「それでは初心者デュエリストの登竜門、チェーンについて学んでいきましょう!」
「登竜門?そんなに難しいんですか?」
「ぶっちゃけわたくしも正確に理解しているのか不安なので、今回は塾長に誤りがあった場合は訂正と解説をよろしくお願いいたします」
「それってどうなの、遊矢」
「おや、Ms.柊。わたくしの代わりに講師をしていただけるのですか、それはありがたい!」
「な、なにいってるのよ、遊矢。私はやるって一言もいってない!」
「おや、残念」
「あはは。今はデュエルディスクがすべて自動的に処理してくれるからな、柚子も遊矢もあいまいなところがあるのも仕方ない。でも、全く把握してないのも問題だからな、がんばってくれ、昴くん」
「は、はいっ」
「それでは早速、説明と参りましょう。チェーンというのは、1枚のカードの発動に対して、別のカードを発動させることを言います。Mr.比嘉とわたくしがデュエルをしたとしましょう。おそらく、効果モンスター、いくつもの魔法や罠の応酬になるはずです。その結果どうなるのか、適当に決めていたのではケンカになりますよね?そこで、その応酬をスムーズに解決するためのシステム、それがチェーンです」
「これを知っておくと、魔法や罠を回避したり、モンスター効果を無駄撃ちしたりすることがなくなって、より有利になるんだ」
「なんだか、もう難しそうな雰囲気がしますね」
「そこはご心配なく、Mr.比嘉。雰囲気ではありません、まちがいなく難しいです」
「ええっ。それは笑って言うことじゃないですよね、榊先輩!」
「事実だもの、しょうがないわ」
「柊先輩まで?!」
うんうん頷いている柚子と遊矢に、比嘉は不安でたまらない様子だ。
「なぜ、Mr.比嘉にチェーンについて学んでもらうのか。それはスタンディングデュエルでは、チェーンの処理が初心者デュエリストにとって、最初の難関だからなのです。スタンディングデュエルでは、カードの効果を発動した時、相手に発動できるカードがあるか、その効果を発動するかどうかの確認を必ず行わなくてはなりません。もちろん、相手もMr.比嘉に確認しなければなりません」
「もし確認しないでカードを発動したら、どうなるんですか?」
「スタンディングデュエルでは、ジャッジと呼ばれる審判員がいます。相手がもしそれに気付いた時、ジャッジを呼んで指摘します。Mr.比嘉が確認を怠ったと認められた場合、その確認を怠ったカードの発動までデュエルが巻き戻されてしまうんです」
「それって、僕が持っているカードがばれてしまうってことですよね?」
「ええ、デュエルが不利になりますね。悪質だと判断された場合は、その時点でジャッジの権限で負けになってしまうこともあります。これはプロの世界でも変わりませんね」
「うわ」
「せっかくのデュエルが台無しになっちゃうのって嫌でしょ?だから、スタンディングデュエルをするときは、ちゃんと確認しましょ?」
「わかりました」
「それではチェーンの話に戻りますね。Mr.比嘉がカードの効果を発動した時、相手に確認します。相手もカードを発動する意思を見せた時、チェーンが積まれます。その次はMr.比嘉と交互にチェーンを積んでいくのですが、お互いにチェーン出来るカードがなくなったり、チェーンしないと意思表示した場合は、最後に発動したカードの効果から処理していくことになります」
「でも、相手が発動しなかったとき、比嘉君がチェーンしたいカードがあったら、自分で発動したカードに自分でチェーンすることもできるのよ」
「ちなみにアクションデュエルだと、デュエルの流れをスムーズにすることが最優先だぞ。だから、お互いに発動した効果に対しては、基本的にチェーン確認はしないんだ。相手のカード効果にカード発動を宣言することで自動的にチェーン処理が行われていくから要注意だ。それに、自分で自分のカード効果にチェーンしたいときは、すぐに発動したいカードを宣言しないと勝手にデュエルが進んでくから、気を付けろ!」
「タイミングを逃しちゃうと面倒なのよね」
「そういうことを考えると、Mr.比嘉がスタンディングデュエルで経験を重ねるのは大切なことだと言えますね」
「なるほど……。リアルタイムで進んでいくアクションデュエルだからこそ、すぐに判断できるだけの経験が必要だってことですね」
「そこまで難しく考える必要はありませんし、身構えなくても大丈夫ですよ、Mr.比嘉。基本的にチェーン処理はデュエルディスクがしてくれますから。ただ、なにもしらない状態でデュエルディスクに頼り切っていると、とっさの判断ができなかったりするので、少しは覚えてもらった方がいいということですから」
「そうそう。それにね、もし、比嘉君のフィールドを全滅させるモンスターを相手が呼ぼうとしたとするじゃない?もし、それをフィールドのモンスターと魔法、罠、手札にあるカードたちで回避できたらかっこいいと思わない?」
「かっこいいです!やってみたい!」
「それには、チェーンについて学んでおいた方がいい、というわけです。チェーンを積む順番によっては、効果の起こる順番が変わり、チェーン処理の結果が変わりますからね。それを正しく把握すれば、奇跡みたいな大逆転劇を演出することもできるというわけです!観客からすれば奇跡、相手にとってはまさに奇襲、Mr.比嘉にとっては確定された未来、カッコいいでしょう?」
「はい!」
「自分が使うカードの効果をよく知っておけば、その可能性があがるというわけです。だからテストプレイは大事なんですよ」
「そっか。プロのデュエリストさんは、それをずっとやってるから、あんなにかっこいいんですね」
「まさしく、そのとおりです!それではチェーンを理解するうえで、もう1つ重要なシステムを紹介しましょう。それはスペルスピードです」
「スペルスピード、ですか」
「はい。チェーンはカード効果の応酬だと説明したと思いますが、このスペルスピードはカードが効果を発動するスピードのことをいいます。チェーンを積むときに、スペルスピードが速いカードに対して、遅いカードではチェーンすることはできないのです。速いカードからならべてスペルスピード3,2,1という順番になります」
「スペルスピード1が一番遅いってことですか?」
「そうですね。まずはスペルスピード1ですね。このカードには、通常魔法や効果モンスターがあります。これらのカードは、相手や自分がカードの効果を発動した時、チェーンを積むことはできません。次にスペルスピード2。種類としては速攻魔法、通常罠、永続罠、誘発即時効果がある効果モンスターがあります。スペルスピード2は、スペルスピード1より効果を発動するスピードが速いので、スペルスピード1と同じ速度で発動する2のカードにチェーンすることができます。最後にスペルスピード3。これは覚えるのは楽です。カウンター罠だけですから。このカードは一番早いので、すべてのカードの効果の発動にチェーンすることができますよ」
「ちょ、ちょっと待ってください、榊先輩」
「はい、待ちますよ。ゆっくりノートに書いてみてください」
とまどいながら表にしている比嘉のノートを指差しながら、遊矢はカードの種類をもう一度言い直した。すべて埋まった表を確認して、遊矢はいくつものカードをプレイマットに並べた。
「説明だけではわからないと思いますし、これから実際にやってみましょう」
「おねがいします……ぜんぜんわからないです……」
比嘉に渡されたのは、サイクロンのカードだ。比嘉のモンスターゾーンにはレベル5のバニラモンスター。魔法罠ゾーンには、神の警告が伏せてある。遊矢の手札は1枚、フィールドにはレベル制限B地区、そして伏せカードが1枚おいてある。
「このままでは攻撃できませんね。どうしますか?」
「えっと、サイクロンでレベル制限B地区を破壊します。なにかありますか?」
「ベリーグッド。ちなみに積まれるチェーンはチェーン1,2と数えます。サイクロンは速攻魔法なので、スペルスピードは2ですね。わたくしは封魔の呪印を発動します。これはカウンター罠なのでスペルスピードは3、チェーン2を積みます。これでMr.比嘉のサイクロンの発動と効果を無効にし、破壊します。これであなたはそのサイクロンおよび同名のカードをこのデュエルでは使用できなくなりました。さあ、どうしますか?」
「それでは、僕はカウンター罠、ギャクタンを発動します。ギャクタンもカウンター罠なのでスペルスピードは3、チェーン3を積みます。封魔の呪印の効果を無効にしますので、デッキに戻してください。なにかありますか?」
「いえ、ありません。さて、これでチェーン3まで積まれましたね。処理をしていきましょうか。まずはチェーン3のギャクタンを最初に処理します。わたくしの封魔の呪印が無効になります。次にチェーン2の封魔の呪印の処理ですが、ギャクタンの効果で発動が失敗してしまいました。その結果、わたくしの封魔の呪印で無効になるはずだったMr.比嘉のサイクロンの効果が発動、わたくしのレベル制限B地区が破壊されました。これでチェーンの処理は完了です」
「す、すごいですね、榊先輩。そんな簡単にすらすらいえるなんて……」
「比嘉君もすごいじゃない。相変わらず飲み込みがはやいわ。ちゃんと確認できたじゃない」
「だって確認しないと失格になることもあるんですよね?そんなの、僕嫌です」
「おやおや、怖がらせてしまったようで申し訳ありません。しかしながら、確認を怠るデュエリストには、ジャッジを頻繁に呼んでジャッジキルを狙う者がいるのは事実ですから。ルールとマナーはしっかり守りましょうね」
「はい!」
比嘉は早速さっきのチェーンとチェーン処理の仕方をノートに書きこんだ。
「注意しなければならないのは、チェーンはカードの効果の発動に、発動を重ねるということです。ですからカードの効果の発動だけにしか、チェーンはできません。モンスターの召喚やリリース、発動するために必要な準備(コスト)、それぞれのフェイズの開始と終了の宣言はカードの発動ではないので、チェーンすることはできません」
「うわあ……。榊先輩や柊先輩が使うカードの効果はちゃんと覚えようって言ってた意味がわかりました。これはちゃんとカードが分かってないとできないですね」
「ちなみに、先ほど説明した流れは、一番シンプルな流れですね」
「ま、まだあるんですか?」
「こればかりは慣れていただくしかないですね。これをご覧ください、Mr.比嘉。テキストを呼んでいただけませんか?」
遊矢が差し出したのは、2体の効果モンスターである。
「えっと、死霊騎士デスカリバー・ナイト。このカードは特殊召喚できない。効果モンスターが効果を発動した時、フィールド上に表側表示で存在するこのカードをリリースしなければならない。その効果モンスターの発動と効果を無効にし、そのモンスターを破壊する。こっちはライトロード・ハンター・ライコウ。リバース:フィールド上のカード一枚を選択して破壊できる。自分のデッキの上からカード3枚墓地へ送る」
「【する】と【できる】という言葉がでてきましたよね?これには違いがあるのです。【する】は必ず行わなければいけない効果、強制効果。【できる】は発動するかしないかを選択できる効果、任意効果。この違いがチェーンの組み方にも影響を与えるのです。もし、Mr.比嘉と相手が強制効果と任意効果を同時に発動したとしましょう。Mr.比嘉のターンの場合、チェーンはこう積まれます。Mr.比嘉の強制効果→相手の強制効果→Mr.比嘉の任意効果→相手の任意効果という風に。一番いいのは、強制効果か任意効果か予め調べておくことですが、初めてみたカードを見せてもらった場合は、【する】【できる】で判断しましょう」
「【できる】と【する】、ですか。うう、難しいなあ」
「慣れればすぐに判断できるようになりますよ。今はどんどんわたくし達に聞いてください」
「ありがとうございます、ほんとに助かります、榊先輩」
「今はテキストが統一されてるから、なんとかなってるな。俺がプロだったことは大変だったぞー。なにせモンスター効果の表記に一貫性がないからな、プレイヤーの解釈の違いでややこしい事態になったもんだ。ジャッジを呼ぶ回数が半端なくてな。アクションデュエルを始めるにあたって、こういうテキストを統一する流れになったのはよかったといまでも思うぞ」
「す、すごい時代があったんですね」
「だから昔のカードはスタンディングデュエルでしか使えないんだ」
「なるほど。でも、ということは、僕もスタンディングデュエルをするなら、昔のテキストと会う可能性があるってことですよね?どうしよう」
「大丈夫よ、比嘉君。最初のうちは付き添ってあげるから。ジャッジいなかったら、周りの人にお願いしてみるのもいいかもね」
「わかりました」
今の時点で結構混乱しつつある比嘉である。結構難しいと言いながら、なんとかついてきている比嘉が楽しいのか、遊矢はだんだんノリノリになってきている。
「任意効果を説明したので、ついでに【タイミングを逃す】についてもやってしまいましょうか」
「……うう、容赦ないです、榊先輩」
「そろそろ休憩挟もうか、昴くんの頭がパンクしそうだ」
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bkm