ、しません」

「これでチェーンを終わります。それではチェーンと効果の処理をします。まずはチェーン2の処理を行います。リビングデットの呼び声を発動して、オッドアイズ・ドラゴンを特殊召喚します」

「それでは、ここで、わたくしは激流葬を発動しましょう」

「ごめんなさい、榊先輩。今はまだ効果とチェーンの処理中なので、割り込みはできないです」

「わかりました。続けてください」

「はい。続いてチェーン1の処理を行います。僕のサイクロンの効果が発動します。伏せてある右側のカードを破壊します」

「これも激流葬ですが、まだチェーンの処理中なので効果は発動できませんね。このまま墓地に送ります」

「わかりました。サイクロンの効果を処理したので、タイミングが【カードを破壊した時】になります。これでチェーンと効果の処理を終わります。これでタイミングが【カードを破壊した時】になるので、榊先輩は激流葬を発動するタイミングを逃してしまいます。これで、オッドアイズ・ドラゴンを特殊召喚できました!」


どうですか?と見上げる顔は期待に輝いている。遊矢はもちろん、柚子も塾長も思いっきり拍手した。やった、と比嘉はガッツポーズしている。


「ベリーグッドです、Mr.比嘉!すばらしい!よく一発でできましたね!わたくしも驚きました。本当に教えがいがある後輩でうれしいですよ」

「ありがとうございます、榊先輩!榊先輩の講義がとってもわかりやすいからだと思います!」

「お誉めに預かり光栄です。さあ、あとは【対象をとる】と【とらない】ですね。これが終われば、他の特殊召喚に行けますよ。もう一息です、頑張りましょう!」

「ま、まだあるんですかっ……」


がーん、という顔をする比嘉に、遊矢は笑った。


「そろそろお休みをいただきましょうか。わたくしものどが渇いてきましたので」


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