それじゃあ始めよう、と遊矢はメタファジック・リバースのボックスをあける。音響戦士とEMのモンスター、どのデッキにも入れられる罠や魔法を比嘉の前にならべた。待ちに待ったデッキの作り方講座である。期待に満ちた表情でカードを見つめている比嘉は、待ちきれないのか、もう何枚かカードを手にしている。
「榊先輩、デッキってどうやって作ったらいいんでしょう?」
「そうだなあ。デッキって、2つにわかれてるんだよ。大会で勝つために組むデッキ。デュエルの面白さを目指しながら勝ちたいデッキ。比嘉はどっちのデッキが組んでみたい?」
「えっと、遊勝塾は、面白さを目指しながら勝ちたい人たちが集まってるんですよね?」
「そーだな。エンタメデュエルってそれを突き詰めたひとつの形だとオレは思ってるよ。みんなが楽しんでくれるようなデュエルをしたいって」
「それなら、僕もがんばってみたいです。これからデュエルモンスターズを始める僕でもできるなら」
「もちろん!大歓迎よ!」
「そうだな、まずは昴君が楽しんでデュエルができることを目指してみたらどうだろう?楽しいと覚えるのもはやいしな!」
「そうですよね!とっても大事なことですよね!僕もデュエルを見るのが楽しかったから、デュエルモンスターズをしたいって思ってたんです。今度は僕があそこに立ちたいです」
「それなら、比嘉の好きなこととか、やりたいこととか、遊びの要素をコンセプトにしてみたらどうだろ?勝つために組んだデッキよりは安定性が低くなるし、勝つのが難しいし、厳しい戦いになることもあるよ。でも、上手にデッキを回せたときの楽しさや嬉しさは、やっぱり変えられないよな。それが忘れられなくて俺も柚子もがんばってるんだ」
「やってみたいです!」
「大会で勝つデッキは、カード全体にシナジーがあって、安定性がもとめられるんだ。どんな手札でも回せるように。でも、こっちは特定のコンボやシナジーに特化することが多いから、爆発力があるんだ。やらなきゃいけないことはたくさんあるけど、比嘉は始めたばっかりだし、みんながよくやってるデッキを真似してみるところから始めてもいいかもな。だいたいわかったら、自分だけのやり方を捜してみるといいかも」
「なるほどー、真似してみるのもありなんですね」
「うん、デッキの作り方に正解なんてないよ」
「キーカードを調べてみて、シナジーがあるカードを片っ端から入れてみるっていう方法もあるぞ!最近活躍してるデッキとデュエルしてみて、弱い所が分かったら対策するカードを入れたり、入れてるカードを減らしたりして、出来上がるっていう方法だ。キーカード以外にも勝ち筋をつくったり、邪魔されても戦えるようにカードを入れてみたりな」
「好きなカードを決めて、それをそんな風に使うか考えてみるっていうのも面白いわよ、比嘉君。他のカードでそのカードを活躍させるっていうデッキもありだと思うわ」
「その結果、よくわかんないデッキができるんだよな」
「でもどこにもないデッキだし、愛着わくでしょ?」
「まあ、昴君が使いたいカードを使って、使いやすいデッキを作るのが一番ってことだな」
「いろんなデッキの作り方があるんですね、参考になりました。ありがとうございます」
「じゃあ、デッキを作る前にちょっとおさらいしようか、比嘉。まずはデッキの構成。何枚がいいか覚えてる?」
「えっと、40枚から60枚で、デッキを作らないといけないんですよね。少ない方がカードがひきやすいから40枚の方がいいんですよね?」
「そうそう、やるなあ」
「ありがとうございます!」
「比嘉は初めてだし、基本的なデッキの構成でやってみよう。モンスターは20枚、魔法と罠が10枚ずつ、合計で40枚。これが一番いいって言われてるよ。でもデッキによって魔法と罠の枚数は変わってくる。それなら罠より魔法が多い方がいいんだってさ」
「へー、そうなんですか」
「うん。それでな、モンスターカードの3分の2がレベルが低いモンスター、3分の1がレベルが高いモンスターがいいって言われてるんだ。デッキからカードをサーチしたり、強い効果を持ったカードをたくさんいれるといいよ。EMなら、ペンデュラム・マジシャンとかシルバー・クロウ、音響戦士ならギータスみたいに。テーマデッキには中心になるモンスターが必ずいるから、そいつをどうやって使うのか考えながらモンスターを選ぶんだ。シンクロ召喚をしたいならチューナーを入れて、エクシーズもしたいならレベルを合わせたモンスターを忘れずに」
「なるほどー。えっと、キーカードの枚数は3枚でいいんですか?」
「基本的には3枚だけど、人によって欲しい枚数は違うみたいだよ。だから好きな枚数入れよう、比嘉。あとから、多いなあとか少ないなあとか分かるからさ」
「うーん、よくわかんないので、とりあえず3枚入れときます」
「うん、それでもいいと思うよ。ちなみにフィールド魔法は、やりたいことに必要なら入れてもいいと思うよ。でも、アクション・デュエルだとフィールド魔法は使えないんだ。だからスタンダード・デュエルとアクション・デュエルでデッキをあんまり変えたくないなら、入れない方がいいよ」
「了解です。ところで魔法はどんなの入れるんですか?」
「比嘉がやりたいことを手助けしてくれるカードをまずはいれよう。あとは、邪魔してくる相手からカードを守ってくれるカードを入れるんだ。通常魔法ならなんでもどけてくれるカードとか。速攻魔法は相手を妨害したり、バトルをフォローしてくれるカードとか」
「わかりました」
「最近は攻撃する前に魔法や罠でモンスターをどけちゃうことが多いんだ。だから、ミラフォみたいな攻撃に反応する罠じゃなくて、モンスターが召喚された時に反応する罠がよく使われてるよ。あとはその罠から自分のモンスターを守るカウンター罠。それと永続罠」
「なるほどー」
「でもやっぱり一番大事なのはサーチするカードだよ。好きなカードを状況に応じて手札に持ってこれるのは大事だし。テーマの回し方を調べて、必要なカードを捜すのが一番かな。オッドアイズがあったら絶対入れようって言えるんだけど、スタンダード・ルールに対応してるカードが収録されてないしなあ。他のカードを入れるしかないよな」
「榊先輩のエースモンスターが使えないのは残念ですけど、テーマが使えるので楽しみです!」
「そう言ってくれるとうれしいよ、ありがとな。今度、業者の人になんでオッドアイズは収録されてないのか聞いてみるよ」
「あ、はい、お願いします。そうだ、榊先輩。ひとつ聞いてもいいですか?」
「うん?」
「デッキを作る時、一番大切なことってなんですか?」
「そうだなあ、人によっていろいろだと思うけど。オレは未完成なデッキを使い込んで、問題があったらそれがなにか考えて、どうしたらいいか考える。これが一番大事なことだと思うよ。デッキを作る時、一番大変で一番楽しい作業でもあるしね。最初から出来上がってるデッキを使うと、デュエリストとしてのこうなってみたいって気持ちやこういうデッキが創りたいって気持ちがなくなっちゃうと思うんだ。だから、オレはそうならないように気を付けてるつもりだよ」
「おー!かっこいいですね!教えてくれてありがとうございます!僕も僕なりのデッキをつくってみよう」
「よーし、それじゃあ、比嘉なりにデッキを作ってみてくれよ。オレも見てるからさ。あ、これからつくる音響EMの回し方が分かんないと作れないよな。まずはそれを説明するよ。今回は、ペンデュラム召喚ができて、いろんな召喚方法ができるデッキを作るんだったよな。EMはペンデュラムができるビートデッキ、音響戦士はシンクロ召喚が得意なデッキ。これを混ぜてみよう。だから、シンクロとエクシーズが出来る感じかな」
「シンクロとエクシーズ!いいですね!えっと、エクストラはどうしたら?」
「ほんとは買わなくちゃいけないんだけどな。塾長が用意してくれてるのがあるからさ、そこから選ぼう」
「あ、はい、わかりました!」
「EMの回し方は、ペンデュラム召喚に必要なペンデュラムモンスターをサーチすることから始まるんだ。EMコールとか、ペンデュラム・マジシャンで揃えていく感じかな。メタファジック・リバースだとオッドアイズと魔術師がないから、オレのデッキとはちょっと違うんだけど、これはこれで面白いと思うよ。最初のターンでペンデュラムモンスターをサーチして、次のターンで呼ぶ感じかな。音響戦士は、まずサイザスとかでギータスをサーチして、墓地に音響戦士を送って、ギータスで特殊召喚。墓地効果で特殊召喚、種族や属性を変更してシンクロさせる感じだね。音響戦士はチューナーが多いから、EMをペンデュラム召喚できれば、シンクロやエクシーズにつなげられる」
「えっと、ペンデュラムモンスターはエクストラにいくんですよね?普通のモンスターは墓地だけど」
「そうそう、間違えないようにしような。EMもペンデュラムモンスターと、普通のモンスターがいるから」
「はい!」
「デッキができたら、デュエルしてみよう。たくさんするうちにデッキの弱いところやもっとこうしたいってところが出てくるよ。それをカードの枚数を変えたり、新しいカードを入れたりしてやってみるんだ。楽しいよ」
比嘉は大きく頷いた。
「こうやって、みんなデッキをどんどん強くしていくんだ。比嘉は覚えるのも早いし、頑張ったら頑張った分だけ強くなれるんじゃないかな」
遊矢はメタファジック・ストームのボックスを渡した。そこには収録予定のカードが3枚ずつ入っている。受け取った比嘉はテキストを読みながら、うんうんうなり始めた。わからないところは遊矢に聞いたり、柚子に聞いたり、塾長に泣きついたりしながら進めていく。気付けば窓の向こうは夕焼けである。
「できました!」
「じゃあ、見せてもらってもいいかな、比嘉。オレも同じデッキを用意するから、スクラップデッキの時みたいにミラーマッチしようよ」
「はい、どうぞ!お願いします!……緊張します、変じゃないですか?」
「どんなデッキだって、比嘉が初めて自分で組んだデッキだろ?オレや柚子、塾長にまで一生懸命聞いて回って、相談してたじゃん。ちゃんと出来てると思うよ。どこも変じゃない」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、やってみようか」
「はい!」
「それじゃあ、いってみようか」
遊矢は笑った。比嘉は一瞬、え、という顔をする。
「どうしたんだよ、比嘉。ほら、アクションデュエルの練習に必ず言わなくちゃいけない口上があるって言っただろ?」
「……え、えーっと」
「戦いの殿堂に」
「あ、あー、あれですね!まだ1回しか言ってないです、榊先輩。そんなすぐには覚えられないですよ!」
「仕方ないなあ、わかったよ。オレのあとにちゃんと大きな声で言ってみよう」
「はい、お願いします!」
「戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが」
「たたかいのでんどーにつどいしデュエリストたちが」
「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い」
「モンスターとともにちゅうをまい」
「地を蹴りが抜けてる」
「あ、ご、ごめんなさい。えっと、モンスターと共に地を蹴り、ちゅ、宙を舞い」
「フィールドを駆け巡る」
「フィールドを駆け巡る!」
「見よ、これぞデュエルの最強進化形」
「みよ、これぞデュエルのさいきょー進化形」
「アクションデュエル」
「アクションデュエル!や、やっといえた…!榊先輩、もうちょっと区切ってください……!」
「えー、だってそこまででひとつなんだよ。これ以上区切ったら言いにくくなるだろ?」
「うう、それなら何か書いたメモ見ちゃだめですか?」
「だめよ、比嘉君。それだと文字を追いかけちゃうから、棒読みになっちゃうでしょ?さっきよりおっきな声でてたし、この調子でがんばりましょ」
「そうそう、文字を覚えてから言うんじゃなくって、音で覚えよう」
「大丈夫かなあ」
「大丈夫よ、比嘉君よりずっと小さな子だってすらすらいえるんだから。慣れれば行けるわ、頑張って」
「は、はい、がんばります」
「よーし、それじゃ、デュエルしようか、比嘉」
「はい!」